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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
11章 収穫祭と獣人女性の治療薬、である。
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【意思】補充の霊薬である


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。


 今後の研究の効率化のために補助要因となる魔法人形を作製した我輩達は、彼らのおかげでようやく治療薬研究の道筋が見えてきたのである。だが、同時に獣人女性の容態悪化が再び始まるのであった。

 我輩達に残された時間は少ないのである。





 「どうだったのであるか、妖精パットン」

 「ハーヴィーが心配していたように、一時的に止まっていた構成魔力の流出が始まったね」

 「原因はわかったのですか?」


 ミレイ女史の言葉に、妖精パットンは首を横に振るのである。


 「意思に干渉する魔法は対象に負荷がかかるんだ。いま、そんなことをしてしまったら彼女にとどめを刺すことになってしまうよ。ただ、このままの速さで流出が続いたら、後一週間もしないうちに彼女は死んでしまうって事だけは確実だよ」

 「そんな…………アーノルドさん…………」


 妖精パットンの非情とも言える言葉を聞き、ハーヴィーは狼狽した表情を浮かべてこちらを見るのである。

 言いたいことは分かるのである。


 「わかっているのである。二人とも、これから先は現状できる一番良い治療薬の作製に取り掛かるのである。まずはさっきの結果から推測される、我輩達が確実に薬を作れる核の混合割合を調べるのである」

 「はい、わかりました」

 「がんばろうね!」


 我輩の言葉にミレイ女史とサーシャ嬢が頷くだけではなく、先程まで机の上で戯れていた魔法人形達もやる気を出した様子を見せるのである。

 こういうやる気に溢れているときは、通常以上の能力も出せると思われるのであるが、無茶もしがちなので、冷静な判断を心掛けるのである。


 これから行うのは研究ではなく治療なのである。

 何よりも確実性が求められるのである。


 「皆さん…………お願いします」

 「救いを求める民のために全力を尽くすのが錬金術師の仕事である。それに、ハーヴィーは大事な仲間である」

 「アーノルドさん…………」


 我輩の言葉に、ハーヴィーは少しだけ驚いたような表情を見せるのである。

 いったい何事であろうか。


 「錬金術師アーノルドから、錬金術師として以外の理由が聞けるなんて驚いたよ。これが人の成長なのかな」

 「そういう冷やかしはやめるのである、妖精パットン」

 「はいはい、ごめんね。じゃあボクは彼女のところに行っているよ。何か変化があったら、すぐにこっちに来るからね」

 「わかったのである。では、今まで以上に各人全力で事に当たるのである」

 「はい!!」


 こうして我輩達は、早急に現状作製できる一番最良の薬を作製するべく行動を開始するのであった。






 「確実性を求めるならば、通常の核との混合比は5:5が妥当だと思います」

 「やはりそうであるか」

 「もう少し特別な核を増やしても大丈夫だと思うけれど……」


 我輩とミレイ女史の言葉に、サーシャ嬢はもう少し踏み込んでも大丈夫ではないかと提案してくるのである。

 確かに、現状では6:4の割合での作製も可能ではあると思われるのである。

 ただし、それは現状が続けば、の話である。


 「現状のほぼ万全な集中力が作業中継続できるのであれば恐らく大丈夫であろうが、集中が切れてきた時の事を考えるとこのあたりが限界だと思われるのである」

 「ごめんね。私は魔法人形とつながっている状態での作業に慣れていないから、これ以上の割合で負荷がかかってしまうと集中が長く持たないかもしれないの」

 「正直なところ、我輩もノルドと以前繋がっていたとはいえ、当時の感覚をまだ取り戻せてはいないので同様な事が言えるのである」

 「じゃあ、心を強くするお薬を飲んでみたらどうかなあ?」


 サーシャ嬢は、以前南方地方で我輩達が服用した意思の魔法に抵抗する薬の使用を提案してくるのである。

 あの薬は、意思を一時的に強固にすることで意思の魔法に抵抗する薬である。

 つまり、精神的な疲れを薬でごまかそうということである。


 「現状、あの薬が望んだ効果を確実に発揮するかわからないのである。それに、あの薬を飲むと物事を捉える視野が狭くなってしまうのは、サーシャ嬢が一番よくわかっているはずである」


 サーシャ嬢はあの薬の副作用により、魔獣たちに自ら囚われるという危険な行為を冒してデルク坊を筆頭に我輩たちに心配をかけたのである。

 結果的に良い方向にいったのであるが、一歩間違えば取り返しのつかないことになるところであったのである。

 そういう危険を冒してまで治療薬の作製をするのは良くないのである。

 治療期限が差し迫っている今、確実性が最優先なのである。


 「……あうぅ……そうだね……。ごめんなさい」

 「良いのである。少しでも良いものを作りたいという気持ちから出ているのは分かるのである」


 サーシャ嬢が錬金術に触れてから今まで、ここまで差し迫った状況での道具の作製に立ち会ったことが無かったため、どこか実験的な物の考え方が抜けないのは致し方ないかもしれないのである。


 「では、5:5で宜しいでしょうか」

 「そうであるな」

 「うん。わかったよ」


 ミレイ女史の言葉に我輩が、そして今度はサーシャ嬢も同意の頷きを返すのであった。






 「サーシャ嬢、ミレイ女史。後少しの……辛抱である」

 「はい…………ぅ……っ……!」

 「ミレイおねえちゃん……大丈夫?」

 「後少し……だから……」


 現在我輩達は最後の構築作業を行っているところである。

 魔法金の容器から取り出した構成魔力を制御しているのがサーシャ嬢とミレイ女史、そして二人の魔法人形で、構築作業を行っているのが我輩とプロトンである。

 予定通り、通常の核と特別な核を5:5の割合で使用した【意思】の構成魔力を使用して治療薬を作っているのであるが、想定以上に精神的な疲労が大きく、全員、特にミレイ女史がかなり疲労困憊しているのである。

 どうやら、魔法人形を伴っての作業に慣れていないので、自分が想定していたよりも精神的疲労が大きかったようである。

 辛いとは思うのであるが、後一歩なので耐えてほしいのである。


 そういう我輩も、正直なところかなり厳しい状況なのではあるのであるが。


 「くぅぅぅ!!」

 「ぅぅ!…………おねえ……ちゃん」


 と、そのようなことを思っていると、ミレイ女史とサーシャ嬢が苦悶の声を上げるのでそちらを見ると、魔法人形のミリアとミレイ女史が倒れており、サーシャ嬢が一人で構成魔力を制御しているのである。


 「だいじょ……」

 「おじさんは集中して! ここは……わたしが頑張るからぁぁぁぁ!!」

 「……わかったのである」


 二人に声をかけようとした我輩を、サーシャ嬢が大声で制止するのである。

 憶測を間違えた結果、三人とも無理をしている状況である。

 ここで薬の成功させなければ、我輩達に特別な核を使用した薬の作製を行えるだけの精神的な余裕はもう無いのである。


 我輩はサーシャ嬢を信じ、治療薬の構築に集中するのである。

 内在している獣人女性の【意思】の構成魔力と結合して増幅していくために存在する【意思】の構成魔力を持った液薬。

 その事を強くイメージし、我輩は構成魔力を構築し薬瓶の中へ具現化させていくのである。


 そうすること数分。

 我輩の用意した瓶に、淡い橙色の薬液が具現化されたのであった。

 獣人女性のために作製した、【意思】補充の霊薬の完成である。


 「できた……のである」


 そうして、一息入れようとした我輩であったが、すぐにサーシャ嬢とミレイ女史のことを思い出し、そちらに目を向けるのである。


 「で……きた……の?」

 「成功である。サーシャ嬢とミレイ女史のおかげで、完成したのである」

 「よかったぁ…………。失敗……しちゃったら、結界…………張れなかったから…………みんな…………たい……へん」


 そこまで言うと、安心したのかサーシャ嬢は意識を失うのである。

 隣にいたコルクはすでに動きを止めていて、恐らく最後は本当にサーシャ嬢一人で制御を行っていたのかもしれないのである。

 よくよく見ると、我輩横で共に作業をしていたプロトンも動きを止めているのである。

 どうやら我輩との接続を切っているようである。

 つまり、それだけ全員限界であったという事である。


 高位の素材を使った道具の作製は、今まで以上に慎重に行わなければならないのである。


 そう思いながら、我輩も意識を手放すのであった。





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