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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
11章 収穫祭と獣人女性の治療薬、である。
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我輩達の魔法人形と迫る期限である


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。


 辺境から帝都や別の土地へと戻っていったリリー嬢やゴードンを見送った我輩達は、アリッサ嬢の屋敷で、半ば騙される形で留守を預かることになったシン達の一面を垣間見るのである。

 これ以上はこのことに触れないでおこうと決めた我輩達は、再び研究を再開するのである。






 リリー嬢達が帝都へと戻り半月ほど、あの後も何組かの貴族達が屋敷へと訪問し、留守を預かるシンと屋敷の主であるアリッサ嬢、そして姿を隠した妖精パットンが応対を行う日々が続いている中、我輩達の治療薬の研究も少しずつであるが進展があったのである。


 「…………どうやら、これで核を利用した薬の作成ができるかもしれないのであるな。ひとまず休憩を入れるのである」

 「そうですね。それもこの子達のおかげですが、やっぱり負担が大きくなるのが難点ですね。今までよりも長時間作業が行えないです」

 「でも、これで良いお薬が作れるようになるかもしれないから、がんばろう!」


 研究の道筋が見えたため、ひとまず休憩をするべく発した我輩の言葉にサーシャ嬢とミレイ女史は同意して近くにあった椅子に越しかけるのである。

 そして、休んでいるサーシャ嬢の肩には見慣れた簡素な木製魔法人形であるコルクが、そしてミレイ女史の肩には可愛らしい女性ものの服を身に纏った木製魔法人形が、そして我輩の頭にはどうやら妖精パットンと勢力争いを開始したのであろう、手足が紙縒り状になっている紙人形がいるのである。


 リリー嬢達が帝都に帰ってから我輩達は、特別な核を利用した治療薬の作成のために魔力制御の補助要因として、サーシャ嬢の指導を受けながら魔法人形の作成に取り掛かったのである。

 指導といっても、今までサーシャ嬢が研究してきて気付いた注意点や感想などを聞き、それをもとに個々に魔法人形を作成したわけであるが。

 そうして出来上がったのがミレイ女史の作った木製魔法人形【ミリア】と、我輩の作った魔法紙人形【プロトン】である。

 ちなみに、我輩が紙人形にしたのは人形の造形にこだわりがないため、以前作ったノルドを模すのが一番簡単であったからである。

 

 それでも何度か作製に失敗し、完成までには一週間弱程度の期間を有したのであるが、ミレイ女史はさらに時間がかかってしまい、ミリアが完成したのはつい一昨日である。

 と、いうのも、ミレイ女史の作った人形は我輩が作った紙人形やサーシャ嬢が作った簡素な木製人形とは違い、街中で売られているような人形のような造形をしているのである。


 貴族であるミレイ女史は、こういう造形に関して優れた感性を持っているのである。

 ただ、こういう造形物や料理などの配置や盛り付けなどでもそうであるが、その感性が足かせになり細かい部分にこだわってしまい身動きが取れなくなりがちなのが欠点になってしまうのである。

 生まれ育った環境によるこだわりであるので中々矯正は難しいのは、研究者の一族として育ったためにいろいろ考えてしまいながら道具の作製を行ってしまう我輩にもよくわかるのである。


 そういう点ではサーシャ嬢にはそういった、良い面もあるが足を引っ張る時もあるこだわりが今のところ見えないのであるが、それがまた足を引っ張るときもあると考えれば、皆似たようなものなのかもしれないのである。


 と、そのようなことを思いつつも、いまだに我輩の頭の占有を巡って争っている妖精パットンとプロトンを窘めるのである。

 いい加減止めないと、我輩の髪が大惨事である。


 「……我輩の頭は我輩のものであって他の誰のものでもないのである」

 「あー、そういうこと言っちゃうんだねぇ。可哀相に、プロトンがしょんぼりしちゃっているよ錬金術師アーノルド」

 「……意外と妖精パットンもショックを受けているのであるか」

 「余計なことを言う前に飛んでおけばよかったよ」


 我輩が作った魔法人形であるプロトンはもちろん、我輩の頭で生活をしすぎた影響で、我輩と接触していると【意思】の構成魔力のつながりができてしまう妖精パットンからもどこか寂しそうな感じを受けたのである。


 「二人で仲良くすることはできないのであるか」

 「ボクとプロトンが二人で仲良く過ごせるほど、錬金術師アーノルドの頭は大きくないよ」

 「そうであるか、では、好きにすれば良いのである」


 我輩の提案に妖精パットンから不満混じりの返答が、そしてプロトンからも同意の意思を受けとるのである。

 二人とも人の頭で暴れ回るのが問題なのであると我輩は思うのであるが、これ以上の会話は無駄な気がするので放置するのである。

 我輩の髪が二人の争いで抜け落ちてしまわないことを願うのである。

 さすがにこの年齢でまだらハゲは精神的に辛いのである。


 「お友達が増えて、コルクも嬉しそうだよ!」


 そんなことを気にしている我輩に気付かぬサーシャ嬢がそういうと、同意を示すように肩に乗っているコルクがゆらゆらと踊り出すのである。

 そうしてコルクが近くの机に降りると、それに合わせるようにミリアとプロトンも机に降りて仲良く踊り出すのである。

 コルクはゆらゆらと不思議な踊りを、ミリアは貴族の舞踏会で踊るかのような優雅な踊りを、プロトンはくねくねと踊るというよりもうごめいているという表現が似合っているような動きをしているのである。


 素材の違いや造形の違いによるものもあるのであろうが、踊りの経験の有無もまた大きいと思われるのである。

 こういうところにも術者の経験などが出るのがおもしろいのである。


 「そういえば、妖精パットンはシンの手伝いをしなくても良いのであるか? 確か、今日も貴族がやって来ているはずなのであるが」


 我輩の言葉を聞いた妖精パットンは我輩の目の前に飛んできて、呆れたような表情を見せるのである。


 「錬金術師アーノルドは朝の会話を聞いていなかったのかい? ボクだっていつまでもここにいるわけじゃないんだから、今日はシンが一人で応対するっていう話だったじゃないか」

 「そうであるか。今日の研究の事で全く耳に入っていなかったのである」

 「ほんとうにキミは研究馬鹿だな」

 「熱心だと言って欲しいのである」

 

 からかうような物言いをする妖精パットンに、無駄だとは思いつつも訂正を促しつつ我輩は研究を再開するべく立ち上がるのである。


 「休憩は終わりであるな。そろそろ研究を再開するのである」


 我輩がそう言うと、サーシャ嬢とミレイ女史も頷いて立ち上がるのである。

 そうして研究を再開しようとしたところで、突然ドアが開かれるのである。


 「ああ! よかった!」

 「どうしたのであるか、ハーヴィー」


 何事かと思ってドアを見ると、そこにはハーヴィーが息を切らせて立っていたのである。

 どうやらここにいる誰かに用があるようで、こちらを見て少しほっとしたような表情を浮かべるのである。

 ただ、その様子からは良い用事ではない事は想像できるのである。


 「パットン! 彼女が!」

 「何も言わなくても大丈夫だよ。すぐ行くよ」

 「頼むよ!」


 パットンは状況を説明しようとするハーヴィーを制止すると、急いで一人部屋の外へと出て行くのである。

 行き先はおそらく獣人女性のところだと思うのである。


 「ハーヴィー、大丈夫? 何かあったの?」


 そう言って水産み草が排出している水を沸かした白湯をミレイ女史が差し出すと、ハーヴィーはそれを受け取り一気に飲むのである。


 「……一時的に落ち着いていた彼女の衰弱が再び始まったんだ」


 ハーヴィーの言葉を聞き、我輩達はじっくり研究をする猶予が無くなったことを理解するのであった。






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