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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
11章 収穫祭と獣人女性の治療薬、である。
242/303

戻る者、残る者である


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。


 魔法人形であるコルクが錬金術の補佐役を務めることができることが判明したことで、我輩とミレイ女史も魔法人形の作製を決定するのであった。

 これで、ハーヴィーの想い人を早く治療することができるかもしれないのである。






 「それじゃあね。今度は東方都市かしら」

 「俺も休みが取れたら嫁と行くことにしようと思っている」

 「それでしたら、私達も行ければ良いですね」

 「春は派遣治療団の仕事が忙しいですからね。正直難しいでしょうけど、行けたら良いですね」


 馬車に乗りこんだ、リリー嬢・ウォレス・ゴードン夫妻が我輩達に別れの言葉を告げていくのである。

 この馬車は豪華な作りをしていて、上部には家紋が描かれた旗がかかっているのである。

 これは、ロックバード伯爵がリリー嬢を迎えるために用意した馬車なのであり、これが到着したということで、リリー嬢とウォレスの滞在期間は終了し帝都へと戻るのである。

 ゴードン夫妻もそれに合わせて新たな派遣先へと向かう事にしたので、途中まで馬車に相乗りすることになったのである。


 「あら、珍しいわね。センセイが見送りに来るなんて」


 見送りの中に、我輩の姿を確認したリリー嬢が意外といった表情で馬車の窓越しに話しかけて、ウォレスも同様の様子を見せるのである。

 ちなみに、ダン・ドラン・ハーヴィー・デルク坊は素材確保のため外出しており、アリッサ嬢達は集落にやってきた貴族の応対をしているところで、見送りに来ているのは我輩達だけなのである。


 「センセイのことだから、すぐ会えるから見送りなんてする必要ないとか言い出しそうなんだがな」

 「その通りなのであるが……」

 「おじさん、お見送りは基本だよ!」

 「ちゃんと見送ってこそのホストなのですよ?」


 我輩の言葉に、当然といった風にサーシャ嬢とミレイ女史は答えるのであるが、数ヶ月ほどしたらほぼ確実に会えるであろう見知った者達の見送りをするくらいならば、魔法人形の作製をした方が遥かに利益になると思うのである。


 「そもそも我輩はホストではないのであるが…………」

 「あそこはおじさんのお家でしょ?」

 「今はアリッサ嬢の屋敷である」

 「そう思っているのはセンセイだけだけれどね」

 「名義上はアリッサ嬢の屋敷なので、アリッサ嬢の家なのである」

 「はいはい。だったら勝手に工房や物置を作るのはおかしいわよ」

 「それはそれである」


 我輩の言葉に、やれやれという様子を見せるリリー嬢であるが、我輩にとってはそれ以上におかしいと思う点があるのである。


 「しかしリリー嬢、本当に帝都へ連れていくのであるか」

 「そのつもりでお願いしたのだから当然でしょう?」

 「ばれたらまた面倒ごとになるのである」

 「大丈夫よ。そのための言い訳にこれがあるんじゃない」


 そう言って笑うリリー嬢の手には霊草の入った小さな袋が、そして、肩にはリリー嬢の手ほどの大きさの木製人形が一体座っているのである。


 「間に合わせてくれてありがとう。ミレイにサーシャちゃん」

 「うん。でも、多分コルクと一緒であまり魔法の力は強くないと思うけど…………」


 笑顔を浮かべて礼を言うリリー嬢に対し、サーシャ嬢は少し複雑な表情を浮かべるのである。

 やはり、数日前の事が気になっているのであろう。

 その様子を見たリリー嬢は、馬車から一度降りるとサーシャ嬢の手を取るのである。


 「サーシャちゃん、この前言った通りあの言葉は私の失言だったの。魔法使いの魔力制御や戦闘の補助を行うだけが魔法人形の価値じゃない。忙しい人の身の回りの世話をしたり、愛玩動物の代わりとして人の心を癒す存在になる事だって、十分人の助けになるわ。だから、コルクは魔法人形の本来の役目を果たしているわ」


 この前、というのはコルクの能力試験を行った翌日のことである。

 魔法人形の作製を行うべく朝早く工房に集まった我輩達の元へ、リリー嬢はやってくると先程サーシャ嬢に言った言葉を言い、深く頭を下げてあらためて謝罪をしたのである。

 そして、もし間に合うのであるならば自分用に魔法人形を一体作ってもらえないかと頼んだのである。


 謝罪したとは言え、コルクに低評価を下した上で制作を頼むとはなかなかの図太さであると思ったのであるが、有効性や効率が上がると感じれば掌を返す、それも研究者や魔法使いというものであると、更に言ってしまえば人間であると我輩は思うのである。


 サーシャ嬢は謝罪は受け入れたもののコルクの件は気になっているので、依頼を受けるか躊躇っていたのであるが、リリー嬢がサーシャ嬢とミレイ女史の二人で作った魔法人形を作ってほしいとお願いしたのである。


 「やっぱりわたしだと……」

 「ちがうのよ。本当は一人ずつ欲しいの。でも、そうすると私が大変でしょ? だから、二人一緒に作ってほしいなって」

 「珍しいであるな。何か理由でもあるのであるか?」


 我輩がどこかそわそわしているふうに見えるリリー嬢に質問すると、少しだけ顔を赤らめるのである。

 そして、答えを聞こうとじっと見る少女達の視線に少々言葉に詰まっているようであったが、意を決したのか口を開くのである。


 「帝都に戻って、研究室に一人だけだと…………少し寂しいのよ。でも、二人が作った魔法人形がいれば、いつも一緒に入れる気が……するじゃない…………」


 そう言うとリリー嬢は、恥ずかしくなったのか顔を背けるのであるが、同様に予想外な一言を聞いた我輩とミレイ女史は言葉を失うのである。

 まさか、リリー嬢からそのような言葉が出てくるとは思わなかったのである。


 「リリーおねえちゃん寂しいの? 帝都にはお友達や好きな人もいるんでしょ?」

 「……そうね。だけど、ずっと苦楽を共にした仲間や一番信頼できる部下、それに大好きな森の民の女の子にはなかなか会えないわ。会えても少しの間だけ……少し、仲間外れみたいで寂しいわね」


 これは、リリー嬢の本心なのかもしれないのである。

 本当は我輩達と共に各地を回って気ままに生きていたいのであるが、自分で決めた何かを行うために帝都に残ることにしたのかもしれないのである。

 自分で決めたことなので割りきっているとは言え、疎外感は感じるのかもしれないのである。


 「…………うん。じゃあ、おねえちゃんが寂しくならないようにミレイおねえちゃんとお人形作ってあげる!」

 「ありがとうサーシャちゃん…………二人とも、なんて顔してるのかしら? 私が寂しいっていうのがそんなにおかしいことなのかしら?」

 「いや、とんでもないのである」

 「全力で取り組ませてもらいます!」


 こちらを見て一瞬で機嫌が悪くなりかけたリリー嬢に、我輩とミレイ女史は素早く作業に取り掛かるべく返答を返すのであった。


 と、いうことがあったのである。


 ちなみに、この人形作製に我輩の名前が上がらなかったのは、“センセイだから当然“だそうである。

 意味がわからないのである。


 「…………さらなる調査のために研究所に持ち込んだと言うことで問題は無いわよって、聞いているの?」

 「問題が無いという事はわかったのである」

 「人に話を振っておいて、聞いていないってどういうことかしら」


 先程の質問に対し、リリー嬢は問題ないと言わんばかりに得意げに説明をしていたようなのであるが、我輩は先日のことを思い出していてあまり聞いていなかったのである。


 「……まったくもう。……だからね、サーシャちゃんは自信を持って良いの。コルクも、この子…………ミーシャも作りの親のサーシャちゃんに大したことが無いって言われたら可哀相よ? それに、一緒に作ったミレイにも失礼になっちゃうわ」


 ちなみにこの魔法人形のミーシャという名前は、ミレイ女史とサーシャ嬢から名前を取ったものである。

 実に安直であり、それほど寂しいのであろうかと勘繰ってしまうのである。


 「うん…………そうだね! うん!」

 「そうよ。研究者は自信を持たないと目を曇らせてしまうわ」

 「フ……自信を持ちすぎて目が曇ることもあるがな」


 馬車の中から笑い声混じりの言葉が聞こえると、リリー嬢はキッと馬車の方を見るのであるが、深いため息をつくと、


 「…………そうね。それは否定できないから、自信を持つのも程々にね」


 と言って、馬車へ再び乗り込むのである。


 「それでは出発しても宜しいでしょうか?」

 「ええ、お願いね」


 馬車の御者は馬車内に確認を取ると、扉を閉めて御者台に乗り込み、ゆっくりと馬車を発車させるのである。

 そうして馬車が見えなくなった頃、サーシャ嬢がふと口を開くのである。


 「行っちゃったね」

 「そうであるな。今度は料理大会であろうか」

 「領主様から招待状を直々に頂いていましたから、きっとそうでしょうね」

 「おじさんもアリッサおねえちゃんもドラン君も貰ってたよね」

 「楽しみであるな」

 「うん! でも、その前にお人形とお薬だね!」

 「そうね。頑張りましょう」


 そうして我輩達は、研究を再開するべくアリッサ嬢の屋敷へと戻るのであった。






 アリッサ嬢の屋敷に着いた我輩は、見送りの前にはあったはずの馬車がないことを確認するのである。


 「正面からで問題ないのである」

 「馬車があったら裏からだもんね」

 「貴族は面倒なのである」

 「人によってはわたしだと気付かれると面倒です」

 「なにか、悪いことしてるみたいだよ?」

 「サーシャちゃん、ひどいなぁ」

 「ごめんね……えへへ」


 全てではないが、貴族は平民に対して横柄であるし、伯爵令嬢のミレイ女史を確認したら口説いて来る屋からもいて面倒である。

 なので、我輩達は見送りの際は裏口から馬車のあるところまで向かったのであるが、どうやら帰りはそのようなことをしないで済みそうなのである。


 「ただいま戻ったのである」


 そうして中に入った我輩達の目に映ったのは、


 「アリッサ……帰っていいかい? 雪解け後から僕一人で貴族の相手するなんて面倒だよ」

 「仕方ないじゃないかい、話し合いで決まったことだし、そもそもアンタ暇でしょうが」

 「そうだけどさ……」

 「それに、メイドの子といい感じなんでしょ? 戻る理由無いじゃないか」

 「な、何でそれを知っているんだ!?」

 「ごめんね、シン。ボクはリリーには逆らえないんだよ」


 と、騒がしいアリッサ嬢、妖精パットンとシンの姿であったのであった。





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