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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
11章 収穫祭と獣人女性の治療薬、である。
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本来の役割、である


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。


 高位素材を使用した治療薬の作製に取り掛かった我輩達であったが、現状の力ではかなり厳しいことがわかったのである。

 そこにリリー嬢がある提案をしてきたのであった。






 「うわぁ……すごい……」


 我輩達の目の前で行われている光景に、サーシャ嬢は驚きと喜びの混ざった声を上げ、リリー嬢は当然といった様子を見せるのである。

 そして目の前で作業を行っている存在は、サーシャ嬢の言葉を聞いて嬉しかったのか、小刻みにゆらゆらと動いているのである。


 「確かにこれだけの能力があれば、我輩達の補佐は十分に務まるのである」

 「これは私も作った方がよいのですね……」

 「むしろ、何で作っていないのか不思議だわ。その為のこの子じゃないのかしら」

 「ノルドといい、コルクといい、そういう目的で作ったものではないので、多少利用目的を見誤っていたところはあるのである」

 「センセイはそういうところがやっぱりセンセイらしいわ」


 そう、リリー嬢が提案したのはサーシャ嬢が作製した魔法人形のコルクに補佐を任せれば良いということで、現在我輩達が見ているのは、コルクが単独で作業をしているところなのである。


 しかし、なぜ我輩達が今までコルクを使役することを考えなかったのかというと、我輩が作ったノルドは本当に偶然の産物であり、コルクに関してはサーシャ嬢がノルドのような魔法人形を作りたいという、本来とは違う目的で作られていたのである。

 そのため、我輩達はコルクのことを雑務をこなす愛すべき動く人形程度の認識で捉えており、コルク自身も自身の役割がそうであると認識していたようであるとサーシャ嬢が告げたのである。


 「…………きちんと道具の本来の役割は把握していないとダメよ。しっかりしていてもサーシャちゃんはまだ幼いし、センセイは見た目の通り抜けているのだから、貴方が一番しっかりしていないといけないのよ、ミレイ」

 「はい、申し訳ございません室長…………」

 「我輩が見た目の通り抜けているというのは言い過ぎだと思うのであるが」

 「事実抜けているでしょう? いろいろなことが。研究所時代だって私とゴードンがどれだけ研究を補佐してきたと思っているの?」


 夕飯の時にリリー嬢にそう注意を受け、ミレイ女史は少々落ち込み気味になってしまい、悪口に対し抗議をした我輩は、なぜか逆に延々と説教を受けることになってしまったのである。


 そうして夜が明けた早朝から我輩達はコルクの能力調査を行ったのであるが、コルクはサーシャ嬢の半分から4割程度を持ち合わせていた事がわかったのである。


 ただ、これは魔法人形としては低い方であり、夜の一族の話を聞いたかぎりでは使い魔等の魔法生物の能力は、【意思】の構成魔力を提供している術者の6~7割程度の力を有している者が平均的だと言うことを聞いたことがあるのである。

 それはおそらく、サーシャ嬢が【意思】の構成魔力の扱いが不得手な森の民である事や、コルクの作製過程が本来の目的とは違ったものであったこと、そして錬金術で作られた魔法生物であるからと、様々な理由が考えられるのである。


 しかし、サーシャ嬢と【意思】の構成魔力でつながっているため、サーシャ嬢と同じ認識で作業を行うことができ、また、コルク自身がある程度自立した意思を持っているため、単独で魔法を扱うこともや道具の作製も行うこともできるので、サーシャ嬢の能力の補佐役や、簡単な道具の作製役としては十分だと言えるのである。


 「しかしサーシャ嬢、コルクと一緒に作業できそうであるか?」

 「うーん…………今までみたいにずっとお休みをあまりとらないでお勉強をすることは出来ないと思うけれど、お休みを取りながらなら多分大丈夫だよ」

 「では、一回の試行毎に休憩を取り、今までよりも研究時間を短くすることにするのである」

 「そうですね。それで良いと思います」


 また、別の問題点もあり、コルク自身がサーシャ嬢の【意思】の構成魔力を活動源としている事から、サーシャ嬢の負担が増加してしまうことや、いくつかサーシャ嬢が制御できた筈なのであるが、コルクでは制御を行うことの出来ない構成魔力が存在しているということである。

 これも、魔法人形や魔法生物の作成者の能力や記憶の一部が欠損してしまうという特性から来ているものなのか、それとも錬金術の副作用的な物なのか、それとも両方なのかはわからないのである。

 ただ、それを補って余るほどにはコルクの能力は有用であるのは確かである。


 「でも、サーシャちゃんには悪いけれど、思ったよりも能力が低いわね」

 「それは、わたしが【意思】の構成魔力を上手に使えないから…………ごめんなさい」

 「ああ、ごめんねサーシャちゃん。そういうつもりじゃないのよ」

 「リリー嬢、そうにしか聞こえないのである」

 「わたしがちゃんとコルクを作ってあげられなかったから…………ごめんね…………コルク」

 「ああ、ごめんなさい。泣かないで、泣かないでサーシャちゃん」

 「リリー嬢、子供に対して辛辣なのである」

 「うるさいわね。ああ、ごめんなさい。泣かないで、サーシャちゃんは悪くないわ」


 こうして我輩達は、補佐役としての魔法人形の有効性を確認できたのであるが、サーシャ嬢が落ち込んでしまったためこのあとの研究は一時中断となってしまったのであった。


 泣いてしまったサーシャ嬢におどおどしながら謝る、リリー嬢の珍しい姿と、リリー嬢に怒っているかのようにぺしぺしと腕を叩くコルクの姿を見ることができたのは貴重なのである。

 そのような余計なことをつい言いそうになった我輩は、黙って道具の片付けを始めるのであった。






 「で、結局これからどうするんだ?」

 「とりあえず研究の方向を変え、先に我輩とミレイ女史の魔法人形を作ることにしたのである」

 「あぁ、なるほど。補佐役を増やす方向にしたのか。じゃあ、良い核が必要だな」


 結局、あのまま今日の研究を行うことはできなかったため、我輩とミレイ女史は二人で話し合った結果、二人とも補助用の魔法人形がいた方が確実に効率が上がるという事になったので、先に魔法人形の作製に取りかかる事にしたのである。

 なので、明日からは魔法人形の作製においては我輩達の先を行っているサーシャ嬢に教えを請うことになるのである。

 リリー嬢の心ない言葉によって泣いてしまったサーシャ嬢であったが、魔法人形作製にはサーシャ嬢の教えが必要であるという言葉を聞き、多少気持ちが落ち着いたのかリリー嬢の謝罪もそのあと聞き入れたのである。


 リリー嬢は、我輩達に感謝するべきである。


 「明日取りに行きますかい? 付き添いますぜ!」

 「だったら俺も付き合おう。結局所長に付き合わされて、大森林に行けてないからな」

 「あ、じゃあ、おれも行っていい?」


 ダンの素材採取の提案を聞き、ドラン達も同行すると言いはじめるのである。

 ここ数日集落の外から出ることが無く、毎日戦闘訓練と傷薬の試験に明け暮れていたためどうやら鬱憤が溜まっているようである。


 「そうだな。領主も帰ったし、決めておかなきゃいけないことはほとんど終わったしな」

 「じゃあ、ハーヴィー。お前も行くぞ」

 「え?」


 ドランに声をかけられたハーヴィーは、気の抜けたような声を出すのである。

 それは、リリー嬢の菓子によって不調に陥っていた妖精パットンが復調し、獣人女性の容態を見たところ、【意思】の構成魔力が以前よりも少量であるが減少してきていると聞かされたからである。

 今は減少が止まっているらしいのであるが、いつ同じ事が起きるかはわからないらし、これ以上構成魔力が減少すると生命活動が止まる可能性があるらしいのである。。

 なので、次に構成魔力の減少が起きたら治療薬の研究を諦め、現状でできる一番高品質の治療薬を与えることは決定しているのである。


 「え? じゃねえだろうが。俺達は同じチームだろうが。隊長が出るなら当然同行するに決まってるだろうが」

 「もしも今よりも良い素材を手に入れれば、それだけ安全に回復させることもできるだろう。ここにいたところで、お前にできることはほとんど無いだろう?」

 「ボクも協力するからさ」


 ウォレスや妖精パットンの言葉を聞き、ハーヴィーははっとしたような表情を見せると頭を下げるのである。

 皆の言葉に、何か思うところがあったのかもしれないのである。


 ハーヴィーは大事な仲間なのである。

 なので我輩は、できる限り早く安全で効果の高い治療薬を作れるようにしていこうと改めて思うのである。

 間違っても自分の研究欲のためではないのである。


 「すいません。自分のことばかり考えていて…………」

 「まぁ、気持ちはわかるぞ。あのねえちゃんなかなかのべっぴんだからな」

 「は……? ドランさん!?」


 頭を下げ、反省の言葉を口にしていたハーヴィーであったが、ドランから予想外の言葉を言われたらしくハーヴィーは急に慌てはじめるのである。


 「獣人だけあって顔の作りは独特だが、ああいうのが好きなやつはいるな」

 「教官!? 何を言ってるんですか!?」

 「お? やっぱりそういうことなのか? ハーヴィー」

 「違います! あの人は僕の源流の血を引いているので……」

 「最後までいうな。だから、そういう女と結ばれたいんだろ? 協力してやるから」

 「だから、違います!! 同じ血を持つ人に死んでほしくないだけです!」

 「その割には、かなり入れ込んでるようにも見えるがな」

 「これ以上は怒りますよ!!」

 「もう怒ってるじゃねえか! はっはっは!」


 結局、こうやって不謹慎な行動を取るのが探検家である。

 その光景に我輩が呆れていると、ダンが唐突にこちらを向くと頭を下げるのである。


 「だからよセンセイ達、治療薬の事よろしく頼むぜ。俺達もできる限りのことをするからよ」

 「頼みますぜ」


 それに合わせてドランも頭を下げて来るのである。


 「当然であろう。全力を尽くすのである」

 「そうだよ。ハーヴィーさんのためにもね」

 「ハーヴィーおにいちゃんが獣人のおねえちゃんに好きって言えるように頑張るね!」

 「だからサーシャちゃん、それは違うんだって! ……ドランさんが余計なことを言うから!!」

 「俺のせいだけじゃないだろう!? 隊長や教官だって同罪じゃねえか!」

 「ドランが余計なことを言わなきゃ問題なかったな」

 「あぁ、その通りだ」

 「ひどくないですかい!?」


 こうして騒々しい食事は、堪忍袋の緒が切れたアリッサ嬢の怒鳴り声が鳴り響くまでの間続いたのであった。



 そうであるか、ハーヴィーは獣人女性をそのように思っていたのであったか。

 我輩は全くわからなかったのである。







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