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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
2章 辺境の集落と新しいメンバー、である。
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森の外へやってきたのである


 我輩の名はアーノルド、帝国唯一無二の錬金術師である。






 二日目の移動もほぼ何事もなく、後5分程で本日の夜営予定地に着くという時であった。

 前を歩いていたアリッサ嬢が立ち止まって、一度後ろに戻り何やら考え事をしているようなのである。


 「どうしたのである?アリッサ嬢」

 「あぁ、センセイ。どうも、ここでここで結界が切れているようなんだよね。この先から結界の匂いが消えちゃうんだよ。この前は、もっと先まで匂ってたんだけど」


 アリッサ嬢の言葉に、妖精パットンが何かを確かめるようにやってきたのである。


 「うーん…………。うん、切れてるね。ここまでのようだよ。」

 「一体どういうことであろうか?」


 我輩の質問に、妖精パットンが答えるのである。


 「多分だけどね、術式を構成する魔法陣か、煙を出している魔法の道具かわからないけど、劣化して来ているんじゃないかな」

 「どうすれば良いのであるか?」

 「劣化したところを補うか、同じものを新しく作り直せば良いと思うよ」


 実はまだ、家をすべて捜索しきっていなく、煙を発生させている道具を見つけていないのである。

 森の家にもどったら、倉庫の整理と並行して家捜しも再開するのである。

 しかし、劣化であるか……。仮に道具であった場合、同じ品質のものを作れるとは思えないのである。魔法陣であってほしいのである。


 「魔法陣の補修はどうやるのであるか?」

 「あぁ、ボクなら出来るよ。漏れてる構成魔力を純魔力で増やして、もう一度魔法陣に繋ぎ直せば良いからね。意思の魔法を使えるからできる荒業だよね」

 「魔法陣の劣化が酷かった場合、よろしく頼むのである」


 我輩は、妖精パットンにお願いするのである。


 「お願いされたよ」


 妖精パットンは笑顔で答えるのであった。






 「わぁ、おにいちゃん!すごいすごい!草しかない!」

 「木が全然ない……」


 翌日、結界の中で一晩過ごし、朝食を食べてから森を出た我輩達である。もしかしたら探検家達と遭遇することも考え、サーシャ嬢と兄君は髪の毛をフードで隠したうえで、妖精パットンの認識疎外の魔法で髪と目の色を茶色に見えるようにしてもらっているのである。

 サーシャ嬢は始めてみる景色に大興奮である。

 兄君は、木がないことに不安を隠せないようである。だから、ダンに猿の獣人と揶揄されるのである。


 「サーシャ達の姿を消さなくて良いのかい?」

 「その方が負担が大きくなると思うのであるが、違うのであるか?」

 「ふふ……気を使ってくれているのかい?優しいね、錬金術師アーノルド」


 妖精パットンはすでに認識疎外の魔法を使い、姿を隠しているのではあるが、我輩の頭に乗っているのがわかるのである。


 我輩は、あらためて眼前に広がる景色を見るのである。

 膝くらい程の高さに育った草むらが先まで伸びているのである。所々短くなっいたり無くなっているのは、森の家に向かった我輩達やアリッサ嬢、ここら辺りに用事があった探検家や獣などが移動した跡であろうか。


 「おじさん、この先に人が住んでるの」

 「あと数十分ほどするともう少し開けた場所に変わるのである」


 先頭のダンが、サーシャ嬢達が多少歩きやすいようにしながらどんどん先に進んでいるのである。

 森の中と違い、この辺りはすでに結界の範囲外である。暗くならないと、人を襲う獣などはあまり出ないのであるが、用心のためサーシャ嬢と兄君を守る形で移動しているのである。

 妖精パットンは少し高くと飛び、周囲を確認しているようである。


 「おおっと」


 ダンが、草むらを分けたところに寝ていた蛇がいたようで、驚いて襲いかかってきたようである。

 ダンの方に飛びかかってきた蛇を掴み、別の場所に放り投げるのであった。


 「虫とか、蛇とかああいう奴等はなかなか気配がわかんねぇんだよな、しかも寝てたし」

 「そういえば、結界の中にはあまり虫とか蛇とかいなかったねぇ」

 「意思の魔法は、思考や意識が単純な存在にも効くけど、実際効いているのか疑わしいときもあるからね」

 「結界の補助的なものとして、煙には畑の友シリーズの忌避効果があると考えて良いと思うのである」

 「そうなら、あの臭いの説明もつくしねぇ」


 先程の一件で、結界内部の生態についての会話が行われるのである。確かに虫や蛇、粘性生物なども現れることはなかったのである。

 おそらく、思考能力の高い生物には認識阻害の結界を、虫や蛇や粘性生物などの思考能力の低いものには、錬金術で作成した忌避系の煙を使用することで、敵性生物を遠ざけていた可能性があるのである。


 そのまましばらく進むと、草の丈も低くなって、歩きやすいようになってきたのである。

 平原部に到着したようである。小高い丘が目前にあるのであるが、ここを越えれば街道が見えてくるはずである。


 「おじさん、ここを越せばもっと広くなるの?」

 「こちらの方が高い場所にあるので、見晴らしは良くなるはずである」

 「早くいこうぜ!」


 我輩の言葉を聞いて、サーシャ嬢と兄君はアリッサ嬢の手を掴み先を急ぐのである。我輩の頭も軽くなったので、妖精パットンもついて行ったようである。


 「まるで遠足だな」

 「彼女たちにとってはそうであろう。初めての森外である」

 「それもそうか」

 

 我輩の言葉に納得の表情を浮かべるダンである。生まれて初めてのことばかりである。それは楽しくて仕方がないのである。


 「おじさーん!早く来てー!」

 「ダンにいちゃん!のんびりしてると日がくれちまうよ!」

 『二人とも、ボクにこんな素晴らしい体験を目の前にお預けをさせる気かい?皆一緒に景色を見たいんだ。早くおいでよ』


 サーシャ嬢達が、丘の中ほどで立ち止まり、我輩達をせかすのである。

 妖精パットンよ、わざわざ魔法で思念を飛ばす必要はあるのであろうか。相当入れ込んでいるようである。

 ダンと我輩は苦笑いを浮かべ、4人のもとへ急ぐのである。






 「うわぁぁぁぁぁ………すごーい!ひろーい!」

 「どこを見ても、緑色だ……」

 「気持ちが良いねぇ、……あそこに見える影はニンゲンかな?」


 丘を昇り、我輩達は目の前に広がる景色を眺めている最中である。森から出たときの草むらとはまた違う、前方に広がる緑色の絨毯はとても美しいのである。

 遠くには街道が見えているであるが、帝国領土の中でも辺境に位置している場所なので、荷馬車が一台通れるくらいの広さしかなく、現在通っている人間の数もかなり少ないのである。


 「さぁ、ここを降りて、見えている道を進めばセンセイの家のある集落だからね。ここでご飯食べちゃおう」

 

 アリッサ嬢は、昼食の準備を始めているところである。

 森を抜ける前に食べられる野草をいくつか取っておいたものと、保存食の塩漬け肉を使い、スープをつけるのである。


 火と水に関しては


 「………………っ!」

 「えーっと……えいっ」


 サーシャ嬢と兄君が小さな魔法陣を描き、サーシャ嬢が鍋に水を出し、兄君が料理用のたき火のために組んだ枝に種火を点すのである。ただ、兄君の火は種火にしては少々勢いが強すぎた気もするのである。


 「やった!本当にできた!」

 「お兄ちゃん、すごい!魔法出来るようになったね!」


 二人とも嬉しそうである。特に兄君は魔法を使えなかったので、すごく嬉しそうである。


 「本当に出来るもんなんだな」

 「あたし達の知ってる魔法陣の形じゃなかったのにね」

 「魔法陣や詠唱は、元々魔法を使用する際の補助的役割でしかないんだ。だから、模様や言葉なんか何だっていいし、究極的なことを言えば、魔法陣だって詠唱だって要らないよ」


 妖精パットンの口から、またもや魔法の新事実が判明したのである


 「は?あたしたちにも魔法が使えるってこと!?」

 「そうだね、使えるよ」


 妖精パットンは、アリッサ嬢の回りをくるくる飛びながら説明を続けるのである。


 「前も言ったけど、魔力の操作・融合・構築・維持・発動は全ての意思の魔法、さらに言えば【意思】の構成魔力で行っているんだ。君たちの言い方で言うならば、精神力さ」

 「それは、前も聞いたからわかるよ」

 「だからそれらを完全に把握、制御しきれれば、魔力を一切感じられなくても魔法は使えるってこととさ」

 「そんなの、できるわけないじゃない」

 「その通りさ。仮にそんなことができるとしたら生物、いや、万物の枠を越えた存在だとボクは思うよ」

 「つまり、神であるか」


 妖精パットンは、我輩の言葉に頷きを返すのである。


 「つまり、そんなことができない俺たちは、何かしらの方法でそれを補わなきゃいけないと」

 「それが、魔法陣や詠唱ってこと?」

 「他にも、構成魔力を含んだ媒体を使用した魔法とかね、何だっていいんだよ。自分の意思の魔法が各魔力を操作できるほどに強くさえなれば」


 妖精パットンはそう言うと、今回の話はここまでと、サーシャ嬢達の方へ飛んで行ってしまったのである。

 アリッサ嬢も妖精パットンの後を追うのである。昼食の準備をしに行くのであろう。


 「センセイ、何で人間の魔法陣は同じ形なんだろうな」


 ダンが、珍しく魔法談義を始めたので、我輩もそれに付き合うべく推論を述べるのである。


 「おそらくではあるが、確信と安心の拠り所を欲したのであろう」

 「どういうことだ?」

 「森の民等は、我輩達と違い構成魔力も感じることが出来るのである」

 「ああ、それは分かる」

 「サーシャ嬢で例えれば、魔法陣で回復の魔法を使用したとしよう、その際どの形の魔法陣でも【回復】の構成魔力が感じられれば、魔方陣の形にこだわらなくていい確信が持てるであろう?」


 我輩の言葉に、ダンは得心が行った顔をするのである。


 「そうか、俺達はどう頑張っても構成魔力は感じないから、実際に引き寄せているかわからない」

 「サーシャ嬢に、いくつもの形を提示されてどれでも良いと言われるのよりも」

 「一つの形に限定されたほうが、俺達としてはわかりやすいし、集中しやすい……か」

 「ということであるな」

 「だから、リリーが森の民の魔法陣は複雑で分かりづらいって言ってたのか」

 「分かりづらいも何も、完全に不規則であるからな」

 「ふはっ!!確かになぁ……くくく…」


 我輩の言葉に楽しそうに笑って答えるダンであった。リリー嬢にあったら今日のことを教えてあげようと思うのである。いつか会えるであろうか。

 そんなことを思っていると、サーシャ嬢がこちらに手を振っているのである。そろそろ食事の用意ができそうである。


 「センセイ、最後にだけど何でデルクは魔法陣が適当だったのに魔法が使えたんだろうな。あいつも純魔力しか使えねぇんだろ?」


 歩きながら我輩に質問するダンである。

 やはり、こういう話は好きなのであるな。絶対に学者に向いているのである。


 「簡単である。兄君が素直ないい子である事と、魔法陣を教えた妖精パットンを完全に信用しているからである」

 「あー。なるほどね」

 「ただ、構成というか制御が大雑把なのは性格なのであろうな。あまり大きな魔法は使わせないほうが良いのである」

 「それもわかるわ」


 そういって、我輩達は皆の待つ場所へ向かうのであった。







 いつものように騒がしく、楽しい昼食を過ごした我輩達は、その後の移動も滞りなく進み、現在我が家のある集落に向かう街道までやってきたのである。

 街道には人通りもなく、見晴らしもとても良いので各々離れすぎない程度に行動しているのである。

 サーシャ嬢は妖精パットンと街道沿いに咲く花を見つけては観察し、小鳥や蝶を見つけては追い、とてもこの旅路を堪能しているのである。

 兄君は、アリッサ嬢とダンが交代で走ったり、追いかけっこをするのに付き合わされているのである。こちらは大分ヘロヘロになってきているようである。


「ねぇ、おじさん。後どれくらいかなぁ」


 サーシャ嬢が妖精パットンとの街道散策に飽きるくらいの時間が経過してから、我輩にそう聞いてきたのである。兄君は、クタクタになるまで付き合わされて、現在はダンに担がれている状態である。


 「この先で見えてくるはずである」


 我輩は、道の先にある少し高くなっている場所を指差しサーシャ嬢に伝えるのである。


 「楽しみだね!おじさん!」

 「森の民の集落や森の家の快適さに比べると大分劣るので、覚悟はしておくのである」


 生活文化レベルが森の民に比べ格段に落ちるので、失望されないか心配になるのである。


 「おぉ、見えてきたな。しっかし、いつ見ても田舎だな」

 「辺境の一集落に何を求めているのであるか」


 だんだん見えてきた集落の様相にダンがボソリと感想を漏らす。辺境都市であればまだ違うのであるが、村といえるほどにも大きくなっていない集落である。田舎というか、未開地に近いのである。

 開拓当初は400人前後いた集落の住人も、数年前の獣達の反撃による政策失敗の影響で、我輩が来た頃は80人位まで減少し、我輩くらいの働き盛りの若者は数えるほどしかいない、それほどに小さな集落であった。


 我輩達は、集落の入口に到着したのである。このような小さな集落なので、当然門番や兵士などはいないのである。

 我輩達は改めて、この集落での過ごし方を確認するのである。


 「いいであるか、サーシャ嬢と兄君は、我輩・ダン・アリッサ嬢のいずれかと行動すること、妖精パットンはサーシャ嬢と兄君に付いていること。よろしいか?」

 「うん!」

 「わかった!」

 「わかっているよ、錬金術師アーノルド」


 各人の返事が貰えたので、我輩は皆を引き連れ集落に入るのである。

 我輩は、全員が集落に入ったのを確認すると後ろを振り向いて


 「森の民と妖精よ。ようこそ人間の集落へ。何も無いところではあるのだが、歓迎するのである」


 そういって、歓迎の気持ちを伝えたのである。


 




 その後、我輩達は我が家へ向かおうとしたのだが


 「薬師様?薬師様!」

 「おい、あれは薬師様だ!」

 「全員に伝えて来い!薬師様がお戻りになったぞ!」


 何やら、我輩が集落に帰ってきたことに気づいた住人が騒がしくなって来たのである。

 大袈裟な出迎えなのである。







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