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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
11章 収穫祭と獣人女性の治療薬、である。
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進む調査と膨らむ妄想である


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。


 霊草の傷薬の試験を終えた我輩は、食堂でその報告をしつつ、全員が久しぶりに揃ったことに何とも言えない嬉しさを感じ、これから先の研究も頑張っていこうと決意するのであった。





 霊草を素材にした薬の研究を開始して数日、我輩達はそれなりに様々な調査を行ったのである。


 まず手始めに、霊草と普通の薬草を投入して薬を作製できるかどうか。


 これは早々にやっておくべき事であったのであるが、まずは霊草のみで薬を作製できるのか、そして効果はどれほどのものがあるのかというのを3人全員知りたかったためそちらを優先したのである。

 物事の順番としては間違っているかもしれないのであるが、好奇心が勝ってしまったので仕方がないと思うのである。


 この調査の結果、通常の薬よりは効果が高く副作用も抑えられることになったのであるが、霊草のみの薬よりは効果が劣ることになったのである。

 ただ、ほぼ同様の効果を持つまで圧縮作業を行い作製した薬に比べると、素材と副作用が抑えられる代わりに作業時間と魔力制御による疲労が多くなる事もわかったのである。

 なので、基本的に我輩は効率と希少な素材保有を重視し、今後も圧縮作業で薬を作りたいという考えなのであるが、その報告を聞いたダン達探検家チームからは反対の意見が続出したのである。

 これはまあ、研究職と現場に出る者達の価値観の違いだと思うのであるが、貴重な素材を湯水のように使うわけには行かないので提案を受け入れるのは難しいのであるが、普段から試験や研究に協力してくれている訳であるので、その辺りはミレイ女史やサーシャ嬢と話ながら調整していこうと思うのである。


 他にもは【回復】以外の構成魔力を持つ霊草や霊木の群生地で採れた果実等を使用した薬も作製を行い、現在は解毒薬や体力回復薬も作製に成功しているのである。


 解毒薬はさすがに中々試験を行うのが難しいと思ったのであるが、ちょうどその日の夜に領主が酔い潰れたため翌日に試験を行う事が出来たのである。

 つい先日、二日酔いのために普通の解毒薬を飲み、副作用に苦しんだというの中々学習しないのである。


 「いやあ、わかっていてもダンさんやドランさんと酒を酌み交わすのが楽しくてですな……。しかし、この解毒薬ならば安心して酒が飲めますなあ」

 「アーノルド様、夫への解毒薬は副作用を強力な物をお願いいたしますわ」

 「おいおい、それはないよ」

 「時々ならばまだしも、毎日のようにお酒を大量に召し上がり、お身体を壊されては私が悲しいのです」

 「おまえ…………そうだな。愛する君を心配させてはいけないね」


 という茶番じみたやり取りもあったのであるが、それだけの効果はあったという事なのであろうと思われるのである。

 同様に、霊木から採れた果実を素材に作った体力回復薬も、副作用はほとんど無く高い効果を発揮したのである。


 そのような感じで少しずつ薬の作製や、それにともなう試験が進んでいった我輩達は次の段階、複数の構成魔力を使用した道具の作製に取り掛かるのであった。






 「今日は一日だめだったね」

 「予想はしていたのであるが、構成魔力が一つ増えるだけでかなり難易度が上がるのである」

 「霊草と薬草を混ぜた状態だと普通に作製できたのですが、それだと今までと変わりませんものね」

 「どうしてもダメであった場合は副作用を覚悟して、現状で最大霊草を入れられる状態で薬を作製することになりそうであるな」


 デルク坊が夕飯を知らせに来たため、我輩達は本日の研究を終了するのである。

 複数の構成魔力を使用する道具の作製の研究として、我輩達はキズいらずの作製に取り掛かったのであるが、【回復】の構成魔力を霊草のみを使用しての薬の作製は一回も成功しなかったのである。


 ただ、傷薬を回復魔法並の治癒力まで高めるのを目的に作ったものがキズいらずなので、既に魔法薬同様の治癒効果が期待できる霊草の傷薬が作製できた時点でキズいらずはいらない気がするのであるが、獣人女性の治療薬に必要な構成魔力が、我輩の考えでは複数である事と、霊草で作ったキズいらずはどのような効果があるのかが気になったので、現在作製に挑戦しているのである。


 実は我輩は霊草の【回復】と【肉体】、の構成魔力で作製されたキズいらずであれば、従来にキズいらずや霊草の傷薬でも治療をすることの難しい大怪我や部位欠損も元に戻せるのでは無いかと睨んでいるのである。

 それこそ文字通り、死なない限りほぼ完全復活する薬である。


 もし我輩の仮定が正しかったら、出来上がった薬は霊薬・秘薬、または魔薬と呼ぶに相応しいものとなるのである。


 ちなみに、ノヴァ殿の手引き書にも似たようなものの作成法方が記されているのであるが、その素材はやはり現在の我輩達では到底手に入れることのできないと思われる、お伽話に出るようなものなのである。


 つまりは、その素材をノヴァ殿は確保することができたという事なのであるが、一体どうやって手に入れたのかというのが気になるのであるが、それらについては素材図鑑の方にも一切触れられていないので、もしかしたら机上の空論であったのかも知れないのである。

 また、何故そのような素材ではなく霊草や霊木を使用しなかったのかという疑問もあるのであるが、ノヴァ殿が管理集落の存在を知らなかったのか、それとも、魔の冠を抱く者となったことで聖域には足を伸ばすのを躊躇ったのかもしれないのである。

 まあ、これも先程同様に何も触れられていないので、想像の域を越えることはできないのであるが。


 しかし、こういう想像や妄想というのは本当に楽しいのである。


 小さい頃は学者の一族に伝わる資料から、大人になってからは帝都に運ばれて来る発掘された文や物品を調査し、当時の帝国や森の民ら亜人種の文化様式などを想像し、錬金術を知ってからは毎日が新しい発見と、そこからつながる新しい仮説の構築など、我輩は物心付いてからずっとそういう生活を続けているのである。


 「おじさん、どうしたの? 何か楽しいことでもあったの?」

 「そうであるな。毎日が充実して楽しいのである」

 「そっか! わたしも毎日楽しいよ!」

 「ふふ、わたしも毎日新しい発見があって楽しいです」


 それを聞いた我輩は、心の一部が沸き上がるような気持ちになるのである。


 研究所時代、そして今もそうであるが、ダン達は我輩の研究に協力してくれたのである。

 しかし、今まで彼らに感謝の気持ちは抱いたもののこのような気持ちを抱いたことは無いのである。


 共に勉学に励み、その楽しさを共有できる者がいるというのが、これ程までに喜ばしいものであるのかとあらためて思い、我輩はサーシャ嬢達と食堂へと向かうのであった。






 「へー。そうかい」

 「何でそんなに不機嫌なのであるか」

 「べっつにー」


 一体何が気に入らないのであろうか。

 昨日のことをまだ引きずっているのであろうか。


 現在我輩達は夕食を摂っているところなのであるが、我輩の様子がいつもと違うことに気付いたダンが何があったのか尋ねてきたので、その返答をしたらこの態度を取られたのである。

 正直なところ、何でこのような態度を取られるのか理解できないのである。


 「俺達だってよ、センセイの錬金術に対する考えに共感してるからこれだけ協力してるんだぜー」

 「それはわかっているのである。だから感謝していると述べたはずである」

 「そうだねー」


 一体何なのであるか。

 意味がわからないのである。


 「サーちゃんやミレちゃんに嫉妬してんじゃないよ。馬鹿じゃないの?」

 「んぐぅ! …………何言ってんだアリッサ!」


 と、そこに我輩達のやり取りを聞いていたらしいアリッサ嬢が、呆れた顔をして話に加わってくるのである。

 突然の言葉に、ダンは食べていた物を吹き出しそうになったらしく、それを堪えたことで一瞬大変な事になっていたのである。


 「嫉妬? ダンがであるか?」

 「そうそう。サーちゃん達といると嬉しいと思えるのに、自分はそうじゃないって思って嫉妬してんだよ。良い歳してるオッサンが馬鹿じゃないかねぇ」

 「してねえよ! 俺達が10年近く…………」

 「俺()って、一くくりにするのは止めてくれないかい? あたしは、センセイに感謝されてるっていうだけで満足してるからねえ」

 「そうね。あらためてそういうふうに言われるのは初めてかしら。ちゃんと感謝されてると知って良かったわ」

 「センセイは、僕たちを使い勝手の良い小間使い程度の認識だと思っていたから驚いたよ」

 「シンよ、さすがにその認識はあらためてもらいたいのである」


 と、同様にやり取りを聞いていたらしいリリー嬢とシンも話に加わってくるのである。


 「と、いうわけだから、自分たちがいることを嬉しいと思ってくれないと嫌だって駄々をコネてるのはリーダーだけだよ」

 「ほんと、リーダーはセンセイが大好きだな。当時、帝都で男色家の噂が立ったのも仕方がないね」

 「帝城だと未だにそれが真実のように言われているわよ。もう否定するのも面倒だから、肯定しようかしら」

 「やめてくれ、本当に止めてくれ…………たのむから止めてくれ」

 「ダンはともかくとして、我輩まで巻き込まれるのは勘弁してほしいのである」


 想像や妄想は楽しいのである。

 ただ、人をおもちゃにして楽しんだり、傷つけるような想像や妄想は本当に良くないのである。


 我輩は心底そう思いながら、食事を再開するのであった。


 少しだけ、食事が美味しくなくなってしまって非常に残念だったのである。




 

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