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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
11章 収穫祭と獣人女性の治療薬、である。
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試験結果と団欒である


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。






 何とか霊草を使用した傷薬を完成させることができた我輩達は、薬の効果を調べるためにドランとデルク坊に協力してもらったのであった。






 「ふんぇー。じゃあ、ほとんろ魔法薬とおなじってことか」

 「ダンおじさん、お肉を食べるかお話するかどちらかにしないと怒られるよ?」

 「ダンよその通りであるな。サーシャ嬢が作った魔法薬は解毒効果もあったので、それよりは劣るのであるな」


 皿の上に盛りつけられた、ドランが焼いた一枚肉をアリッサ嬢が肉汁とワインと少々の乳を混ぜたソースと絡めた料理を豪快に噛みちぎりながら質問をするダンを、サーシャ嬢が窘めるのに同意しながら質問に答えるのである。


 あれからウォレスに押さえ付けられた二人に霊草の傷薬の試験を行ったのである。


 その結果、霊草の傷薬は我輩がその色合いから連想していた、サーシャ嬢が作製した魔法薬同等の効果があり、ドランとデルク坊の傷口にふりかけるとみるみる傷口が消えていったのである。

 それよりも二人はどうやら別のことに驚きを感じているようである。


 「痛くない…………」

 「切り傷につけたら確実に沁みるはずなんですがね…………ほとんど沁みなかったっすわ」

 「ほとんどということは、多少は沁みるのであるか」

 「気にならない程度ですかね」

 「なるほど。じゃあ、俺も試してみるか」


 そう言うとウォレスも自分の腕に傷を付け、サーシャ嬢から傷薬を受けとると傷口にかけるのである。


 「なるほど。この程度なら戦闘に全く影響しないな」

 「だったら最初から教官が試験をしてくださいよ。俺達を実験台にするのは酷くないですかい?」

 「そう思うなら俺に訓練で勝つんだな。この世界は実力社会だ」

 「だったら…………やってやりますぜぇぇぇぇ!!」

 「こんのおおおぉぉぉぉぉ!!」


 と、何ともふてぶてしい笑顔を浮かべているウォレスに、ドランとデルク坊が再び向かって行くのを見て、我輩達は薬液が残った瓶を置いて工房へと戻ったのである。

 だが、夕食までにもう一つ薬を作るのは無理そうだったので、残りの時間は個々の研究時間に費やして現在に至るのである。


 「サーちゃん、リーダーにいくら言っても無駄だよ。でもさ、副作用がほぼ無いっていうのはいいねぇ」

 「そうね。リーダーの行儀の悪さは一生直らないわね。ということは、サーシャちゃんは以前、今回同様かそれ以上の負荷を一人で受けたことになるわね。それは倒れるわよ」

 「ダンの行儀の悪さは病気の域である。そうであるな。知らなかったこととは言えサーシャ嬢にはとても大きな負荷をかけてしまったのだと、改めて反省するのである」


 あの時は無理をした結果、しばらくの間倒れるだけですんだのであるが、妖精パットンいわく魔力制御の際に無理をしすぎると【意思】の構成魔力の過剰流出が起きて意識が戻らなくなったり、死んでしまう可能性もあると言うことである。

 つまり、現在の獣人女性と同様かそれ以上の状態になる可能性もあったということである。


 「普通はそこまで行く前に集中が切れて気絶しちゃうんだけで済むんだけどさ、子供とか魔法の使い方に慣れてない人は、限界がわからないからそういうことを起こしやすいんだ。だから、サーシャには無理をさせちゃダメだよ」


 と、その時窘められて以来サーシャ嬢に無理をさせないように気をつけているのである。


 ただ、サーシャ嬢も錬金術の作業にも魔法使用にも慣れてきているので、もう大丈夫だとは思っているのであるが、念には念をである。


 「なぁ、何でさっきから薬の話の前に、俺に一言言うことになってんだよ」


 噛みちぎった肉を飲み込んだダンが我輩達にそう文句を言うのであるが、それを聞いたアリッサ嬢やリリー嬢は冷ややかな視線をダンに送るのである。


 「行儀が悪いからだって分からないのかねぇ。料理を取り上げられないだけマシだと思いなよ」

 「隊長も一応貴族なのですから、もう少しだけ行儀良くした方がよいですよ」

 「仲間内の時くらい良いじゃねえか……」


 ミレイ女史にまで窘められてしまったダンは、少し拗ねたような表情を浮かべて不満を漏らすのである。

 それはわかるのであるが、限度があるのである。

 さすがに肉を口いっぱいに入れた状態で話すのはどうかと思うのである。


 「お客様もいるのだけど?」

 「領主だって爺さんだってクリスだってほとんど身内みたいなもんじゃねえのかよ」

 「儂は、自分が以前世話をした若者の行儀が予想以上になっていないと知って、情けない気持ちじゃがの」

 「身内だと思っていただけるのは嬉しいですが、ダンさんは貴族でいらっしゃるので、会食の際はもう少し品を良くした方がよいと思いますよ」

 「ドランちゃんも食事マナーを矯正しているところですから、ダンさんも頑張っていただけると……」


 突然話を振られた領主達も、口々にダンの行儀の悪さを窘めるのである。

 今、この屋敷には我輩達以外に客人としてリリー嬢ら旧探検家チームの面々と、ゴードンの奥方・クリス治療師・領主夫妻・ギリー老が滞在しているのである。

 今日までの間、全員揃うことは無かったのであるが、本日は初めて全員揃って食事を取ることができたのである。


 と、言うのも、


 (ああ、生きているって素晴らしいね)

 (それほどなのであるか)

 (ボクはこれから先、絶対にリリーを怒らせるような行動をしないって決めたよ。彼女はボクの天敵だよ)


 我輩の頭に座り、自身の生存を喜んでいる妖精パットンが、今まで寝込んでいたからである。

 妖精パットンは、屋敷に戻ってサーシャ嬢に我輩達が戻ったことを告げてすぐにアリッサ嬢につかまり、事情聴取を受けたのである。

 その結果、妖精パットンの身勝手な行動が戻るのが遅くなった一因であるとわかったリリー嬢から、菓子を振る舞われていたのである。

 そして、料理から発せられる妖精パットンに向けられた強烈な負の【意思】の構成魔力に当てられて、妖精パットンは意識を失ってしまったのである。


 所謂、身の危険を感じた虫や獣が死んだふりをしてやり過ごすあれに近い状態に妖精パットンはなってしまったらしいのである。

 そうして、妖精パットンは今に至るまで起きることなくこの数日を過ごすことになったのであった。


 (リリーのあれは、ボクをショック死させるには十分だよ)

 (まさに、天敵であるな)

 (本当に皆に悪いけれど、リリーに頼まれたらボクはもう何でも言うことを聞かざるを得ないよ)


 妖精パットンであるので、多少話を盛っているような気もするのであるが、それだけの恐怖をリリー嬢に抱いているのは確かである。

 まぁ、我輩達もリリー嬢の菓子には恐怖を抱いているので、似たようなものかもしれないのである。


 ちなみに、ずっと我輩と念話の魔法で会話をしているのは、領主や屋敷の者達には妖精パットンの存在は知らせていない事と、我輩との会話は念話で行った方が楽だからだそうである。


 そんな妖精パットンとは別に、ここ数日我輩が姿を確認できなかった者もこの場にいるのである。


 それが、


 「このちょこまかとしている様子が可愛いですよね…………」

 「こんなに小さいのに、一生懸命掃除をしたりしているのよ。可愛いわぁ…………」


 屋敷の女中達に囲まれ、嬉しそうにくねくねと踊っているのはサーシャ嬢が作製した木製人形のコルクである。

 コルクは毎日朝から晩まで、屋敷の中で掃除をしたり食材の運搬などを手伝ったりと、様々な雑用を女昼夜執事達と行っていたのである。

 というのも、サーシャ嬢とミレイ女史による研究の一環として、コルクがどの程度働けるのか調査をするために屋敷内の雑用を命じていたのである。

 最初は屋敷内をうろうろとしている木製人形に、驚きを隠せなかった使用人達であったのであるが、毎日その姿を見ているうちに慣れだし、今では女中達の愛玩動物のような役回りにもなっているようである。


 ちなみに、サーシャ嬢いわくコルクは真面目に仕事をしているが、たまに出来ないことまでしようとするから注意が必要だそうである。

 それを聞いて、我輩は主がサーシャ嬢であるから仕方がないと思ったのであるが、それを言ったら拗ねられる気がしたので言わなかったのである。


 と、いうことで集落に戻ってから初めて全員が揃った食事を我輩はおくるのである。


 こうして、皆の元気な姿を見れると何となくであるが安心した気分になり、食事もおいしくなる気がするである。


 我輩が小さい頃は、親兄弟と顔を合わせるとそういう気分になったものであるが、大人になってからというもの、ほとんどそういうことは無かったのである。

 きっと、我輩は自分で思っているよりも今一緒にいるものに気を許しているのであろう。 

 

 こういう毎日がこれからも続いていけば良いと思うのである。


 そう思いながら我輩は、未だ文句をぶつぶつ言っているダンに明日の試験役の狙いを付け、手元にある料理を口に運ぶのであった。





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