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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
11章 収穫祭と獣人女性の治療薬、である。
232/303

二年目の収穫祭である ー昼①ー


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。






 二年目の収穫祭、開催直後から問題が起こったためアリッサ嬢達はその解決のため早々に会場へと向かうことになり、我輩と祭を回ることになっていたサーシャ嬢やミレイ女史も、予定を変更することになったのである。

 そんな中、我輩とデルク坊は皆が食べ残していった食器類の片付けをして、会場へと向かっていったのである。

 そこで見た光景は、昨年よりも遥かに多い人の波だったのであった。


 「おっちゃん、ここって辺境の集落だよね。東方都市とかじゃないよね」

 「デルク坊よ、ここは紛れも無く辺境の集落である」


 収穫祭の主会場となる大広場を行き交うたくさんの民を見たデルク坊の感想を聞き、デルク坊はなかなか言い表現をするのであるなと感心するのである。

 そう、会場内は混雑しているものの、規模としては東方都市の料理大会よりも小規模であり、帝都の朝市程の混雑はしていないのである。

 とは言え、この小さな集落にそれだけの人が集まって状況だという事が、すでに異常な事のであるが。


 「騎士のおっちゃん達、30人くらいで大丈夫なのかなぁ。どう考えても足りないと思うんだけど」

 「まぁ、収穫祭の会場がこの広場と外のキャンプ、後はその間の通りだけであるので時折ダン達も協力すれば問題ないと思うのである」

 「そっかぁ。早く来るといいね。何があったんだろうね」

 「考えられるのは、ここに来る道中に往来する民達の間で何か揉め事が起こったためにその対処を行っていたか、獣達や野盗に襲われたか。といったところであろうか」

 「そっかぁ。早く騎士の人達来てくれるといいなぁ」


 デルク坊はデルク坊で、現在会場の見回りをしているドランやウォレスと共に収穫祭を回る予定であったようであり、残念そうな声を上げるのである。

 デルク坊には非常に申し訳ないのであるが、その三人が一緒に収穫祭を回ると狙いをつけられた場所の食べ物を食い荒らされかねないので、この状況になってよかったと思ってしまうのである。

 残念そうにしているデルク坊の気を逸らすために、我輩はデルク坊に質問をすることにするのである。

 せっかく一緒に回っているのであるならば、少しでも楽しく回った方がいいのである。


 「そういえばデルク坊」

 「なに?」

 「おすすめの料理などあるのであるか? 我輩は今回何の料理がでるのかいまいち把握していないのである」

 「そうなの? じゃあ、おれのおすすめを食べに行こうよ! おれさ、今日初めて店を出してるところ以外の全部の料理と村の皆が作った料理全部食ったから!」

 「それは頼もしいのである。案内をよろしく頼むのである」

 

 我輩の目論見はうまくいったらしく、デルク坊は目を輝かせて自分のおすすめについての説明をしながら案内を始めるのである。

 やはりデルク坊はデルク坊なのである。

 食べ物の事となると生き生きするのである。


 「なぁ、おっちゃん聞いてるか?」

 「聞いているのである。塩加減が森の民好みなのであるな」

 「そう! で、さっきの屋台さ、新しい料理を出してるみたいだから、後で食べに行こうよ」

 「わかったのである」


 オススメ料理の説明しながらも、しっかりと別の屋台の料理はチェックする。

 そんな器用なことをしながら行うデルク坊の説明を、我輩は感心しながら聞きながら少しずつ、オススメ料理を食べるのが楽しみになってきたのであった。


 デルク坊は、料理の評論をするのが上手なのである。






 「どうだったよおっちゃん! おっちゃんにはちょっと薄かったかもしれないけれど、美味しかったでしょ?」

 「そうであるな。デルク坊の言った通りである」


 デルク坊のオススメ料理を食べた我輩達は、別の料理を食べに行きたいというデルク坊の希望を叶えるべく移動をしているのである。

 向かい先は、先ほどデルク坊が新しい料理を出しているといっていた屋台である。

 その間も料理を出している屋台を指差しては、あそこの料理はここがおいしく、ここが少し残念だといった事をずっと話しているのである。


 デルク坊は基本的にまずいという言葉は発さないのである。

 言ったとしても、ここが少し惜しいかなぁとかといった感じであり、基本的には褒める形である。

 なので、聞いていると全て食べてみたくなるのである。


 仕事柄、問題点を見つけ、それを改善して行くことが多いので、ついつい改善点ばかり見てしまう事が多いのであるが、こういう物事の良い面を見つける姿勢は見習っていかねばならないと思うのである。

 サーシャ嬢が比較的そういう思考をしていて、ミレイ女史はうまくバランスを取っているように思えるのである。

 そう考えれば、今の三人で研究を行っているのはちょうど良いのであろう。


 そのようなことを思いながら目的の屋台の近くまで来た我輩達の目の前に、何やら困っている様子の若者がいるのである。

 周囲の屋台をキョロキョロ見回しているところを見ると、おそらく何を食べようかで迷っているのであろうか。

 とは言え、集落に着いたばかりなのか身なりも綺麗とは言いがたい格好であり、目を細めてせわしなく屋台を見回す姿はどうにも怪しいのである。


 アリッサ嬢から主催として行動するなと言われているのであるが、騎士やダン達集落の見回り役もいない状況では致し方ないと思った我輩は声をかけることにし、料理の説明に忙しそうなデルク坊に話しかけるのである。


 「話の途中で申し訳ないのであるがデルク坊、あの若者に声をかけてきてもよいであろうか」

 「え? あの怪しい兄ちゃん? おっちゃん、アリッサ姉ちゃんから余計なことをするなって言われてるじゃんか」

 「話だけ聞いて、後は近くの騎士か集落の見回り役に任せるのである」

 「それなら良いけど。なんか問題起こしたら、怒られるのおれなんだからね」

 

 我輩が問題を起こすのが確定のような物言いはやめてほしいのである。


 そう思いながらも一応許可は得たので、我輩は気を取り直して若者の方へと向かうのである。


 「どうしたのであるか?」

 「うわああ! びっくりした! なんですかあんた達!?」


 全く我輩の存在に気付いていなかったのか、真剣に吟味を重ねていたのであろう青年は、我輩に声をかけられ大声を出して驚くのである。


 「目を細めあちこちをキョロキョロと見回していて怪しいので、集落民として声をかけたのである。身なりも少々汚れているので周囲の者達も少々警戒しているのである」

 「え、あ、ああ。こりゃすいません」


 我輩にそう言われた青年は辺りを見渡し、自分がどう見られているのかに気付いて小さくなるのである。

 この反応からすると、まぁ、悪い人物ではなさそうである。


 「ずっと屋台ばかり見てたけど、何食べようか迷ってるの?」

 「そうなんだよね。やっとこっちに入ることができたから、地元の物を食べようと思ったんだけど列が凄くてさ。だから、軽く屋台のものを食べようと思ったら、どれも珍しいもので気になっちゃってさぁ」

 「で、あれば全部食べてみればよいのである。値段はそんなに高くないのである」

 「いやぁ…………恥ずかしながら、ここに来る途中で野犬の群れに襲われちゃってね。逃げてる間にお金落としちゃったんだよね。で、残りがこれだけなんだよ」


 そういうと、若者は服の裏から銀貨を一枚取り出すのである。

 どこから来たのかわからないのであるが、帰りの旅費等を考えるとここで贅沢はできないのである。


 「だから、失敗はできないからさ。どれにしようか真剣に考えていたら、あんた達に声をかけられたんだよ」

 「なるほどである。まぁ、気持ちはわかるのであるが程々にするのである。危うく騎士や自警団に通報されかねなかったのである」

 「あはは、すまないね」


 とりあえず特に害が無いことがわかったのでとりあえず一安心したのである。

 気持ちとしては頑張ってここまで来たこの不幸な若者に、少々金を渡したいところなのであるが、こういう方法で金を無心する詐欺を行う者や、その様子を見て金を恵んで貰おうとする浅ましい者もいるので、むやみに金品を渡さないようにと、リリー嬢からそれはきつく言われているのである。


 なので、少々心苦しいのであるが我輩はその場を後にしようと思ったのであるが、


 「なあ、兄ちゃん。どんなものが食べたいの? どれくらいの値段までなら出せそう?」


 デルク坊が若者に質問を始めたのである。


 「あぁ、そうだなぁ。できれば銅貨一枚程度で…………この付近でしか食べられない物が良いなぁ。せっかく来たし」

 「味はしょっぱいのが好き? 辛いのが良い? 甘いのが良い? 量は多め? 少なめ?」

 「腹は減ってるから、量は多い方がいいなぁ。味は…………辛めかな」


 若者の答えを聞くとデルク坊は少し考えた後、


 「銅貨一枚より少し高いけど、兄ちゃんにちょうど良さそうな料理を出してる店あるよ」


 と答えるのである。


 「え? 本当かい?」

 「うん。こっちじゃなくてキャンプの方だけど、大森林で採れた香辛料を使った料理を出してる店があるんだ。探検家の人達を相手にしている店だから、ちょっと騒がしいけど量は多いし値段も低いクラスの人でも出せるくらいだったよ」

 「外でも食べられるのかい?」

 「そうだよ。外もちゃんとした会場だから。ただ、向こうで使ってる食材は集落で出してるのよりも質が低めだから、雑味がちょっと多いのが残念かなぁ」

 「へぇ、まぁ、折角だから行ってみようかな。キャンプのどの辺りだい?」


 興味を引かれた若者の質問にデルク坊は丁寧に答え、それを聞いた若者は満足そうな表情を見せてキャンプへと向かって行くことにしたのである。


 「店に着いたらおれの紹介だって言ってみて! 多分、少しサービスしてくれると思うから!」

 「ははは、期待しないでおくよ」


 デルク坊の言葉を話半分と受け取り、笑顔でキャンプへと歩き出した若者を見送ると、我輩はデルク坊に話しかけるのである。


 「凄いであるな。キャンプの方の屋台まで回ったのであるか」

 「ドラン兄ちゃんやウォレスのおっちゃんが見回りに行くときに着いてったんだよ。店のおっちゃん達や、そこの探検家の兄ちゃん達とも仲良くなったんだ!」


 ドランはともかくとして、ウォレスはダンやアリッサ嬢同様、探検家達では伝説的な存在である。

 そんな男と一緒についているデルク坊をひどく扱うことはなかなかできないのである。

 先ほどの若者ではないのであるが、話半分程度に聞いておくのが妥当だと我輩は判断するのである。


 「料理や店の説明をしていたデルク坊はとてもイキイキとしていたのであるな」

 「だって、楽しいこととか美味しい事って皆に伝えたいじゃん!」


 元気に答えるデルク坊の意外な面が見れた我輩は、収穫祭を一緒に回ってみて良かったのであると思うのである。

 人の、普段と違う良い面が見れるというのは楽しいものである。


 「では、行くのである」

 「だね!」

 「あの…………」


 そうして再び目的の屋台へと歩き出そうとした我輩とデルク坊の前に、女性が一人やってくるのである。


 「なんであろうか」

 「いえ、そちら様ではなく…………」


 何事かと女性に話し掛けるのであるが、女性の目線は我輩ではなくデルク坊へ向けられているのである。


 「おれ?」

 「はい。あの、家族で収穫祭にやって来たのですが、どこの料理も美味しそうでこまってしまって…………」


 そう言われた我輩は彼女の後ろを見ると、小さい子供を抱いた夫と思われる男性と親と思われる男性の老人が、娘と思われる子供の手をしっかりと掴んでいるが見えるのである。

 

 「あの…………家族五人が銀貨1枚以内で食べられる、ここならではの料理を出しているお店はございませんか?」

 「うーん……味の好みは皆一緒なの?」

 「夫と義父は塩気の強いものが好みなのですが、私と娘は反対で…………」

 「そっかぁ。それはお店選び大変だねぇ。ちょっと待ってね…………」


 そうして、再びデルク坊はちょうど良さそうな店を記憶の中から選んでいきくことになり、その様子を見た店選びに困っている者達からデルク坊は次々に相談を受けることになり、我輩はなぜかデルク坊を求める者達の列をまとめる役をやることになったのであった。





 やはり我輩が面倒を起こしているのではなく、ただ巻き込まれているだけなのである。





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