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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
10章 辺境の変化と霊木の管理集落、である
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アリッサ嬢邸に到着したのである


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。






 収穫祭の時期が近づいたため、霊木の管理集落から辺境の集落へと急いで戻る我輩達であったが、妖精パットンの自分勝手な同行による罰則やダンの素材運び入れの遅れの結果、到着時期が少々遅くなることになってしまい、先行した妖精パットンから話を聞いて集落の受付最後尾で我輩達を待っていたサーシャ嬢に怒られることになってしまったのである。


 そんな我輩達であるが、今は集落に入るための受付も無事に通過してアリッサ邸へと向かっているところである。


 「いやぁ、運がよかったな」

 「そうであるな。今日の受付を諦めた者達がいなかったら野宿であったな」


 荷車を牽きながらそう漏らすダンの言葉に、我輩は素直に同意するのである。

 本来であるならば受付の終了時間までに間に合う感じではなかったのであるが、この時間を狙って集落の外で食事を寝具などを提供する商売を行う者達がキャンプを作っていたことで、列から外れてそちらへと向かっていく旅人や探検家達がいたからである。


 南部地方の上流の村でもあったのであるが、一時的な人の急激な流入によって集落での受け入れが十分にできないときに、それを狙って商売を行う商人がいるのは助かるのである。

 まぁ、こういう場所は集落と違い無法地帯になりやすいのが問題らしいのであるが、その場にDクラスの探検家数名いると比較的秩序が保たれるようである。

 我輩の周りにいる者全員がCクラス以上の探検家なので忘れることも多いのであるが、一般的にDクラスの探検家と言えばかなりの実力と信頼を持った探検家なのである。

 そういう点で言えば、特Aクラスの探検家が拠点にしている集落のすぐ外のキャンプで問題を起こすのは、非常にまずいということは容易に想像できることなのである。


 「私は、おじさん達といれば別にお外でも良かったよ?」


 そんな我輩達の言葉に、間に立って我輩の手とダンの服を掴んでいるサーシャ嬢は楽しそうな表情を浮かべるのである。

 一月弱ぶりに顔を合わせた時は遅くなったことにとても怒っていて、ずっと機嫌も悪かった彼女であるが、ダンと二人で宥めつづけた結果なのか今では機嫌も直り、普段通りの笑顔を浮かべているのである。


 やはりサーシャ嬢は笑顔が一番である。


 「まぁそれでも良かったけど、そうすると明日着いた時にアリッサ達に小言を言われるだろ?」

 「多分、今日着いても明日着いても言われるんじゃないかなぁ」

 「…………だよなぁ」


 やはりサーシャ嬢のみならず、他の者達も我輩達に思うことはたくさんあるようである。

 一応覚悟はしていたのであるが、実際に口にされてしまうとアリッサ嬢の家に戻るのが億劫になってきてしまうのである。


 「おじさん達、歩くの遅くなってない? 大丈夫? 疲れちゃったの?」

 「ある意味では疲れたっていうかなんていうか」

 「致し方ない部分があるのである」

 「ふぅん。みんなすごく心配してるから早く帰ろうよ! おじさん達が帰ってくるのをすごく待ってるんだから!」


 サーシャ嬢からすると、突然歩みが遅くなった我輩達を元気づけるために言ったであろう、サーシャ嬢のその言葉が逆に我輩達を地味に追い込むのである。

 そんなつもりはないのであるのであろうが、責め立てられているような気がするのである。


 サーシャ嬢、申し訳ないのである。


 「嬢ちゃん、どんどん追い込んでくるな…………」

 「ダンよ、穿った捉え方をするのは良くないのである」

 「センセイよ、絶対俺と同じ捉え方してるだろうが」

 「そんなことは…………ないのである」

 「おじさん達! 早く行こうよ!」


 より足取りも気持ちも重くなった我輩達を、サーシャ嬢は急かすようにぐいぐいと引っ張っていくのであった。






 「着いちまったなぁ」

 「そうであるな」


 目の前にある集落の中でも一際大きな建物の扉を前にして、我輩達はそうつぶやくのである。


 「おじさん? 中に入ろ?」

 「…………気にしすぎだな」

 「そうであるな。悪く考えすぎなのである」


 サーシャ嬢がどこか不安そうにしている表情を見て我輩とダンは、安心させるために一歩を踏み出すのである。

 そもそも、多少の予定のズレなどは今までもよくあったのである。

 収穫祭に間に合わなかったならまだしも、ちゃんと前に着いているのであるから怒られる筋合いなどはないのである。


 そう思って扉を開けた我輩達を待っていたのは、黒と白の女中服を身に纏った見知らぬ女性だったのである。


 「サーシャさま、おかえりなさいませ」

 「おねえさんたち、ただいま帰りました! こちらは、アーノルドおじさんとダンおじちゃんです! 大森林からさっき帰ってきたんだよ」

 「アーノルド様、ダン様、お帰りなさいませ」


 恭しくサーシャ嬢に頭を下げる女性に、サーシャ嬢はそう言って我輩とダンを紹介すると、その女性はこちらを向いて恭しく頭を下げてくるのである。


 「お、おう。ただいま」

 「ただいま帰ったのである」

 「お部屋にご案内いたします」


 未だ状況が掴めていない我輩達は、そういって案内を始める女中の後を言われるまま着いていくのである。


 そうして着いていく中で分かったことは、彼女のみならず屋敷の中に女中がそれなりの数が存在しているということである。

 そして、また所作や仕事ぶりが慣れていることから、彼女たちは専門的な教育を受けている者達であるという事が窺い知れたのである。


 これはおそらく、上級貴族の来訪が決まったために、集落長が彼女たちを東方都市などから臨時で手配したということなのであろう。

 昨年の領主は急遽の事であり、また本人たちもそういうことを気にしない者達であったため良かったのであるが、一般的な貴族にとってはありえないことである。

 一応ほとんどの貴族はアリッサ嬢やダンよりも爵位は下になるので誰も文句は言えないのであるが、おそらく気を回してくれたということなのであろう。


 まぁ、全ては想像なので実際に聞いてみないとどうなのかは全くわからないのでこれ以上このことを考えるのはやめるのである。


 そのようなことを思っていると食堂の前に到着し、女中は歩みを止めるのである。

 中はちょうど食事を取っているようで、ドランやデルク坊の声が聞こえてくるのである。


 ほんの一月弱であるが、なにか、懐かしい感じを覚えるのである。

 そう思い、中へと入ろうとするのであるが、女中に止められてしまうのである。


 「どうしたのであるか」

 「申し訳ございません、中にお通しできるのはサーシャ様だけでございます」


 女中はそう言って頭を下げるのである。

 

 「おじさん達は入れないの?」


 不安そうな表情を浮かべるサーシャ嬢に、女中は首を横に振るのである。


 「いいえ、アリッサ様から先に別室に通すように言われております。用件が済み次第お二方も食事にまいりますので、お先にお召し上がりくださいませ。本日はアリッサ様がいつも以上に腕によりをかけた料理をお作りしておられるそうです」

 「え? 本当? じゃあ、先に待ってるね!」


 女中が言葉を聞いたサーシャ嬢は、そう言って我輩達に手を振ると食堂へと入っていくのである。

 ちらりと中が見えたのであるが、全員とても美味しそうに食事を取っている姿が見えたのである。

 ふわりと中からこちらへと漂ってきた料理の香りが、まだ夕飯を取っていない我輩の腹を刺激するのである。


 「腕によりをかけたってよ。楽しみだな」

 「そうであるな」


 女中の言葉、そして食堂の光景や漂ってきた料理の香りから先程の悪い考えがまるで悪い夢であったか嘘のであったかのように払拭され、気分は高揚してくるのである。

 現金であるが、やはり美味しい食事というのは生きる源なのである。


 「こちらの部屋でございます」


 そう思っていると、女中が一室の前で止まるのである。

 この部屋は来客用の応接間である。

 と、いうことは貴族か誰かここを尋ねてきた客がいるので、食事の前に引き合わせようということなのであろうか。


 「中で皆様お待ちでございます」

 「皆様って事は一人じゃないっていう事か」

 「はい。少々お待ちください」


 そう言うと女中はドアをノックすると、ドアを開けて別の女中が現れるのである。

 本格的に貴族の家である。


 「アーノルド様、ダン様をお連れいたしました」

 「わかりました、中にお通しいたします。お勤めお疲れ様です」

 「ありがとうございます。それでは」


 そう言うと、先程まで案内をしていた女中がこの場を離れていくのである。


 「どうぞお入りください」


 中の女中が開けたドアから部屋の中に入ると、そこには、


 「遅かったじゃないか、心配したんだよ」

 「久しぶりだな。センセイ、リーダー」

 「センセイ、思いつきでの遠征は控えてくださいね。皆が心配するのですから」


 アリッサ嬢、ウォレス、ゴードンが、


 そして、


 「少し前に、パットンからあなたたちが帰ってくるって聞いてお菓子を作ったの。結構良い出来だから是非食べてね」


 我輩達の前で菓子を並べるリリー嬢がいたのであった。






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