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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
10章 辺境の変化と霊木の管理集落、である
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目的を果たしたので戻ることにするのである


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。






 霊木群生地の管理集落で過去を知る最長齢の森の民と会うことができた我輩は、ここへ来た目的の全てを果たすことができたのである。

 そして、辺境の集落で行われる収穫祭が近づいてきたので、この集落を後にすることにしたのである。


 「今までありがとうな。あんた達が持ってきていた道具や妖精の魔法のおかげで近辺の見回りがとても楽だったぜ」

 「おかげでこれからの見回りが憂鬱だな」

 「そうだな。楽な状況に慣れちまうとなかなか元に戻るのは難しいな」


 自警団の若者達が口々に我輩達への別れを挨拶とも、恨み言とも聞こえる言葉を発するのである。

 その表情は一様に笑顔を浮かべているので、おそらくは嫌な意味合いは含めていなく残念だということを言っているのであろう。

 だが、彼らの言っていることもわかるので、少々やり過ぎてしまったのかと申し訳ない気持ちになるのである。


 「何を言っているか。それは、お前達が彼らに甘えていただけの話だろう」

 「そう言う団長だって、いくつか道具を作ってもらえるように頼んでみようか、とか言っていたじゃないですか」

 「便利な物はないよりもあった方が良いに決まっているだろう。ただ、それに頼りきってしまうのは良くないと言っているんだ」

 (こういう人たちのために錬金術を広めれば、錬金術の道具があるのが当然の世界になって錬金術師が感謝されない世の中になって、だからといって広めなければ、どんどん需要が増えて道具が手に入らない側から不満が出てきて錬金術師が恨まれる。どっちにしても大変だね)

 (極論を言ってしまえばそういうことになるのであるな。で、あるがそれはすぐに起きるものでもないのである。我輩は、錬金術師は特別感謝されなくてもよいと思っているのである。ただ、軽く見られるのもおもしろくはないのである)

 (まぁ、やり過ぎは良くないっていうことだね)

 (そういうことなのであろうな)


 目の前で自警団長が若者達に謙虚と感謝について説教をしているのを聞きながら、我輩と妖精パットンは念話の魔法で会話をするのである。

 そう、1200年前の出来事は異なる考えや能力を持つ人種が存在しているた当時の帝国ではいずれおきた問題だったのである。

 ただ、人間側が自己の研鑽を怠るようになり無意識に亜人種の能力や技術に甘えるようになり、亜人種側もそれを無条件に受け入れてしまっていたその状況が長年続き、互いに感謝や謙虚さを失ってしまった結果、関係の悪化が加速度的に進んでしまったのである。

 そしてそれはきっと、東方都市を急激に発展させていったアルケミー伯爵やノヴァ殿も犯してしまった過ちであったのであろう。


 もしかしたら我輩も同じ轍を踏みつつあるのかもしれないのであるが、我輩はまだ生きているのである。

 過去の出来事を鑑みて少しでも修正できるところは修正していくのが、これから我輩が行わねばならない事なのかもしれないのである。

 いままでのように人の要望を叶えていくだけではなく、もう少し深く先を見据えて行動をしていかねばと我輩はそう心に留めるのである。


 そう心に決意を刻んでいると、何やらダンが怪訝な表情を浮かべてこちらを見ているのである。


 「何だセンセイ、難しい顔をしてよ」

 「いや、我輩はこれから今を生きる民の事だけではなく、もっと先を見据えて行動をしていかねばならないと思っていたところである」

 「…………へぇ、まぁ、がんばれ」


 ダンの質問に我輩はそう答えたのであるが、ダンは何とも言えない表情を浮かべて聞き流すような返事を返すのである。


 「少々気に入らないのである。何か言いたいことでもあるのであるか」

 「まぁ、あるはある」

 「なんであるか、その含みのあるような言い方は。はっきり言うのである」

 「あ? センセイがさも今気づきました、みたいに言ってるそのありがたい言葉は、研究所にいる時好き勝手に研究したり実験したりしてるセンセイに対して俺達や陛下が口を酸っぱくして言ってきた言葉だぞ」

 「そうであったか?」


 そんな記憶は特にないのである。


 「最近だって思いつきでここに来ることになったから、その準備でセンセイ以外の全員が慌ただしく動き回ることになったから、ミレイにそう注意されたばかりじゃねぇかよ」

 「そうであったであろうか?」


 さすがにダンもこういう諌言の際は嘘はつかないので本当のことを言っているはずなのである。

 で、あるが我輩は全く覚えていないのは摩訶不思議である。


 そんな不思議なこともあるものだと思っていると、ダンと妖精パットンは我輩を見てため息をつくのである。

 

 「錬金術師アーノルドは言われたことを心に留めておくとかする前に、書き記すということをした方がいいね」

 「リリーが去年書いた手紙がまだ残ってるだろ? 毎日朝起きたらそれを読んでから一日を始めろよ」

 「それでは、我輩がまるで記憶力のない子供みたいなのである」

 「その通りじゃねぇか」


 当然と言わんばかりのダンと妖精パットンの表情を見て、我輩は二人にこれ以上会話での相互理解は不可能であることを感じるのである。

 人が真面目に物事を考えているというのに、これではやる気を無くしかねないのである。

 そういうところは改善してもらいたいところなのである。


 「今度来る際はお仲間を連れてお越しください。ただ、今回のように川を遡る方法はやめていただきたいものですな」

 「ああ、俺はそのつもりなんだけれどな。このオッサン次第だな」

 「まるで、我輩のせいのような物言いである」

 「実際そうだろうが。普通に行けば森の民でも半年近くかかるような道のりを短縮できる方法があるからって強引に予定を組んだのはセンセイだろうが」


 冷ややかな表情を浮かべ、ダンは我輩にそう言い放つのである。

 そんな厭味なことを言うほど今回の行動が嫌であったのであるならば、我輩は強引で言うことを聞かないと早々に諦めるということをせずに、もっとしっかり否定すればよかったのである。

 自分が我輩を諌めることをできなかったからと言って、八つ当たりのような事を人前で行うのは人としてどうかと思うのである。


 (それを言うなら、キミももっとダンやアリッサの言葉に耳を傾けるべきだとボクは思うよ。人に何かを求めるならば、自分から動かないとだと思うよ)

 (妖精パットン、人の考えを読むのはどうかと思うのである)

 (仕方ないじゃないか。頭の上に乗ってて伝わっちゃったんだから)


 我輩の思考が伝わってしまった妖精パットンからそう念話が届くのであるが、我輩は今でも十分にダン達の言葉に耳を傾けていると感じているのでこれ以上の譲歩は現時点では難しいのである。


 「…………ダンやアリッサは苦労するなぁ。まぁ、そのおかげで今回ボクはここに来れたわけなんだけれどね」


 我輩の頭から飛び立った妖精パットンは、苦笑いを浮かべながらそう言うと老婦人の方へと飛んでいくのである。

 どうやら、先程の思考も伝わってしまったようである。


 「それじゃあ、そろそろ行こうか」


 その後もしばらく、集落の者達と出発前の会話をしていた我輩達であったが、ダンのその言葉を聞き多少の名残惜しさを感じつつも全員荷車に乗り込んでいくのである。

 荷車には霊木や霊草をはじめ、このあたりで採れる珍しい食材や素材なども積み上がっているのである。霊木などはよしとして、中には足の早い食材や素材もあるらしいので、大急ぎで工房に帰り倉庫や食料庫へと保管したいところである。

 今回のような交通手段が使えないのであるならば、携帯用の品質保管容器を作る必要も出てくるのであると考えた我輩は、今後の研究課題として先程妖精パットンに言われたように紙にそれを印すことにするのである。

 我輩はダンや妖精パットンが思うような自信の考えに固執するような人間ではなく、きちんと人の話を受け入れることができるのである。


 「あらあら、錬金術師様は本当に錬金術に関することだけはきちんとしていらっしゃるんですね」


 で、あるが、我輩の様子を見ていた老婦人にまで何故かそのような誤解を我輩は受けることになってしまったのである。

 それもこれもきっとダンや妖精パットンが穿った物言いをしているせいである。


 そう思った我輩は、集落の者達が見送る中出発した荷車の上で、ダンや妖精パットンに何の道具の研究の試験に付き合わせようか考えることにするのであった。





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