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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
10章 辺境の変化と霊木の管理集落、である
223/303

人間も亜人種も変わらないということである


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。





 霊木の管理集落で罰則や周辺の見回りなどをこなしながら、霊木や霊草などの錬金術の素材の採集や調査を行う日々を過ごし半月ほど、ようやく1200年前に森の民を率いていた長老の孫である現長老と会うことができたのである。

 そこで我輩が目にしたのは、全く予想もしていなかった若い青年の森の民の姿だったのであった。


 「ようこそ、人間の皆様。人間を見るのは、本当に懐かしいよ」


 そう言って笑顔を見せる長老であるのであるが、我輩もダンも予想外過ぎる光景に言葉を失っているのである。


 「ちょ……長老様? そのお姿は…………?」

 「え? 長老様?」


 それは老婦人や娘殿、そして世話役の女性も同様らしく全員がこれ以上ない表情を浮かべて長老を見ているのである。

 なかでも世話役の女性は余りの衝撃で腰を抜かしてしまったようである。

 まぁ、普段世話をしている長老が、我輩達が入った瞬間に見た目が変わってしまったというのであるならば、そうなってしまうのもわからないでもないのである。


 「だからやめておいた方がいいって言ったじゃないか。またボクの印象が悪くなるよ」

 「あははは。折角だから、当時の私の姿も見てもらいたいと思ったんだよ。ありがとうね妖精君。今日初めてその姿を見たけれど、君はなかなか愛らしいね」

 「取ってつけたように褒められてもあまり嬉しくないね」

 「あははは、ごめんね」


 驚いている我輩達をよそに、楽しそうな表情を浮かべる長老とやや不機嫌そうな表情を見せる妖精パットンが会話をしているのである。

 会話の雰囲気からすると会うのは我輩達同様初めてのようであるが、どうやら以前から会話はしていた様子である。


 「ひょっとして妖精パットンと長老は、念話の魔法か何かですでに会話をしていたのであるか?」

 「そういうことだよ。集落長から妖精君の話は聞いていたからね。私が面会できる状況になったら、昔の姿に認識できるように魔法をかけてほしいってお願いしたんだよ」

 「この事を黙っててくれたら、ボク達の罰則や制限を緩めるように集落長に伝えておくって言われちゃったから、君達には何も言えなかったんだよ」


 我輩の問いに長老は笑顔で頷き、妖精パットンがそれを補足するように言葉を重ねるのである。

 どおりでここ数日、集落長から罰則である薪作りのノルマが減ったり見回り時の自由時間などが増えたりしたのである。

 我輩はそれを、集落の者達と信頼を築けていた結果だと思っていたので、少々複雑な心境になるのである。


 「ほら。錬金術師アーノルドが集落の皆と仲良くなれたと思ったら、実はキミの命令で優しくなったんだとか思っちゃって拗ねちゃったじゃないか」

 「妖精パットン、我輩は拗ねていないのである」

 「いや、その表情は拗ねているときの表情だな」


 長老は、そんな我輩達のやり取りを見て楽しそうな表情を浮かべるのである。


 「あははは、ごめんごめん。確かに制限を緩めるようには頼んだけれど、私が言わなくても集落長もそのつもりだったから、君が思うような信用をされてないわけじゃないから安心していいよ」

 「あれ? じゃあ、別にボクが黙っていなくても問題なかったじゃないか」

 「ははは。そうなるね」

 「なんか悔しいなぁ」


 最長齢の森の民ということで多少の緊張と畏敬を持って臨んだ長老との面会であったが、その姿や話し方もあって、やや拍子の抜けた感じになってしまったのである。


 「こんな初対面ですまないね。集落長との話で、君が僕たちに必要以上の敬意を抱いているみたいだから、気楽に構えてほしかったんだよ。私としても千年以上ぶりに人間と会話をするのだから、できれば楽しく、気楽でいたいと思ってね」


 どうやら長老は集落長から我輩の人となりを聞いて、気を回してくれていたようである。


 「さて、と」


 長老は一呼吸を置くと、我輩達に話しかけるのである。

 その表情は先程と同じく笑顔を浮かべているのであるが、やや雰囲気が真面目なものへと変わっているのである。

 どうやらこれからが本題のようである。


 「君達が私に聞きたいことはおそらく二つかな? 過去の事、そして私が亜人種に君が使用している錬金術という魔法技術の普及を行うことに慎重な理由」

 「そうであるな」


 長老の質問に対し我輩は頷くのである。

 一応集落長にも後日尋ねてみたのであるが、集落長も長老が普及に慎重な理由は知らされていなかったのである。

 ただ、集落長はその理由の想像は付いていたようだったのであるが、結局我輩達どころか娘殿や老婦人にも話すことはなかったのである。

 と、言うことで本人の口からその説明を受けるべく長老の次の言葉を我輩は待つことにしたのである。


 「そうだね。君は、過去のことや私達と皇帝陛下にあったことをある程度は知っているのだよね?」

 「そうであるな。人間至上主義者達から亜人種を守るために、陛下が追放という名目で亜人種を各地へと逃がしたという事は老婦人などから聞いているのである」


 長老は、森の民から聞いた我輩の答えを聞くと頷くのである。


 「そうだね。ただ、それは完全には正しくないんだ。それは、私達の世代が子供の世代に少々歪曲した情報を伝えたものなんだよ」

 「どういうことであるか?」


 我輩同様に怪訝な表情を浮かべる老婦人や娘殿を長老は見回すと、口を開くのである。


 「君達は帝国付近にいる亜人種が基本的に、人間に好意的であることに違和感を感じたことはないのかい?」

 「そう言われてみればそうだな。未知のものに出くわした距離感とか警戒心を感じることはあっても敵意とかそういうものは感じたことはないな」

 「それは人間よりも亜人種の方が精神的に成熟しているからであろう」


 我輩の答えに、長老はゆっくりと首を振るのである。


 「君は私達を買い被り過ぎなんだよ。私達も君達もそれほど大きな差なんてないんだよ。今まで君達はたくさんの亜人種にあってきたと思うけれど、彼が言うほどに君は精神的な違いを感じたことがあるのかい?」

 「…………いや、センセイからそう言われてたから最初はそんな風に思っていたこともあったけど、付き合っていくうちに俺達と大して変わんねぇな、と」


 長老から質問されたダンの答えは、我輩も同意できるものであったのである。

 サーシャ嬢と初めて出会ってから二年弱、様々な亜人種と出会い交流を深めてきたのであるが、その全員が我輩達と掛け離れた精神的な成熟具合かといえばそんなことはなく、それこそダンや長老が言った通り大きな差など感じなかったのである。

 そう思うと自分が先程長老に向けた精神的に成熟していると答えは、我輩の考えというわけではなくそう思い込んでいただけ、ということになるのである。


 「君達の中から反亜人思想…………つまり人間至上主義者という者が現れた理由はなんだと思っているんだい?」

 「人間よりも優れた各亜人種の能力に帝国を奪われると思った一部の人間達の被害妄想や、貴重な技術を貰えるだけ貰った挙げ句に感謝を忘れた一部の連中の傲慢さが組合わさった結果と我輩はこちらに残されている文献や老婦人達から聞いた話から結論付けしているのである」

 「なるほど。では、なんでそのような変化がこちらでは起こらなかったのかと思うんだい? 人間達の深い感謝によって謙虚な気持ちを失った一部の者達や、人間が自分たちの技術を吸収するに連れて自分たちの優位性を失うことを危惧した者達によって、人間を制御しようと考えるものが現れるのも当然だと思わないかい?」


 長老の言葉に我輩は強い衝撃を受けると同時に、どこか腑に落ちる感情を抱くのである。

 で、あるがその可能性は今まで考えていなかった、否、考えたくなかったからである。

 しかし、先程の事で人間も亜人種も精神性は大して変わらないと考えた場合、それは有り得ることであるのである。


 「まぁ、とは言ってもどっちの思想の方が早く現れたか、といったらわからないけれどね。どちらももともと心の底で思うだけのものだったのが表に出てしまっただけなのだろうしね」

 「だったら、このあたりにいる亜人種が人間に好意的な連中ばかりっていうのはおかしくないか? むしろ敵意を持っている奴がいてもおかしくないんだが」

 「それは私達が各地方へと散った後に反人間思想と親人間思想の者達の間で行われた、100年近くにわたる争いの結果さ。その結果少数の反人間思想を持った亜人種はさらに奥の方へと追いやられ、私達は魔物や魔獣同様に彼らがこちらへと侵入しないように見張ることになったわけさ」


 そのあと、この歴史を隠すように情報の隠蔽などが行われ、その教育を受けた老婦人などが育っていったというわけらしいのである。


 「そんなことが…………」


 老婦人と娘殿は驚きを隠せない表情を浮かべているのである。

 それはそうであろう、今まで教えられてきた事が嘘とはまでは行かなくとも少なからず真実を限定されたものであったのである。

 何も感じないという方がおかしいのである。

 そちらの説明やフォローなどは後日やってもらう事にして、我輩は我輩の聞きたいことを聞くのである。


 「つまり、それが錬金術普及に慎重になっている理由でもあるのであるか」

 「そうだね。いま、君が我々から尊敬され感謝されているのは、君が人間だからというだけではなく、君が我々が持っていない特別な技術を持っているからだ。それはつまり今後我々と人間が対等な立場で交流する際の材料になるものだ。互いに感謝され尊敬される関係でなければ長続きしないと思うんだ」

 「それはそうであるが」

 「1200年前の事は、北の大地から逃がしてくれた君達への感謝の気持ちで、我々が提供できるものを無償で提供しつづけた結果の出来事だと結果付けている。だから、ある程度の距離を保っていくのがお互いにとって良いと思うんだ」

 「それも一長一短だけれどな」


 ダンの言葉に長老は苦笑いを浮かべるのである。

 当時の者達が懸命に考えた答えを一言で返されてしまったからなのであろう。


 「その通りだね。どちらが正しいかなんて事はないのだろう。ただ、過去はそういう失敗を行った。だから、君には同じような道を進んでほしくないと思ったからその技術は人間側で保有しておいた方が良いと言いたかっただけだよ。それを聞いて、どうするかを決めるのは君次第さ」


 長老の言葉に、我輩は大きく頷くのである。

 確かに錬金術の普及に関して安易に考えすぎていたところはあるのである。

 過去のことも踏まえ、我輩はもう少し考えてみようと思うのである。


 「さて、と」


 長老はそういうと、先程とは違って最初にあったときのような緩い雰囲気を醸し出すのである。


 「私が休むまでにもう少し時間がありそうだ。それまでの間、君達が知る人間の世界のことを教えてくれるかい?」

 「良いのである。ついでに、長老の知る当時の人間の世界のことを教えてもらいたいのである」

 「あはは、いいね。何がどう変わっているのか比べてみようか」


 こうして、我輩達は長老が休むまでのしばらくの間過去のこと、現在のことを楽しく語り合うのであった。






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