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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
10章 辺境の変化と霊木の管理集落、である
222/303

管理集落での日々である


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。






 集落長との面会で、霊木群生地の立ち入りと素材の採取許可をもらった我輩達であったが、過去の出来事を知る長老から亜人種に対しての錬金術普及に関しては極力控えるようにと言われてしまったのである。

 その理由を知りたい我輩は、長老が起きていられる昼までの間に割り振られた刑罰を終えなくてはいけないという非常に大変な状況へと追い込まれることになったのである。


 「ごめんなさいね。今日は調子があまり良くないみたいで、長老様はもうお休みになられてしまったのです」

 「そうであるか……また、明日訪問させていただくのである」


 申し訳なさそうにしている世話役の中年女性にそう声をかけ、我輩は長老の家を後にするのである。


 「今日はいけると思ったんだけどな」

 「一週間近くもやっていればさすがに慣れるわね」

 「とはいえ、今の状況で会えたとしても会話ができる時間も多く取れるとは思えないし、早く長老殿にお会いできるようにするために、とりあえず今よりも早く終わらせられるようにさらに励まねばいけないのである」

 「あははは。朝は薪を作って昼からは見回りや食材確保の為に歩き回って、錬金術師アーノルドもすっかり肉体労働者だね」

 「何を言っているのであるか妖精パットン。我輩は研究者としての本分は忘れてはいないのである」


 確かに長老にはまだ面会できてはいないのであるが、この後は自警団の者達と霊木の群生地を含む周辺の見回りや冬にむけての食材確保に同行しているので、その合間に採取した素材を使って錬金術の研究を寝るまでの間行っているのである。

 普段よりは時間が限られている上に、構成魔力の調査を行う上で構成魔力を感知できるサーシャ嬢がいないことで効率が悪くなってしまっているものの、少しずつではあるが素材の調査は進んでいるのである。


 そこで、老婦人に調査を手伝ってもらえればと考えたのであるが、


 「ごめんなさいね。私もその時間に集落の友人との交流や、やっておきたい用件とかがあるから手伝うことはできないわ」


 と断られてしまったのである。


 「錬金術の研究のためなら誰でも使おうとするところは変わらねえな」

 「清々するほどの厚かましさだね、錬金術師アーノルド」

 「何を言っているのであるか、我輩は強制などはしていないのである。ただ、手伝ってもらえないか聞いてみただけである。別に悪いことではないのである」

 「心の底からそう思えているっていうことが厚かましいっていうことなんだけれどね」

 「パットン、このオッサンにはそういう理屈は通用しないんだよ」

 「失礼であるな」


 と、いうやり取りもあったりもしたのであるが、我輩は錬金術師としての本分は忘れることなく研究に励んでいるのである。

 とはいうものの、先程妖精パットンが我輩をからかうつもりで言った一言に、自分でも納得してしまう部分があったのも事実であるが。


 「それで、どうだセンセイ」

 「なにがであるか?」


 妖精パットンの言葉に納得してしまう部分も感じてしまった自分に複雑な感情を抱いていると、ダンが唐突に何かを尋ねてくるのである。


 「いや、猛禽の女。治せそうか?」

 「ああ、そうであるな。このあたりの素材は構成魔力が独特であるな。なんというか、最初から圧縮されている状態というか」

 「じゃあ、副作用もその分きつくなるのか? それだったらわざわざこっちまで素材を取りに行く必要はないよな」

 「それなのであるが、どうやら副作用的なものは従来の物と同等か、それよりも低いくらいである。やはりこのあたりの素材は特別な素材という事なのであろう」


 所謂上位互換の素材というのは入手が困難の変わりにこういう利点があるということなのであろう。


 「それで、結局治せるのか?」

 「今までよりも回復させることができる確率は上がった。としか言えないであるな」

 「確実に治せるなんて事はないのか」

 「物事には絶対という事はありえないのである。そんな都合のよい物があるとしたら伝説や神話などに上がるような素材を使用しなければならないであろうな」

 「まぁ、そうだよな。副作用や障害無く治せる確率が上がったっていうだけでも万々歳ってところか」


 我輩の言葉を聞き、ダンはやれやれといった表情を浮かべるのである。

 いくら錬金術を含む魔法技術が向上したとしても、扱う者が絶対的な存在ではない我々である限り、物事には絶対という事はないのである。

 せいぜい言えて限りなく絶対に近い、である。

 その限りなく絶対に近づくために、人間は研鑽に励み、また魔の冠を抱く道を選んだりするのである。

 それはきっと、人間だけではなく亜人種を含むすべての生命に言えることなのかもしれないのである。

 この世に生きるものはそれこそ絶対に、神の領域には到達することはできないのである。


 「なんか、難しい顔をしているね。まるで学者みたいだよ、錬金術師アーノルド」

 「みたい、ではなく学者なのである」

 「厳密にいえば研究者だろ?」

 「我輩は学者の一族の錬金術師であるから両方なのである」

 「へいへい」


 ちなみに、我輩達の会話に老婦人や娘殿が一切関わっていないのであるが、彼女たちは我輩達の監視という名目で、後ろで楽しそうに話ながらついて来ているのである。


 楽しそうで何よりである。


 こうして我輩達は自警団の者達が待っている詰め所に向かうまでの間このような会話をして過ごすのであった。





 「どうぞお入りください」


 世話役の女性から聞きたかった言葉をようやく出してもらう事に成功した我輩は、ほっと一息着くのである。


 「ようやく間に合ったな」

 「アーノルドさん、お疲れ様でした」

 「滞在期限もそろそろ迫ってきていたので間に合ってよかったのである」


 ダンや老婦人達も安心したように我輩に声をかけてくるのである。


 この集落に滞在して半月ほどが経過しており、薪の作成や森の散策や見回りの仕方などもだいぶ慣れてきたのである。

 最初は距離を置かれていた集落の者達ともそれなりの関係を築けたと思われるし、素材の収集や調査なども順調に進んでいるので、長老に会うこと以外では充実した日々を送れていたといってもよいのである。


 「こちらの部屋になります」


 これまでの日々を思い返し多少の感慨に浸っていると、世話役の女性が一室の前で止まるのである。

 この部屋の先に、1200年前のことを知る最年長の森の民がいるのである。


 「少々お待ちを」


 そう言うと、女性は部屋の中へと入って行くのである。

 部屋に入れる前に最後の確認をするのであろう。


 「ここまで来て寝ちまったなんて事はないよな」

 「それはそれで…………」

 「大丈夫だと思うよ。この部屋の先にある意思の魔力はここ数日の中でも一番はっきりしているから」


 我輩の声を遮って、妖精パットンがダンの言葉に返答を返すのである。

 【意思】の構成魔力を感知できる妖精パットンがそういうのであればそうなのであろう。


 「お待たせしました。どうぞ」


 その言葉が正しかったのを示すように、女性がドアを空け我輩達を中へと促すのである。


 そうして中に入った我輩達を迎えるのは、


 「ようこそ、人間の皆様」


 ベッドに体を起こした、長老というには若すぎる容姿を持った青年の森の民なのであった。



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