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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
10章 辺境の変化と霊木の管理集落、である
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受ける罰則と長老の答え、である


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。





 無事に霊木の管理集落に入ることができた我輩達であったが、妖精パットンの無許可の侵入と、老婦人とその友人である集落長の娘殿のいたずらで早々に今回も面倒なことになるという予感がふつふつと沸き起こっているのである。


 そんな我輩達であるが、


 「ふぅ…………これでとりあえず俺の今日の分は終わりか? センセイはおっそいな」

 「早すぎである。我輩はダンと違い、肉体労働は得意ではないのであるが…………」

 「そんなことを言ったら、ボクの方がさらに苦手だよ」

 「若い子達がそんなにすぐ音を上げないの」

 「ほら、大婆様だってもう少しで終わるんだから、しっかりしろよ二人とも」


 現在集落外れの一角で、集落の者達が冬を越すための薪を作っているところなのである。


 あのあと集落長と面会をしたのであるが、妖精パットンの件で我輩達の用件を話すことすらできなかったのである。


 結果的に言うと、やはり妖精パットンが勝手にやって来てしまったことを不問に処すということはできないらしく、何かしらの処罰を受けることになったのである。

 とはいえ、我輩達をこの集落に招待してくれた老婦人が、ここでもそれなりに信用が高い人物であったという事と、今回の問題を起こしたのが気まぐれな生活を送っている妖精という種族であると言うことで、処罰をするとしてもあまり厳しいものにするというのも、ということでこのような肉体労働を行うことになったのである。


 その話になったとき、妖精パットンは本当は妖精ではなく使い魔のようなものなので、その事に言及しようとした我輩であったのであるが、


 (せっかく罪を軽くしてくれるっていうのに、わざわざ重くする必要なんかないじゃないか錬金術師アーノルド)

 (これ以上面倒を増やして収穫祭までに帰れなかったら、ドランや嬢ちゃんにどんなふうに思われるか考えろ。納得いかなくてもとりあえずこの場は黙ってくれ!)


 と、二人に凄い剣幕で念話の魔法で言われてしまったので、嘘を重ねているようで心苦しかったのであるが黙っておいたのである。

 しかし、当事者である妖精パットンはそんなことを言える立場にはないと思うのであるが、そう思うのはおかしいことではないと思うのであるが、さすがにサーシャ嬢などの向こうで待っている者達の事を引き合いに出されると身勝手なことはしがたいのである。


 などと、昨日のことを思い返していると、ダンが我輩をせかすように声をかけてくるのである。


 「ほらセンセイ、パットン、手が止まってるぞ。がんばれがんばれ」

 「少しは手伝ってほしいのである」

 「手伝ったらセンセイの分が減らないだろうが」

 「そうよ。ちゃんと私が見張ってるんだからずるはダメよ」


 ダンの言葉を受け、我輩達が作業をしている近くで茶を美味しそうに飲みながら集落長の娘殿が微笑みつつそう言うのである。


 「ずるではないのである。ダンの割り振りが少な過ぎるのである」

 「おいおい、俺はセンセイの10倍近く多く割り振られてるんだぜ? 少ないわけが無いだろうが」

 「肉体労働者と、研究者の体力を一緒にしてほしくないのである」


  そんな我輩達のやり取りを面白そうに見ている彼女は、我輩達が不正無く作業を行っているかの監視役という名目でこの場にいるのであるが、早く作業を終えたダンや老婦人と優雅に会話を楽しんでいる姿を見ていると、遊びに来ている様にしか見えないのである。


 「今ちょうど若い子達が群生地の見回りに出ちゃってたから助かるわ。これなら冬支度に余裕ができるわ」

 「やっぱりこのあたりまで来ると冬の寒さはきついのか?」


 ダンの質問に、老婦人と娘殿が大きく頷くのである。


 「このあたりは私達の集落があるところに比べると北側になるから寒さが厳しいわね。湯は魔法陣で出せるけれど、料理をするのにも湯浴みをするのにも結局火は必要だもの」

 「帝国の北方地方も寒さはきついしな。位置的にはだいたい同じくらいか」


 我輩達が刑罰の割り振り分を終わらせるまでの間、三人はこのような感じでのんびりと会話をしながら過ごしているのである。


 そんな三人を見て、火種や薪を使うまでの繋ぎに使う細かい枝や枯れた葉などをせっせと運んでいる妖精パットンがため息をつくのである。


 「これ、絶対ボクと錬金術師アーノルドには厳しいよ」

 「妖精パットンは自分のしでかしたことに対する罰なので、文句を言える立場ではないのである」

 「言ってることは十分に理解しているけど、きついものはきついんだよ」

 「我輩だってきついのである。そもそも、我輩はとばっちりなのである」

 「そんなことあるかよ」


 我輩達の会話が聞こえたらしく、ダンが会話に混ざってくるのである。

 その表情はニヤニヤと底意地の悪いもので、絶対にろくなことは言わないと確信できるのである。


 「俺達の責任者はセンセイなんだから、パットンが問題起こしたらセンセイが責任を負うのは当然だろ?」

 「理不尽なのである……」


 とは言え、日々割り振られている刑罰をしっかりと終えることができれば集落や霊木の群生地へと赴くことが許可されるので、我輩達は三人にからかわれたり応援されたりしながら残りの刑罰を終わらせていくのであった。





 「なるほど。あなた方の目的は錬金術という魔法技術の普及の為の道具の素材として、霊木を使用したいという事ですか」

 「それと、効果の高い薬草…………霊草だっけ? それの採取許可も貰いたい」

 「大きな目的はその二つであるが、我輩個人の目的として過去の出来事を聞きたいというのもあるのである」


 本日の刑罰を終えた我輩達は昼食を取った後に集落へと赴き、集落長と面会しているのである。

 翡翠色の髪も年齢を重ねて大分白んできており、皺や頬の弛みも目立つ様子の集落長であるがしっかりとした様子でこちらを見ているのである。

 その目は昨日もそうであったが、面倒事を起こしてしまった我輩達に対して特に悪い感情を抱いているような様子は見えないのである。

 とはいえ、手放しで歓迎しているというわけでもないのであるが。


 「ふむ。娘の監視の元、許せる範囲の中であれば霊木や霊草を持って行っていただいて結構です」


 我輩達の言葉を受け、集落長は特に悩むわけでも無くすんなりと採取の許可を出すのである。

 意外なほどの即決に我輩とダンは拍子の抜けたような表情をつい浮かべてしまうのである。


 「良いのか?」


 ついつい口から出てしまったのであろう、ダンの一言に集落長はぴくりと反応をするのである。


 「おや? 採取の許可が欲しくなかったのではないのですか?」

 「まぁ、許可をくれるのはありがたいんだけどな、すんなり過ぎて驚いただけさ」

 「欲しいのは当然なのであるが、霊草はともかくとして霊木はとても大事なものだと老婦人から聞いているのである。なので、そんなに簡単に採取許可をもらえることに驚いたのである」


 我輩達の言葉を聞くと、集落長は穏やかな笑顔を浮かべるのである。


 「なに、あなた方の人となりは昨夜娘や彼女から聞いてますからな。今、各集落で広がっている霧の魔物対策の道具を作っているのがあなた方というのであれば、森の民をまとめる集落の長として希望に答えるのは当然だと思ってますよ」

 「でも、やっぱりただってわけには行かないのよ? やっぱり大切なものですからね」

 「まぁ、だろうな。で、何をすれば良いんだ?」


 ダンの当然といった様子の質問に、集落長は、


 「群生地の見回りをしている者達と共に行動してもらい、中に入り込んで荒らし回る魔物や魔獣を駆除してもらいたいのですよ」

 「後、この時期は冬を越すために食材確保が行える最後の時なの。だから、食材の確保もお願いね」

 「当然、罰則である薪作成も継続してもらいますよ」


 そう答えるのである。

 つまるところ、この集落の生活の手伝いをしろということである。

 

 当然といえば当然といったその提案を我輩達は受け入れ、霊木の群生地への立ち入りと素材採取の許可をもらうのである。


 「それで、ですな。あなたが使う錬金術という魔法技術の普及に関してですが、亜人種への普及は極力限定してもらいたいと考えております」


 霊木採取許可の話が一段落し一息着いた後、口を開いた集落長からは意外な提案がだされたのである。

 錬金術は誰でも使えるをうたった魔法技術である。使えるものが増えればそれだけ便利な世の中になるはずなのである。

 集落長の一言に、老婦人や娘殿も多少驚いたような表情を浮かべているので、このことは二人も聞いていない話だったようである。


 「それは一体…………」

 「これは長老、つまりあなたが聞きたがっている1200年前の事を知っている者が言っていたことです。私は今日の朝長老にそれだけ言われました。詳しい話は本人に聞いてください。本人もそれを望んでおりました」

 「長老様はここ数十年眠っている時間が多くなってしまって、起きてるのが朝からお昼の間だけなのよ」

 「つまり、長老様から話を聞きたかったらセンセイは今日以上に頑張らないといけないってことか」

 「厳しすぎる罰則である…………」

 「まぁ、罰ですからな」


 そう言って集落長は、娘殿と似たような意地の悪い笑顔を浮かべるのであった。






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