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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
10章 辺境の変化と霊木の管理集落、である
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霊木の管理集落、である


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。






 「おい、どうする?」

 「人間だぞ? 集落に入れて良いのか?」

 「だが、彼女の推薦だぞ」

 「うーむ…………」


 我輩達の周囲にいる若年から初老の森の民達がうんうんと唸っているのである。


 当初の予定通り、障壁を使って川を遡って行き管理集落の警戒区域付近まで到達した我輩達は、無事に集落の自警団に発見されることになったのであるが、やって来た者が人間二人と初老の森の民という異色の組み合わせであったために彼らは衝撃を受けたようである。


 もともと管理集落の出であった老婦人本人を連れた上での紹介があるので、本来であるならばすんなりと集落に入れるはずであったのであるが、前代未聞の出来事に処遇を決め兼ねている様子のようである。


 まぁ、このような奥地までやってくる人間など魔者や憑依の魔物に憑かれた人間くらいなので、警戒されるのは仕方ないのであるが、その割に敵意を一切向けられていないのは彼らが共有している知識に該当しないからなのであろう。


 正直、彼らに判断が付かないのであるならば集落の責任者に決めてもらえば良いと思うのであるが、彼らが何百年と生きて来たなかでおそらく初めての出来事なので混乱してしまうのも仕方がないと思うのである。


 そう考えると、今まで訪ねて回った集落は大分柔軟な対応であったのだなと思うのである。

 今まで訪ねて回った集落は大森林の深部といっても、それは人間側の価値観であって彼らからすれば人間の領域にかなり足を踏み入れた状態で集落を形成していたということなのであろうか。


 周辺に生い茂る薬草、いや、霊草で良いのであろうか、混迷している彼らを横目にそれらを眺めつつそんなことを思っていると、ダンが訝しげな表情を浮かべてこちらを見ているのである。

 一体何事であろうか。


 「ダンよ、どうしたのであるか」

 「いや、普段のセンセイなら集落の責任者に聞いてみろとか言うだろうに、静かだからおかしなもんだと思ってな」

 「当然そう思っているのであるが、眼前に広がるこの良質の素材を見ているのも目の保養になるのでとりあえずはこのままでも良いと思っているのである」

 「……さいですか……」


 我輩の答えを聞いたダンは呆れた様子を見せてから荷車に寝そべるのである。

 さすがのダンも、ここに来るまでの間ほぼ動き詰めだったので少しでも休んでいたいということであろうか。


 「お二人とも自由ね」

 「恐縮して貴重な素材を見過ごす方が愚かしいのである」

 「センセイが大人しくしてる時間だからな。少しの時間だとしてもゆっくり休ませてもらうさ」

 「あらあら、じゃあ私も空気を読んだ方がいいのかしら?」

 「じゃあ大婆様、アリッサが作った焼き菓子がまだ残ってるから茶の時間にでもするかい?」

 「そうしましょうか」


 こうして我輩達は、なかなか我輩達の処遇が決まらなずにいる森の民達と横目に数日ぶりのゆっくりとした時間を楽しむことにし、その様子にその場にいた者達が我輩達を魔者や憑依された人間である可能性を追うことに意味を感じなくなったのか、それから程なくして集落に通されることになったのであった。


 まぁ、結果良しなのである。






 「魔の冠を抱いた者や魔物に憑かれた者はそんなリラックスした態度を取ることはないのですよ。わかってて付き合ったのでしょう? 貴女は」

 「うふふ、どうかしらね。ただ、おいしいお菓子が食べたかっただけかもしれないわ」

 「確かにこのお菓子ならばそう思う事もあるかもしれないわね。…………手が止まらないわ」


 そう言うと、目の前にいる初老の女性はアリッサ嬢が作った焼き菓子を手に取り口に入れると、若干惚けたような表情を浮かべて菓子を堪能しているのである。

 手土産として十分だと老婦人は言っていたのであるが、その通りのようでよかったのである。


 現在我輩達は管理集落の集落長の家に通され、応接室で集落長を待っているところなのである。

 そして我輩達の目の前にいる初老の女性は老婦人の友人で、集落長の娘とのことである。

 と、いうのも集落長が現在別の用事で出てしまっているので、戻って来るまでの間我輩達の応対をしてくれているのである。


 と、言うのはおそらく建前で、実際は老婦人と久しぶりに会うので集落長が来るまでの間会話や土産を楽しんでいるといったところである。


 「一応、他の集落の者達から皆様の存在は耳にしていたのですが、実際にここまでやって来てしまうとは…………」

 「ここに来るまででも凄いけれど、来る方法も破天荒だったのよ」

 「この近くに流れる川を直に逆走して、移動日数を短縮してきたのでしたっけ?」

 「そうである」

 「錬金術というのは凄いわねぇ…………」


 そう言うと、娘殿が我輩達二人をまじまじと見つめるのである。

 その表情は感心したと受けとるには難しい、複雑なものであったのである。


 それはきっと、予想外の方法と期間でここまでやって来た我輩達を警戒しているのであろう。

 まぁ、確かに川を逆走して移動するという方法を取れる手段を持つ我輩達は彼女たちにとって脅威なのであろう。


 「心配する気持ちは分かるけれどね、大丈夫よ。そうじゃなかったら私がここに連れて来るわけがないでしょう? さっきのお返しかしら?」

 「ふふふ。本当にそう思っているならたとえ貴方の紹介だったとしても、集落に通すわけがないでしょう?」


 老婦人のやれやれといったような言葉に、先程と打って変わった笑顔娘殿は浮かべるのである。

 先程老婦人が娘殿をからかうような態度を取ったのでそのお返しをしたようで、二人とも笑いあっているのである。


 どうやら老婦人と娘殿は似た者同士のようなのである。


 「しかし他の集落でもそうだったけど、特にあんたは人間の言葉が達者だな。話だけ聞いてると、帝国領内にいるみたいだぜ」

 「そうであるな。老婦人も以前より言葉が流暢である。いつの間に練習したのであるか」


 ダンと我輩の言葉を聞いた老婦人と娘殿が驚いたような表情を浮かべるのである。

 何かおかしな事を言ったのであろうか?


 「私達は人間の言葉を使っていないわよ」

 「そうよ、二人とも古代精霊語が上手だったから、私達との交流のためにたくさん勉強したのかしらと言おうとしていたところだったのよ?」


 二人の表情から、どうやら嘘は付いていないようである。

 と、いうことは、である。


 「おいおい、マジか。いつの間にくっついてきたんだよ」

 「あーあ、ついにばれちゃったかぁ」


 老婦人達の言葉を聞き、すぐさまダンは我輩に声をかけて来るのである。

 とはいえ、その対象は我輩ではなくその頭上に飛んでいる妖精パットンに向けてであるが。


 「完全に気がつかなかったぞ」

 「さすがのダンでも、完全に意識が違うところに向いているときにボクの全力の魔法を受ければ気付かないでしょ。これですぐに気付かれちゃったらさすがにプライドが傷つくよ」

 「我輩もわからなかったのである」

 「頭の上にさえ乗らなければ感覚は共有しないからね。移動中は彼女のところにいさせてもらったよ」


 妖精パットンはそう言うと老婦人を見て意地の悪そうな笑顔を浮かべるのである。


 「あらあら、これは困ったわ。パットンは今回隠れてついて来ちゃったのね。これは困ったわ」

 「そうね、それは困ったわね。貴方の紹介では人間の二人だけですものね。このままでは貴方の責任にもなるし、二人も何かしら罰則を受けてもらわないといけないわ」

 「え…………」


 二人の神妙な表情を見て、先ほどの笑顔とはうってかわり妖精パットンは明らかな動揺を見せるのである。

 意志の構成魔力を読み取ることができる妖精パットンが動揺するということは、つまり、二人は本当に困っていると言うことなのであろう。


 「パットン、何でこの集落が入る人数を制限しているのか考えなかったのかよ…………」

 「良くて集落から追い出される程度であるな。投獄や、最悪口封じも覚悟しないとである」

 「え…………そんな…………え? 錬金術師アーノルドやダンなら簡単に逃げ出せるでしょ?」

 「お前な、俺達は一応人間側の代表としてここにいるも同然だぞ。そんな事できるわけねぇだろうが」

 「今回は我輩達に非があるのである。なので、集落の決定に従うだけなのである」


 我輩達の返答に、妖精パットンは自分のしでかしてしまった事の大きさに気付いたようである。

 パットン的にはおそらく興味と軽い気持ちで着いて来てしまったのであろう。

 やってしまった事はもうどうしようもないので、今の我輩達にできることはできる限り殊勝にして罪を軽減を望むくらいであろう。


 そんなことを思っていると、老婦人と娘殿が我輩達を見て苦笑いを浮かべるのである。


 「あ、あら? 驚かせすぎちゃったかしら?」

 「仕方ないわね。相手が妖精だったら本気で行かないとだもの。私も本気で言ってるのかなと一瞬思ったわよ」

 「妖精を騙せる程演技が上手だったって事ね。うふふ、嬉しいわ」


 どうやら二人の先程の話は冗談だったようである。


 「ボクを騙すって、凄すぎだよ…………」

 「俺も本気だと思ったから覚悟したぜ…………」

 「今回は冗談で済んだのであるが妖精パットン、冗談で済まなくなる場合もあるのでもう少し考えて行動をしてほしいのである」

 「うん…………良く分かったよ…………。ごめんね二人とも」


 そう言って、二人の楽しそうな様子を我輩達はげっそりとした表情で眺めるのであった。





 

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