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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
10章 辺境の変化と霊木の管理集落、である
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霊木の管理集落へと向かうのである


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。





 「収穫祭の時期までには戻るからな」

 「頼むよリーダー。戻って来ないとドランもサーちゃんも黙ってないわね」

 「だよなぁ」


 アリッサ嬢の返答に面倒そうな表情をダンは浮かべるのである。

 まぁ、ドランはダンとアリッサ嬢に押し付けられる形で南方地方に留められている形になっているので約束を破ると面倒そうなのは確かである。


 では、話題に上がっていた片割れのサーシャ嬢はというと、先程から我輩にくっついているのである。


 「一緒にいけないのは残念だなぁ……」

 「申し訳ないが、人数に限りがあるらしいのである。留守番は頼むのである」

 「うん。それは大婆さまから聞いたよ。だから、我慢するね」

 「いい子であるな、サーシャ嬢は」


 我輩がそう言うと、サーシャ嬢が我輩をじっと見ているのである。

 その目はなにかを求めているようなのであるが、何をどうしたら良いのであろうか。


 少々困っていると、サーシャ嬢の後ろでミレイ女史が頭を撫でるような仕草をしているが見えたのである。

 ほかに思いつくことも無かったの我輩は、とりあえずサーシャ嬢の頭を撫でることにしたのである。


 「うん……早く帰ってきてね」

 「ダンも言ったのであるが、収穫祭も近いのでそれまでには戻るのである」


 どうやら正解であったのか、しばらくサーシャ嬢は我輩に撫でられるがままであったのであるが、突然我輩の手をしっかりと掴んで自分の頭に押し付けるのである。


 「サーシャ嬢?」

 「おじさん……我慢するけど……やっぱり寂しいよぉ……」


 俯いていることと、頭が軽く震えていることから泣いているのであろうか?

 相当に寂しいようで、我輩も少々申し訳なく感じるのである。

 だがしかし、何故こんなに寂しがるのであろうかと思ったのであるが、そういえばサーシャ嬢と出会ってから、長期間サーシャ嬢と別れて行動することは初めてであるということに思い至るのである。


 収穫祭までの一月弱という期間は、長寿である森の民からすれば大したことのない時間のはずなのであるが、それだけサーシャ嬢が人間的な時間感覚に染められたと言うことなのであろうか。


 「あーあー。女の子を泣かせるなんて、センセイも罪な男だねぇ」

 「アリッサ嬢、その物言いはまるで我輩がサーシャ嬢を泣かせているみたいなのである」

 「みたい。じゃなくて泣かせてるんでしょうが。呆れるねぇ」


 アリッサ嬢とそんなやり取りをしていると、落ち着いたのかサーシャ嬢が我輩の手から離れてこちらを見るのである。


 「おじさん、困らせちゃってごめんなさい。一緒にお勉強しできるように、たくさんお土産持ってきてね」


 そう言ってこちらに笑顔を向けるサーシャ嬢であったが、やはり泣いていたようで目の当たりが赤くなっているのである。

 それを言及するのはさすがに良くないと言うことは分かるので、我輩はサーシャ嬢の話に合わせることにしたのである。


 「そうであるな。採取許可を貰えたらの話であるが、出来るだけ多く持って帰るのである」

 「そのたくさんの素材を運ぶのは俺なんだけどな」

 「【浮遊の荷車】を使うのであるから問題は何も無いのである」

 「あらあら? 私もその荷車に乗る予定なのだけれど?」


 呆れたような表情を浮かべ、我輩に突っ掛かってくるダンに適当な応対をしていると、老婦人も会話に加わって来るのである。


 「安心するのである。ちゃんと我輩達が座れるだけの空間はダンが確保してくれるのである」

 「人任せかよ!」


 今回は老婦人が案内役になって、ダンと我輩を霊木群生地の集落へと連れていくことになっているのである。

 本当は全員で行きたかったのであるが、その集落は森の民にとって大事な集落なので見知らぬ者、特に人間を多数連れていくのは無理があるとの事でとりあえず責任者であるダンと我輩が顔つなぎとして行くことになり、現在の状況になっているという事なのである。


 「リーダーとセンセイの二人って不安だねぇ。ミレちゃんがいれば安心だったんだけどね」

 「どういう意味だよ」

 「我輩達が何をするというのであるか」

 「あんた達二人だけで動くと大体何かしらやらかすんだから。大婆様やこの集落に迷惑をかけるようなことはするんじゃないよ。ね、サーちゃん」

 「おじさん達はそんなことしないよ!」


 我輩達の抗議をアリッサ嬢はにべもなく流しサーシャ嬢に同意を求めたのであるが、サーシャ嬢はむしろアリッサ嬢に抗議を向けるのである。

 その様子は普段とほぼ変わらない感じになっていたので、安心である。


 ダンやアリッサ嬢を含めた周りのもの達を見ても同じような表情を浮かべていたので、おそらくであるが全員がサーシャ嬢を気遣かって一芝居打ったのであろうか。

 ともかく、これで我輩も心置きなく霊木群生地の集落へと向かうことができるのである。


 「では、改めて行ってくるのである」

 「うん、いってらっしゃい!」


 我輩の言葉に、今度はサーシャ嬢も笑顔で送り出してくれるのであった。






 集落を出発して五日、我輩達は霊木の管理集落へ向けて移動を続けているのである。


 「それにしても…………この移動の仕方は何日経っても慣れないわね」


 老婦人が荷車の外を見ながらふとそう漏らすのである。


 現在我輩達は、森の集落を二日ほど東へと進んだところにある幅が広い穏やかな流れの川を上流に向かって進んでいるのである。


 「森の民は魔法を使ってこのような感じで移動をすることなどないのであるか?」

 「私の知るかぎりではないわね。そもそも、水面に魔法で足場を作りながら進むなんて考えた者もいないんじゃないかしら」

 「センセイは頭がおかしいんだよ」

 「障壁を足場に利用しだしたのはそもそもダンである」


 そう、老婦人が驚いているのは我輩達が川の水面を移動しているからなのである。


 蛇海竜の時に海面に障壁を張って足場を作ったように、ダンは移動する先に足場用の障壁を張って移動をしているのである。

 というのも、この川の上流に件の集落が存在していることと川岸を歩いていこうにも魔物や魔獣等に襲われたり、どうしても迂回しなければならない箇所が存在するので川を直に遡っていこうという事になったのである。

 そういった関係上で、本来森の民の移動速度でも数ヶ月ほどかかるであろう管理集落までの道のりを、我輩達は驚異的な短縮を可能にすることができ、それがあったからこその今回の一件があるのである。


 ちなみにその事を提案したとき、アリッサ嬢は呆れ、ハーヴィーはやや嬉しそうな表情を、ミレイ女史は困った様子を、ダンはげんなりしたような表情を見せたのであるが。

 サーシャ嬢とデルク坊はまた言ったことのない場所へ行けると嬉しそうな様子を見せていたので、そのあと老婦人に我輩達が信頼されるまでは人数に制限がかかることを言われたときの表情は少々申し訳なかったのである。


 「私からすれば、こんな速度にもかかわらず障壁展開を完璧に制御しながらずっと移動をしているダンさんも、そんなダンさんを当たり前のように思っていらっしゃる錬金術師様も同じくらいおかしいのですけれどね」

 「老婦人、ダンの障壁制御は完璧ではないのである。想像以上に無駄な魔力消費が多いので我輩が毎日障壁石を作らなければならないのである」

 「全速力で移動しながら繊細な展開制御ができるわけがねぇだろうが! それに、その素材だって俺が確保してるんだから文句いうんじゃねぇ! じゃあセンセイが障壁を張れよ!」

 「我輩がダンの速度に合わせて障壁を綺麗に張れるわけがないのである」

 「だったら文句をいうんじゃねえ!」

 「我輩は文句は言っていないのである。老婦人の質問に答えただけである」

 「あらあら? 私のせいなのかしら?」

 「いや、大婆様は悪くない。全部このオッサンがいけない」

 「ダンさんは優しいわね。ふふふ…………」


 我輩とダンのやりとりに巻き込まれる形になった老婦人は、困ったような楽しそうな表情を浮かべるのである。


 「老婦人、後どれくらいで集落に着くのであろうか」

 「そうねぇ、この速度のまま順調に進めることができれば、明日か明後日には集落の警戒区域に入れるのではないかしら?」


 老婦人が言うには管理集落の周りを多数の自警団員達が常に巡回しているらしいのである。

 一応管理集落という名前で呼んではいるのであるが、その人数規模などを聞くかぎりでは東方都市に匹敵するほどの規模はあると思われるのである。

 

 「さすがに警戒区域を全速力で突き進むのは印象が悪いな。それと思われる気配を感じたら速度を緩めて向かうとするか」

 「ダンもたまにはまともなことを言うのであるな」

 「センセイには言われたくねぇなぁ!」

 「あらあら、仲が良いわね」

 「老婦人、今のやり取りを聞いてどうやったらそう思えるのであろうか」


 こうして、我輩達は霊木の管理集落へと向かって行くのであった。




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