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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
10章 辺境の変化と霊木の管理集落、である
218/303

年長者達の意見を聞いてみるのである


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。






 「錬金術の道具の素材に関して言うならば、別に魔法金属にしなくても良いのではなくて?」

 「どういうことであろうか?」


 老婦人の言葉に我輩はさらなる説明を求めるべく質問をするのである。


 あの食事会から数日、結界付近に作った人間用の調査拠点から戻ってきたダンとハーヴィーと我輩達は、老婦人や集落長に研究施設の件と獣人女性の回復についての相談をするべく森の集落を訪れたのである。

 そこで話を一通り聞いた老婦人が何かを考え発した言葉が、今の一言だったのである。


 「錬金術用の道具は、原初の魔法を増幅させる程の純魔力を保有している素材であれば良いのでしょう? でしたら劣化の速度や魔力の伝達速度の問題はあるけど、初期段階であるならば無理に魔法金属を使用しなくても、皆様が作っている人工魔法石で釜を作ってしまっても良いのではないかしら?」

 「と、言うと?」

 「おそらくですが、皆様が使っている錬金術の魔法陣の中には、道具に使用している素材の純魔力を保存か、補充する魔法が含まれているはずです。でなければ、いくら魔法石や霊木に比べて純魔力の自然流出が少ない魔法金属とはいえ、あれだけの魔法を使用するのに状態が維持し続けられるわけがありませんよ」

 「あぁ。確かにそう言われればその通りだねえ」


 ダンの問いに答える集落長の言葉を聞き、アリッサ嬢は理解を示しているの様子をを横目にしつつ、我輩も言われてみれば確かにその通りだと老婦人と集落長の言葉に、目から鱗が出るような感覚を覚えるのである。


 いくら完品魔法白金や純魔法金等の希少で高品質な魔法金属とはいえ、触媒である。

 錬金術を使用するに辺り、当然使用者の意思の魔法を増幅するために内部の純魔力を反応させるので内部の純魔力は消費するのである。

 工房全体に状態保存の魔法が効いている森の工房でであるならばともかく、帝都にある錬金術研究所や他の場所で、魔法金属の劣化が今まで一度も起きていないのはそういうことなのであろう。


 「でもあれだな。人工魔法石は素材に使わないほうが良いような気がするな」

 「まぁ、そうだね」

 「あら? どうしてかしら? 良い案だと思うのだけれど」


 ダンとアリッサ嬢の反応に、意外といった表情を浮かべて老婦人は二人に尋ねるのである。

 我輩もはて? と思ったのであるが、錬金術の特性を思い出して納得するのである。


 「錬金術はいわゆる何かしらの問題点のある模造品作製の魔法である。人工魔法石は、天然の魔法石に比べると劣化速度が早く、暴走の危険性が高いのである。錬金術用の道具として使用するには少々不安が残るのである」

 「あら。それは残念ね」


 我輩の言葉を聞いた老婦人は、残念そうな表情であったが納得した様子である。

 しかし老婦人の出した提案は、錬金術の構成魔力を容れる容器には魔法金属を使用しなければいけないと思い込んでいた我輩にとっては有益な物であったのである。

 そういえば確かに、手引き書にも錬金術用の道具には魔法金属を使用する前提で書かれていたのであるが、魔法金属でなければいけないという文言はどこにもなかったのである。

 おそらくそれは、少なからず帝国内に魔法金属の鉱脈や加工技術が存在し、また、霊木の群生地や加工技術が無かったからなのであろう。

 大森林に戻ってからも霊木での容器製造に着手しなかったのも、おそらくノヴァ殿は【誰でも使える魔法技術】といいつつ、使用対象を人間に限定していたのかもしれないのである。


 「だったら、大森林内で錬金術の研究施設を作る場合は霊木を使用した方がいいわね。こちらでは魔法金属は入手が難しいし、金属加工が得意な山の民のように、私たちは木材の加工が得意なのだから」

 「とはいえ、錬金術師様が魔法金属をお求めになって北の山脈の方に足を運びたいと言うのであれば、それも良いと思います」

 「いや、そういうわけではないのである。その方が良いのかもしれないのであるな」


 魔法金属にこだわっていたのは、先程述べた通りそういうものだと思い込んでいたからであり、今となっては二人の提案に従った方がいいと思っているので、我輩はそう返事を返すのある。


 「まぁ、加工技術が持ち合わせていない霊木の群生地よりも、魔法鉱石の鉱脈を発見した方が帝国としてはありがたいけどな」

 「あらあら、人間の世界は大変なのね。じゃあ、やっぱり北に行くのかしら?」


 老婦人の言葉に、アリッサ嬢が困ったような呆れたたような様子を見せるのである。


 「そっちの方は一応開拓団がやることになっててね。あたしとしては北行きにはあまり賛成じゃなかったから、こっちで動けるなら都合が良いさね」

 「それはどうしてかしら? 一緒に調査に動けば効率が良いのではなくて?」

 「簡単に言うと、センセイと開拓団のトップの仲が最高に悪いからだね」

 「さらに言ってしまえば、センセイのせいで開拓団が無能扱いされかかってるからな。そんな時に俺達が大森林だけじゃなく北の山間部でも成果を上げちまったら面倒なことになるな」

 「ほう? なにかあるのですか?」


 興味津々といった様子で尋ねてくる集落長に、ダンが帝都に行った際にバリー老から聞いた話を話すのである。

 

 簡単に言うと、成果を上げだしている探検家や探検家ギルドと連携を取り出した帝国治療院に大森林の調査を任せ、代わりに北方地方や西の荒野の方を開拓団は調査することを命令したらしいのである。

 その際、宰相は我輩が影で亜人種と結託して帝国に災いをもたらそうとしている等という戯言を言い、探検家達、もとい我輩達の代わりに大森林の大々的な調査を行うと皇帝に直訴したらしいのであるが、現皇帝はそれを当然却下したのである。

 そもそも表立って大森林で結果を出しているのはダンが率いる探検家のチームであるし、我輩は帝国やギルドへの報告には発見した文献の翻訳や道具の調査協力した学者の一族といった形でしか存在が上がってないのでその理屈を通すのは無理がありすぎるのである。

 そもそも妄言を喚いて拒否したところで、成果らしい成果をここ数年上げていない開拓団を管轄している宰相としてはこの命令は受け入れるほかないのであるが。


 「なるほど。錬金術師様は大変な状況なのですな」

 「大変ではないのである。ただただ面倒なだけである。捨て置いて欲しいのである」


 宰相は何故そんなに我輩に固執するのか、全く理由がわからないのである。

 そんなことをしているならば、もっと帝国の為になる行動をしてほしいのである。

 まさか、我輩の邪魔をすることが帝国のためになるなどと本気で思っているのであろうか。

 であるならば、獅子身中の虫でしかないので早々に隠居してもらいたいものである。


 「生粋の至上主義者である以上、それは難しいんじゃねぇかなぁ」

 「至上主義者は視野が狭すぎるのである」

 「センセイも人のことは言えない気がするけどね」

 「我輩は、あそこまで酷くないのである」

 「視野が狭いっていうのは認めるのか…………」


 あきれ顔でこちらを見るダンとアリッサ嬢を見て、老婦人と集落長は笑顔を見せるのである。

 その表情は、まるで子供を見ているようである。

 二人の年齢からすれば、我輩たちは全員幼児のようなものなのであるが、なんとも言えない感覚である。

 これが、サーシャ嬢が我輩に子供扱いされたときに感じるものなのであろうか。


 「それにね、私が霊木を素材に勧めているのには、他に理由二つがあるからよ」


 そんなことを考えている我輩をよそに、老婦人は話を進めていくのである。

 我輩達が老婦人に注目が集まったのを確認すると、老婦人は立てた指を折りながら話すのである。


 「まず一つ、霊木の群生地は純魔力や構成魔力の濃度が濃いの。そこにある薬草は霊草と呼ばれて普通の薬草よりも効果が高いの。もしかしたら霊草を使った薬ならば獣人の子を起こしてあげられるかもしれないわね」

 「なるほど。それは霊木とあわせて錬金術の研究素材としても非常に興味深いのである」

 「そしてもうひとつ。こっちはきっと錬金術師様個人に向けてかしらね」

 「なんであろう?」


 我輩の質問に老婦人は柔らかな笑顔を見せながら、


 「霊木の群生地を管理している集落、そこには1200年前の長老だった方のお孫様、最長老様がいらっしゃるわ。森の民側の視点での当時のこと、聞きたくないかしら?」


 そう言ったのであった。




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