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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
10章 辺境の変化と霊木の管理集落、である
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これからの事を少し相談するのである


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。





 ドランの一件で結局話が進んでいなかった事に気付いた我輩は、話を戻して親御殿に南方地方で約束したこと、錬金術の研究兼交流施設の建築について相談をするのであった。


 「なるほど。この場の秘匿性を極力保ちつつも、研究者の発掘や南北間の交流を深める場所の提供を求めるということですね」

 「そうであるな。ここがいくら最高の環境とはいえ、今のままでは皆の要望を叶えつづけるには限界が来るかもしれないのである」


 最高級の魔法金属を使用した道具が整えられていて、素材の品質が半永久とも言えるくらいに保ちつづけることができる倉庫があると言っても、実際に錬金術に従事できるのは三人である。

 現在はまだ要望に応えつづけることができるとは思うのであるが、このままだといずれ、要望に応えていく事しかできずに研究や勉強に励むことができなくなってしまうのである。

 そう考えると、研究所時代は陛下がどれだけこちらを自由にさせてくれていたのか、都合に合わせて要望を出していたのかというのが分かるというものである。


 「それに関しましては、錬金術師様に甘えすぎの部分もありますので、反省すべきところもございますが」

 「帝国民の幸せのために働くのが、我輩の考える錬金術師の仕事である。それは気にすることはないのである」

 「センセイにしては今回の件は前向きだよねぇ。研究所時代だったら、新しい研究ができないから要望をすぐに持ち込んで来るなとか言いそうなのにねぇ」

 「まあ、そうであるな」 


 そう、以前の我輩であるならば新しい研究のために、要望を抑えるように親御殿達に訴えていたかもしれないのである。

 事実、研究所時代は今まで以上に一つの研究に時間がかかったこともあったので、研究中は要望を聞くこともできなかったのであるが。


 我輩がこういうふうに考えが変化したことは、好条件の環境ができたことで、余裕ができたことが一つ。


 そして、サーシャ嬢やミレイ女史といった、共に錬金術の勉強と研究をするものがいたことであろう。


 研究所時代のように一人で研究をしていた方が集中できて、自分の好きなように研究でき、自分の都合で動ける方が気が楽だと思っていたことは否定しないし、そういう側面も当然あるのであるが、一人の時では味わうことのできない刺激や充足感があるのも事実である。

 そういうことがあったからこそ、パノン氏の挑戦状を見たときに興味を抱いたわけであるし、南方地方の者達の提案にも前向きなのであろう。


 良い面も悪い面も当然あるとは思うのであるが、今のところ至上主義者達以外は錬金術を私欲のために使おうとしているわけではないので、我輩はそれを信じようと思っているのである。


 「良い案だと思います。錬金術師様が門戸を開くということを知ったら、錬金術を学びたいと思うものはこちらにも間違いなくいると思いますので」

 「錬金術師様との交流の場が新しく出来上がるのでしたら、私たちの役目も一段落しますね」


 我輩の話を聞いた女性団員は賛成の意を表し、奥方は少しだけ残念そうな表情を浮かべるのである。


 「奥方、残念そうであるが、何かあるのであるか?」

 「あらあら、特に何かがあるというわけではなく、私たちだけがこうやって皆様と関わりを持てるという特別な役目を頂いていたので、少しだけ残念というだけですよ」

 「あたし達との連絡役なんて、そんなになりたいものなのかねぇ。だって、相手はセンセイだよ?」

 「言いたいことはわからないでもないが、失礼であるな」


 多分、人間と関わりが持てる唯一の役割という事なのであるが、そこまで人気な役目なのかというのはたしかに思うのである。


 「変わってもらえるものならば変わりたいという者も大勢おりますよ」

 「何というか、物好きもいるもんだねぇ」


 にこやかに返答する親御殿の言葉を聞き、アリッサ嬢はやれやれといった表情を浮かべるのであるが、そんなアリッサ嬢の反応に、犬獣人の団員が驚いたような様子を見せるのである。


 「そんなことはないですよ。人間、更に言えば私たちの恩人と優先して交流が持てる役目ですからね」

 「自分たちが窓口になれば、優先して利益を得られるということもありますからね」

 「そういう点で言えば理解は容易であるな」


 先程も言った通り、現在はサーシャ嬢達がいた集落のみが我輩達との接点を持てる状況である。

 利益の独占という点で言えば、確かに自分たちもと思うのは当然なのである。

 だが、そんな我輩の言葉を親御殿は困ったような表情を見せるのである。


 「先程の話に近くなりますが、そういう考えの者もいることは否定できませんが、そういった目的で近づいて皆様を不快にさせるのは不利益になると考えていますので、それよりも先に皆様と親睦を深めたいと考える者の方が多いのですよ」


 まぁ、いわゆる根回しとか下準備とか、そういうことであろう。

 好意のみで交流を持とうと思う事を否定するわけではないが、こういう建前と本音があった方が心情としては理解ができるのは確かである。


 「錬金術師様だけではなく、皆様それぞれ人気が高いのですよ?」

 「そういうふうに私たちは見られているのは少し悲しいです…………」

 「センセイ、普段から穿ったものの見方ばかりしてるからそういう風に人を悲しませるんだよ」


 風向きが悪くなったと思ったら手の平を返すように我輩を責めるような事をしているアリッサ嬢も似たようなものだと我輩は思うのであるが、話を進めていくためにとりあえず相手をするのはやめるのである。


 「と、いうわけで、結界の近くに錬金術の研究施設兼交流区画を作ろうと思うのであるがどうであろうか」

 「なるほど。そうなりましたら区画の位置は、人間の皆様用に作った拠点から離さないといけませんね」

 「それに、研究用の道具の素材となる魔法金属をどこで採掘するかという話もありますね」

 「魔法金属は北の山脈で取れる筈なので、近々採掘に行こうと思っているのである」

 「でしたら一度集落に来ていただいてもよろしいでしょうか? 皆様の役に立てればと思いまして、こちらの方でも大森林内の地図を作っているのです」

 「へぇ、それは助かるねぇ」


 女性団員の言葉に、アリッサ嬢は嬉しそうな表情を浮かべるのである。


 「未知の場所を手探りで探すのが楽しいのではないのであるか?」

 「そういうのもあるけれどね、一度他人が入ったところを再調査するのだって探検家の重要な役割だよ。それに、安全に探索できるならそれにこしたことはないでしょうが」

 「森の民の皆様が地図を作ってくれたとはいえ、人間にとっては未知の領域ですよ。アーノルド様」


 二人の言うことは尤もである。

 錬金術だけではなく研究においても他人による再検証は重要であるし、手引き書があるから我輩は安心して研究ができるわけで、すでに知られている情報も、始めてそれを聞くものにとっては未知の情報である。


 「と、言うことは次の予定は集落に言ってから北へと向かうという方向であるか」

 「いやいや。後一月くらいで収穫祭があるんだからさ。できたとしても集落に行って情報収集と今回のことの相談をするくらいまでじゃないかい?」

 「そうであったな。収穫祭があったのである」


 デルク坊もサーシャ嬢も収穫祭を楽しみにしていて、ついでに言えば辺境の集落にある旧我が家、現アリッサ嬢の家でドランが我輩達がやってくるのを首を長くして待っていると思われるのである。

 それをすっぽかしてしまったら後が怖いのである。


 何が怖いというと、最近ドランは我輩まで戦闘訓練に巻き込もうとしているのである。

 我輩が障壁を防御ではなく自衛のための攻撃手段として利用しているからのようで、あれを如何に防ぐかを考えているようである。

 対障壁用の戦闘訓練をするのは構わないのであるが、我輩を巻き込まないで欲しいのである。


 そんなことを思っていると、


 「おや? 香ばしい香りがしますね」

 「甘い香りもしますね」


 親御殿や犬獣人の団員が厨房から漂ってきた香りに気付いて声を上げるのである。

 アリッサ嬢がいるので、誰がいつの間に料理をしていたのであろうかと周りを見渡すと、


 「みんな、昼ご飯だよ!」


 と、デルク坊の元気な声が聞こえたのであった。





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