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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
10章 辺境の変化と霊木の管理集落、である
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捜索団の面々がやってきたのである


 我輩の名はアーノルド、自由気ままに生きる錬金術師である。





 工房で昼夜問わず作製作業を行いだしてから半月ほど経過し、戻ってきた時には大量に置かれていた素材もほぼ消費し尽くして倉庫には大量の薬や紙人形が積み上がったのである。

 そんな時、ちょうど良いタイミングで森の集落から親御殿家族と捜索団の面々が、新しい素材を持ってこちらにやってきたのである。


 「戻られていたのですね、予定されていたときよりもすこし遅めにこちらに来たのですが、まだ戻られていなかったのですこし心配していたのですよ」

 「少しか? サーシャやデルクは大丈夫だろうかと、もう一日待ちましょうとうろたえていたのは誰だったのかな?」

 「そ……それは……」


 分隊長にからかわれた親御殿は、困ったような恥ずかしいような表情を浮かべて苦笑するのである。


 「おじさんは心配性だなぁ。ダン兄ちゃんやアリッサ姉ちゃんがいるんだから大丈夫だよ!」

 「まぁ、そうなんだけれどね。心配なものは心配だよ」

 「森の民からしたら一・二ヶ月程度、人間の数日みたいなものじゃないのかい?」

 「そうなんですけれど、人間でも毎日会いに行っている人が一週間会いに行く度に入れ違いだと心配になりませんか?」

 「まぁ、わからないでもないけれど、それでも心配性じゃないかねぇ」

 「以前のことがありますから…………」

 「あぁ…………なるほどねぇ…………気持ちはわからないでもないかぁ」


 親御殿が言っているのは、数年前にあった魔獣の襲撃により集落を放棄することになった時のことであろう。

 そこでサーシャ嬢達は親御殿達とはぐれてしまい、妖精パットンとともにこの工房へと避難して我輩達と出会うまでの間二人きりで過ごしてきたのである。

 森の民の数年は、人間でいえば数ヶ月程度のことなのであろうが、親御殿にとっては気が気ではなかったのであろう。

 確かにそう考えれば親御殿の心配もわからないでもないのである。


 「それはそうと、定期的にこちらにやって来ているのであるが、捜索団本来の仕事は良いのであるか?」

 「実は、私と夫が正式に皆様との交渉窓口としての役目を任されることになったのですよ」

 「まぁ、私は捜索団との兼任なのですけれどね」


 我輩の質問に奥方が柔らかい笑顔を、親御殿は困ったような表情を浮かべて答えるのである。


 「だから、彼が所属している我々の隊が本来の職を外されて、護衛役を請け負っているというわけさ」

 「へぇ……そうなんだねぇ。ところで、あんた達が抜けちゃって大丈夫なのかい?」

 「あぁ。集落の規模が大きくなって団員が増えたからな」

 「むしろ、錬金術師様のお力を借りたい集落も増えつづけていますので、いい機会だったと思います」

 「どちらかというと、周りの集落がうるさいので、お願いだからそっちの方に専念してくれという空気だったのだ」

 「お前は余計なことを言わない!」

 「痛いのだ!」


 入隊して一年弱、それなりに経験を積んだようで、逞しい体つきになったとはいえ内面的なものや関係性などはそれほど変化していない新人二人のやり取りを横目にし、我輩達は何となく状況を理解するのである。


 「どうやら迷惑をかけているようであるな」

 「いえ、そんなひどい話ではありませんよ。早く錬金術師様のところに要望を届けてくれという話が大きくなったというだけです」

 「自分たちにも、あたし達と交渉させろという話にはならないんだねぇ」


 アリッサ嬢の言葉に、分隊長が苦笑いを浮かべて答えるのである。


 「それは無理だろう。この結界の場所を知っているのは我々だけだし、仮に尾行したとしても、我々が感知できない距離まで離れてしまえば結界によって行く手を遮られてしまうだろ?」

 「そっかぁ。でもさぁ」


 そんな分隊長の言葉に、デルク坊が納得のいかない様子を見せるのである。


 「隠れるのが上手な人がいたらどうするの?」

 「ここで鍛えられて、それなりに本気で隠れているダン殿やパットンを発見できるほどにまで成長した、彼女の優秀な鼻があるからな。彼女の鼻をかいくぐれる者はそうはいないだろうさ」

 「あぁ、そっかぁ。姉ちゃんの鼻は、アリッサ姉ちゃんよりも利くんだっけ」

 「そりゃそうだよ。さすがに本物の獣人に特性で勝てるわけがないさね」

 「いえ……そんな…………」


 アリッサ嬢に褒められた犬獣人の団員が恥ずかしそうに顔を俯かせるのであるが、たしかに何度かその現場を見たことがあるのであるが、彼女の鼻は非常に優秀であり、しかもアリッサ嬢よりも優れているのは、その鼻を利かせることも利かせないようにすることも、ある程度自由にできるということである。

 なので、臭いのきついところでもはアリッサ嬢は行動が制限されることがあるのであるが、彼女は自らの特性を制限した状態で行動することができるようなのである。

 生粋の獣人と混血の違いというのはそういうところにも出るのであるかと、我輩はその時感心したのを覚えているのである。


 「それでも個人差はありますし、意識して制御できるようになるには、かなりつらい訓練をしないといけないのです」


 それを彼女に言ったとき、彼女は何かを思い出したようで物凄くげんなりしていたのも印象的だったのである。

 何があったかは聞かなかったのであるが、何となくは想像が付くのである。


 「それに、殆どの者がそんな事をして錬金術師様の機嫌を損ね、協力関係を解消されることを危惧していますからね。そんな危険は侵しませんよ」

 「錬金術師殿は亜人に協力的だけど、偏屈で気難しい人だと思われているのだ」


 リス獣人の団員から、さらっと穏便ではない一言が発せられるのである。

 我輩は、亜人種達にそんな風に見られているのでいるのであろうか。

 人の目をあまり気にしないと思っている我輩でも、さすがに一方的ではあるのであるが好意を抱いている森の民や獣人達にそんなふうに思われていると、心にくるものがあるのである。


 「基本的に私達は、錬金術師様とダンさんやアリッサさんのようなやり取りをすることがあまりないので、始めて皆様のやり取りを見た者達にとって刺激が強かったたようでして」

 「おもしろ半分で話が広まって行くうちに、余計な情報どんどんと付いてしまってな。いつの間にかこうなってしまったわけだ」

 「錬金術師様が研究職だというのもその話の信憑性を上げるのに一躍買っていたのだ」


 親御殿が若干申し訳なさそうにしているのであるが、なぜかリス獣人の団員は誇らしげに、分隊長に至ってはどこか楽しそうにこのことを話すのである。


 どういうことであろうか?

 理解できないのである。


 「人間でも、亜人種でも、研究職に携わっている者はそう思われがちですからね」

 「そういえば、おれ、最初のころは集落の友達に<本当は無理矢理付き合わされてるんじゃないのか?>って心配されたこともあったなぁ」


 そんな捜索団員達の話を聞き、ミレイ女史は困ったような表情を浮かべながらもどこか楽しそうな納得の行ったような声を出し、デルク坊は何かを思い出したように言葉を発するのである。


 ミレイ女史よ、その研究職の括りにミレイ女史も入っていることは忘れているのであろうか?

 デルク坊の友達は、我輩のことを一体どんな悪徳研究者だと思っていたのであろうか?


 そんなことを思っていると、アリッサ嬢がこちらを見てニヤニヤとしているのである。


 「何であるか、アリッサ嬢」

 「なにを<心外である>みたいな顔をしてるのさ。帝都でも似たような評価だったし、別にいまさら気にすることないじゃないのさ」

 「それこそ心外である。我輩は…………」

 「まぁ、それだけ他人のことに心を向けるようになったって事なんだろうね。ただ、それが亜人種だけに向けられたものなのか、人間にも向けられているかがわからないんだよねぇ」

 「あぁ、分かります。アーノルド様の亜人種への敬愛度合いは非常に高いですからね」

 「人間にももう少し興味を持ってくれると…………」


 どうやら、アリッサ嬢とミレイ女史が話を脱線させはじめてしまったので、二人は放置してやり取りを唖然と見ていた親御殿の方に話を戻すのである。


 「我輩は、別に機嫌を損ねたりすることはないのであるが、現状のままで問題がないのであるならば研究等の兼ね合いもあるので現状維持をしていただけるのであればうれしいのである」

 「あ、ああ。今のところはこれといった問題も出ていないので大丈夫だと思います」

 「しかし、いつ見ても不思議な光景だな。横で文句を言われているのに全く気にしていないのだからな」


 横で楽しそうに我輩への愚痴をこぼしあっているアリッサ嬢とミレイ女史が気になる様子の捜索団員達に、デルク坊が呆れたような表情を浮かべて、


 「まぁ、おっちゃんだからなぁ」


 と言うと、我輩と愚痴を言っている二人を除いた全員が納得したかのように大きく頷いたのであった。





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