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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
10章 辺境の変化と霊木の管理集落、である
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いつもの中にも小さな変化である


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。






 森の工房へと戻り数日、求められている道具を我輩・サーシャ嬢・ミレイ女史の三人がかりで朝から晩まで作製しているのであるが、さすがは質の良い魔法白金・魔法金・魔法銀で作られた錬金術用の道具である。

 かなりの量があった素材を次々に消費していき、すでに半分以上の道具作製は終わらせることができているのである。


 ちなみに、我輩が魔法白金の釜、サーシャ嬢が魔法金の容器、ミレイ女史が魔法銀の釜で作業を行っているのである。

 正直なところ魔法銀の釜よりも魔法白金の手鍋の方が作業速度は早いのであるが、手鍋だと簡易魔方陣での作業しかできないので、危険管理と大量生産の効率的を考えてミレイ女史は釜での作業を行っているのである。


 「毎日毎日朝から晩まで同じ作業の繰り返しで飽きないのか?」

 「愚問であるな」

 「まぁ、そうだな」


 研究所時代から何回も行われてきた問答なので、我輩はもう答えるのも面倒なのである。

 そもそもこれは、飽きる飽きないの話ではないのである。

 仕事を頼まれているので、できるだけ早く丁寧な仕事をするのが当然のことで、飽きたからと言って手抜きをしたり納期を遅らせるというのは相手に対して失礼だというのは我輩の考えである。


 「ダンおじちゃん、お仕事とっても楽しいよ?」

 「同じ事の繰り返しとおっしゃいますが、魔法の研究と同じで少しずつですが新しい発見があって楽しいですよ」

 「料理だって同じものを作ってたとしても、ああすれば良かったとか考えるのは楽しいさね。あ、そろそろご飯できるからおいでよ」


 どうやら食事ができて我輩達を呼びに来たアリッサ嬢も話に加わるのである。


 「デルクは今日もやってるのか」

 「今日は茹でた粒をすり潰して裏ごしして、乳とスープを合わせたやつを作ってるよ」

 「あ、私あれ好き! 甘くておいしい!」

 「私も好きです。優しい味ですよね」


 アリッサ嬢の言葉を聞き、サーシャ嬢とミレイ女史は嬉しそうな表情を見せるのである。


 工房に戻り、今までとそれほど変化のない日常を送っているのであるが、小さな変化はやはりあるもので、デルク坊が厨房に立つようになったのである。

 といっても、厨房に立つのは狩りや食材採取のために出かける前の朝食時だけで、作る料理も好物である黄色い粒の付いた甘い野菜を使用したもののみであるが。


 川が干上がってしまったことによる水不足に悩んでいた、南方地方に入ってすぐの川の上流域にある集落の問題解決の手助けをした礼として、デルク坊の大好物である野菜と、その調理方法を書いたものを大量にもらったのであるが、デルク坊は工房に戻ってから毎日それらを再現しようと毎日懸命に頑張っているのである。


 最初のころは簡単に食材を茹でたり焼いたりというシンプルなものであったのであるが、ここ最近はアリッサ嬢の助力を得ながら少しずつ調理を挑戦し始めたようである。


 「シンプルっていうけどさ、シンプルなやつほど塩の加減や火の通し加減で味がだいぶ変わるんだよ。錬金術だって同じでしょうが」

 「確かにそうであるな、基本的な道具をしっかり作れるという事はとても重要なことであるな。失言であった」

 「こういうことに関しては素直なんだよなぁ…………」

 「我輩はいつも素直で謙虚である」

 「どの口が言ってんだよ…………」


 我輩の言葉を聞き、ダンは心底呆れたような声を上げると食堂へと一人足早に向かうのである。

 実は、デルク坊の作った料理を一番楽しみにしているのがダンであったりするのである。

 そういう立場になったことがないので想像でしかないのであるが、子供の成長を楽しみにしている親の気分なのかも知れないのである。


 「全く…………毎日ああだこうだ言いながら、誰よりもデルっちの作ったものを平らげてるのはリーダーだからねぇ。親にでもなった気分なのかねぇ…………」


 どうやらアリッサ嬢も同じ事を思っていたようで、それを口にすると、他の二人も同意をするように笑うのである。


 「さて、あたし達も行くかねぇ。サーちゃん、配膳を手伝っておくれよ」

 「うん!」

 「私も手伝います」


 アリッサ嬢の言葉にサーシャ嬢だけではなく、ミレイ女史も反応をして一緒に食堂へと向かって行き、工房に残るのは出遅れる形になった我輩一人だけになるのである。

 なので、我輩は食後の作業がしやすいように作業場の確認と簡単な整理だけ行い、食堂へと向かうのであった。






 「じゃあ、行ってくるよ」

 「行ってきます!」

 「ハーヴィー、センセイの子守も頼むぞ」

 「我輩は子供ではないのである」

 「あはは…………」


 食事を終えた我輩達は、食料と素材確保へと出るダン達を見送ると再び工房へと戻るのである。

 今まではアリッサ嬢かダンのどちらかが必ず留守番をしていたのであるが、ハーヴィーも留守を守るようになったのである。


 「まぁ、ハーヴィーもある程度探検家としての力も付いたしな、今度はセンセイの御しかたを学ぶ時期だな」


 ダンがそう言ったときのハーヴィーの引き攣った顔がとても印象的であったのである。

 ドランといい、我輩を問題のある人物であると思い過ぎなのである。


 まぁ、実際のところは猛禽獣人の女性のことが気にかかっているハーヴィーに気を使っているのであろう。

 事実、普段工房に来ることがほとんどないハーヴィーが、我輩達の仕事を手伝うといって工房へとやって来て、素材運びや出来上がった道具を倉庫に搬入したりしつつ、空いた時間で手引き書を読んでいたり、素材図鑑を片手に倉庫の中の道具や素材を確認したりしているのである。

 おそらく、獣人女性の意識を回復させることのできる方法を調べようとしているのであろう。


 「すいませんハーヴィーさん。調べ物をしているのに、手伝わせちゃって…………」

 「いえ、皆さんは森のみなさんのための仕事をしているのですし、すこしでも早く作業が終われば素人の僕よりも調べ物も進むと思いますし、僕のためでもあるんですよ」


 申し訳なさそうなミレイ女史に対し、ハーヴィーは何事でもないといった感じで返答を返すのである。


 「じゃあ、ハーヴィーおにいちゃんのためにももっと頑張らなきゃいけないね!」

 「ありがとう、サーシャちゃん。でも、慌てて作業をして失敗しちゃったらダメだから、慌てないで良いからね」

 「サーシャ嬢は集中に難があるので、ハーヴィーの言う通りである」

 「おじさんが一番余計なことを考えて失敗させちゃうでしょ!」

 「…………。気をつけるのである」


 我輩の言葉に対して、サーシャ嬢は頬を膨らませて抗議をするのである。

 言われたことはごもっともなことなので、我輩は何も言えないのである。

 いわゆる、藪を突いてなんとやらというやつである。


 「あはは…………。本当に僕のことは気にしなくて良いですから。仕事に集中してくださいね」


 ハーヴィーは、我輩達とサーシャ嬢のやり取りに困ったような笑顔を浮かべると、工房で何かをし始めるのである。

 我輩はその時に再び作業に取り掛かったので、何を行っていたのかその時はわからなかったのであるが、昼食を摂る時間に近づいてきたので作業を中断させると、工房がだいぶ綺麗になっていたのである。

 どうやら昼食を作る時間になるまでの間、素材の屑などで汚れてきていた工房を掃除してくれていたようである。


 「ハーヴィーさんって、気が利きますね」

 「アリッサおねえちゃんやダンおじさんも、お留守番をするときはお手伝いしてくれる事もあるけれど、お掃除まではしてくれないもんね」

 「まぁ、そこまで求めるのはすこし違うのである」


 同じく作業に没頭していて、それに気付かなかったミレイ女史やサーシャ嬢も周りを見て感心したような声を上げるのである。

 アリッサ嬢やダンも留守番時、工房にやってきたときは素材の補充や道具の搬入などは手伝ってくれるのであるが、掃除や道具の整頓などはしないのである。

 まぁ、それに関しては本来作業をする我輩達がしなくてはいけないことなので、そこまで求めるのはおかしいことなのであるが、それでも工房を綺麗にしてくれたというのは素直に嬉しいものであるのである。


 とはいえ、である。


 「ダンは手伝うのであるか? ここにいても我輩に茶々を入れるだけのような気がするのである。たまに手伝う時があったとしても必ず文句を言われるのである」


 我輩の言葉にサーシャ嬢はキョトンとした表情を、ミレイ女史は困ったような笑顔を浮かべるのである。


 何かおかしいことを言ったのであろうか?


 「それはおじさんの時だけだよ。私たちがお願いする時は、何も言わないで手伝ってくれるよ」

 「それは初耳である」

 「錬金術師アーノルドは、錬金術をしているときはそれに関係している事柄以外には興味がなくなるからね」

 「それだけ、隊長はアーノルド様と仲が良いと感じているということですよ」

 「そんな仲の良さなど迷惑なだけである」

 「はいはい、おじさん。ご飯食べに行くよー」


 我輩の言葉に三人ともやれやれといったような表情を浮かべると、昼食を摂りに行くべく我輩とともに工房を後にするのであった。






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