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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
10章 辺境の変化と霊木の管理集落、である
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いつもの日常に戻るのである


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。






 様々な出来事と思わぬ出会いを果たした南方地方への旅路を終え、我輩達は森の工房へと戻ったのである。

 今年に入ってからというもの、東方都市、帝都、南方地方と様々な場所へと赴いていたために、妙に森の工房に懐かしさを感じてしまうのである。

 これでじっくりと本腰を入れて錬金術の研究に邁進できると思っていたのであるが、なかなかそうは行かないものなのである。


 と、いうのも。


 「アーノルド様、私とサーシャちゃんで取り急ぎ作業に移るので、素材の選別と搬入をお願いします」

 「わかったのである」

 「頑張るね!」


 工房について早々に我輩達が見たのは、家の前に大量に置かれている素材の山と、いくつかの書き置きがあったからであった。

 どうやら、我輩達の作った道具の情報が次々に広がったことと、どうやら深部のとある場所で獣や魔獣などのが爆発的に増えたことにより被害が増えているからのようである。


 「そんなことがあるのであるか?」

 「おれがまだ小さい頃に北の方で魔物がいっぱい出たのに気付かなくて、人間のところまで行かせちゃったことがあったっておじさんに聞いたことがあるよ」


 時期が時期ゆえに、品質が劣化してしまった素材などを選別しつつ書き置きのことについてデルク坊に尋ねると、そう返答が返ってきたのである。


 頻度はそれほど高くはないものの大森林では時折起こる災害のようなもののようで、帝国で数年に一度起きる虫の大量発生による被害と同じ性質のもののようである。

 同じく作業をしていたダンとアリッサ嬢が、デルク坊の話を聞いて合点の行ったような表情を浮かべるのである。


 「あぁ、あれか?」

 「だねぇ」

 「何の話であろうか」

 「所長達が若い頃に遭遇した、大量の魔物退治のやつさ」


 ダンの言葉に、我輩は納得の表情を浮かべるのである。


 [剛剣の破神][暴虐の槍神]という物騒な二つ名を持つ、探検家ギルドのグランドマスターと本部所長である兄弟の武勇伝の一つに、北の山脈から麓の集落へと襲来してきた大量の魔物達を次々に撃退したというものがあるのであるが、おそらくそれのことを言っているのであろう。


 記憶を探ると、そういえば過去の文献に大森林や西の荒野、南の海でもそういうことが何回か発生している事があったことを思い出すのである。

 いずれも帝国に大きな被害を与えているものであり、武勇伝のように魔獣達の撃退に成功したという事例はあまりないのである。


 魔物や魔獣は、己の生育区域から出ると弱体化する傾向があるのにもかかわらず、当時の帝国が撃退をすることができなかったというのは、それだけ当時の人間達の力が低かった事の証拠であり、長い年月をかけてようやくここまでこぎつけることができたのである。

 とはいえ話を聞くかぎりでの想像であるが、現在の騎士隊や開拓団の能力よりも数百年前にアルケミー伯爵が率いていた軍の方が遥かに強力な気がするのである。

 彼らは最終的にはノヴァ殿の力を借りることなく大森林の深部まで進むことができたのだから。

 そして、そんな彼らよりも少数でダン達は研究所時代の時から大森林の深部や北の山脈を探検していたので、その異常さが伺えるというものであり、我輩がどれだけ恵まれているのかというのも理解できるものである。


 まぁ、口に出すと図に乗るので絶対言わないのであるが。


 「錬金術師アーノルドは素直じゃないねぇ」

 「妖精パットン、心を読むのは止めるのである」


 そう思った直後に、いつものように我輩の頭で寛いでいる妖精パットンが余計なことをいうので抗議をするのである。

 とはいえ実際の理由はなんとなくわかっているので、その抗議は形式的なものである。

 それがわかっているので、妖精パットンも我輩の抗議を意に介さないのである。


 「あはは、違うって。前も言ったけれど、最近は錬金術師アーノルドの頭の上にいると何を思っているのか何となくわかっちゃうんだってば」

 「まぁ、それは我輩にも何となくわかるのである。不思議なつながりであるな」

 「ふふふ、ボクがニンゲンだったら、きっと錬金術師アーノルドとは良い関係になれたんじゃないかな?」

 「すでに、良い関係は築けているのではないのであろうか?」

 「あはははは、そういう意味じゃないけれどね。まぁいいや」


 妖精パットンは意味ありげな表情を見せると、我輩の頭から離れて家の中へと入っていくのである。

 おそらくサーシャ嬢達の作業を見に行ったか、それともハーヴィーが寝かせに行った猛禽の獣人の様子でも見に行ったのであろう。


 南方地方での戦いで、もう一人の森に民に取り憑いていた憑依の魔物と共に蛇海竜が暴れる結界の中に閉じ込められた結果、片腕片足を失う大怪我を負い意識を失ったままいまだに目を覚まさないのである。


 怪我に関しては、腕の方は欠損部位がほぼ綺麗に残っていたのでキズいらずの再生効果で繋げることができたのであるが、足の方は蛇海竜に無残に潰されてしまったようで、現在我輩が作れる薬やサーシャ嬢の回復魔法では元通りにすることはできなかったのである。

 ただ、南方地方の森の民達に話を聞いたところ、本人が元の足の状態をしっかり認識したうえで魔法をかけることができれば時間はかかるものの再生させることは可能であるということである。

 つまり、彼女が意識を取り戻さないかぎりこれ以上の治療は不可能であるということなのであるが、問題はいまだに目を覚まさないという事なのである。

 最初は、蛇海竜に襲われて大怪我をした際のショックか何かで気を失っただけだと思っていたのであるが、なかなか目を覚まさないので妖精パットンや集落にいた夜の一族達に調べてもらったところ、詳しい原因はわからなかったものの、どうやら彼女は心神喪失に近い状態にあるということである。

 もともとそういう状態だったのか、それとも隣にいた憑依の魔物が死の間際に魔法で彼女の精神を持って行ったのか、それはわからないのであるがとりあえず今のままでは自然に目を覚ますことはほぼないという事だけはわかったのである。

 夜の一族にも妖精パットンにも失った【意思】の構成魔力を回復させる方法は知らなかったため、錬金術的に回復させる方法の調査を、情報収集のため、そして、自分の祖となるであろう彼女の面倒をかいがいしく看ているハーヴィーのためにも早めにしなくてはならないのである。


 なのであるが、とりあえずは今目の前にあるこの素材の山の仕分けと、亜人種のための道具作りを優先して行うことにするのである。

 こうやって、民のために仕事をするのは喜ばしいかぎりなのであるが、研究の時間がなかなか取れないのは大変である。


 きっとであるが、ノヴァ殿も同じようなことに悩んだゆえに東方都市で研究機関を作ったのであるし、それが難しいからこそ大森林に戻ってからは、いつか自分の子孫か我輩のような後進に受け継がせるべく一人でひっそりと研究に勤しんでいたのかもしれないのである。


 ポルト坊達に行った手前もあるのであるが、研究所時代以上の忙しさを感じつつある我輩は、捜索団の面々がこちらにやって来たときに新しい施設の建造について相談してみようと心に決めながら、素材の選定作業に勤しむのであった。





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