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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
9章 南方地域の大森林と誘拐事件、である
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南方地域から戻るのである②


 我輩の名はアーノルド、自由気ままに生きる錬金術師である。






 南方地方から辺境の大森林へと戻る我輩達は、南方地方へと向かう時に立ち寄った深刻な水不足に悩まされていた上流域の村へと、現在の状況確認と数名の用事のために立ち寄るのである。


 「ドラン、そわそわしてるねぇ」

 「してねぇっすよ」

 「無理も無いですよ、もう少しでクリスさんに会えるんですから」

 「普段と変わんねえって……考えすぎってもんだよ」


 ダンが高速で牽いている荷車の上でアリッサ嬢にからかわれたドランは、否定をするも即座のミレイ女史の追撃に苦笑いを浮かべるのである。

 どうにも、港町での一件以来ドランはその件について女性陣にからかわれることが多くなったのである。


 とは言え、時折満更でも無い表情を浮かべたりする時点で、我輩もドランがクリス治療師と会えることを心待ちにしているというのは理解できるのである。


 しかし、婚姻するとなったら二人はどうするのであろうか。


 こう言ってはあれであるが、ドランが我輩達の元を去ることは考えにくいので、おそらくクリス治療師が我輩達の元へと来るという事なのであろう。

 水面下で森の民との接点を持ちたいと考えている帝国治療院としても、クリス治療師とドランの婚姻は都合が良いの筈なので、特に障害無く婚姻にこぎつけるのと思われるである。


 それは良いのであるが、妖精パットンの魔法や最近では障壁石や結界石等の防衛手段も増えたとはいえ、当然大森林での活動は、普段の探検家の活動よりも危険が多いのである。

 新婚の二人をそんな場所に引き回して良いのであろうかと我輩のような善良な帝国民は心配になるのである。

 まぁ、ドランは新婚であろうが何であろうが当然のように同行するとは思うのであるが、クリス治療師はようやく得た伴侶とすぐに別れるというのは寂しいものがあるのでは無いかと思うのである。


 折を見て、ダンに聞いてみようと思うのである。

 我輩は、この集団の責任者として、皆の幸せを考える責務があるのである。

 今の構成員であるドランはもとより、これから関係者になるクリス治療師の事もである。


 まぁ、我輩が余計な事をせずとも二人とも良い大人である。

 ちゃんと二人でどうするかくらいは考えるのであろうと思い直し、我ながら珍しく余計な世話を焼いているなと、いつのまにかドランをからかう輪にサーシャ嬢が加わったのを見ながらそう思うのであった。






 「うおぉ……ハーヴィーの言ったとおり、すげえ事になってるな」


 ダンが眼前に広がっている光景に驚いた声を上げているのであるが、声を出さずにいるのであるがおそらく我輩達のほぼ全員が似たようなことを思っているのである。


 村の外に、数多くの探検家、治療師、そして南方都市から港町へ蛇海竜の討伐とここの作業のために派遣された者達が作った簡素ではあるがしっかりとしたキャンプが、張られていたからである。

 さすがに受け入れる準備をするとしてもこの人数はさすがに収容しきれなかったようである。


 「しかし、思ったよりも規模が大きいのである」

 「なんか、店を広げている人もいるよ?」

 「どっかから情報を仕入れてきた商人や、ここの連中や近くの住人だろうな。こういう大規模な事業の時は稼ぎ時だからな」


 商人とは、いや、人間とはたくましいものである。


 「食べ物の店がいっぱいある!」

 「まぁ、これだけ人がいればな。良い商売になるだろうな」

 「水を売ってはいないようであるな」

 「まぁ、治療師達もいるし、今だと()()もあるしな」


 ダンが指差したところには上に網が敷かれてある樽のようなものがあり、そこに何株かの水産み草一つの鉢にまとめられて置いてあるのである。

 樽の下には水の出水口が作られており、そこから貯めた水を出して利用するようである。

 水の確保のためにこうしているのはわかるのであるが、これだけ水産み草を密集させてしまうと周囲に繁殖してしまうのではないのであろうか?


 と、ちょうどそこに見かけたことがある村の若者が通り掛かったので、どうしてこのようにしているのか聞くべく声をかけるのである。


 「そこの若者、少し聞きたいことがあるのであるが」

 「はい? え、あ、ああ! お久しぶりです!」


 これから一仕事あったのか、一瞬迷惑そうな表情を浮かべた若者であったが、声をかけたのが我輩達と気付くと、笑顔を見せてこちらへとやってくるのである。

 そうして話を聞いてみると、これはキャンプ地だけではなくて村の数箇所にも同様のものが作られているらしく、現在では貴重な水源になっているようである。


 「本当にこの水はおいしいですよね! 洗濯や農作業に使うのがもったいないですよ!」


 水の味はやはり上々の上にこの時期は暑いので、皆こぞって水を飲みに来て生活用水に使う分が足りなくなりかけた事があったようで現在では飲用の制限がかけられているようである。

 当然のことではあるのであるが、さすがに水不足を解消するほどには水場を作れていないようである。


 「こんなに集めたら繁殖しないのか?」

 「学者様がいうには、この繁殖用の茎が地面に接しない限りこれ以上の繁殖しないはずだと言っていました」


 そう言って若者は、水産み草から伸びている数本の横へ向かって細く伸びている茎を指差すのである。

 どうやらこれが地面に接して根を張ることで元の株と切り離されて、新しい水産み草の株へと変化していくようである。


 「へぇ、そこまで調査ができてるんだねぇ」

 「へー。植物って花から種ができるものだけだと思ってたよ」


 感心したようにアリッサ嬢がそう漏らし、デルク坊は興味深げにしみじみと水産み草から生えている繁殖用の茎を触るのである。


 「どうやら、成育にちょいど良い環境だと一日かそこらで根を張って繁殖するらしくて、何ヶ所かで作業が滞っているみたいです。あと、最近はおさまってきたみたいですが、少し前は獣や魔獣の邪魔がしょっちゅう入ったらしくて警戒のために作業速度が遅くなっているのも原因のようです」


 若者が気になることを言ってきたので詳しく話を聞いてみたのであるが、どうやら我輩達が南方の大森林の問題を解決してから数日後から野犬や二本角の猪、大きな蛇などが作業中に襲いかかってきたことがあったようである。

 おそらく我輩達同様に北の方へと向かうか、逆に南の方に向かう最中の連中様子を見て作業の妨害に差し向けたのであろう。


 港町で聞いた話と食い違って来ているのは、まだこの情報が入っていなかったからなのであろう。


 「良かったら村の中に顔を出していってくださいね! 絶対喜びますよ!」

 「分かったぜ。ありがとうな、兄ちゃん」


 ダンの返答に嬉しそうな笑顔を見せると、若者は自分の作業に戻っていくのである。


 「今の若者の表情を見てそうであるが、以前来たときよりも明るい表情になっていてよかったのである」

 「まぁ、水不足の解消の目処も立ってきたし、まだ不自由しているとはいえ、水の確保もできてきているからな」

 「水は生きる上で食料以上に一番重要だからね」

 「水が良いところは食事も良いって言いますからね」

 「ってことは! 今はここのご飯が凄く美味しいってことじゃんか!!」

 「お兄ちゃん…………」


 ハーヴィーの言葉に即座に反応してそわそわし出すデルク坊に、サーシャ嬢は呆れたような困ったような表情を浮かべるのである。


 「まぁ、村や作業をしている者の迷惑にならない程度にならば良いと思うのである。我輩とダンは村長のところへ向かうので、アリッサ嬢はデルク坊達の面倒をよろしく頼むのである」

 「あいよ。じゃあ、デルっち達の面倒はあたし達が見るから、ドランはさっさと治療団のところへ行っておいで」

 「まるで俺が治療団に用事があるみたいじゃないっすか」

 「無いのかい?」


 アリッサ嬢にからかわれるように言われたドランは苦笑いを浮かべながら頭を掻くと、軽く頭を下げると我輩達から離れていくのである。


 「じゃあ、あたし達はこのあたりか村の食堂にいるから、用事が終わったら来ておくれよ」

 「わかったのである」


 こうして我輩達はアリッサ嬢達と別れて上流の村へと入るのであった。





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