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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
2章 辺境の集落と新しいメンバー、である。
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楽しい会話は中々終わらないのである


 我輩の名はアーノルド、帝国唯一無二の錬金術師である





 「さて、どこまで話したっけ?」


 二人きりになった居間で、妖精パットンは我輩にそう尋ねてきたのである。


 「妖精パットンは、意思疎通の魔法を使っていると言う話であるな」

 「あぁ、そうそう。だから、言葉の問題は解決できるよね」

 「質問である。パットンの魔法範囲外から発せられた言葉、または範囲外にいるものにはどういう現象が起きるのであるか?」

 「僕の魔法の効果範囲の中で聞いている限りは、どんな言葉や文字でも認識できるよ。それは、ここでも一緒でしょ?」


 我輩は、妖精パットンの言葉に頷くのである。

 最近それを利用して魔法の効果範囲を出たり入ったりして言語の勉強をしていたのであった。


 我輩は納得すると次の質問をするのである。


 「では、妖精パットンが使う意思疏通の魔法の効果範囲はどれくらいであるか」

 「今の僕が一日維持問題なくできる範囲は、この家の半分くらいかな。短時間でよければ、大声をあげて話すくらいの距離までは広がるよ」


 つまり、妖精パットンが常にサーシャ嬢達といる状態であれば、ある程度の距離でも普通に会話が出来るということである。


 「対象は全ての生物の言葉なのであるか?」

 「獣とかの鳴き声も無差別に認識してしまわないかって事を心配してるのかい?」

 「そうであるな」


 範囲内に聞こえる獣の言葉まで人の言葉のように認識してしまったら、困るのである。


 「今もそうだけど、別に君たちの言葉として僕の言葉を翻訳してる訳じゃないからね? "今、こう言ってるんだなぁって"理解する魔法だからね?」

 「つまり、いつもより獣の気持ちが分かるなぁと思うということであるな」

 「そういうことだね。まあ、心配だったらさ、ちょっとボクが大変だけど魔法の対象を決めることも出来るから安心してよ」


 妖精パットンはそういうと茶に口を付け、茶菓子がわりの砂糖をゴリゴリ音をさせながら美味しそうに食べているのである。

 こうして見ていると女子のようにも見えるのであるが、飛び回って話をしている様は、兄君のような元気のいい男子にも見えるのである。


 「あぁ、甘くておいしいねぇ。でも、君達のお菓子もおいしそうだよ。食べてみたいね」

 「ひとかけら譲渡してもいいのである」

 「本当かい? ありがたいねぇ。………では早速」

 

 そう言うと、妖精パットンは我輩のところから茶菓子をひとかけら取っていき、食べるのである。


 何とも、だらしの無い顔になったのである。


 「ああああぁぁぁ。なんだいこれは。今までサーシャ達のところで食べさせてもらったもののどれよりも美味しいよ」

 「アリッサ嬢の手作り菓子である。サーシャ嬢達にもとても好評である」


 妖精パットンは、納得のいった顔を浮かべるのである。


 「これは、美味しくなるよ。アリッサの【意思】の構成魔力が溢れてるもの。彼女は、料理に作ると原初の魔法が発動するようだね」


 だから、アリッサ嬢の食事は美味しいのであるか。

 と、そこで一つ気になって確認するのである。

 

 「ひとつ聞くのであるが、以前よりもアリッサ嬢の食事が美味しく感じるようになったのであるが、意思疏通の魔法と何か関係しているのであるか?」

 「それはきっと、アリッサの料理から溢れてる【意思】の構成魔力を、この家の意思疏通の魔法によって認識できるようになってるからだろうね。所謂、アリッサの気持ちが伝わってるんだよ」


 何となく理解した我輩は、妖精パットンに頷くのである。


 それにしても、料理などにも原初の魔法とやらは影響を及ぼして味の向上ができるのであるな、言われてみると納得なのである。


 そう思った瞬間、我輩に嫌な記憶が蘇ったのである。


 そう、リリー嬢の拷問菓子(アレ)である


 リリー嬢のイライラが募ったときのアレは、菓子の本来ある味の認識が狂うほどの魔法が込められているということなのであるか。

 なので、その話を妖精パットンにしてみたのである。

 




 「ぶふっ!!?」


 話を聞いた妖精パットンは、飲んでいた茶を思い切り噴いたのである。

 それほどまでなのだろうか


 「それ、本当の話!? 材料に、腐ったものとか、怪しいものとか使ってないの?」

 「アリッサ嬢が同じ材料で作ったって言っていたのである。アリッサ嬢の言葉を信じるならば使用したものは同じで、手順なども同じである」


 机に溢した茶を拭きながら、焦った感じで話す妖精パットンの言葉に、我輩頷くのである。


 あれはダメである。


 今でも思い出すと体の底から震えて来るのである。

 同じ被害に遭ったことがあるダンならばきっと理解してくれるはずである。


 「すごいね。多分、それは本来あるものとは完全に違うものとして認識させる……所謂、ボクが使う認識阻害の魔法と同じだよ」

 「それほどのものなのであるか」 

 「原初の魔法が出来ることは、アリッサの料理のように素材の良さを引き出したり、食べた人に美味しいなぁ、幸せだなぁって感じるようにしたり、その反対にしたり程度することだよ」

 「つまり、絵を見たり文を見ても、悲しかったんだな。とか辛かったんだな。という影響しか与えられないということであるか」

 「そうだよ。だからね、本来甘いものを全く違う味に変えてしまう。何て事は、原初の魔法ではできないんだよ」

 「つまり、リリー嬢が使用しているのは原初の魔法ではなく意思の魔法ということであるか」

 「そういうこと。でもね、人間にも亜人種にも意思の魔法は使えないんだ。種族の枠というものがあるから。つまり、リリーっていう子は魔の冠を抱く夜の一族の強く血が出てるんだろうね」

 「夜の一族は魔者なのであるか? 敵ではなかった筈なのであるのである」


 我輩は、妖精パットンの言葉に驚いたのである。

 夜の一族は、我々と共に帝国を築いた友のはずである。

 なぜ、魔者といわれなければならないのであるか。


 「あぁ、君達って今そういう種族分類の仕方なの?」

 「そうであるな、友好的にならない者に魔の冠が付いているのである」

 「それ、間違ってるから直した方がいいよ」


 妖精パットンは、机の上から舞い上がり、ふわふわ漂いながら言葉を重ねていくのである。


 「本来の意味は、様々な代償を払ってその種族の枠を越えた特性や魔法や能力を身に着けてしまったものが、魔の冠を着けているんだよ」

 「しかし、魔者も魔獣も常軌を逸しているのである」

 「代償を払ってと言ったよね。例えばだけれど、獣人というのは、何らかの理由で人間になりたいという願った獣が、何世代もかけて人間に近づいていったものなんだとされている。これは進化というね」

 「それは、物語で聞いたことがあるのである」

 「じゃあ、飼っていた獣がある日突然君達がわかる言葉を発するようになったとしたら? それは、獣人かい?」

 「違うと思うのである。それが、種族の枠を越すということであるか」


 進化の過程とは別の過程で、特性を変化させていったものが魔の冠を持つもの達なのであるか。

 妖精パットンは、我輩のもとに降りてきて耳元で囁くのである。


 「そんな変化を急激に起こすためには、それこそ常軌を逸するほどの願い、つまりは【意思】の構成魔力が必要さ。普通の精神でそれほどの原初の魔法を使用・維持できると思う?」

 「無理であろうな」


 今度はまた飛び上がり、頭の回りをくるくる回るのである。

 落ち着きのないやつである。


 「そう。ほとんどは意思の構成魔力が尽きて死んじゃうし、成功しても意思の構成魔力が暴走して常軌を逸した状態になるんだ」

 「なるほどである」

 「だから、自分の種族としての特性や魔法適正など、様々なものを代償にすることで、精神を保つことを選んだのさ。それでも、ダメだった場合も多かったみたいだけれどね」

 「その一例が、夜の一族であるか」

 「そういうことさ。彼らは太陽の下で生きれるという、生物としてはかなり根本的な特性を主な代償にして、意思の魔法の適正獲得と自分の精神を保つことに成功したんだ」

 

 妖精パットンの説明に我輩は大きく頷くのである。


 「そうなると、リリー嬢は夜の一族なのであるか?」

 「種族としての分類でいったら多分その子は人間にあたるんじゃないかな。特性的には人間だし。でも、夜の一族の血が強く出てるから、魔法能力は高いし、限定された条件下でのみ、意思の魔法が使えるんじゃない?」


 そう言ったのであった。


 まぁ、それはここで話してもきっとこれ以上は答えなどでないし、知ったところでどうしようもない話である。


 それよりも、我輩はずっと疑問に思っていた事を尋ねてみるのである。


 「妖精パットンよ、貴殿は自らが妖精ではない事を暗に述べていたのである。貴殿は何者であるのか?」


 そう、自己紹介のときなども、君達が妖精と呼ぶ、と名乗りをあげ自分が妖精ではない事を仄めかしていたのである。

 

 「それは、ただ単にボクは自分から妖精と名乗ったことはないからだよ。あとね、信じてもらえないと思うけど、ボクが何の種族なのか、分からないんだよね」

 「分からない、であるか」


 先程まではっきりと答えていたパットンであったのであるが、明らかに困った表情を浮かべるのである。


 「うん。種族の特性なのか、枠を越えた代償なのか分からないけれど、ボクの記憶と知識と感情は穴空きなんだ。すごく昔の事も何となく覚えてたりするけど、変な話だけどここを最後に出てから、最近サーシャ達のことを思い出すまでの間、ボクは何をしてたか思い出せないんだ」

 「にわかには信じられないのである。」

 「ボクもそう思うよ。だけどね、実際そうだから信じてもらうしかないんだよ」

 

 どうやら本人もそれなりに困っているようである。


 別に、これは我輩の興味本意であるし、嘘をついている感じにも見えないのである。


 「別にいいのである、我輩が気になっただけである。特にサーシャ嬢達に危害を与える存在でなければなんの問題もないのである」

 「そこは信用して欲しいな、錬金術師アーノルド。ボクはサーシャ達が大好きなんだ。もちろん、君達もだよ」


 そういって、妖精パットンは笑顔で飛び回るのであった。


 「おじさん、まだ話してるの?」

 「なんとか、許してもらえたぜ」


 そう我輩に声をかけながら、サーシャ嬢とダンが階段を降りてきたのである。

 あまり長く話していたつもりはなかったのだが、結構話していたようである。


 アリッサ嬢と兄君は、まだ追いかけっこを続けているようである。


 「さて、ちょうどいい感じだね」


 妖精パットンは、我輩達を見て、






 「サーシャ達も来たし、そろそろ話を戻そうか」


 そういって、もうひとつの魔法の説明を始めるのである。






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