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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
9章 南方地域の大森林と誘拐事件、である
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南方地域から戻るのである①


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。






 一応の成果は上げつつも、何とも消化不良な結末を迎えてしまった今回の一件を経て、我輩達は森の工房へと戻る事にしたのである。


 「ありがとうございました。皆様が来て下さらなければ一体どうなっていたことか」


 夜が開ける少し前の時間、ポルト坊達の集落を出発するに辺り見送りに来てくれたポルト坊やゾロン氏、集落長をはじめとした集落の者や、周辺集落から使者としてきていた者達が深々と頭を下げるのである。


 「いや、結局根本の解決につながる情報を手に入れることができなかったので、まだまだ警戒を続けていかなければならないのである。半端な結果になってしまって申し訳ないのである」

 「まぁ、それも半分くらいはセンセイのせいだけどな」

 「おじさんだって、みんなにたくさん怒られてちゃんと反省してるんだからいじめないで!」

 「お、おう。悪かったよ、嬢ちゃん」


 からかうように我輩にそう言葉を発するダンを、サーシャ嬢が咎めるのである。

 最初はみんなに混じって注意をしていたサーシャ嬢であったが、事あるごとに口撃されているのを見てさすがに同情的になったようで、今では我輩の味方をしてくれるのである。

 とはいえ、我輩がダン達にこの件で抗議をすると今度は我輩が咎められてしまうので、とりあえず我輩は黙っているのである。

 なんか、保護者に守られている子供の気分である。


 「悪いな、人間のいざこざに巻き込む形になっちまったからな」


 そう、今大森林で猛威を振るっている憑依の魔物は、帝国に恨みを持つ者に憑依したものの意思が元になっているのである。

 そう考えると、東方地域でのリスの獣人達や目の前にいる者達は人間のいざこざに巻き込まれて被害を受けていることになるのである。

 帝国や我輩達に恨みに感情が向かっても致し方ない部分も多くあるのであるが、しかし、彼等は全くそうは考えていないようでダンの言葉に首を横に振るのである。


 「きっかけはそうだったとしても、それは他の種族に恨みを持つ者に魔物が憑依をしたとしても同じ状況になったかも知れません。この森での出来事は森に住む者全体の問題です。あまり気になさらないで下さい」

 「そうだ。もともと憑依の魔物は森に住む我々の敵だからな。俺達も近隣の集落ともっと連携を取って事にあたって行くつもりだ」

 「北の方からも情報が下りて来るだろうが、こちらからも北上して情報を回していき、森全体でこの問題に取り組んでいくようにして行くつもりだ」


 集落長に続き、ゾロン氏や他の集落の使者達も口々にそう述べていくのである。


 「互いに状況が落ち着いたら、ポルトや希望者を連れてそちらにいくのでその時はよろしく頼む」

 「わかったのである。これから忙しくなるのである」


 どうやらポルト坊をはじめ、数人の者達が錬金術に強い興味を抱いたらしく、錬金術を学びたいと申し出てきたのである。

 気持ちとしては即受け入れたいところであるが、彼等を受け入れる宿舎や工房、それに錬金術用の釜を作らないとであるし、集落側もまだいろいろな処理が残っていてそれどころでは無いのである。

 向こうへ戻ったら森の集落の皆に協力してもらって受け入れ準備を整えていかないといけないのと同時に、魔法金属の確保も行わなければならないのである。

 北の山脈に魔法金属の鉱脈が多いので、今度は北方地域に行く事になるのであろうか。


 そんなことを思いつつ、我輩は別れの挨拶を交わして南方地域の大森林を離れるのであった。






 大森林を移動しながら気になる植物や獣の素材などを確保しつつ移動をする我輩達は、港町に一度足を運ぶのである。

 蛇海竜の問題が片付いてそれなりの時間が経過したので、どれほど復興したのか気になったからである。


 「そうですか。大森林内ではそのようなことが起きていたのですか」


 立ち寄った治療院長は、港町を出発した後の話をじっくりと聞くと静かにそう答えるのである。


 「大森林の方だとそんな感じだったんだがな。こっちはだいぶ賑わいが戻ってきたな」

 「人の噂や話というのは広がるのが早いということでしょう。一時ここを離れていた探検家や商人達も続々と戻って来ております」

 「まぁ仕方がないとは言え、都合の良い連中だねぇ」


 アリッサ嬢の呆れたような表情に、治療院長は苦笑いを浮かべながら曖昧に返答を返すのである。


 「ところで治療院長、水不足の方は一体どうなったいるのであるか」

 「南方都市から派遣されてきた方々には、事情を話してこちらの復興作業と上流域の撤去作業に行く方々に別れていただきました。数日前に鳩便で連絡があったのですが、時折獣や魔獣と思われるものの妨害があるものの、比較的順調に作業が行われているということです」


 我輩の質問を聞いた治療院長は、穏やかな表情を浮かべたまま答えるのである。

 あの魔物の群れからの妨害がもっとあると思っていたのであるが、どうやらそれほど重要な事ではなかったのか、そこまでの知恵がなかったのか、我輩が予想していた程には抵抗や妨害がなかったようでよかったのである。


 「ですが、どうやら繁殖能力が思った以上に高いらしく、皆様が調査した区域よりも広範囲に植生が広がっていたらしく、作業の終了にはまだ時間がかかるようです」


 それほど問題でもないように治療院長が言葉を続けたのであるが、繁殖能力が高いという事は、気をつけないと繁殖区域がどんどん拡大してしまうということである。

 もしかしたら、そういうこともあって連中は、水産み草をある程度植えてから放置したのかもしれないのである。


 そういわれれば確かに、我輩達が確認した場所は不自然に植えられていた感じであったが、広がっていくにつれて無造作に繁殖していた感もあるのである。


 そう思うと、水産み草のサンプル採取を一株だけにしておいたのは正解だったのかもしれないのである。


 「…………私も偉大なる先人である、彼等の集落へいつか行ってみたいものです」

 「今度連中に会ったときに聞いてみようか? 集落の訪問は難しいかもしれないけれど、このあたりの大森林内でなら会っても良いっていうかもしれないぜ」

 「機会があれば是非お願いいたします」

 「サーちゃんやデルっちもそうなんだけれどねぇ」

 「まぁ、子供と大人じゃあ違うだろ」

 「面目ないです…………」


 などと、多少脱線したことを考えている間に、ダン達と治療院長はどうやら大森林内で会っていた森の民の会話になっていたのであった。


 サーシャ嬢達を前に落ち着いた対応をしていた治療院長であったが、やはり森の民に対する強い憧れを持っていたようである。


 その後、復興した町でおいしい海産物等を堪能して戻ってきたサーシャ嬢達の話を聞いたり、ディンゴの馴致に挑戦して失敗したりしつつ、一晩を明かして港町を後にするのであった。






 港町を後にした我輩達は、少し急ぐかたちで北上して上流の村へと急ぐことにしたのである。


 と、いうのも、我輩達も水産み草の撤去作業を手伝おうと思ったのと、


 「おっちゃん! 早く行こうぜ!」

 「旦那、できれば急いでもらっても良いですかね?」


 デルク坊とドランが上流に行くことを急かしたためである。


 デルク坊に関しては、上流の村で件の野菜の収穫時期になってきているので、もしも水産み草によって状況が改善されているのならば、礼として野菜をもらえる可能性があるというのがあるのであるが、ドランまでとは珍しいこともあるのである。


 「そんなもの、クーちゃんに会いたいからに決まってるでしょうが」

 「そんな慌てなくても、作業が終わるまではいるはずなので慌てる必用などは無いはずなのである」

 「分かってないねぇ…………」


 と、珍しく荷車を牽いているダンを軽く急かしている二人を見つつ、生じた素朴な疑問をアリッサ嬢へと投げかたのであるが、アリッサ嬢をはじめとして、話を聞いていた女性陣にため息をつかれ、


 「アーノルドさんが思っているよりは、ドランさんはまめな性格ですよ」

 「この中では錬金術師アーノルドくらいだよ、そういうところが杜撰な性格なのは」


 どうやら横から話を聞いていたハーヴィーと妖精パットンにも一言もらうのであった。


 失礼な。

 それではまるで、我輩が人の心境を読めないみたいな言われようである。


 そう思ったのであるが、そう抗議したところで、そうだ、と言われて終わりそうな気もするので、無駄な抗議をするのはやめ、気持ちを切り替えることにしたのであった。



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