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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
9章 南方地域の大森林と誘拐事件、である
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予期せぬ形の騒動の終わりである


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。






 蛇海竜の噴射する高圧の水攻撃に対して嫌がらせで対抗した我輩達は、その流れで敵の対処に当たるのである。

 敵の制圧はダン達に任せ、事が落ち着くまで我輩は妖精パットンと新たに展開した結界の中で待つことにしたのである。


 「ダン達であるから問題は無いと思うのであるが、大丈夫であろうか」

 「何も問題ないと思うよ」


 我輩の心配に対し、妖精パットンは淡々と返答を返してくるのである。


 「相手は一体とはいえ、暴れ回っている巨大な蛇海竜と、意思の魔法や水の魔法を扱う成長した表意の魔物と猛禽の獣人である。何でそういいきれるのであるか」

 「さっきも言ったけれどさ、蛇海竜が暴れ回った際に相手から強烈な恐怖の意思を感じたんだよ。そして、蛇海竜が暴れ回る轟音と慌てて結界を切るように言ってきたハーヴィー。それって、つまりどういうことかわかるかい?」

 「さっぱりである」

 「本当に錬金術師アーノルドは、変なところで察しが悪いね」


 我輩の返答に、妖精パットンはそう言って大きなため息をつくと何も言わなくなるのである。

 それは別に良いのであるが、頭をげしげしと蹴飛ばすのはやめてほしいのである。


 妖精パットンとの会話も終わったことでやることがなくなった我輩であるが、暫くすると蛇海竜の暴れる音がしなくなるのである。

 どうやら、ダン達が蛇海竜を仕留めたようである。


 「妖精パットン、終わったのであるか?」

 「そうだね。蛇海竜のものらしき意思の構成魔力は無くなったね」


 蛇海竜の退治が終わったとは言え、まだ敵の制圧が終わったわけではないので先程同様に結界を張ったままにしていると、奥の方から人影がこちらにやってくるのが見えてくるのである。


 「終わったよ、センセイ」


 何者かと、少し警戒していた我輩に人影、蛇海竜のものと思われる返り血を浴びたアリッサ嬢がやや困ったような表情を浮かべながらこちらにやって来てそう言うのであった。


 「思ったよりも早かったのであるな」

 「まぁ、対処しなきゃいけなかったのは暴れ回っていた蛇海竜だけだったからね。しかも、何か既に少し弱ってたし」

 「憑依の魔物と猛禽の獣人はどうしたのであるか?」

 「それを答える前にさ、センセイは一体どんな結界を張ったのさ」


 アリッサ嬢の質問に、我輩は妖精パットンに言ったのと同様の説明をするのである。


 「あぁ、なるほどねぇ…………。やっちまったもんはもう仕方がないけれど、センセイは本当に考えが足りないねぇ」


 我輩の答えに、アリッサ嬢はやはり妖精パットンと同じような返答を返してくるのである。

 呆れたような、困ったようなその表情はおそらく頭上にいる妖精パットンも浮かべていたので亜牢名と我輩は思うのである。


 「一体どういうことであろうか」

 「いいかい、よく考えてご覧よ。狭く閉ざされた足元が水に使って身動きが取りづらい場所に、でかい図体をした魔物がどんどん入り込んで暴れ回るとどうなると思うのさ」


 アリッサ嬢の言葉を受け、少し考えた我輩はその一つの結末に考えが浮かんだので、アリッサ嬢に確認をするのである。


 「敵はどうなったのであるか」

 「憑依の魔物に取り憑かれていた森の民は挽き肉に、猛禽の獣人は生きてるけれど片手がちぎれかけて片足が膝から下が潰れてぐちゃぐちゃだよ。ハーヴィーが慌てて結界の展開を止めさせなかったらあっちも挽き肉になってただろうね。」


 嫌がらせのつもりが、思わぬ大惨事を招いてしまったようである。

 しかし、猛禽の獣人が生きていたのは不幸中の幸いである。

 もしも、そちらも死んでしまったらハーヴィーに恨まれるのである。


 「ってなわけで、もう戦闘は終わったからもう少し奥の調査をして撤収するよ」


 そう言うアリッサ嬢に促され、我輩達は洞窟の奥へと向かうのであった。





 「空振りだったねぇ」

 「情報を持ってそうだった奴も、挽き肉になっちまって喋れないしな」


 先程まで歩いていた通路を遡りながら、アリッサ嬢とダンがややため息混じりに話し合う声が聞こえるのである。


 洞窟の調査の結果、下層には地底湖といくつかの食い散らかされた死体が確認できただけで、救出可能なものの存在や魔物達の長につながる手がかりになるものなどは見つけられることはできなかったので、我輩達はサーシャ嬢達のもとへと戻ることにしたのである。


 「彼女が何か知っていれば良いのであるが」


 我輩はそう言って、ドランが担いでいる猛禽の獣人の女性に目を向けるのである。

 我輩が彼女の元に着いたときにはアリッサ嬢の報告の通りの状況で大怪我をしていたのである。

 ちぎれかけていたという腕の方はキズいらずの効果で元に戻りつつあったのであるが、既に潰れてしまい原型を留めていなかった片足は血を止めることまでしかできなかったのである。

 今も意識を失ってドランに担ぎ上げられているのであるが、それは蛇海竜に暴れ回られた恐怖からなのか、失った四肢の痛みからなのか、それともキズいらずの副作用のせいなのか、理由は正直わからないのであるが全部のような気もするのである。


 「体の面もあるけれど、精神的な消耗も大きいみたいだからしばらくは安静にしてあげた方がいいと思うよ」

 「まぁ、時間はあるからね。無理させはしないさ。しかし、本当にこっちの子が生き延びてくれてよかったよ」

 「もしもこっちが死んでたら、センセイは多分ハーヴィーに殺されてるよな」

 「殺しませんよ! 許しませんけど」

 「ハーヴィーも言うようになったなぁ。はっはっは!」


 妖精パットンを皮切りに、他の面々も何気なく我輩に何度目にもなる口撃を加えてくるのである。

 と、いうのも、全員が我輩が行った些細な嫌がらせに対して思うことがあったからのようである。

 そんなことを思われても、我輩としても想定外のことだったので、ある程度は仕方がないとは思うものもう何度目にもなるそれを言われる筋合いは無いと思うのである。


 「彼女が生きているのだから…………」

 「それは結果論でしょうが。運が良くてあの程度で済んでいるってことを忘れないで欲しいね。センセイが展開した狭い結界の、しかも足元が水で制限されている中ででかい図体の蛇海竜が暴れ回ったら、ドランやハーヴィーだけじゃなくて、あたしやリーダーだって挽き肉になってもおかしくないんだよ」


 畳みかけるようなアリッサ嬢の言葉に、我輩は何も言えないのである。

 アリッサ嬢に言われなくても我輩もその事は当然今ではわかっているのであるが、事あるごとに小言を言われているのでつい反抗したくなってしまっただけなのである。


 「まぁ、俺の指示も曖昧だったからな。その点で言うと、センセイだけじゃなくて俺も反省しないといけないな」

 「なんだかんだでセンセイには甘いねぇ」

 「隊長、変なフォローを入れると旦那がまた調子に乗りますぜ」

 「アーノルドさんがいない時にそう言うか、心の中で留めておいてください」

 「あー、それもそうだな。じゃあ、今のは無しで。センセイが全部悪い」


 ダンは舌の根も乾かぬ内に我輩へのフォローを訂正するのである。

 一体どういうことであろう、不服である。


 「あはは。ひどい言われようだねぇ、錬金術師アーノルド」

 「もう少し優しくしても良いと思うのである」


 そう言いながら来た道を戻ると、そのうちにサーシャ嬢達がいる場所まで戻るのである。


 「おじさん! 大丈夫だった!?」


 ずっとこちらの方を見ていたのであろうか、それともデルク坊の優れた聴力か夜の一族の青年の意思の魔力の探知で確認していたのか、我輩がサーシャ嬢を確認できる距離になるよりも早くサーシャ嬢がこちらに駆け寄ってきて我輩に飛びつくのである。


 「心配かけたのであるな。大丈夫である。問題ないのである」


 飛びついてきたサーシャ嬢を受け止めるてそう我輩が答えると、安心したのか笑顔を浮かべるのである。


 「皆様、ご無事だったのですね。サーシャちゃんが突然大量の水の構成魔力を感知したり、デルク君が何かが暴れ回る音を聞いたりしていたので心配したのですよ」

 「ドラン兄ちゃん、その女の人って猛禽の獣人? 大丈夫なの?」

 「全部終わったのか?」


 そうして、遅れてやってきたミレイ女史やデルク坊達の矢継ぎ早の質問に、我輩達は答えながら洞窟の出口へ向かって進むのであった。


 こうして我輩の余計な手出しのせいで、またもやすっきりしない形で憑依の魔物絡みの騒動は一応の終わりを迎えるのであった。






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