サーシャ嬢と合流したのである
我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。
「ごめんなさい、お兄ちゃん……たくさん心配かけちゃって…………みんなも……ごめんなさい」
「デルク坊、申し訳ないのである。我輩がちゃんと考えて実験をしなかったばかりに、サーシャ嬢を危険に晒したのである」
現在我輩達は、サーシャ嬢と合流して倒れている亜人種達を治療、解放をしている所であるが、我輩とサーシャ嬢は怒った顔をしながら涙を流しているデルク坊に謝っているところである。
と、言うのも、サーシャ嬢や一緒にいた夜の一族の青年と会話をした結果、サーシャ嬢がこのような行動をとる事になったのは、我輩が飲ませた薬の副作用によるものだと言うことがわかったからである。
「しかし、我輩やミレイ女史はそこまで副作用が強く出ていないのである」
「アーノルド様、サーシャちゃんは私たちと違い亜人種の上、まだ子供です。私たちと同量の薬を服用したら副作用が強く事もあると思います」
「つまり、そういうところを考慮しなかったセンセイが悪いね」
「しかし、他のものを巻き込んで心配かけたのは事実である。そこは注意しないといけない……」
「どの口が言うんだよ。実験のために魔獣の巣に無防備に突っ込んで周りに迷惑をかけまくった人間が言える立場か?」
「サーちゃんは元からそういうところがあったみたいだけれど、センセイとあったことでより磨きがかかっちゃったねぇ」
「まぁ、サーシャ先生のご先祖様がご先祖様っていうのもありますからねぇ。血筋でしょうねぇ」
と、いうわけで、いろいろな怒りと心配がごちゃまぜになって泣きはじめたデルク坊に我輩とサーシャ嬢が謝ることになっているのである。
「本当に……いろいろ……思うけれど…………俺もよく心配かけてたから、あまり怒れないけれど…………でも、心配だった…………こんなことするのは、もうやめろよ…………でも、サーシャが無事で良かった。本当に……良かった…………」
我輩とサーシャ嬢の謝罪を受け、デルク坊は怒りをこちらに振りまくわけでもなく、できる限りの気丈さを見せて我輩達を許すのであった。
むしろ、声を荒げて怒られたりしなかった分、その心境の複雑さや深さが窺い知れて我輩は自分の浅はかさに申し訳ない気分になるのである。
おそらくそれはサーシャ嬢も同様であろう。
「倒れていた人たちの治療を終了しました」
「気絶していた魔獣達や霧の魔物の処理も終わりました」
ミレイ女史とハーヴィーが、こちらにやってきてダンに報告するのである。
「あ! 上には小さな子供達がいるんだよ!」
「大丈夫である。我輩達以外の者達が助けに行っているのである」
思い出したように我輩にそう告げるサーシャ嬢に我輩はそう答えるのである。
我輩達だけであれば、ダンの全力走行での荷車移動でもっと早く到着することができたのであるが、集落の者も共に行くことになったため速度が遅くなってしまったのである。
まぁ、だから洞窟に着いてからはコルクの案内に従って、一直線にサーシャ嬢のいる場所へ向かったのであるが。
「あらためて、サーシャ嬢を支えてくれて感謝するのである」
「いや、むしろ私の方が助けてもらった側なんだがな」
そして我輩は、サーシャ嬢と共にいた夜の一族の青年にあらためて礼を言うのである。
おそらく彼がいなかったらサーシャ嬢はもっと暴走していたはずなのである。
「しかし、先ほどの煙は恐ろしいな。あれだけいた魔獣や亜人種をすべて無力化するとは…………」
「洞窟のような閉ざされた場所であるならばとても効果的だと思うのである。まぁ、結界などで防がねば自分も巻き込まれるのであるが」
「…………このお嬢さんがこうなった理由がわかる気がするな」
「だろ? 俺達も苦労してるんだ。このおっさんのせいでな」
青年の言葉に、ダンが相づちをうつのである。
我輩はちゃんと考えていると言いたいところであるが、さすがに今回の事を考えると言葉にするのは憚られるのである。
「そういえば、あの森の民の男と獣人の女はどうしたんだ?」
「うん? そこに倒れている連中で全部じゃないのか?」
青年は、ミレイ女史とドランが並べた亜人種の若者や子供達を見て、そういうのである。
他に誰かいたというのであろうか。
「ああ。何やらお前達のことを知っているような口ぶりの森の民の男と、あの男と同じ系統の獣人がいたんだ」
「!! それは、本当ですか!?」
青年の言葉に、ハーヴィーがものすごい勢いで食いつくのである。
ハーヴィーは自分の祖である猛禽の獣人を追っているので、その女性を救いたいと思っているのであるから仕方がないと言えるのである。
「あ、ああ。煙が発生したときにはいたはずなんだ。だが…………」
「この場にその二人の姿が見えない、と」
「そうだ。意思の構成魔力も感じないところから、煙が発生して視界が遮られたときに、認識阻害の魔法を使用して逃げたのかも知れない」
ダンの言葉にを受けて青年が肯定の頷きを返すと、ダンは気配を探るように目を閉じて集中を始めるのである。
「…………わかんねぇな。魔法を使われた状態で遠くにいるとするなら、さすがに気配が読めないな」
「じゃあ、ボクの出番だね」
そういうと、我輩の頭にいた妖精パットンが得意げな声を上げるのである。
おそらく意思の構成魔力の所在を探るのであろう。
「……この上にあるのは、さっき見つけた子供達と集落のみんなだよね……これは……別の人たちが戦っているところ…………さらに下に向かって進んでいる微かな構成魔力が……二つ……これかな?」
「何なんだ? この魔法生物は……。感知能力が桁違いに高すぎる……」
「妖精パットンは、どうやらかなり高位の夜の一族の者の血肉から作られた魔法生物のようなのである」
どんどんと構成魔力を感知していく妖精パットンの姿に、青年は驚きの声を上げるのである。
どうやら、優秀らしい彼からしても妖精パットンの能力は桁外れのようである。
我輩の仲間はなんというか、化け物揃いのようである。
「よし! じゃあ追うか! パットン、案内を頼む」
「わかったよ」
「私はここでこの人たちの様子を見ています」
「私もここに残ろう。他の者と合流するまで一人というわけには行かないだろう?」
「サーシャもおれと一緒にここに残るんだ」
「…………うん。わかった」
先ほど、このあたりの洞窟の話を聞いたのである。
ひょっとしたら蛇海竜との戦闘もあるかもしれないのである。
疲労が出ているサーシャ嬢と子供のデルク坊はさすがに連れていけないのである。
と、言うことで残りのメンバーで妖精パットンが感知した意思の構成魔力を追って行くことにしたのであった。
「だいぶ下まで降りているな」
「空気もだいぶ冷えてきた感じがするねぇ」
松明を持ったダンと、その先を進んでいるアリッサ嬢が会話をしながら進んでいるのである。
「このあたりの洞窟にある地底湖は海とつながっているのもあるんですよね、蛇海竜とやりあえるかもしれないっていう事っすよね」
「やめてくださいよ。僕は勘弁ですよ」
なぜか嬉しそうに話すドランに、ハーヴィーはげんなりとした様子を見せるのであるが、それは我輩も同様である。
何が悲しくてこんなところで蛇海竜と戦闘をしなければならないのであろうか。
と、そんなことも思いながら進んでいると、
「ドラン、おめでとう」
突然、妖精パットンが頭の上から飛び立つとそう言うのである。
と、いう事はつまり、である。
「下のほうから大きな意思の構成魔力を有した生物がこっちに向かってやってきているよ」
当然、そういう事なのである。
それを聞いた我輩たちは、全員でドランの顔を見るとため息をつくのであった。




