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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
1章 森の民と新しい工房、である
2/303

昔話に花が咲くのである


 我輩の名はアーノルド、帝国唯一無二の錬金術師であった。






 玄関のドアがドンドンと強くノックされる。はて?こんな辺鄙な場所に、誰がやって来たのであろうか?


 (来客は、何時ぶりであったであろうか)


 そんなことを思いながら玄関の方へむかうのである。


 「センセイ、いないのかい?」


 大声と共に再度ノックされるドアを開けて応対するのである。


 「久しぶりであるな。我輩はセンセイなどではないのであるが」


 「おう、久しぶり。俺にとって、あんたはセンセイ以外の何者でもないぜ」


 目の前の男はとても良い笑顔でそう答えるのである。


 彼の名はダンと言い、我輩が錬金術師をしていたときからの付き合いのある探検家である。


 彼ら探検家は、帝国が拡大政策を打ち立てた時にできた、現地の調査、魔獣や魔物の駆除等を専門に請け負う、【ギルド】と言う寄り合いで構成された民間の職業である。


 それとは別に帝国直轄の開拓調査団があるが、比較的友好的な関係らしいのである。

 時折成果の取り合いで揉める場合もあるらしいのであるが、現在はまだそれどころではないといったところであろうか。


 彼らは、その成果や信頼などで幾つかランクが分けられているのだが、ダンが率いるチームは特Aクラスという最上位に位置している。

 と、いうよりも、現在特Aクラスにいるのは彼らのチームのみである。


 なぜ彼らがそこに行き着いたかと言うと、北の山脈を越えて戻ってきた唯一のチームだからである。

 そして、その為の道具を調合したのが、当時陛下直属の錬金術師であった我輩だったのである。


 何で民間の探検家が、陛下から直に仕事を請け負っていたか詳しいことは知らないのである。

 特に興味もなかったのである。


 我輩にとってみれば、彼らは良いモニターであり、素材調達をしてくれる有能な存在である。

 それだけ分かれば十分なのである。


 「今日は一体どうしたのであるか?」


 我輩はダンを中に招き入れ、一つしかない椅子に座るように勧めるのである。


 「あぁ、今日はちょっと話したいことがあってな」


 問題ないとばかりに手を振り、床に腰を下ろしながらダンはそう言うのである。

 なので、我輩も茶を用意して同じく床に腰を下ろすのである。


 「センセイ、変わんねぇな」

 「そうであるか?座れば椅子も床もたいして変わるものではないのである」

 「まぁ、そうだけどさ」


 苦笑しつつ、ダンは茶を一口つけるのである。


 「センセイ、チームは解散した」

 「…………そうであるか。」


 多少の驚きはあったが、納得もするのである。

 探検家はとても危険な職業である。

地域の何でも屋のようなことをするものもいるが、殆どの探検家は見知らぬ場所へ赴き、調査し、戦い、発掘し、金銭や名誉を得るのである。

 大きなリスクもあるがその分の見返りもあるのである。


 それ故、もって5年、長くて10年と言われているらしい探検家業界である。

 だが、ダンを含めメンバーの殆どが探検家歴10年を超し、大きな結果を出してきたのである。

 彼らのチームはまさに生きる伝説といっても良いらしいのである。


 と、以前ダンの仲間が言っていた気がするのであるが、まぁ、それは別にどうでも良いのである。


 「あまり驚いてないんだな」

 「少しは驚いたが、生きているのであるならば機会があれば会えることもあるのである。なので、正直それほど驚くことではないのである」

 「あぁ……センセイらしいな」

 「しかし、暇潰しになるので、他のメンバーがどうなったのか聞くのである」

 「ハッ、ひでぇ物言いだなぁ。10年近く連れ添った連中の行く末はセンセイの暇つぶしかよ。おい」

 「冗談である」

 「笑えねぇよ」


 そう言いながら笑って、ダンはメンバーのことを話していくのである。


 ダンのチームには、ダンの他に戦闘職のウォレス、魔法・研究職のリリー嬢、回復・交渉役のゴードン、斥候役の新とアリッサ嬢というメンバーがいるのであるが、ダンとアリッサ嬢以外は探検家を引退することになったらしいのである。


 「引退した後は全員戻ったのであるか」

 「そうだな。リリーは魔法研究所に戻って研究員になるって言ってたし、ゴードンも帝国治療院に戻ったよ」

 「ウォレスは、探検家を続けると思ったのであるが」

 「あいつは、後進を育てるって言って戦闘教官としてギルド本部に勤め出したよ」

 「珍しい選択であるな」

 「全くだぜ」


 ダンは大きく頷いて、話を続けていくのである。


 シンは、チーム最後の依頼で大怪我を負うことになってしまい、怪我は治ったものの元通りに動かせることができなくなったために引退を決意し、それがチーム解散のきっかけになったようである。


 「あいつらが全員揃っての俺のチームだからな。一人でもかけたらもうダメさ」

 「そんなものであるか。シンはどうしているのであるか?」

 「田舎に引っ込んで、やれる範囲で後進を育てるって言ってたけどな。どうやるんだろうな」


 ダンはそう言って茶を一口飲むのである。

 なので、我輩も一息付くため、同様に茶を飲むのである。


 「アリッサ嬢はどうしているのであるか」

 「あぁ……あいつか……」


 メンバーのなかでは一番探検家歴の低い、若くて面倒見が良いのであるが、多少跳ねっ返り娘のアリッサ嬢は、途中までダンと行動していたらしいのであるが、途中で別行動になったらしいのである。

 ただ、本人は後から合流するつもりだと言っていたらしいので、いずれ会うことになるのであろう。


 「なるほど、厳しい世界であるな」


 お互いにまた茶を飲みつつ、一息つけるのである。


 「で、ダンはどうするのであるか?」


 我輩が聞くと、ダンはこちらに向かって良い笑顔で答えるのである。


 「俺には探検家以外の道はねぇよ。死ぬまで探検家だ。他にやりたいことも無いしな」

 「そうであるか。そうであるな」


 ダンの迷いのない答えに、我輩は、それを少し羨ましく思っていたのである。


 我輩もダンも、一生かけてやりたいことがあるのである。

 ダンにはそれができるのである。

 それだけの力もあるのである。


 だが我輩は、それができないのである。

 それができる力もないのである。


 こちらでも錬金術の研究を行いたかったのであるが、錬金術用の魔法陣を描くことができなかったのである。

 うろ覚えで描いた魔法陣では、魔法を発動することができなかったのである。

 手引き書に甘えてきちんと覚えなかった自分が悪いのは十分承知しているであるが、ダンを羨ましいと思うのは人間であれば仕方がないの事でもあるのである。


 そんなことを思っていると、良い笑顔だったダンが少し真面目な顔になってこちらを見ているのである。


 「センセイ、俺たちがここまで頑張れたのも、センセイのおかげだよ」

 「……急に、どうしたのである?」

 「センセイが作った薬や道具のおかげで、何回も命拾いした。竜の山脈も越えられた。センセイがいなかったら、何年も前に俺たちは全滅してたよ。ありがとう」


 そういってダンは頭を下げるのである。


 「我輩の研究に協力してくれるのだから、やれることをするのは当然のことであろう?勝手に死なれて有能な試験役を失うのも、こちらにとって不都合であったのである」

 「ばか正直だな、おい。こちとらしんみり感謝を伝えようとしてるってのに」

 「これでも、とても感謝してるのであるよ」

 「伝わんねぇよ!」


 そう言って、ダンはまた良い笑顔で話し始めるのである。


 「まぁ、最初に陛下からセンセイを紹介されたときは、えらい胡散臭いのを紹介されたなぁとメンバーで話したもんだよ」

 「何を言うのであるか。他の研究室となにも変わらないのである」

 「ははっ!気持ちわりぃ笑顔で大釜をかき回す、いい歳したである口調のおっさんをまともだと思うやつはいねぇよ!」

 「心外であるな。こちらはどこか陛下に似ている男達がやって来たなと思ったである」

 「あの時も言ったけど、全然似てねぇから。センセイにとって、男は皆陛下に似てるように見えるんだろ?どうせ」

 「確かに……何となく信頼できそうな男は、全員陛下に似ているような気がするのである」

 「なんだそりゃ、シンとか全然違うじゃねぇかよ」


 ダンが物凄く楽しそうに笑っているのである。

 出会った頃のことを思い出してるのであろう。


 我輩も当時を思い出し、笑うのである。

 錬金術の研究に全力を傾けれていた頃である。

 まさに幸せ絶頂期である。


 それから、材料採取であちこち休み無く行かされた事の恨み言や、作製した道具を使って起きた失敗談など過去の話で盛り上がったのである。


 「ーーーっていう事もあったんだよ」

 「そんな事もあったのであるか。報告書に書いてなかったであるな」

 「書けるかよそんなこと。ウォレスが立ち直れねぇよ!センセイ、絶対詳細聞いたろ?」

 「当然である。原因がこちらが作った道具のせいなら改良しないとであるからな」

 「違うからな、コッチのミスだよ」

 「それならばどうでも良いのである」

 「だから、報告しねぇんだよ」

 「そうであるな」


 ダンが訪ねてきて昔話に花が咲き、数時間が経過したのである。

 真上にあった太陽も赤みがかり、もうそろそろ沈む頃であろうか。


 「そろそろ暗くなるであるな。宿は取ったのであるか?我輩は泊める気はないのである」

 「泊めてくんねぇのかよ!ホントにセンセイだな。大丈夫だよ。宿は取ってあるぜ」

 「で、あるならばさっさと帰るのである。ここは暗くなるのが早いのである」


 我輩はダンに帰るように促すのである。

 今日は久しぶりに知人に会えて楽しかったのである。

 とても大満足である。

 なので、さっさと食事をして寝ようと思うのである。


 だが、


 「ちょっと待ってくれ、まだ俺の用事が済んでない」


 ダンはもう少し話をしたいようである。一体なんであろう?


 「昔話をしに来たのではないのであるか?」

 「それだけのために、わざわざこんなところまでやってこねぇよ」

 「じゃあ、何であるか?」


 尋ねると、ダンはまじめな顔つきになる。





 「センセイ、調べて欲しい場所があるんだ」





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