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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
9章 南方地域の大森林と誘拐事件、である
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防衛戦の果てに、である


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。






 集落の柵と柵の間に広がる敷地では魔法人形達の戦闘が行われているのである。

 こちらの魔法人形一体に対し、不格好な魔法人形や魔獣達が数体が戦闘を行っているのである。

 戦闘能力はこちらの魔法人形の方が高いので、数で対応しているのであろう。


 この時間に襲撃をしてきたのは夜の一族による細かい指示や制御が無くなった事で、魔法人形は敷地内に入ってくるものを無差別に攻撃するようになっているからであろう。

 おかげで、集落の戦闘員達は迂闊に戦闘区域に入ることができないのである。


 なので、せめて援護をするべく魔法や弓などで攻撃を開始するのであるが、同様に向こうにいる亜人種達も魔法や弓で攻撃を加えて来るのである。

 こちらに関しては集落の方が人が多いために有利に働いているのであるが、不格好とは言え魔法人形という戦力が追加されたことにより戦場での争いは魔物達の方が有利に働き、少しずつ魔法人形の防衛線を抜けてこちらの柵に近付く魔獣が現れるのである。


 『柵の中に連中を入れるな!』

 『しかし、このままでは援護が!』


 柵を越えられ集落には入り込まれて暴れられると被害が増大するのである。

 だからといって援護の手を緩めると戦線の維持ができなくてより魔獣達がこちらへと向かうことになるのである。


 『敵の遠距離攻撃は我輩がどうにかする。柵に近付く魔獣をどうにかするんだ』


 その状況を見た我輩は、すぐさま自分のできる援護をするべく戦線よりも敵陣側に強力な障壁を展開させるのである。


 今持っているのは量産障壁石なので、魔力消費の激しい使い方は向かないのであるがそんなことを行っている場合ではないのである。

 一応、量産障壁石は数個手元にあるのであるが、どこまで持ちこたえられるかわからないところではあるので早いところこの争いをどうにかしてもらいたいところである。

 もしもの事がないようにという用心のためと結界石があるからという理由で、港町で別れる際にクリス治療師に障壁石を全て渡したことを若干後悔するのである。


 自分達側に突然障壁が現れたことで、向こう側の亜人種達は何やら驚いた様子を見せるのであるが、ハーヴィーに似通った印象を受ける獣人の女性は障壁を見てからこちらを見ると、何やら近くの者に話を始めるような動きを見せるのである。

 気になるのであるが、聞こえるわけでもないので今はこの状況をどうにかするのが先である。


 『客人の魔法で向こうの攻撃が届かなくなったぞ!』

 『今のうちにこっちにやってくる魔獣達を撃退するぞ!』


 向こうの攻撃が届かなくなったことで、集落の戦闘員達は魔法人形達をかい潜りこちらにやってくる魔獣達を迎撃するべく攻撃を開始するのである。


 『あ! 壁が!』

 『もう終わったのか。消耗が激しいな』


 隣にいた森の民の女性の声を聞いて、障壁石の魔力が終わるのか消えそうになっている障壁を確認した我輩は、次の障壁を展開するべく別の障壁石を発動させるのである。

 向こうの攻撃を受けているというのもあってかほんの数分しか展開していないのであるが、もう一つ分の障壁石の魔力が失われたのである。

 やはり量産型の障壁石はこういう使い方ができないのである。


 『あまり長時間は支えきれない。申し訳ないが、早くしてほしい』

 『努力はする!』


 我輩が近くにいた獣人の青年に言うと、元気は良いがやや頼りない返事をして魔獣の迎撃へと向かっていくのである。


 少しずつではあるが、混乱も収まり風向きも変わりつつあるのである。

 この状況ならば手持ちの障壁石を使い切るくらいにはなんとか迎撃しきれるかもしれないと思ったのである。


 「遅れてごめんよセンセイ!」

 「子供達を俺達の家に避難させるのに時間がかかっちゃって!」

 「後少しのようですね! 頑張りましょう!」


 そして、アリッサ嬢達が駆けつけて来たことで、その気持ちは確信へと変わり、その確信の通り自体の収束まで時間はそれほどかからなかったであった。






 『本当に助かった。客人達は優れた能力の持ち主なのだな』

 『おかげさまで、こちらの怪我人はほとんど出なくて済んだよ。感謝してる』


 戦闘が終わり、我輩の元へ集まっているアリッサ嬢達に今回の戦闘責任者であろう森の民の男性達が声をかけて来るのである。


 『あんた達とは協力し合う仲なんだから当然の事さ』

 『そうだよ! 森の住む仲間なんだから、助けるのは当然じゃんか!』


 アリッサ嬢は到着して早々、周囲の静止も聞かずに柵の中に入って行ったのである。

 当然、敵だけではなくこちら側の魔法人形の攻撃も受けることになったのであるが、何の問題もないかのように攻撃を躱し、受け流し、次々に敵を倒していったのである。


 『敵さんがこっちを集中的に襲ってきたら厳しかったけどね。魔法人形の相手をしないといけなかったようだから楽なもんさね』

 『それでもこちらの魔法人形や相手の攻撃を受けていたようだが………』」

 『連携がうまく取れてないあのくらいの速さの攻撃ならそんなに問題ないのさ』

 『そんなものなのか…………』


 アリッサ嬢の当然といった様子に、話を聞いていた森の民の男性達も驚きと呆れの入り混じった様子を見せるのである。


 『それに、あんた達やデルっちの援護もあったしね。一人で全部やれたなんて思っちゃいないよ』

 『そうか? 一人でもやれただろう?』

 『やれたって言うのと、余裕でできるようになるっていうのは全然違うさ。あんた達の訓練を見て力を信頼できたからこそ安心して突っ込めたんだよ』

 『そう言ってくれるとありがたいな』


 アリッサ嬢の言葉を聞いて、話を聞いていた集落の者やデルク坊も嬉しそうにするのである。


 「ミレイ女史も障壁を張ったり魔法で足止めをしたりと活躍だったでのある」

 「いえ、私にはあれくらいしか…………」

 「そんなことを言ったら、我輩は障壁を張ることしかできていないのである」

 『何を言っているか分からないが、二人ともありがとう。君達が相手の援護を防いでくれなかったらかなり被害が大きくなっていた筈だ』


 大した事をしていないと謙遜するミレイ女史と会話をしている最中に、共に戦っていた者の一人が礼を言いにこちらにやってきたのである。

 ちょうど良いので我輩もそれに便乗するのである。


 『ミレイ女史、集落の者達もきちんと評価している。大した事をしていない等と思うことはないんだ』

 『そんなことを言ったらアーノルド様だって……』

 『私は、大した事をしていないとは一言も言っていない』

 『…………なんか、狡いです。でも、ありがとうございます』


 ミレイ女史は自分を過小評価しすぎるところがあるので、少しでもこうやって正当に評価されることで自信に繋がれば良いのである。

 恥ずかしそうに頷くミレイ女史を見て、我輩はそう思うのであった。


 そんなことを思っていると、慌てた様子でこちらに走って来る若者が見えるのである。

 一体何事であろうかと気が緩みながら思った我輩の心境は、次の言葉で吹き飛ぶのであった。


 『客人! 貴方のところの少女が魔獣に!』


 そう言われて我輩達が子供達の避難場所にしていた拠点の家に向かうと、そこには家の外に出ている子供達を囲うように結界が張られていたのであった。


 『ごめんなさい……ごめんなさい……』

 『おねえちゃんが、私たちを守って……』


 結界の中の子供達は、皆大声をあげて泣きながら、我輩達に謝罪の言葉を述べるのである。


 『私が……私が……案内したばかりに…………こんな……! 何と言ってお詫びすれば良いのか……』


 結界の近くでは、泣き崩れている若者が死ぬのではないかと思うほどに青ざめた表情を浮かべて謝りつづけるのである。

 サーシャ嬢が魔物に捕まってしまった原因を作ってしまったという罪悪感や無力感が、彼をそうさせているのであろう。


 サーシャ嬢を追わねばという焦る気持ちはあるものの、メンバーも足りない今のままではどうしようもないのである。


 なので、まずは張られている結界をどうにかしないといけないと思うのであるが、ここで、まだ結界が張られていることに違和感を感じるのである。


 『ポルト君、結界は誰が張ったんだい?』

 『サーシャちゃんだよ。子供達を守るために家を出て結界を張ったんだ』


 サーシャ嬢は結界展開が得意ではないので急遽結界を張るとなったら、今、子供達を守る範囲程度が限界である。

 しかも遠距離展開ができないのでサーシャ嬢も外に出る必要があるのである。


 そこを狙われてしまったということであろう。


 「では、結界石はどこであろうか? 長時間の結界展開は、結界石の魔力を放出し続けないとできない筈である」

 「…………そういえばそうですね。まだ結界が発生しているということは結界石がどこかに落ちているということです」

 「って事は、結界石がどこかに落ちてるってことかい? サーちゃんがこっちに来て結界を張ったってことはこっちにあるってことだよね」


 そういって辺りを見渡すアリッサ嬢に呼応するように我輩達も周辺を見渡すのである。

 早めに結界石を見つけて結界を解かなければ子供達のなかには恐怖で失禁している子もいるのである。

 早く綺麗にしてあげたいのである。


 それにもしかしたらサーシャ嬢ならば…………。


 「……コルク?」


 結界石を探している中、デルク坊がそう言葉を漏らすので、そちらの方を見ると、結界発動中のため、薄く光を纏っている結界石を両手で抱えてヨロヨロとこちらに歩いて来る小さな魔法人形、コルクの姿があったのであった。



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