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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
9章 南方地域の大森林と誘拐事件、である
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新たな展開


 俺の名はダン。帝国でたった二人の現役特Aクラス探検家だ。






 「それじゃあ、行ってくるぜ」

 「気をつけて行くのである」


 俺達が夜の一族の集落について一週間、毎日がとても忙しい日々が続いている。

 手始めに集落に着く前に助けたチビ達を元の集落に送り届け、それからこの案内役して協力してくれている森の民の青年とともに近隣集落への使者役と情報収集をハーヴィー・ドラン・パットンを引き連れて行っている。


 自分の集落内ですべてまかなえるからなのか、他に理由があるのかわからないが、亜人種達は集落間の交流頻度が驚くほどに少ない。

 辺境の大森林で初めて行った森の民の集落のように年単位ではないが、それでも半年の間に一度か二度、付近の情報の交換や共有のために使者が赴くくらいしか交流が無いらしい。

 前回の情報交換はそれこそちょうど猿の魔獣達が各集落の付近に現れて被害を及ぼし始めた頃だったようで、その時は<子供達だけで外に出歩かせないように気をつけていこう>のような話で終わったらしい。

 それから一月弱で襲撃の頻度が多くなり、ある集落では子供だけではなく魔物の襲撃によって気を失った夜の一族の若者まで攫われてしまったと聞いた。


 最初の二日で全速力で近隣の集落を回ったのだが、どの集落も度重なる襲撃によって疲弊が増していて、集落同士で協力し合わなければとは思っているものの、自分たちの集落を守ることで手一杯でそれどころでは無いというのが現状のようだ。


 ちなみにとある集落を尋ねた時は、猿共の襲撃を受けている最中だった。

 ドランの馬鹿がめちゃくちゃ嬉しそうに暴れ回っていたから、後でぶん殴っておいた。


 被害が出てんだ、嬉しそうにしてんじゃねえ。


 そんな訳で、体制の立て直しのためには防衛力の向上が急務だと判断した俺は、俺達が普段使っている結界石程の性能はなくても良いから、とにかく量を作ってほしいとセンセイに結界石の量産を頼んだ。


 話を聞いたセンセイは、翌朝から研究を初めて俺が夜に帰ってくる頃には量産結界石を完成させていた。

 まぁ、量産と言っても今まで三人がかりで制御しなくてはいけなかった圧縮した純魔力量を一人でできる量に減らしただけらしいが。

 おかげで結界の強度や範囲、魔法石に入る魔力量はだいぶ下がったが作製時間の短縮を実現した量産結界石が作製可能になり、俺達はその翌日から手渡された結界石を近隣集落へ配布しに回るのだった。


 そうして昨日、とある集落に結界石を届けに行ったところ、その集落よりも南に歩いて3日ほど行ったところに集落があることを聞かされ事になる。

 森を歩いて3日、俺が全力でとばせばおそらく半日前後だろうか。

 集落の存在を教えてくれた森の民に案内を頼み、俺達はそこの集落へ向かうのが今という訳だ。


 「センセイ、やらせている俺が言うことじゃあねえんだろうが、少し休めよ。顔がやつれて来てるぞ」

 「ダンの言う通り、今は各集落の立て直しが急務である。我輩のみならずサーシャ嬢やミレイ女史も多少の無理は覚悟の上である」


 センセイ達はこの数日、いつもよりも2時間ほど早く起きてぶっ倒れるぎりぎりまで結界石や各種薬の作製を行っている。

 アリッサいわく、飯を食って用を足して寝る以外は一人が休憩という名目で体力回復薬を飲みつつ助手を務めて、残り二人が体力の限界まで作業しているのをローテーションで行っているらしい。


 年末の税金計算に追われる大店かと俺は心の中でツッコミを入れる。


 本当にぶっ倒れないか心配なのだが、この状況で3人とも手を緩めることはしないのはわかっているので、早く解決の糸口を探さないといけない。


 これから向かう集落で何か分かれば良いんだが。


 そう思い、俺はもう一度センセイに声をかけてから目的の集落へ向け、ドラン達を乗せた荷車を牽くのだった。






 「派手にやられてるな」


 途中で合流した森の民の案内で離れた場所にある集落が見える場所に到着した俺は、襲撃の痕跡を見てそう感想を漏らす。


 「集落の規模もそれほど大きくないようですし、戦闘員が少ないのかもしれないですね」

 「そういえば、魔法人形の姿が無いっすね。他のところだと一体か二体はあったんですがね」

 「壊されたのか、作ってもらっていないのか、それとも夜の一族がいないのか。理由はわからないがとりあえず行ってみよう」


 考えたところで答えはでないので、俺達はそのまま集落の立ち入り許可をもらうために防衛用に作られたと思われる柵に向かおうとすると、柵の奥からいくつかの水弾と矢がこちらに向かって飛んで来る。


 突然の手荒い歓迎だったが、距離もだいぶ離れているので俺達は特に問題なくそれに対処する。


 道具の浪費は良くないので矢は掴み、水弾はドランがたたき落としていく。

 暇なときに嬢ちゃんに水弾を出してもらってたたき落とす遊びをしてたからうまいもんだ。


 「あの辺りに、夜の一族と森の民の姿が…………何となく見えますね」


 ハーヴィーが若干怪しげな感じで柵の奥の一角を指差す。

 俺もハーヴィーが指差す辺りの気配を感知しようとすると、おぼろげながら気配を感じることができた。

 どうやら認識疎外の魔法がかかっているようだ。


 「ってことは、夜の一族が構成魔力を感知して認識疎外の魔法を自分たちにかけて、さらに森の民が俺達に威嚇攻撃をしたってことですかい?」

 「驚かせないように、認識疎外の魔法を切っていたのが仇になっちゃったね」

 「とはいえ、急に攻撃して来るっていうのはどうなんでしょうか」

 「それだけ警戒をしないといけないくらいに被害がでかくなってるっていうことか? いずれにせよ、集落に入れないとどうしようもない。パットン、夜の一族にむけて念話できるか?」


 俺の質問に、パットンはしばらく何かを探る様子を見せてから首を横に振る。


 「ダンの言う通りあの辺りに認識疎外の魔法がかかってるから、多分相手にうまくつなげられないね」

 「じゃあしょうがねえな。ハーヴィー、矢文を出すからあの辺りに打ってくれ」

 「隊長、いつの間に古代精霊語を書けるようになったんですかい?」

 「俺じゃねえよ。兄ちゃん、字は書けるよな?」


 俺は茶化してきたドランの頭を軽く小突いてから、さっきから驚いた表情を浮かべている森の民の兄ちゃんに声をかける。


 「え、あ、はい。大丈夫です。あの……」

 「なんだ?」

 「人間って、みんな飛んで来る矢を受け止めたり水弾の魔法を石を打ち返すように弾けるのですか?」

 「そんなことは無いですよ。あの二人が人間という種族の枠を越えかかった化け物なだけですよ」

 「な、なるほど。すごいですね」


 ハーヴィーの言葉に納得したような表情を浮かべた森の民の兄ちゃんは、俺から文にする言葉を聞いて文字を書いていくのだった。

 さらっとハーヴィー、人のことを化け物だとか失礼なことを言いやがったな。

 状況が落ち着いたらおもいきりしごいてやる。






 送った矢文がちゃんと受け取ってもらえ、そのあとは認識疎外の魔法を切った夜の一族とパットンとの間でやり取りを行い、俺達は集落へと足を踏み入れることができた。


 「昨日も戦闘がありまして、皆警戒を強化していたところなのです」

 「夜の一族はいるのに、魔法人形は無いんですかい?」

 「私はまだ未熟なので魔法人形の制御ができなくて…………」


 ドランの何気ない質問に夜の一族の少女が落ち込んだ様子を見せ、集落長と思われる森の民のがたいの親父が説明を始める。

 どうやらこの集落には夜の一族はこの少女と父親しか住んでいなかったようで、昨日の魔獣との交戦で父親がやられてしまった事で魔法人形を扱えるものがいなくなったようだ。


 「いや、あの、すまねえ……」


 ばつが悪そうに謝るドランに、少女は気にしていないとばかりに首を横に振る。


 「辛いですけど、今は悲しんでいる場合では無いです。それに、良いこともあったんです」

 「良いこと?」

 「はい。他の集落の人達を保護することができたんです」


 どうやら今回の魔獣との戦闘は、魔獣に追われていた獣人の若者や様々な種族の子供を保護するために行ったようだ。

 少女の父親がやられたことで戦況は厳しくなったようなのだが、途中で子供達を追ってきた夜の一族の若者が現れて魔獣達を撃退に成功したという。


 「だから、その夜の一族の人に魔法人形の操者になってもらいながら、私の先生になってもらおうと思ってるんです」

 「今の状況だと、他の集落に送り届けるのも難しいしここで戦力になって貰いたいっていうこっちの都合もあるしな」

 「だったら俺達が渡した結界石もあれば当面は何とかなるってことですかね」

 「早めに大本の居場所を見つけださないとですね」

 「ああ…………そうだな」 

 「……? どうした客人?」


 俺の様子に気付いた集落長が声をかけて来る。


 俺は今、自分の頭に抱いている疑念を払拭するために集落長に頼み事をする事にした。


 「集落長、その夜の一族の若者や保護した連中に会えるか?」

 「今は無理だな、疲れて眠っている」

 「じゃあ、部屋の前で良い。案内してもらえるか?」

 「あ、ああ。わかった」


 そうして俺達は、集落長の案内で保護した連中が休んでいる家に向かうのだった。


 「ここだ。何かあるのか?」

 「いや、確認したいことがあるだけだ」


 そう言うと俺は、少女とパットンを見る。


 「嬢ちゃん、パットン、なにかおかしな事はないか?」

 「おかしな事……? あれ? みんな疲れて眠っているはずなのに、意思の構成魔力が荒ぶってる…………なんで?」

 「これは…………認識疎外の魔法、それに認識誤認魔法の残渣? でも、なんで?」


 二人の言葉で俺の勘が当たったことが確信した。


 そう、霧の魔物達の戦略が新しい局面を迎えはじめているという予感が。




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