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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
9章 南方地域の大森林と誘拐事件、である
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夜の一族と初代皇帝、である


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。






 集落の中に入った我輩達はそのまま老人の家に案内されることになったのであるが、そこにいくまでの間に魔物の襲撃の跡や住人達が復旧作業を行っている姿を目にするのである。

 聞く限り、どうやら魔物達は我輩達が入ってきた柵の反対側から襲撃してきて、その対応に魔法人形や集落の自警団の戦士達が追われている間に、別の方向からやってきた別働隊によって発見されたポルト坊が狙われたということである。


 「今まで私達の集落は、狩りの授業をしている時などの集落外で魔獣達に襲われたりしたものの、何とか子供は守りきっていたのですが…………」

 「他の集落では守り切れずに子供を攫われてしまうこともあったようです」


 そう言って、集落の若者はダンが助けた子供達を見るのである。


 「僕たちの集落は、ここよりも小さくて戦える人も少ないんだ。だから、一回集落を襲われて何とか守り切れたけど、これ以上は無理だっていうことになって別の集落と一緒になろうって話をしていて、他の集落の人たちが来るのを待っていたところだったんだ」

 「でも……」

 「その前に再度襲撃を受けたのであるか」


 我輩の言葉に子供達は頷くのである。


 ポルト坊の時と同様に魔獣は陽動部隊と実行部隊に別れて行動したようで、子供達は避難をしようとしていたところを襲われたようである。

 ポルト坊と違ったのは、子供達の集落にはゾロン氏のような戦闘能力の高い夜の一族がいなかったために子供達を追える者がいなかったということである。


 「お父さん、お母さん…………」

 「おばあちゃん…………ぐすっ」

 「明日、僕たちがちゃんと集落に送っていくから安心してね」

 「うん…………」


 心戻しによって半強制的に落ち着いていた子供達であったが、少しずつ薬の効果が切れて不安や恐怖などで泣きそうになってきていたので、ハーヴィーが子供達の頭を撫でながら安心させるのである。


 「それはそうと、ゾロンからここの夜の一族は人間と距離を取っていたと聞いたが、あんたはあっさりセンセイを信用したな。さっき言った初代皇帝陛下の気概って奴が関係してるのか?」

 「そうですね。その辺りをご説明いたします。中にお入りください」


 老人はそう言うと、自宅であろう目の前にある他の建物に比べるといくらか立派な建物の中に我輩達を案内するのであった。






 「どうぞお座りください。茶程度しかございませんが」


 我輩とダンは老人、集落長の勧められるままに椅子に座り、我輩の向かいには集落長が座るのである。


 集落長の肩に乗っている使い魔が我輩達が椅子に座っているのを確認するように見ると、集落長は一つ頷くと話しはじめるのである。


 「まず初めにですが、夜の一族は生命に宿る意思の構成魔力を研究するために、種族の枠を越えてしまった人間の研究者達が祖となっていると言われております」

 「人の欲望は際限が無いのであるな」


 類い稀なき向上心や向学心が人間の種族特性なのであろうが、良し悪しである。


 「そのために、元の種族である人間とは潜在的に相性が悪いのですが、より強い力を求めて大きく枠から外れた私達は、通常の夜の一族よりもその傾向が顕著なのです」


 たしか、似たようなことをフィーネ嬢の曾祖母殿が言っていたのである。

 ノヴァ殿が種族の枠を越えてしまった事に感づいた森の民たちと距離ができてしまった事で、ノヴァ殿は森の工房に引きこもったという話だったはずである。


 「それがここの一族のものが人間と距離を取っているといっていた理由であるか」

 「そうですね。実際には互いに距離を取り合っているといった感じでしょうか」

 「その割に、我輩達は互いに距離を取っていないと思うのであるが」


 我輩の言葉に、集落長が笑顔を浮かべるのである。


 「それが、貴方のもつ原初の魔法の力なのですよ。貴方の、亜人種や私達を人間と同じように思っている、実直な意思の構成魔力が、貴方を慕う周りの人に強く影響を与えているのです」

 「あぁ、それが初代皇帝陛下の気概と同じってことか」


 ダンの言葉に集落長は頷いて話しつづけるのである。


 「一度人間の元を離れて独自の文化圏を築いた我々の祖でしたが、種族特性から昼間の庇護を行ってくれる種族との交流が急務でした。人間と暮らしている間や袂を分かってからしばらくの間は問題がなかったのですが、意思を司る魔法を使うことが知られてくると、他の種族からも次第に距離を取るようになったようです」


 まあ、人の心を読むような種族と関係をあえて持とうと思うものはそうはいないので、こればかりは致し方ない気がするのである。

 とはいえ、北の山脈の先にある大地は様々な種族や生物が覇権争いをしていると言われており、ここよりも遥かに危険な土地である。

 そのような場所で、昼間に能力が格段に低下する種族が単独で生きていくのは困難である。

 さらに言うと、どこにでもいるように一部の者達が覇権争いに加わったり、協力者を意思の魔法を使って強引に獲得したことで他の種族との関係が悪化したようである。


 そのようなことが数百年ほど続いたある日、夜の一族の文化圏に様々な種族の者達を連れた人間の若者がやって来たようである。


 「それが、初代皇帝陛下だったのです」


 この長い争いに疲れきった者達で南の山脈を抜け新天地を探し、皆で暮らせる国を作ろうと言ってきたのである。


 「大半のものは、人間に対して距離があったので話を聞くことはなかったのですが、陛下同様に現状に疲弊しきった一部の者達が陛下の言葉を受け入れて付いていく事にしたようです」

 「いわゆる……初代陛下はカリスマがあったって事なのかね」

 「そういうことなのでしょうな。なので、陛下とともに南の山脈を越えて帝国を築くときは特に何の問題もなく関係を築くことができたようです」


 だが初代皇帝が死に、夜の一族も世代交代が進んで行くにつれて互いの距離が開くようになり、そして亜人排斥政策によって再び人間と夜の一族の交流が途絶えるというわけである。


 「亜人種とはそんなに問題なくやっていけるんだな」

 「北の大地の時の反省を生かし、帝国で共にいたときから交流を持つようにしていたために人間ほどの距離が開かなかったのです。また、血が混ざったことによる親近感もあったと思います」


 人間でも、他種族の血が強く出ている者の方が低いものよりも恐怖感や忌避感は低かったり、ハーヴィーのように祖となる種族に会いたいと思う気持ちが強くなったりしているので、おそらくそういうことなのであろう。


 「そのようなわけで私達は、錬金術師アーノルド様と仲間の皆様を信用する事にしたのです」

 「しかし、センセイが…………初代陛下のようなカリスマねぇ…………」

 「ダンの言葉なので素直に聞きたくないのであるが、まあ、我輩もそう思うのである」

 「いえいえ、貴方の周りには貴方の考えや生き方に影響されている方もたくさんいらっしゃると思いますよ。それは、つまりそれだけ強い原初の魔法が貴方から発せられているということなのです」


 集落長の言葉を聞いて我輩はふと考えるのである。


 今の我輩の生き方や考え方、それは陛下とともに築いてきたものと言っていいのである。

 つまり、我輩を通して陛下の御心が人に伝わっている、少しずつでも陛下の望んだ世界を作ることができているという事だともいえるのである。


 そう思うと、それは喜ばしい事なのかもしれないと思うのである。


 「どうしたんだよセンセイ、急に黙りこんで」

 「いや、我輩が陛下の御心を伝えているなら、嬉しいことであると思ったのである」

 「……まぁ、そういう考え方も…………無くはない……のか?」


 ダンは首をかしげつつ茶を一口飲むのである。

 せっかくなので我輩も茶を手に取り一口飲むのである。


 渋味が少々強いものの、鼻に甘い香りが残るために一瞬甘いものを飲んだ気分になる、不思議な味わいである。


 「それで話は変わるのであるが……」


 そう我輩が、今回この集落に来たもう一つの目的を告げようとした時である。


 家の外がにわかに騒がしくなるのであった。

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