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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
9章 南方地域の大森林と誘拐事件、である
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昼夜逆転の集落、である


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。






 「これ、コロコロして美味しいね」

 「いろんな果実の味が楽しい!」


 夜の一族の集落に着いたものの、日はまだ高いために集落に近づくのは尚早だとポルト坊に言われた我輩達は、少し離れたところで休憩を取ることにしたのである。


 子供達を救出する以外はずっと移動していたため、昼食は簡単に食べられる干し肉と錬金術で作った保存の効く乾パンと水産み草で済ませたのであるが、目的地について気が抜けた我輩達は少々小腹が空いてしまったのである。

 今からしっかりした食事の準備をするのもあれだと思った我輩は、港町にいるときに錬金術で作っておいた果汁を凝縮して固めた菓子を出したのである。

 新しい果汁も素材にしたので、口に合わない物もあるか少々不安であったのであるが、子供達には好評のようで良かったのである。


 「気に入ってもらえたようで良かったね」

 「妖精パットンが一番喜んでいるように見えるのである」


 サーシャ嬢の言葉に我輩がそう返事を返すと、その時のことを思い出して納得したのか両手で口をふさぐようにして可愛らしく笑うのである。


 港町で発見した自分好みの果実の、果汁を固めた菓子があることを知った妖精パットンの喜びようはなかなかすごかったのである。

 そんな妖精パットンは、そのままの状態だと口に入れることができないので、菓子を砕いた欠片を愛おしそうに口に入れてご満悦である。


 「隊長、魔法人形ってどれくらい強いんですかねぇ。ちょいとやり合ってきても良いっすかね」

 「ダメに決まってんだろうが。せめて、集落に入って信頼を得てからにしろ。今の状態でそんなことやったら、ただの襲撃者だろうが」

 「じゃあ、戦闘訓練に付き合ってくださいよ。最近まともに体を動かしてねえんすよ」

 「嫌だよ。お前と違って俺は戦闘して、荷車牽いてるんだよ。疲れてんだよ」


 別の場所ではドランが懸命にダンと戦闘訓練をしようと訴えているのであるが、ダンは受け入れる気は全くないのである。

 まぁ、受け入れたら最後、おそらく日が落ちるまでぶっ続けで戦闘訓練に明け暮れるのは目に見えているのである。

 ある意味いつもの風景である。


 荷車を見ると、ポルト坊とゾロン氏が隣同士で眠っているのである。

 ポルト坊はダンの見覚えのある場所からここまでの道案内をずっとしていたので、きっと疲れたのであろう。


 しかし、先程あの集落には夜の一族以外の亜人種はほぼいないと言っていたのである。

 会話の中でも両親の話は一切なく、ゾロン氏のことを兄のようというよりも父親のように甘えている風にも見えるのである。


 つまり、そういうことなのであろうと思うのと同時に、我輩はこれ以上の詮索は悪趣味であると思い、考えるのをやめるのである。


 それよりも昨日聞いたゾロン氏の話である。


 自らの血肉の一部から【意思】と【肉体】の構成魔力を取り出して、作られた人形や死骸などを器として使い魔や魔法人形を作り出す魔法。


 それは錬金術に通じる部分があり、まだ手引き書の読み進めた場所には載っていない、人工生命体の作成方法のヒントというか答えそのものを聞いたと言っていいのである。

 工房に戻ったら一度試しに作ってみようかと思うのである。

 

 サーシャ嬢も、ゾロン氏の説明はよくわからなかったようであるが、ミレイ女史にわかりやすく説明を受けたらしくやる気になっていたのである。

 フィーネ嬢との人形作りが前進すれば良いと思うのである。


 そうして日が落ちはじめるまでの間、我輩達はしばしの休憩を取るのであった。






 「そろそろ集落の皆も動き始める時間だと思うよ」

 (俺が少し先に行くから、お前達は後ろからついて来てくれ)

 「ゾロン! 僕も行く!」


 日が落ちだして体調も戻ったゾロン氏と、それにくっついてポルト坊が先行するので、我輩達はそれについて集落へと向かうのである。


 柵の近くに行くと、土や木でできた魔法人形がぞろぞろとこちらへとやってくるのである。

 土の人形は大きくて動きがそれほど早くはないのであるが力がありそうな感じを受け、反対に木でできた人形は子供くらいの華奢な人形で、動きが素早そうに見えるのである。

 種類が違う魔法人形を組ませることでうまくバランスを取っているのかもしれないのである。


 我輩は魔法人形をじっと観察していたのであるが、やってきた魔法人形達は土人形を一体を残してこちらに来ることなくまたうろうろとしだすのである。


 「どうしたのであろうか」

 (念話の魔法で、魔法人形を動かしている自警団の団長に話をしたんだ)


 なるほど、ゾロン氏が話を通したから人形達はこちらにくるのをやめてまた別の場所へといったのであるか。

 土人形は柵の扉のようになっている部分にある閂を抜くと、そこを開けて我輩達を通すのである。


 「ありがとう」


 ポルト坊が笑顔で土人形に感謝の言葉を述べるのであるが、土人形は何の反応も示さない…………と思ったのであるが、少しだけゆらゆらと動いているのである。

 まるで、以前我輩が作った紙人形のノルドがサーシャ嬢達に褒められると紙縒の手足をゆらゆらさせて喜日を表現しているときのようであった。


 そうして、土人形は我輩達を先導するかのようにゆっくりと動き出すのである。


 「喜んでいるのであるな」

 (わかるかのか? 魔法人形は単純ながら【意思】の構成魔力によって自立した感情や知性を持ち合わせているんだ)

 「以前、錬金術で紙人形の魔法人形を作ったことがあったのである。なので、なんとなくわかるのである」

 (錬金術とは凄いな)

 「我輩もそう思うのである。錬金術は凄いのである」


 ゾロン氏の言葉に頷き、我輩は他の者達とともに土人形の後を着いていくのであった。






 「うん、ありがとう。団長、みんな。…………うん。ゾロンと、人間の皆のおかげなんだよ」


 集落にの中に入った我輩達を待っていたのは、十人ほどの夜の一族の者達であった。

 土人形に隠れていたゾロン氏とポルト坊の姿を認めると、数人の若者達が堪えかねたようにこちらへと走り寄るのである。


 そうしてゾロン氏は頷き、ポルト坊は先程のように一人で他の者に話しかけている状態である。


 「僕の意思疎通の魔法で念話の魔法を皆に広められるのは僕に向いているからだからね。魔法だから秘匿性があるんだよ」


 そんなゾロン氏達を見て抱いた疑問を言葉にするよりも先に、頭の上で寝転んでいた妖精パットンがその答えを我輩に教えるのである。


 「だから我輩達は彼らの会話がわからないのであるな。あと、妖精パットン今我輩の考えを読んだのであるか?」

 「そんなことはしないよ。錬金術師アーノルドは分かりやすいからね」

 「そんなに我輩は分かりやすいのであるか」

 「ふふふ、冗談さ。前も言ったけれど、ボクは君の近くにいるからなんとなく考えが伝わるようになってきているからね。きっとそうなのかなと思ったんだよ」


 そう言って妖精パットンは我輩の頭から飛び立つと、こちらに子供のような可愛らしい笑顔を浮かべてからミレイ女史達の方へと飛んでいくのである。


 そんなミレイ女史は、サーシャ嬢やハーヴィーとともに別の集落の子供達と会話をしているのである。

 まだ、どことなく互いに遠慮しているようにも見えるのであるが、全く会話をしなかったときに比べれば相当な進歩だと思うのである。

 こうして、亜人種と人間の交流が少しでも増えていけば良いと我輩は思うのである。


 そんなことを思っていると、我輩のところにゾロン氏とポルト坊、そして数人の夜の一族がやってくるのである。


 「あなたが人間の責任者の方ですか?」

 「一応、そうである」


 数人の中の一番年上と思われる、両目を布で覆っている老人が一歩前に出るのでて我輩にそう尋ねてきたので、我輩はつい、そう答えてしまうのである。

 実質ダンがリーダーみたいなものなので、責任者と言われてもいまいちぴんと来ないのである。


 「ポルトやゾロンだけではなく、他の集落の子供達も助けていただきありがとうございます」


 そう言って老人は、真っすぐに我輩を見るようにして手を差し出すのである。


 「錬金術師として当然のことである」


 我輩はその手を握りそう答えながら、老人の姿を見るのである。


 老人は、ゾロン氏や他の者達同様に病的なほどに白い肌をしているので夜の一族のはずである。

 また、両目を覆っていることから、おそらく視覚を代償にすることで魔法生物の魔法を使えるようになっている夜の一族である事はなんとなく分かるのである。

 であるが、視覚を失っているのにもかかわらずまるで我輩のことを見えているように立ち回っているのは何故なのであろうかと疑問が沸くのであるが、老人が付いている杖の先に立っている一匹の小鳥に目がいくのである。

 というのも、老人が我輩の前に姿を現したときからずっとその場所から移動していないのと、何度も目があっているのが気になったのである。


 「気付きましたかな? この子は私が魔法で作った使い魔でしてな。この子の見ているものを魔法で共有しているのですよ」


 我輩が心の中で抱いた疑問に答えるように、老人がそう言葉をかけてくるのである。


 「考えを読んだのであるか?」

 「いえいえ、今のは使い魔から伝わってきているあなたの視線から、そうではないかと思っただけですよ」

 「そうであるか。我輩は大分分かりやすいタイプのようである」


 そんな我輩の言葉に、老人は意外そうな表情を見せるのである。


 「嘘をついていると疑わないのですか?」

 「実は【意思】の構成魔力を読み取っているのではないか、ということであるか?」

 「はい。その通りです」

 「別に読まれても困ることはないのである。それに、そんなことを疑っていたら、妖精パットンやゾロン氏と行動などできるわけがないのである」


 老人は、我輩の言葉から発せられる【意思】の構成魔力を読み取るかのように静かに耳を傾けると、何かに納得したように頷くのである。


 「あなたの言葉、そしてあなた自身から発せられる【意思】の構成魔力には嘘はありませんでした。失礼をお詫びいたします」


 そして、


 「我々はあなたを歓迎いたします。初代皇帝と同じ気概を持つ、偉大なる錬金術師アーノルド様」


 そう言って笑顔を浮かべるのであった。

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