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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
9章 南方地域の大森林と誘拐事件、である
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ポルト坊の集落へ、である


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。






 ダン達が、子供の声が聞こえるとデルク坊が言った方向へ向かっていっている間、我輩達はもしものための警戒をしているのであるが、我輩だけやることが特になくてどうしたものかと思うのである。


 なので、周囲の警戒をしている他の者達には大変申し訳ないと思うのであるが、我輩は辺りの素材調査をしようと荷車を降りるのである。


 「旦那? 何してるんですかい?」

 「やることがないので、このあたりの素材調査でもしようと思うのである」


 我輩の答えに、ドランは呆れた表情を浮かべるのである。


 「……緊張感のない人っすなぁ。俺がダメって言った範囲より出たら強制的に荷車に乗っけますからね」

 「わかったのである。ポルト坊、このあたりに見える薬草類や食材を知る限りで良いので教えてほしいのである」

 「え? 大丈夫なんですか?」


 我輩に突然話を振られたポルト坊が、驚いた表情を浮かべて我輩とドランを交互に見るのである。


 「俺達から離れすぎなきゃ良いぜ。お前も、何かしてた方が気が紛れるだろ?」

 「じゃ、じゃあ、少しだけ…………」


 そう言うと、ポルト坊も荷車を降りて我輩に近くにやってくるのである。


 「えっと、まずはこのキノコなんですけれど……」


 そう言って、近くにあるキノコを指差しながら説明を始めるポルト坊は心なしか楽しそうに見えたのであった。


 そうして暫くの間、何事もなく時間は過ぎていくのであったが何かに気付いたデルク坊がダン達が出て行った方向を見るのである。


 「こっちに何かが向かってきてる」

 「ちょっと良いかい?」


 そう言うと、ハーヴィーはデルク坊の横に来てデルク坊が見ている方向をじっと見るのである。


 ハーヴィーの視界を遮らないように気をつけながらドランは全面に移動して戦闘態勢を取り、ミレイ女史とサーシャ嬢も何かあったらすぐに動けるように準備をし、我輩とポルト坊は皆の邪魔にならないように荷車の上に素早く戻るのである。


 「……隊長達の姿が見えます。二人とも誰かを抱えてますね。…………4人……かな。怪我をしているかもしれないので、サーシャちゃんは回復魔法の準備をしておいてください」

 「うん。わかった」

 「我輩は連れてきた者達を寝かせる場所の用意をミレイ女史とポルト坊としておくのである」

 「お願いします」


 ハーヴィーの言葉を聞いて少々乱雑になっている荷車を整理していると、次第にダン達の姿が我輩達の目でも確認できるようになるのである。

 思ったよりも近づく速度が遅いことから、急いで戻って来ているわけではないようである。


 つまりは魔物などに追われている状態ではないということだと思うので、少しは安心したのである。


 「よう、戻ったぜ。ちゃんと周囲の警戒をしていたようで安心したぜ」

 「悪いけど、この子達を置ける場所…………あら? 用意が良いねえ。じゃあ、子供達を降ろすせてもらうよ」


 帰ってきたダンとアリッサ嬢は用意された場所に抱えていた子供達を降ろすのである。


 「それで、どうでしたかい?」

 「ああ、辺境でやり合った猿達だな。子供を連れてる猿を逃がすために時間稼ぎを試みる奴らもいてな。ちょっと面倒だったぜ」

 「それでも、その群れが攫ってきた子供は全員取り戻してきたけどね」


 笑顔でドランの質問に答えていくダンとアリッサ嬢を見て、ポルト坊は驚きを隠せないようである。


 「すごい…………ゾロンのような集落の戦士でも苦戦するあの魔獣達を二人で……」

 (二人だけで大丈夫なのかと思ったが、規格外だと言ったお前の言葉は本当だったのだな)


 ゾロン氏もそう感想を漏らして笑うのであった。


 「怖かったね。でも、もう大丈夫だからね。お水飲む? あと、お薬飲もうか」

 「お腹すいてない? 干し肉しかないけれど、食べる?」


 一方、デルク坊とサーシャ嬢は荷車に降ろされた子供達に話しかけて世話を焼いているのである。

 ポルト坊の時の事を思い出して、自分たちが会話をした方がいいと判断したのであろうか。

 おかげで、見慣れぬ人間に助け出されたことに警戒の色を多少浮かべていた子供達も、警戒を緩めてサーシャ嬢から水と心戻しを、デルク坊から食料を受け取って口に運ぶ様子が見えるのである。


 「ポルト坊、あの子達は集落の子供達であるか?」

 「ううん。僕のいる集落よりも人間の場所に近い集落の子だよ」

 「この辺りから近いのであるか?」

 「ここがどの辺りかよくわからないから、わからない……ごめんなさい」

 (ポルトは森の民なんだが、人間の血が強すぎてほとんどの種族の特性がかなり弱体化してしまっているんだ)


 つまり、森の民特有の森の中でも距離・方向・位置感覚が弱いということである。


 助けた子供達は獣人や森の民の子供であったのであるが、やはり連れ去られたことによる混乱具合が強かったらしく道はほとんどわかっていないようである。


 「でも、ゾロンに助けてもらった辺りまで行けばわかると思う」

 (それなら俺でもわかるぞ、ポルト)

 「ゾロンはイジワルだ! 後は僕が頑張るから、もう寝てなよゾロン!」


 きっと、この感じが二人の元の会話なのであろう。 

 にやりと笑うゾロン氏に対して、ポルト坊は拗ねた様子で大声をあげるのである。


 「じゃあ、とりあえずはポルトの集落へ戻るためにこの移動跡を辿って行くかね。もしかしたらさっきみたいな事があるかもしれないから、パットンは魔法を使うのをやめて感知を中心に頼む。デルクもさっきのように音に注意してくれ」


 ダンの言葉に二人は頷くと、ダンは荷車を牽くのを再開するのであった。






 「お父さんは、魔獣にやられそうになってた人間を何回か助けたことがあるって言ってたよ」

 「へえ、そうなんだ。いつ頃の話なの?」

 「確か、30年とか40年とか前だったって聞いたよ。探検家っていう職業の人たちで、その中に槍が凄く上手な人や、すっごい大きな剣を使う強い人がいたんだって」


 荷車の上では、先ほど助けた子供達がハーヴィーと会話をしているのである。


 どうやら、薬の影響と食事をしたおかげが落ち着きを取り戻した子供達は、少し前から位置を把握して集落へと続く道をダンに教えているポルト坊、眠っているゾロン氏に付いていいるサーシャ嬢、意識を耳に集中していて近づきがたいデルク坊ではなく、一番見た目がこの中では自分たちに近くて優しそうな近いハーヴィーに話しかけはじめたのである。


 我輩やミレイ女史は人間なのではなしかけづらいのであろうし、アリッサ嬢はダンの前で道を切り拓いているし、ドランは子供達からすると怖い印象を受けるかもしれないので妥当な選択なのである。


 そんな子供達に対して笑顔で優しく応対するハーヴィーに、子供達は懐いたようで先程からべったり状態である。


 そして聞こえてくる会話の内容から察するに、おそらく出てきた人物の一人はバリー老である事が想像されるのである。


 会話が聞こえているのか、ダンも小さく、


 「あのじいさん、若い時は森であのでかい剣振り回してんのかよ」


 等とぼやいているのである。


 「ねえねえ、お兄ちゃんって何の獣人の血が出てるの?」

 「僕は、猛禽の獣人の血だよ」

 「もうきん?」

 「梟とか鷹とか、そういう種類の鳥の獣人だよ」


 ハーヴィーの返事に、黄と黒の縞模様が特徴的な猫の獣人のような姿をした獣人の子供が、ハーヴィーの背中を見て不思議そうにするのである。


 「鳥の獣人なのに、羽が無いんだね」

 「馬鹿だなぁ、だから人間なんじゃないか」

 「あ、そっかぁ」


 森の民の子供の言葉に、獣人の子供が納得した様子の声を上げるのである。


 「君達の集落には鳥の獣人がいるの?」

 「いるよ! でも、鷹とかじゃなくて、孔雀の獣人なんだ」

 「羽がね、とっても綺麗なの!」

 「そうなんだね。この二人を送り届けたら君達も送っていくから、その時会えるといいな」

 「うん! 会わせてあげるねお兄ちゃん!」


 そんな子供達とハーヴィーのやり取りを少し離れて観察していると、


 「人の生活臭を感じるね。集落が近いよ」


 と、アリッサ嬢が荷車に並走する形で我輩に声をかけるのである。


 「アリッサ嬢、道は拓かなくて良いのであるか」

 「もう、広い場所に出てるさね」


 そう言われて辺りを見ると、いつのまにか少し整備された道のような場所に出ていたのである。

 そしてその道の先を見ると、木々の間から獣などから集落を守るための柵のような物が建っているのが見えるのである。


 「あの柵の向こうが僕の集落だけど、中にはいるのはもう少し日が沈んでからの方がいいと思う

 「ん? 何でだ?」

 「この時間は夜の一族が眠っているから、柵の近くを魔法人形が守っているんだ」


 ポルト坊の話だと、この時間帯に柵に近づいた生き物は何であれ攻撃対象になるとの事で、今より小さかったポルト坊も好奇心で柵の近くに行って襲われたことがあるようである。


 「物騒な話だな」

 「あの集落は、他と違って夜の一族以外の亜人種は殆どいないんだ」

 「だから、自分達の身を守るために魔法人形を作っているというわけであるか」


 ポルト坊の言葉に納得した我輩達は荷車を停めて日が落ちて夜の一族が活動を始めるのを待つのであった。




 


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