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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
9章 南方地域の大森林と誘拐事件、である
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南方地域の大森林、である


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。






 「全く……酷い目にあったのである」

 「そう思うのでしたら、一人で答えをお出しになる癖をお止めになれば良いのですよ」


 延々と続いたダンとアリッサ嬢の小言から解放され、心底参ってそう呟く我輩にミレイ女史が笑顔を浮かべてそう言うのである。


 「ミレイ女史は受け入れてくれていたのではないのであるか?」

 「受け入れる受け入れないというのと、不満を持つ持たないというのはまた別の話ですよ? アーノルド様」


 どうやら、ミレイ女史も我輩の勝手な行動に思うところがあったようである。


 爽やかな笑顔を浮かべていることが、安らぎではなく不安を駆り立てる行動にもなるものだとは思いも寄らなかったのである。


 「……善処するのである」

 「期待はしておりませんが、頑張ってくださいね」

 「言葉が辛辣なのである」

 「ご自身の行動を省みていただければ致し方ないと思いますよ」

 「返す言葉もないのである」


 我輩が思っていたよりも大分怒っていたようである。

 貴重な学友の機嫌を損ねるのは御免なので、我輩は行動の改善努力に勤めようと決意するのである。


 このような会話をしている我輩達は、現在夜営の準備中である。


 大森林にはすでに突入しているのであるが、ゾロン氏もポルト坊もこのあたりの地形には覚えがないようで、取り合えず飛び込んだと思われる地点まで川を遡るのを続けることにしたのである。

 もしも、飛び込んだのがこの川でなかったらどうしたものかという話なのではあるが。


 そのようなことを思いながら、我輩は周囲に広がる大森林に目を向けるのである。


 背の高い広葉樹が大半を占め、枝葉も広く広がっているために日の光が差し込む量も少ないために、辺境の大森林よりも薄暗い印象を受けるのである。

 夜の一族が暮らすにはちょうど良いという事なのであろうか。


 また、木々の間には膝から草や苔が鬱蒼と生い茂り、地面はその影響なのか湿り気が強い気がするのである。

 なので森林というよりは密林といった方が表現としては適切なのであろうか。


 それでも今はまだ川沿いを移動しているため、まだ移動するための道を切り開くのが容易な方なのであるが、本格的に大森林に入ったら早めに獣道のような物を見つけたいところではあるのである。


 とはいえ、大森林に入ったことで日の光の影響が下がっているので、明日からは全面遮光などしなくとも大丈夫になりそうである。

 そうなると、我輩達も荷車に乗って移動をするようになるので、実質負担がかかるのはダンなのである。


 やつは、この程度の道悪は気にしないはずなので心配は無用であるか。


 と、我輩は結論づけて夜営の準備を進めていくのであった。






 (ほう。こいつはうまいな)

 「口に合ったようで良かったよ」


 アリッサ嬢の作ったスープを口にしたゾロン氏の言葉を聞き、アリッサ嬢は安心したように笑顔を浮かべるのである。


 (料理から溢れ出す【意思】の構成魔力。お前の食材や料理に対する純粋で深い愛情が原始の魔法の域まで昇華して、食材や作る料理の味を引き出しているのだな)

 「パットンも似たような事言ってたけど、原初の魔法って結局のところ意思の魔法と一緒だよね」


 アリッサ嬢の言葉にゾロン氏スープを飲みながら頷くのである。


 (ものすごくざっくり言えばそうなるな。だからこそ、どんな生物でも扱えるのが原初の魔法であり、同時に魔の冠を抱かない限り【意思】の構成魔力を魔法として扱えない理由でもあるのだがな)

 「それは、生物の枠として【意思】の構成魔力は原始の魔法としてしか使えないという限界があるということであるか」

 (その通り。【意思】【肉体】などの、言うなれば生命の根幹に関わる構成魔力は生物の枠では自由に扱うことができないと言われていたんだ)

 「生命を扱うなんて、言ってしまえば神様の領分ですしね」

 「そういうことだよ。だからこそ、そのことに気付いた一部の者達がそれを扱うために本来ある枠を外そうと研究を開始したんだね」


 ハーヴィーの言葉に、お気に入りの果実を飲み込んだ妖精パットンが頷きながら返事を返すのである。


 「そうして生まれたのが夜の一族というわけであるか」

 (まぁ、そういうことだな。話が横に逸れたが、原初の魔法と意思の魔法の違いはその程度でしかないということだ)

 「ありがとうね。その程度っていうけれど、結構大きい違いだねぇ」

 「よく分かんないけれど、アリッサ姉ちゃんのご飯はすっげえ美味しいっていうことだよね! だからおかわり!」

 「はいはい。デルっちは単純で嬉しいよ。あたしは」


 そう言ってアリッサ嬢はデルク坊と、その横でおかわりをいうタイミングを逃したらしく空いた器を持って困っているポルト坊のおかわりをよそうのであった。






 「ゾロン氏よ、体調は大丈夫であるか?」

 (大丈夫ではないな。本来この時間は家に篭り、眠ってやり過ごす時間だ)


 夜営を終えた我輩達は、日が上りはじめるのと同時に川を遡るのを再開するのである。

 やはり大森林の中は外に比べると大分薄暗いため、ゾロン氏の肌は焼けることはなさそうであるが、やはりかなり辛そうである。


 そんなゾロン氏を休ませたいところなのであるが、景色などの見覚えがないかを確認してもらうために申し訳ないのであるが今も起きてもらっている状況なのである。

 と、いうのも最初はポルト坊に頼もうと思ったのであるが、混乱していたためにほとんど景色を見ている余裕がなかったらしいからなのである。


 「ゾロン、ゴメンね。僕がちゃんとしていれば今は眠っていられるのに」

 (気にするな。歩いて移動しているわけじゃないからまだ耐えられる。……しかし)


 ゾロン氏は荷車を楽しそうに牽いているダンと、その前を走りながら道を作るべく草を次々に刈り込んでいくアリッサ嬢を見るのである。


 (人間というのは、あんなに素早く動けるものなのか? 俺の知っている獣人達でもあれほどの奴はそんなにいないぞ)

 「ああ、あの二人が別格である。あれを基準に考えではいけないのである」

 「現時点で人間の世界で5本の指に入る身体能力の持ち主だと思いますよ。あの二人は」

 (なるほど。あれだけの能力を持つものと、それを補助する戦闘役。目と耳が良い斥候役に意思の魔法を使える使い魔。それと、この荷車や強力な結界を張るだけの道具を作る技術を持った者とその助手、か。確かに大森林の深部に行けるだけの事はある)


 我輩とミレイ女史の言葉に、ゾロン氏は何やら納得のいった様子を見せるのである。


 「あまりに戦闘がないもんだから、俺は暇ですけどね」

 「大丈夫! ドラン兄ちゃんの焼いた肉は絶品だよ!」

 「探検家として、それはどうかと思うぞデェルクゥ……」


 絶妙にフォローにならないフォローをされて、苦笑いをドランは浮かべるのである。


 そんな他愛もない会話をしばらく続けると、ゾロン氏が辺りを見渡しはじめるのである。


 「見覚えがあるのであるか?」

 (最後に覚えてる辺りと風景が似てる気がするな。この先の流れが急になってくるならば、おそらく当たりだ)


 ゾロン氏の言うとおり、先に行くほどに川の流れが早くなり、そして木々もより密度を増していくのである。


 「辺境の大森林だと、そろそろ深部付近ですね」

 (こちらの大森林でも同じくらいの距離だ。奥に行くほどに薄暗く、木々の密度が増していくと言われている)


 慣れたように、すごい早さで変わっていく景色を見ながら大まかな地図を書き記しつつ距離を計算するハーヴィーに対し、ゾロン氏が同意するように答えるのである。


 そのままさらに川を遡っていくと、


 (ダン、おそらくあの岩の先が俺達が飛び込んだところだ)


 と、ゾロン氏が言うのであった。


 「おう。わかった」


 ダンはそう言うとゾロン氏がいった場所で一度荷車を止めるのである。

 今いる場所から大森林の方を見ると、草木が鬱蒼としている中に移動のために荒らしたような後が残っているのである。


 「あぁ、確かに何かが移動したような跡があるな。これがゾロンの通った道の跡か」

 (俺は枝を飛んで移動するのがそれほど得意じゃないからな。ポルトを抱えたままだとこっちの方が早かったんだ)

 「まぁ、おかげで逆走が可能だから楽だぜ。ゾロン、とりあえず跡が途切れるまでの間は休んでくれ。ありがとよ」

 (そうか。では、言葉に甘えさせてもらう)


 そう返事を返したゾロン氏が横になったのを確認してから、ダンはゾロン氏を休ませるため、少し速度を落とした状態で再び移動を開始するのであった。






 そうして暫く残っている跡を辿る形で移動していたのであるが、デルク坊が不意に別方向を見るのである。


 「ダン、少々移動を止めるのである」

 「デルク? どうしたの?」


 我輩同様に、デルク坊の突然の行動に気付いたポルト坊がデルクに質問をするのである。


 「……何か、子供の悲鳴のような声が聞こえた気がする…………」


 ポルト坊の質問に答えるデルク坊の声を聞くと同時に、荷車を止めたダン、ハーヴィー、アリッサ嬢、妖精パットンがデルク坊の見ている方向に意識を集中させるのである。


 「僕は森の木々のせいなのか、確認できません」

 「…………微かに向こうから血の匂いがするよ。でも、それがデルクの言っているのか分からないね」

 「恐怖の意思を発しているを存在がいるね。大変なことにどんどん離れていってるよ」

 「俺の気配察知が届かない距離か。パットンは道案内を頼む。アリッサ行くぞ!」


 妖精パットンの報告が終えると、ダンはパットンとアリッサ嬢を連れてデルク坊が見ていた先へと一気に進んで行くのであった。


 「行っちゃいましたね」

 「とりあえず、無いとは思いますが隊長達が魔物を引き連れて来る可能性もあるんで戦闘準備をしておきますわ」

 「僕とデルク君は、周囲の警戒をしてますね」

 「任せて!」

 「では、私は結界石を使用する準備をしておきます」

 「おじさんは私が守るからね!」

 「我輩はやることがないのである…………」

 「皆、手慣れてるんだね……凄いなぁ」


 流れるように役割を決めて動いていく我輩達に、感心した様子を見せるポルト坊と我輩を見て薄く笑うゾロン氏である。


 太陽が一番強く出ている時間なので、おそらく念話の魔法も使えないほど弱っているので何を伝えたいのかわからないのであるが、きっと、


 "お前だけ、やることがないのか"


 と、笑っているのであろうなというのはなんとなく伝わったのであった。




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