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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
9章 南方地域の大森林と誘拐事件、である
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夜の一族、である


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。






 「ゾロン! ゾロン!」

 (心配をかけてすまなかった。ポルト)


 ポルト坊が泣きじゃくりながら横になっている状態のゾロン氏に抱き着いているのである。

 気がついて間もないゾロン氏であるが、しっかりとポルト坊の頭を撫でるのである。


 (そっちの人間達も俺達を助けてくれてありがとう)

 「気にすることはないのであるが、ずいぶんと物分かりがよいのであるな」


 そう、目を覚ましたゾロン氏は特に混乱することもなく、現状を受け入れているのである。

 今も、こうやって普通に対話ができているのに大きな違和感を感じる…………。


 そこで、我輩は一つの可能性に気付くのである。


 「妖精パットン、何をしたのであるか。もしや、変な魔法でもかけて……」

 「ボクはとても悲しいよ、錬金術師アーノルド。ボクが今までそんなことを勝手にやったことがあるのかい?」


 言われてみると確かにそうである。


 妖精パットンは、いたずら好きで人を困らせるのも好きであるが、魔法を使って人の意思を操ったりする事はしないのである。


 (違う。その使い魔が、念話で状況を説明してくれていたんだ)


 と、そこにゾロン氏が妖精パットンが何をしたのかと言うのを説明するのである。


 どうやらポルト坊と海岸で食事をしているときから、妖精パットンはゾロン氏と強い意識共有の魔法を使っていたらしく、夢という形でずっと状況を送り続けて会話をしていたようなのである。

 なので、ポルト坊がデルク坊と仲良く会話をしているのも知っているし、ミレイ女史がゾロン氏の汗を拭いているのも知っているし、我輩がゾロン氏に水を飲ませていたことも知っているようなのである。


 「何で説明しなかったのであるか」

 「驚かせたかったんだもの。別に良いでしょ? 困ることじゃないんだから」


 妖精パットンの言う通り、困るどころかむしろ助かるのである。

 で、あるが、だからといって内緒にして良いという話ではないのであるが、感謝する面が大きいためあまり強くは言えないのである。


 「ふっふーん。ボクに感謝するんだよ、錬金術師アーノルド」

 「釈然としないのであるが、事前に状況を説明してくれて感謝するのである。妖精パットン」

 「あはは…………」


 我輩の渋々といった感謝の言葉に、ミレイ女史は苦笑いを浮かべるのである。


 そして、満足そうに我輩の頭の上で寝転がった妖精パットンを確認した我輩は、泣きつかれて眠ってしまっているポルト坊の頭や体をを撫でつづけているゾロン氏との会話を再開するのである。


 「それで、やはりゾロン氏は夜の一族なのであるか」

 (大まかに言えばその通りだ。ただし、俺はいろいろな要因が重なって面倒なことになっているがな)

 「どういうことであろうか。できれば詳しく説明をしてもらいたいのであるが」


 我輩の言葉を聞き、ゾロン氏は説明を始めるのである。


 (夜の一族が【意思】の構成魔力を使用するために、日の光等の強い光の元での極端な能力低下や、その他の構成魔力の感知・制御能力のほとんどを代償にしていることは知っているな?)


 ゾロン氏の言葉に、我輩とミレイ女史は頷くのである。

 妖精パットンの説明でもそう聞いているのであるし、そのために他の亜人種と集落を形成して生活をしているのだと夜の一族の事を知る獣人に聞いたことがあるのである。


 その話を聞いたとき、だから帝国が作られたときに人間と協力関係を築いていたのであろうと我輩は推測したのである。


 その事をゾロン氏に告げると頷くのである。


 (だが、夜の一族の一部は自分達のみで生活することを目指し、自らの行動の一部を代償にすることで【肉体】の構成魔力を使えるようにして、自身の体の一部と肉体の元になる材料を使い、自分の知識や能力の一部を使える"使い魔"や"魔法人形"などの魔法生命体を創り出す魔法を編み出したんだ)

 「ゾロン氏が話せないのは、その末裔であるということであるか」

 (そうだな。俺は話す事と、左目で物を見ることを失っている。それに加えて獣人の血が強く出ているために、他の一族に比べて身体能力がかなり上がっている代わりに、意思の魔法と肉体の魔法の使用にかなり制限がある)

 「生活に不便はないのですか?」


 ミレイ女史の言葉に、ゾロン氏は頷くのである。


 (話せなくても、自分と相手の意思の構成魔力を繋げれば会話はできるし、片目が見ない奴など、大森林にはわんさかいる)


 まあ、確かにその通りである。

 念話の魔法は自分と会話先の相手の意思の構成魔力を具現化して繋がなければならないので、複数との会話の際は繋ぎ直しが面倒なのであるが、そのかわり感知できる距離であるならばどんなに離れていても会話が可能なのが利点である。


 (それで俺はポルトを追いかけることができて、魔獣から助けることができたんだ)


 話がちょうど次に尋ねようとした事になったので、我輩はそのまま尋ねるのである。


 「ポルト坊から攫ったのは猿の魔獣と聞いたのであるが、このあたりにも猿の魔獣がいるのであるか」


 我輩の質問に、ゾロン氏は寝ているポルト坊に影響が無いよう首を少し横に動かすのである。


 (いや、今まで見たことがない。猿の魔獣だけじゃない、二本角の猪や巨大な蛇、他にもいたと思うが、どれも北からこっちにやって来る奴らから聞いたことがあるが、このあたりでは見たことがない種類だ。しかも必ず数を揃えてくる上に、単純だが連携を取って来る面倒な奴らだ。おかげでいいようにやられてしまっている)


 そう言うゾロン氏はとても悔しそうな表情を浮かべているのである。

 おそらく今までもこういう事があったという事なのであろう。


 「ゾロン氏よ、聞いてほしいことがあるのである」


 そう言って、我輩は辺境の大森林で起きたリスの獣人達の騒動から始まる一連の出来事をかいつまんで話していくのであった。






 (なるほど。お前達はその猿の魔獣達が、北の方で起きた事件を起こした連中と同じだと考えているのか)

 「そうである。そもそもこちらにいないはずの獣や魔獣がいる時点で十分疑わしいのである」


 我輩の言葉に、ゾロン氏は頷くのである。


 (確かにな。蛇海竜というのがどんなものかは分からんが、子供の誘拐が問題になりだしたのはその少し前くらいからだとは思う)


 そう答えるゾロン氏の表情には怒りがにじんでいるのである。

 霧の魔物によって子供達が取り憑かれてしまっていると考えれば状況は最悪である。


 「我輩達は連中の毒牙から民を守るため、このあたりの集落にいる者達に協力を願おうと思い、大森林にやってきたのである」

 (なるほど。だが、夜の一族は人間と一定の距離を取っていた種族だ。ポルトの事で恩がある俺はともかく、他の者は現状では人間を守るための協力はしないと思うぞ)

 「何を言っているのであるか、民とは帝国民の事である。ゾロン氏達、夜の一族も同じ帝国民であろうが。当然、このあたりから連中を追い払うまで、子供達を救い出すまでそちらに協力するに決まっているのであろう」


 我輩の言葉にゾロン氏は驚き、ミレイ女史はやれやれといった表情を浮かべるのである。


 「あーあ、また勝手に決めちゃって。ダン達に相談して決めちゃいけないんじゃなかったの?」

 「我輩がこういう選択をするのは全員わかっているのである。一年近く我輩についてきたのならば、これくらいの事は覚悟しておくべきなのである」

 「開き直っちゃったよ。全くしょうがない人だね、君は」


 頭の上のパットンは、あきれた声を出してそういうのである。


 人はそう簡単には変われないのである。


 「取り合えずさ、ボクもちゃんと覚悟を決めたいから、もう一回いつからいつ頃までここにいる予定なのか言ってもらっていい?」


 妖精パットンに言われて、我輩は再度、魔物達を追い払い子供達を助けるまで大森林にいると告げるのである。


 すると、


 (おい! また勝手に決めてんじゃねえよ! 今日の夜営の時、ただで済むと思うなよ!)

 (何で一人で決めるのさ! 結論が同じでも先に相談しなさいっていつも言ってんでしょうが!)

 (おっちゃん! おれ頑張るぜ!)

 (おじさん! がんばろうね!)

 (腕が鳴りますぜ! ガッハッハ!)

 (…………仕方ないですけど、それってすごく大変なんですよ? わかってますか?)


 他の者達の意識が次々に我輩にやってくるのである。


 「やっぱりさ、こういう大事なことって勝手に決めて後で怒られればいいとか、皆ならわかってくれるって甘えて考えるのは良くないと思うんだよね。だから、結構大変なんだけれど念話の魔法でアーノルドと他の皆を繋げてアーノルドの考えを皆に聞かせてあげたんだよ。感謝してね」


 そう言うと、妖精パットンは我輩の頭から飛び立ってミレイ女史の元へといくのである。


 それは良いのであるが、先程からずっと我輩の話を無視して説教をしてくるダンとアリッサ嬢の言葉が聞こえて来るのである。

 これはどういうことであろうか。


 「さっき、ボクに失礼なことを言ったのに、謝ってくれなかったからね。ダンとアリッサからの接続だけ残してあるんだ。失礼で自分勝手な錬金術師アーノルドは、二人に沢山怒られると良いと思うよ」


 つまり、二人の気が済むまでの間、我輩は一方的に小言を言われつづけなければならないということである。


 そのことに気付いた我輩に妖精パットンが見せた表情は、可愛らしくもあり苛立たしくもある意地の悪い表情なのであった。




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