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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
9章 南方地域の大森林と誘拐事件、である
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新たなる火種


 帝国の南に位置する南方地域。


 その東側には、遥か北の龍の山脈から東の辺境、そしてこの南方地域の海沿い付近までに広がる大森林が存在している。

 その広大さ故に、同じ大森林という地名でも生えている木々や棲息している生物など、環境は大きく異なるため、大森林に入る際は注意が必要である。


 そんな、南方地域の大森林の深部と呼ばれる場所での出来事である。






 周囲は薄暗くなり、夜の訪れがやってくる頃の事。


 鬱蒼と広がる木々の枝を伝い、数匹の魔獣が移動をしている。

 そして、その中の一匹の魔獣の片腕には翡翠色の髪色をした子供が抱かれている。


 だが、決して魔獣と子供は戯れていたりするわけではない。


 と、いうのも、魔獣に抱かれている子供の表情は恐怖のそれだからである。


 そう、子供は魔獣に攫われているのだ。


 (怖い、怖い、怖い!)


 許容できないほどの恐怖を覚えた結果、声を上げることもできずに、ただひたすら子供は涙を流す事しかできない。


 魔獣から逃れようにも、身体能力は魔獣にはるか及ばず、魔法を使って逃れようにも、子供は魔法を使えることができない。


 高い魔力制御の力を有している種族である事を証明する、翡翠色の髪色を持っている子供だが、残念なことに子供は人間の血が強く出て生まれてきたために、魔法陣を介してでしか魔法を使用することができないのだが、恐怖に囚われた現在の状況では、魔法陣などまともに描くことはできない。


 どんどんと集落から離れていくこの状況に、子供は深い絶望へ沈んでいくのだった。






 子供のいた集落や周辺の集落では魔獣による子供の誘拐が続出しており、子供のみの出歩きは禁じられていた。

 しかし、それにもかかわらず、何故このような状況になってしまったのか。


 それは、突然子供の集落に魔獣の群れが襲い掛かってきた事から始まる。


 このあたりでは見かけない、猿の魔獣、二本角の猪、そして大きな蛇の魔物。

 集落の自警団がそれらの対処を行っている最中、子供は避難場所へと移動しているところだった。


 一人で行動することは禁じられていたので、友人である自分とは違う亜人種の青年とともに移動している最中、別の場所から猿の魔獣が襲い掛かってきたのだ。


 不意を突かれた青年はその魔獣に対処している最中、死角から別の魔獣がやってきて子供を攫って行ったのだった。






 (生きたまま引き裂かれて、食べられちゃうのかな…………怖いよ…………ロン……。怖いよ……助けて…………)


 想像できる中でも一番残酷な想像をついしてしまい、子供はまた涙が溢れて来る。


 いつも一緒にいて、自分を守ってくれた。

 今回も自分を逃がそうと、一人で数匹の魔獣の相手をしていた青年の名前を呼び、助けを求める。

 これだけ離れてしまったら、助けを求めても無駄なのだと思いながら。


 だが、


 瞬間、子供を抱えていた魔獣が突如として大声を上げる。


 そして、


 (遅れてすまなかった)


 子供の頭に、聞き覚えのある声が響くのだった。


 (ゾロン! 助けに来てくれたの!? でも、どうして?)


 子供は、自分を抱き抱える真っ白な肌をした青年、ゾロンに驚きとそして歓喜の混ざった声をあげる。


 魔獣に抱かれて集落を離れていく自分が目にしたときには、ゾロンは猿の魔獣と戦っていた状態だったはずで、到底追いつけるとは思えなかったからだ。


 (ポルトとの念話を切っていなかったから、魔力を辿って追ってきた)


 ゾロンは目の前の子供、ポルトと魔法で会話をしていた状態だったため、ポルトと繋がっていた構成魔力を追って懸命に後を追ってきたのだ。


 (それよりもポルト、早く逃げるぞ)

 (え?)

 (このままだと逃げ場がなくなる)


 そう言うと、ゾロンはポルトを両手で抱える直すと一目散に走り出す。


 ポルトが周りを見ると、片腕になった猿の魔獣のほかにも多数の猿の魔獣が、二人を包囲するように動き出していたのだ。

 もしもあのままもう少しじっとしていたら、きっとどこにも行き場がなくなっていた筈だ。


 こうして、つかまれば絶望が待っている、二人と魔獣の追いかけっこが始まるのだった。






 そうして、追い付かれる事はなかったものの、引き離すこともできずに逃避行を行っていた二人だったが、立ち止まることを余儀なくされる。


 なぜならば、


 (川…………)


 目の前に、泳ぐことができないほど、激しく流れている川が流れていたからだ。


 猿の魔物は、どんどんと近づいて来ている。


 (ゾロン……どうしよう……)


 不安な表情を浮かべるポルトに尋ねられ、ゾロンは考える。


 戦って切り抜けるのは不可能だ。

 一匹二匹程度なら倒すことはできるが、敵は十匹ほどで、しかも都合の悪いことに単純ながらも連携をすることができるのだ。

 ポルトを守りながら戦うなど、どうやってもできない。


 ポルトを助けたときのように、自分たちの姿を隠してやり過ごすことも難しい。

 さっきは、自分がいることが気付かれていない状態だったので、獣人の血が混ざって魔法の力が弱まっている自分の認識阻害の魔法でも効果があって、敵の不意を突いてポルトを助けることができたが、今は完全に認識されている状態だ。


 だとしたら……。

 ゾロンが川の先を見ると、夜も明けかかり少しずつ明るくなってくる時間のようだ。

 いずれにせよ、このままだと種族特性で自分は使い物にならなくなる。


 ゾロンは覚悟を決める。


 (川に飛び込むぞ)

 (え!?)

 (このままだと結局二人とも魔獣にやられる。少しでも生き延びる可能性にかける方がいい)

 (でも、ゾロンは!)

 (俺のことは良い! 行くぞ!)


 そう言うと、ゾロンはポルトを抱えて川へと飛び込み、激流の中に見を委ねるのだった。






 ゾロンは肌が燃え上がるような痛みを感じる中、意識を取り戻す。


 どれだけ時間が経ったのだろう。


 分からないが、激流に身を投げたあと、必死になって見つけた流木にしがみついた記憶がある。

 そして、必死にポルトを守りながら溺れないようにして、流れが穏やかになったところで記憶が途切れている。

 どうやらそこで気を失ったようだ。


 あたりを見渡すと、大森林を抜けてどうやら巨大な湖に出たらしく、隠れることのない強烈な日の光が容赦無くゾロンを文字通り焼いていく。


 (ポルトは…………)


 ゾロンは気を失いそうな痛みに耐えながら、自分とともに川に入った少年の姿を探すと、気を失っているもののしっかりと木に掴まっている姿を見つけることができた。


 (よかった…………)


 あとは、どこかに上がることができさえすれば、何とかなるかもしれないのだが、見えている岸はとても遠く、到底今の自分の力では行けそうにもない。

 しかも、どんどんと岸から離れていっている。

 このままでは、この巨大な湖の真ん中で二人とも溺れ死ぬかもしれない。

 それだけはどうにか避けないといけない。


 (何か……何か生き物はいないか……)


 薄れ行く意識の中、ゾロンは懸命に生物の姿を探す。


 すると願いが通じたのか、自分よりも二回りも巨大な蛇のような生き物が顔を覗かせていたのが見えた。

 限界ギリギリまで集中すれば、今の自分でも一時的に魔法はかけられるはずだ。


 そう思ったゾロンは、低下した自分の意識を限界まで集中して、その生物に言葉を投げかける。


 (頼む、あの岸まで、俺達を運んでくれ…………頼む…………)


 そこでゾロンは再び意識を失うことになり、そして、言葉を投げ掛けられた生き物は、ゆっくりと二人を岸へと連れていくべく進んでいくのだった。


 そして、


 「アリッサさん! あそこの小島の岸に、誰か打ち上がっています!」

 「じゃあ助けにいかないとだよ! ハーヴィー!」


 気を失っている二人の存在に気付いた一組の男女によって、二人は救出されるのだった。




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