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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
2章 辺境の集落と新しいメンバー、である。
18/303

森の民の歴史や文化は興味深いのである


 我輩の名はアーノルド。帝国唯一無二の錬金術師である……そして……大人のはずである。






 騒がしい夜が明け、朝を迎えるのである。

 まだ、太陽の光が差す前ではあるのだが、我輩はベッドから起き、工房へとむかうのである。


 サーシャ嬢が寝てから起きるまでの間が、我輩一人で研究や勉学ができる時間だからである。


 別に、サーシャ嬢が邪魔というわけではなく、たまに、一人で行いたい時がある。

 と、いう程度の事である。


 我輩が工房へ入ると、中にはすでに一人いたのである。


 「おじさん、おはよう! 今日は早いんだね!」

 「おはようである、サーシャ嬢。そちらこそ大分早いのであるな」


 今は、普段サーシャ嬢が起きる時間よりも、二時間ほど時間である。

 珍しいこともあるものなのである。


 「えへへ……昨日、疲れて早く寝ちゃったから、早く起きちゃった」

 「あぁ、なるほどである。体調はもう大丈夫なのであるか?」

 

 昨日の今日である。

 なにか影響が残っているかもしれないと心配した我輩はサーシャ嬢に体調に不備はないか質問をするのである。


 「大丈夫だよ! たくさん寝ちゃったから、元気いっぱいだよ!」


 しかし、我輩の心配を吹き飛ばすほどに元気な返事をサーシャ嬢は返すので、我輩はひと安心するのである。


 「そうであるか、それならばよかったのである」


 我輩はそう返事を返したあと、研究に勤しもうと思ったのであるが、何やら扉の方から声がするのである。


 少し近づいて聞き耳を立ててみると、聞きなれた声が聞こえてくるのてある。


 (そこは、敢えてもう一度<本当に問題は無いのであるか?>って聞かなきゃ!)

 (声でけぇって。で、<おじさん!心配しすぎだよ!>ってなるんだな)

 (そうそう!それで<申し訳なかったのである>からの<でも、心配してくれてありがと♪>までが王道…………)


 呆れた我輩は、隠れてこそこそしている二人に話しかけるのである。


 「……お前たちは、いったい何をやっているのであるか」

 「……いやぁ、センセイは、王道を何故進まないのか!って話をねぇ」

 「なぁ」

 「…………何を意味のわからぬことを…………」


 そこには、小芝居に興じていたダンとアリッサ嬢(バカ二人)がいたのである。


 我輩に気付かれて、その場からつまらなさそうに出ていく二人を見送り、我輩は手引き書を開くのである。


 「おじさん、おねえちゃん達はどうしたの?」

 「訳の分からない遊びをしていたようである」

 「ふーん………変なの」


 今日は、初級手引き書を読み終える予定なのである。






 朝の学習時間も終え、朝食の時間である。


 今日は、配膳の手伝いをサーシャ嬢が行っているのである。

 アリッサ嬢が装っているものをいそいそと配膳しているのであるが、アリッサ嬢と比べるとどうしても遅くなってしまうので、空腹の兄君はイライラしているようである。


 「早く飯! 食いてぇ! サーシャ! おせぇよ!」

 「お兄ちゃんひどい! だったら自分でやってよ」


 なのでサーシャ嬢も、大声をあげてしまうのである。

 

 サーシャ嬢の言うとおり、早く食べたいのであるならば、兄君も手伝えばいいのである。


 そう注意をしようと思ったのであるが、その前に、


 「デルっち! 早く食べたいなら、自分の分は自分で持っておいで! 妹に甘えて自分は何もしないで待ってるだけなのに、偉そうに文句を言わない! そんなやつに食わせるものなんか無いよ!」


 とアリッサ嬢にきつく言われるのでる。

 兄君はやったことが恥ずかしいことだというのがわかったのか項垂れると、サーシャ嬢に向かい


 「……サーシャ……、腹減ってご飯を早く食べたいからって、イライラして酷いこと言ってごめん。おれ、自分でもらって来る。お昼ご飯は、おれが手伝うから、サーシャは座って待ってて」

 「ううん、私も早くできなくてごめんなさい。でも、お昼ご飯の時も一人じゃなくて二人で手伝おうよ、お兄ちゃん。その方が早く食べれるよ!」

 「うん……うん! そうだね!」


 ふむ、きちんと反省したようであるな。そして、兄君は自分の食器をアリッサ嬢の所へ持って行き、


 「アリッサ姉ちゃん、自分勝手なこと言って、二人に嫌な思いさせることしてごめんなさい。あの……ご飯、お願いします……」


 そういって、食器を渡すのである。少々やんちゃであるが、兄君も素直ないい子なのである。自分のいけないと思ったところを素直に謝れるのは素晴らしいのである。


 アリッサ嬢は兄君を一瞥すると、差し出された食器を受け取り、


 「よろしい」


 そう言って、アリッサ嬢は別の鍋から大きな肉を何個か取り出すと器に入れるのである。

 とろとろに煮込まれている脂身の多い肉と付け合わせの野菜に、おいしそうな香りのするソースがかかって、食欲を誘うのである。


 あれは一体なんであろうか? 


 我輩に配膳された物には、あのような物は無かったのである。


 「おぉぉ、うまそう…………」


 少し元気がなさげであった兄君の顔がソースのようにキラキラしてきたのである。

 見事なまでに単純である。


 「昼に出す予定だった新作さ、ちゃんと反省したご褒美に、最初に食べさせてあげるから、感想を頼むよ」

 「アリッサねえちゃん、ありがとう! やっりぃ♪ やっりぃ♪」


 満面の笑顔で兄君は食器を受けとり、嬉しさが分かるほど体が揺れている。


 「良いかいデルっち、今回の事で味をしめて、同じこと繰り返したら、味のないご飯を食べさせるからね」

 「分かった! 絶対にやらない!」


 釘を差すのを忘れない。

 見事に教育されているのである。


 「なぁ、アリッサ」


 一連の出来事を見ていたダンが、自分の分も装い、食べ始めようとしたアリッサ嬢に話しかけるのである。


 「なんだい? リーダー」

 「いつも思うけど、お前は母親みたいだな」


 ダンの言葉に、不服を表すように料理を刺している棒で、こちらを指すアリッサ嬢。

 食事の教育に勤しむアリッサ嬢よ、それは、行儀が悪いのではないのであろうか。

 そんな我輩の気持ちも知らず、アリッサ嬢は続けるのである


 「誰かさんたちが全然しっかりしないから、あたしが保護者代わりをやるしかないでしょうが」

 「センセイ、言われてるぞ」

 「ダンの事であろう」

 「お・ま・え・ら・だ!」


 我輩達の言葉に、アリッサ嬢のカミナリが落ちるのである。


 こうして、いつものように騒がしい食事の時間が過ぎていくのである。


 たまには落ち着いて食べたいものである。


 「これ、うめぇ! うめぇよ、サーシャも食べるか?」

 「うん、……あ、おいしぃー。お昼、楽しみだなぁ♪」


 サーシャ嬢も、この雰囲気に慣れたようで、普通に食事を楽しんでいるようで良かったのである。


 「大体ねぇ……って、聞いてるの!? センセイ!」

 「聞いているのである」


 アリッサ嬢に説教をされながら、我輩はそう思ったのであった。


 「センセイ!」

 「聞いているのである」


 






 「今更な質問ではあるのだが、サーシャ嬢」

 「なぁに? おじさん」


 食事も終わり、少しばかりの休憩の時間である。


 兄君は、これからアリッサ嬢と向かう、昼食の食材探しの準備をしているところである。

 獣人の血の影響なのか、動き回れるようになって急激に体力も戻って来ているようである。


 ダンは、工房から持ってきた素材事典と手引き書を交互に見ているのである。

 おそらく、必要な素材などを確認しているのであろう。

 調合しないと言っているのに、レシピには興味があるのであるな。


 アリッサ嬢は、我輩達の食器を洗っている最中である。

 食事の一件を見ていても着々と兄君の教育が進んでいて、完全に手綱を握っている状態である。一体兄君をどうする気なのであろうか。


 そんな中、我輩はサーシャ嬢に会話をするのである。


 「サーシャ嬢達は、人間が嫌いでは無いのであるか?」

 「え? なんで?」


 ダンの本を読む手が止まり、アリッサ嬢が食器を滑らせ落としそうになる。

 危ないのである、その食器は我輩のものである。

 そして、二人とも信じられ無いものを見る目でこちらを見ているのである。


 「え? え? なんで? ほんとに今更聞くことなの?」

 「いや、過去のことを思えば当然の疑問であろう?」


 我輩の言葉を聞き、二人は余計に意味がわからないといった表情をするのである。


 が、


 「それなら、なんで今まで疑問に……あぁ、センセイだからか」

 「あぁ、そっか。センセイだもんね……」


 そう言って、かってになっとくするのである。

 どういう納得の仕方であるのか。

 反対に我輩が納得いかないのである。


 「おじさん、なんでそう思うの?」

 「そうだぜ。おれ達に人間を嫌う理由なんか無いんだぜ」


 首を傾げてこちらに質問を返すサーシャ嬢に加え、兄君も準備を中断して話に混ざるのである。


 人間を嫌う理由が無いとはどういうことであるか? 


 ダンとアリッサ嬢を見るが、二人とも首を振る。

 聞いていないというわけであるか。

 

 ならば尋ねてみるのである。


 「我輩達人間は、1200年以上前に森の民や獣人等といった亜人種と呼ばれる者達を、帝国の領土から追い出したのである」


 その言葉を聞いた二人はキョトンとした顔で、


 「え? 追い出されたの? どこに? 私達、森にいるよ?」

 「そうだよ。何言ってるんだ? おれ達は皇帝陛下から、森の危険な生き物から人間を守るように頼まれてるんだぜ」


 そう言ったのである。


 一体どういうことであろうか?


 わけがわからないのである。


 ダンも、アリッサ嬢も予想外の二人の返答に驚いている。


 「どういうこと? サーちゃん」

 「えっとね……人間にも色んな人がいて、私たちをイジメようとする人がいたんだって」


 それは、人間至上主義者の事であろう。

 それはわかるのである。


 「その人達から、陛下や他の人たちは、森の民や他の種族も逃がしてくれて、イジメにこないように守ってくれてるんだって」


 ここが我輩達と食い違っているのである。

 追い出されたのではなく、逃がしてもらったという認識のようである


 「しかし、森に追いやられたのは事実であろう?」

 「おっちゃん、何か勘違いしてねぇか?」


 我輩の質問に、兄君が意味がわからないといった顔で


 「俺達は森の民だぜ。森に住むのが一番住みやすいんだぜ」


 と答えるのである。


 言っていることはわかるのであるが、話がうまく噛み合っていない気がするのである。


 「であるが……」


 さらに質問をしようとする我輩を、ダンが止めるのである。


 「センセイ、疑問に思うことはいっぱいあるだろうけど、デルク達だってわかんないことはわかんないんだ」

 「そうだよ。今重要なのは、サーちゃん達は、人間が嫌いじゃないってことじゃんか」


 アリッサ嬢もダンと同意見のようである。

 良く考えれば、それも確かにその通りである。


 では、最後にひとつだけ質問をするのである。


 「サーシャ嬢達は、その話を誰から聞いたのであるか?」

 「集落で一番長生きしてるおばあちゃん!お話聞いたとき、743歳だったんだよ!」

 「は!?」

 「へ!?」


 サーシャ嬢の言葉に、ダンとアリッサ嬢が素っ頓狂な声を上げるのである。


 「何に驚いているのであるか。森の民は長寿の種族なのは常識である」

 「いやいやいやいやいや、知らないから。そんなの」

 「それ、センセイの一族間での常識だろ? 俺達は、そういう文献一切残されてねぇし、あったとしても禁書扱いになっちまうじゃねぇか」

 「そういえば、そうであった」


 亜人排斥政策の影響で、他種族の事は情報統制されていて、我輩達学者の一族以外はその情報などは知らないのを忘れていたのである。

 ちなみに、我輩は森の民の言語と文化の継承を主に請け負っていたのであるが、他の学者の一族の者も、様々な分野で他種族の文化や技術を継承しており、我輩のような一部を除き、殆どのものは帝国の研究機関などで活躍しているのである。


 そんなことを思っていると、自由人の弟を思い出したのである。

 あやつは何をしているのであろうか。

 

 「デルク達も、結構年取ってるってことか?」

 「おれは、93歳」

 「私は、75歳だよ」

 「当時の森の民の平均寿命は、おおよそ現在の人間の10倍少々ほどの筈である」


 文献で知るかぎり、当時の森の民の平均寿命は730歳である。


 人間は、70歳くらいであったが、一度55歳くらいまで落ち、現在は63歳くらいまで伸びたようである。


 一度寿命が縮んだのは、亜人排斥政策の影響で長寿種との混血児が産まれなくなったことや、世代交代により血が薄まったこと、食料生産・医療魔法技術が一度後退したからである。


 つくづく思うのであるが、亜人排斥政策の良い結果は何もないと思うのである。

 強いて言うならば、人間至上主義者が喜んだくらいである。

 心の底から、くだらないの思うのである。


 「ってことは、だいたい9歳と7歳前後か……」

 「あたしの三倍生きている人に、ちゃん呼びしちゃったよ」

 「おれは、坊主呼びだぞ……」

 「兄ちゃん、気にすんなよ。森の民は、120歳になるまでは子供だからさ」


 我輩が思い耽っている最中も、四人は年齢の話で盛り上がっているのであった。

 どうせなので、文化的なことも少し聞いたみるのである。


 森の民は、70歳になるまでは幼少期として保護者から読み書きを習いながら生活し、70歳から教育機関へ行き、魔法技術や計算などを習うようなのである。


 「わたし、後少しで学校に行けたんだよ!」

 「そうだったんだね」

 「でも、行けなかったから、使える魔法も、育ててくれたおばさんから教えてもらった回復の魔法だけだったの」

 「その代わりに、錬金術を学ぶ過程でいろいろ魔法が使えるようになるのであるな」

 「うん。だから嬉しい! お勉強頑張るね!」


 そして、100歳を迎えると狩りの勉強等が始まるのである。


 「おれはさ、前も言ったけど獣人の血が強く出てるから、ほかの連中より早く狩りの勉強を始めたんだ」

 「それで、二人きりでここにいてもなんとか生活できたのか」

 「そうだぜ。こう見えても狩りの歴は10年以上あるんだぜ」


 兄君は胸を張ってそういうのである。

 頑張ってきた自負があるのであろう。


 「森の民の狩りはどうやるのであるか」

 「小さい獲物一匹の時はだいたい弓か水の魔法で狙って、集団やでかい奴の時は、罠に追い込んでいくんだけど」

 「けど?」

 「おれは、面倒だから自分の足で追えて仕留められるくらい奴は、至近距離で。でかいのは木の上とかで待ち伏せして、不意打ちで仕留めてた。ダメなら木に登って逃げるんだ。おれ以外には出来ない特別の方法なんだぜ!」


 得意満面の兄君の話を聞き、残念そうな顔をする2人である。


 「こいつ、思考回路が狩人じゃねぇな、安全に狩る方法があるのに、あえて突っ込むとかバカだな、バカ」

 「できないんじゃなくて、やる必要がないってことがわかんないんだねぇ……残念な脳筋だねぇ。……サーちゃん、猿の獣人っているの?」

 「うん、いるよ。お猿の人は、ちょっと変な人が多いんだっておばさんが言ってたよ」

 「……確定か」

 「残念だねぇ」

 「ちげぇよ! おれは、猫の獣人の血が出てるんだよ!」


 それで、110歳頃から成長期を迎え、120歳で大人として認められるようになり、一人前の森の民として生きていくのである。


 「はぁー、長い一生だねぇ」

 「でも、おれは獣人の血が強いからほかの奴より寿命が短いんだ」

 「獣人の血が強いと寿命が短くなるのであるか」

 「そうだよ、知らなかったのかい?」


 話の流れで、興味深い話がでてきたのである。


 「あたしは、凄く長生きできて50行くか行かないかさ」

 「おれは、だいたい400歳くらいだって言われたなぁ」

 「人間の血が強かったひいおばあちゃんは、280歳くらいで死んじゃったって聞いたよ」

 「へぇ、いろいろあるんだな」


 ダン達は、年齢の話で盛り上がっているのであるが、我輩は、その中で今後の行動方針を決定したのである。


 「我輩、森の民の集落に行きたいのである。先ほどの件について、森の民側の歴史をしっかりと聞きたいのである」

 「急だな、でも、いいんじゃないか?」

 「サーちゃん達を集落まで連れていく事もできるしね」


 ダンとアリッサ嬢は賛成意見のようである。

 まぁ、長い付き合いである。反対しても意味が無いことも知っているのであろう。


 「え! 帰れるの? ありがとう!」

 「おっちゃん、連れていってくれるのか? やった!」


 サーシャ嬢と兄君も喜んでいるようである。

 そういえば、集落が襲われてこちらに逃げてきたのであったな。






 全員の同意を得て、今後の行動が決まったのである。

 とりあえず、旅の準備を進めていかないといけないと我輩は思うのであった。






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