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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
8章 南方地域の旅といくつかの問題事、である
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港町の騒動はひとまず解決、である


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。





 ダンが取ってきた沢山の集臭石を素材に、我輩は臭い消しを作るのである。

 この集臭石、実は魔法石の亜種のようで周囲の香りを吸収するのである。

 ただ、魔法石と違うのは吸収するのは魔力ではないのでその臭いを放出するには石を砕かねばならないのである。

 持っている構成魔力も【臭気吸収】というものである。

 【臭気吸収】は、【吸収】の構成魔力の一つなのであるが、どうやら錬金術用魔法陣での分解では、【虫忌避】や【臭気吸収】など、特定の構成魔力に関してはこのあたりまでの構成魔力分解しかできないようなのである。

 上級手引き書に、これらの構成魔力を【忌避】や【吸収】等といったより細かい構成魔力へと分解、そして別の対象に有効な構成魔力に変化させる作業用の魔法陣が記されていたのであるが、これはミレイ女史やサーシャ嬢、リリー嬢でも描くことができなかったのである。

 ノヴァ殿の制御能力はこの当時人間並に低下していた筈なので、我輩達よりも遥かに上の実力を持った協力者がいたという事になるのである。


 それはともかく、我輩は集臭石と水を手鍋に入れて臭い消しの水を作製開始するのである。

 実際には臭いを消すというよりは、臭いを集め留めるの力を純魔力で増幅させた水を作り、そこに臭いを閉じ込めるといった感じであろうか。

 この臭い消しはかなり強力で、相当強烈な香りでも少量で完全に吸収してしまうことができるので、研究所時代に一度アリッサ嬢が香水と勘違いして自分につけてしまい、しばらくの間鼻が全く効かなくなってしまった程である。

 品質が高いほどに効果範囲も向上するのであるが、今回も時間をかけて品質をあげるよりもダンがそれなりの品質のものを持ってきてくれているので、できるだけ早く作製することを心掛けるようにするのである。


 そうして道具を作製していると、港と反対の方向から聞き慣れた声が聞こえてくるのである。


 「うわぁ……臭いね……」

 「アーノルド様が、こちらで臭い消しを作っているってアリッサさんが言ってましたから、手伝いに来たのは良いのですが……」


 怪我人などの治療はある程度何とかなったのか、サーシャ嬢とミレイ女史が我輩の手伝いをしにこちらへとやってきたようである。


 「二人とも、ここである」


 瓦礫の陰になった、ちょうど二人からは見えづらい場所で道具の作製を行っていたため、我輩に気付かず蛇海竜の死骸がある方へと向かいそうになっていた二人に声をかけると、二人は我輩の声に気付いてこちらへとやってくるのである。 


 「おじさん、よく平気だね」

 「いや、平気と言うわけではないのである」


 見ると二人とも鼻と口を厚手の布で覆った状態であったのである。

 それでも現場に来ると臭うのであるから相当強いにおいだということである。


 「圧縮は必要なさそうですね」

 「ダンがそれなりに良いものを取ってきたのである」

 「じゃあ、私も作るね!」

 「それでは、私が出来上がったものを臭いのきつい場所から使用して回ります」

 「よろしく頼むのである」


 こうして、我輩達の消臭作業が進んでいき、時間が経つにつれて無事に避難できた町の者達も様子を伺いに少しずつやって来て、消臭作業を手伝ってもらうことで悪臭問題は解決していき、町は落ち着きを取り戻していくのであった。






 「しかし、本当に大きな体であるな」


 消臭作業も一通り終わった我輩達は、蛇海竜の死骸から少し離れたところで町の者や探検家達が蛇海竜の肉や素材を和気藹々と取っているのを眺めているのである。


 我輩達だけでは全部回収するのは無理だったため、一番欲しい部分だけ回収して、残りは今回の件で仕事を失ったものや、怪我人を運んだり町の者の避難や消臭作業を手伝った者への報酬として解放したのである。

 爪や牙、皮や肉のような現物が欲しいものは今ここで回収を行い、金銭で欲しいものは後日町からある程度の金額が支給されるようである。


 「お兄ちゃん、お肉残念だったね」

 「あの臭いにおいのせいで肉は食べられないと思ってたから、食べられるようになっただけマシだよ」


 臭い消しを蛇海竜の死骸にもかけたために、悪臭も取れた代わりに蛇海竜の持っている香りも吸収されてしまった為、蛇海竜の独特の香りも無くなってしまったのである。

 そのため肉を食べるのを楽しみにしていたデルク坊は残念であろうと思ったのであるが、思いのほか残念そうでは無かったのである。


 「前に狩ったときに一度食ったことがあるけど、蛇海竜の肉は少し臭くてな。ウォレスはそれが良いって言ってたけど、俺としては匂いが無くなった方が嬉しいぜ」

 「じゃあ、今度食べ比べてみたいなぁ」

 「お前なぁ、今回だってセンセイの道具が無かったらドランはちょっと危なかったんだぞ」

 「面目ねえです」


 詳しい話は聞いてはいないので分からないのであるが、ドランが左腕を少し気にしているのもそのせいなのであろう。


 「改良したキズいらずがあって本当によかったぜ、前の奴は潰れた箇所や部位欠損は治せなかったからな」

 「旦那には感謝ですぜ」

 「今のキズいらずは、どちらかというと傷の修復というよりは体の再生促進であるからな」


 なるほど、どうやらそういう展開があったようである。

 部位欠損を直すといっても、指や耳などの小さな箇所の欠損しか未だ治せないのである。

 本物の、死んでいない限り体がどれだけ失われていても再生可能という恐ろしい効果を持った再生薬は上級手引き書に載っていたのであるが、現状の我輩達ではおそらく素材の確保すらできないのである。


 「そういえば、アリッサ姉ちゃんとクリス姉ちゃんは結局来なかったね」


 デルク坊が思い出したように辺りを見渡して、アリッサ嬢とクリス治療師の不在を口にするのである。


 「アリッサさんは悪臭の影響で体調を悪くしてしまったようで、少し休むといっていました」

 「鼻が効くというのも良いことばかりではないのであるな」

 「北の山脈を越えるときも、鼻が馬鹿になるまでの間は辛そうだったからな」


 アリッサ嬢が風呂を好むのは、そういう点もあるのであろうと我輩はふと思い、弱めの臭い消しでも作っておこうかと思ったのである。


 「クリスおねえちゃんは、怪我をした人のお世話をするから来ないって言ってたよ」

 「治療院の者達は、まだ頑張っているのであるな」

 「だったら、こいつを食わせてやりましょうぜ。スタミナバッチリっすわ」

 「そうだね! それが良いよ!」

 「お前らは自分が食いたいだけだろうが……」


 そう言ってダンは、食い意地の張った二人の嬉しそうな言葉に苦笑いを浮かべるのであるが、


 「まぁ、いいか。そのかわり、俺の分は少し厚切りにしておいてくれよ」


 と、ドラン達の提案を許可するのであった。

 結局自分も食べたかったようである。


 「やったぜドラン兄ちゃん! メシ作りに行こうよ!」

 「そうだなぁ、デルクゥ。走るぞ!」


 ダンの返事を聞いたドランとデルク坊は、回収した蛇海竜の肉を全て担ぎ治療院にむけて走り出すのである。

 あれを全部使うつもりなのであろうか、構成魔力の調査用に少し残してほしいのである。


 「しょうがねえ連中だな。嬢ちゃん、ミレイ、あの二人が暴走しないか着いていってやってくれや」

 「うん! 行こうミレイおねえちゃん!」

 「ちょっと待ってサーシャちゃん! 腕を引っ張らないで!」


 ダンに頼み事をされたのが嬉しかったのか、サーシャ嬢はミレイ女史の腕を引っ張って走り出すのである。

 ミレイ女史は突然のことで態勢を崩しながらも、何とか踏み止まってサーシャ嬢と治療院へと向かうのである。


 「僕らも行きましょうか」

 「そうであるな」

 「俺はギルマスや町長と少しばかり話があるから後から行くわ」


 こうして、港町で起きた蛇海竜襲撃という騒動は一応の解決を迎えたのであった。



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