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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
8章 南方地域の旅といくつかの問題事、である
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蛇海竜問題のあとは悪臭問題、である


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。






 蛇海竜の撃退のために、我輩はアリッサ嬢と忌避薬の作製に励むのである。

 効果が無かったら何の意味も無いのであるが、蛇や蜥蜥、そして飛竜にも効果があった薬である。

 少なからず効果はある筈なのである。


 「……あぁ、どうやら薬を使ったようだねぇ」


 鍋に入った構成魔力を鍋にゆっくりと入れながら、アリッサ嬢がそう言うのである。


 「よく分かるのであるな」

 「だから言ったでしょ? 強烈だから行きたくないって。これだけ離れてもあたしの鼻に臭いが感じられるんだよ。近くだったら、あまりの強烈さで脳が爆発するよ」

 「ちなみに、どんな臭いなのであるか?」

 「汚い話だけどね、何ヶ月も洗ってない便所のような臭いだよ」


 我輩の質問に答えるアリッサ嬢の様子を作業の合間に伺うと、臭いが嫌なようでいつの間にか布で鼻と口を覆っていたのである。

 それほどのものなのかと思っていると、ミレイ女史が部屋へとやって来たのである。


 「アーノルド様、一部の者が<港の方から風に乗って強烈な汚物のような臭いがする>と言っておりますが、何があったのでしょうか」


 ミレイ女史の報告を聞き、アリッサ嬢が言っていることが本当であったようである。


 我輩はミレイ女史に忌避薬の話をし、臭いがきつく感じられる者は室内に入ることと清潔な布で鼻と口を覆う事と、暫く港には近づかないように言っておくように指示をするのである。


 我輩の指示を聞いたミレイ女史が部屋を出た後、


 「……無事に蛇海竜が撃退できたら、臭い消しの道具を作るのである」

 「そうしておくれ。あたしのような鼻の効く連中のためにもね」


 そう会話をして再び道具の作製作業に入ると同時に、質の悪い道具はやはり作らないようにしようと我輩は思うのであった。


 それから幾つかの薬が完成した頃、アリッサ嬢が表情を曇らせるのである。


 「どうしたのであるか」

 「港から、誰か戻ってきたね。すっごい臭い」


 そう言われると、心なしか何か汚物のような、あまり好ましくないにおいがするような気がするのである。


 「おっちゃん、終わったよ……うぇぇ……」


 すると、デルク坊が吐きそうな表情をして部屋へとやってくるのである。

 どうやら、この臭いはデルク坊から臭っているようである。


 「でっかい奴は何とかなったから、早くこの臭いをどうにかしろってダン兄ちゃんが言ってけど、本当に早くどうにかして……吐きそう」


 港では蛇海竜が終わり、強烈な悪臭問題が起こってしまったようである。


 「わかったのである。デルク坊は早く港へ戻るのである。ここにいると倒れている者達の安静の邪魔になるのである」

 「そんな言い方無いじゃんか! 俺だって好きで臭い訳じゃないんだよ!」

 「わかっているのであるが、現にアリッサ嬢が気絶寸前である」

 「ゴメン、デルっち。本当に悪いけど、早くここから出てくれるかい?」

 「アリッサ姉ちゃんまで! 分かったよ! 出てくよ!」


 そういうと、デルク坊は怒って部屋を出て行くのである。

 申し訳ないことをしてしまったとは思うのであるが、臭いものは臭いのである。


 「申し訳ないことをしてしまったのであるな」

 「本当にそう思うなら、早く臭い消しを作りなよ」

 「そうしたいところではあるが……アリッサ嬢」

 「なんだい」

 「素材が無いのである」

 「何が無いのさ」

 「集臭石である」


 集臭石は帝国で一般的に使われている臭い消しである。

 臭いを消す、というよりは臭いを集めるといったところであろうか。

 なので、臭い場所において臭い消しに使われたり、石を砕くと香りが拡散する性質があるので、良い香りのするものの近くに置き、臭いを集めてから別の場所で石を砕き芳香剤がわりとして使う者もいるのである。


 「集臭石って、確か」

 「浜辺でよく取れるのである」


 我輩の言葉にアリッサ嬢は、


 「港はもう安全らしいから、自分で採っておいで。そして、向こうで作業するんだよ。分かったね」


 と、冷たく言い放ち、有無を言わさず道具を持たせて我輩を部屋の外へと放り出すのであった。






 アリッサ嬢にほうり出された我輩は、素材採取と臭い消しの作製のため、港へと向かうことにしたのである。

 町は蛇海竜の騒動と突然発生した悪臭で閑散としていたため、道がよく分からない我輩は、標識を頼りに港へと向かうのである。


 「どんどん臭くなってくるのである……」


 予想はしていたものの、港に近づくにつれて悪臭はどんどんときつくなり、我輩もその臭いのきつさに時折服の袖で鼻を隠してしまうほどである。

 しかし、すでに悪臭が袖に移ってしまっているために、悪臭から守るつもりの行動でより深いダメージを受けることになってしまうのである。

 これはでは、道具の効果で蛇海竜を撃退できたのか、悪臭で撃退できたのか正直わからないかもしれないな、等とどうでもいいことを考えつつ我輩は港へと進んでいくのである。


 「センセイ、臭い消しはできたのか?」


 蛇海竜が暴れ回っていたと思われる現場付近に到着すると、我輩の気配を察知したのか、ダンが我輩を迎えにやって来るのである。

 おそらくダンが忌避薬を蛇海竜に投げつけたのであろうか、物凄い悪臭を携えているのである。

 覚悟をしていなかったら吐いていたかもしれないのである。


 「残念ながら集臭石がないの……」


 我輩が全てを言う前に、ダンは何も言わずに海に向かって走り出したのである。

 浜辺に集臭石を取りに行ったのであろう。

 ダンも相当きついのであろう。


 (錬金術師アーノルド)


 唐突に妖精パットンの声が頭に響くのである。

 妖精パットンも話すのが嫌で、意志会話の魔法を我輩に繋いだようである。


 (妖精パットン、大丈夫であるか)

 (ダメに決まってるじゃないか。臭くてたまらないし、おかげで魔法の効果は低いし大変だよ)

 (確かにそうであるな)


 いつも通り姿を隠しながらこちらへとやってきたのであるが、妖精パットンが近づくと悪臭が近づくので普段よりも認識が疎外できないらしく薄く姿が見えているのである。

 そんな妖精パットンが普段のように頭の上に乗ろうとしているので、つい我輩は避けてしまうのである。


 (何で避けるかなぁ)

 (臭いから近づかないで欲しいのである)

 (誰のせいでこんな臭いになったと思うのさ。さすがに怒るよ)


 さすがの妖精パットンも今回の扱いは受け入れがたいものがあるようである。

 で、あるが、我輩も悪臭を漂わせたものを頭に乗せるのは抵抗があるのである。


 (緊急事態だったから仕方がないのである)

 (だったら、ボク達が臭いのも仕方がないから受け入れるべきだね)

 (それは話が別である)

 (だったら鼻の前に行っても良いんだけど? ボクの速さに錬金術師アーノルドが対応できると思うのかい?)


 自分の要望が叶わない妖精パットンは、実力行使に出ると我輩に訴えるので、仕方がないので頭の上に妖精パットンが乗ることを許可するのである。

 半ば脅迫のようなものである。


 (それで、ドランやハーヴィーはどうしたのであるか?)

 (蛇海竜を一体倒したから、肉や素材を取ってるよ)

 (一体倒したのであるか)


 ダンが以前倒した個体よりも巨大な個体が二体であったので、倒すことは厳しいとダンは言っていたのであるが、一体とはいえ倒せたことに驚きである。


 (ダンが薬を投げつけたやつが臭いにやられて気絶したんだよ。もう一体は道具の効果なのか臭いのせいなのかわからないけど、すごい勢いで海に逃げて行ったよ)


 なるほど、薬によって気絶した蛇海竜にとどめを刺したということである。

 思わぬ効果もあり、結果良しの部分もあったようである。


 (でも、凄い臭いからね。ダンなんてものじゃないからね)


 素材の採取を指示されたドランとハーヴィーが、死んだ魚のような目で作業しているらしいのである。


 (そういえば、デルクが怒ってたよ)

 (まぁ、仕方がないとは言え心ないことを言ってしまったのである)

 (デルクも一応分かってはいるみたいだけど結構傷ついてるから、ちゃんと謝るんだよ)

 (分かったのである)


 そんな会話を妖精パットンとしながら蛇海竜の死骸へと向かっていると、ダンが相当な量の集臭石の入ったであろう袋を片手にやってくるのである。

 素材を受けとろうとする我輩であったが、ダンは何と我輩に向かって袋を放るのである。


 中身は石であるので相当な重さである。

 当然受け取れる訳もなく我輩は袋を避け、袋は路面に落ちるのである。

 中で石がぶつかり合う音とともに、何とも言えない激しい悪臭が漂うのである。

 どうやら、ここに来るまでの間にダンが纏っている悪臭を集臭石は吸収していたようで、中で石が砕けて悪臭が拡散されたようである。


 「あ……」

 「わざとであるか」

 「違うって、俺が近いと臭えだろうなって思って……すまん」


 ダンは謝ると、ばつが悪そうな表情を見せるのである。

 どうやら、ダンもこの状況は想定外だったようである。


 「仕方がないのである。とりあえず道具の作製を開始するのである。ダンは蛇海竜の素材回収をドラン達とするのである」


 小言の一つも言いたいところであったが、珍しく素直に謝ったのでとりあえず不問にして、臭い消しの作製を始めるのであった。





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