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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
8章 南方地域の旅といくつかの問題事、である
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港町、である


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。






 「方角は間違ってないか?」

 「大丈夫ですね。今のところはこのまままっすぐ行ってもらえば大丈夫です」


 荷車を全速力で牽いているダンの質問に、地図と太陽の位置を確認しつつハーヴィーは答えるのである。

 現在我輩達は街道を外れ、河口にある港町への移動を最短距離で行っているところである。


 今までこれを行わなかったのは、海に急いで行かねばならない理由もなかった上に、派遣治療団のように小さな集落などで水の支援を行おうと思っていたというのもあるのである。

 しかし、今はクリス治療師を港町にある治療院に連れていくという、最優先で移動を行う理由ができたため高速移動を行っているのである。


 なので、久しぶりの高速移動に我輩は酔い気味である。

 酔い止めを用意しておいて本当に良かったのである。


 「ひいいぃぃぃ! ドランちゃん! 怖い! 怖いよ!」

 「クリス姉、前も隊長の牽く荷車乗ったじゃねえか」

 「この前は、こんなに……」

 「もう一回飛ぶぞ! ちゃんとどこかに捕まってろよ!」

 「いやああぁぁぁぁぁ!!!」


 ダンが高いところから一気に飛び降りて行くと、クリス治療師はダンにしがみつきながら再び大きな悲鳴をあげるのである。

 おそらくこの一瞬体中の臓器がふわっと上がる感覚や、遠くにあった地面などが物凄い速度で迫って来る感覚が嫌なのであろう。

 我輩がダンの荷車に乗って酔う理由の大半がこれであるので、クリス治療師の気持ちは何となく分かるのである。

 それを笑って楽しんでいるデルク坊やサーシャ嬢の感覚が我輩には全く理解できないのである。


 「この森を抜ければ遠くに町が見えてくるはずです。とりあえずそこを目標に進んでください」

 「了解だ! いっくぜえええぇぇぇぇぇ」

 「リーダー! センセイが吐きそうだよ」

 「そこらへんの袋にでも顔突っ込んでおけ!」

 「酷い……扱いである」


 こうして我輩達は港町へ向かい、翌日の昼には港町に到着するのであった。


 着いた、のであるが。


 「おかしいな。ここらへんだと川による水不足の影響もあまり無い筈なんだが」

 「こんなに寂しい感じじゃなかったと思うんだけどねぇ」

 「はい。以前ここに立ち寄った時にはもっと活気がありました」


 港町に着いた我輩達は、予想外の寂しさに驚いているのである。

 港であり漁業が盛んであるこの町は、今我輩達がいる門から中央の市場広場に続いているこの宿場通りは観光客や作業員、そしてこのあたりを拠点にしている探検家達などで帝都や地方都市ほどではないにせよ、日中はかなり賑わっている筈なのである。

 しかし、今我輩達が見えているのはそれとは程遠い、言ってしまえばここ最近の辺境周辺の集落のほうが賑わっているのではないかという位の寂れぶりである。


 「何があったのでしょう?」

 「わからないのであるが、情報を求めるにしても治療院にまず向かうのが良いであろうな」


 その方が他の場所や、要領が掴めないであろう一般人に情報を尋ねるよりも手間が省けて楽なのである。

 当然他の探検家やミレイ女史もその程度のことは理解しているので、我輩の提案に頷くのである。


 「だな。というわけでクリス、治療院はどっちだったかな?」

 「あ、はい。案内いたします」


 ダンの言葉にはっとしたクリス治療師は、我輩達を港町の治療院へと案内するのであった。 






 治療院に着いた我輩達は、近くにいた治療師に川の水不足の件で至急の用件があることを告げ、院長室へと通されたのである。

 そこで、治療院長と思われる初老の男性にクリス治療師が、状況報告と救援の要請を行ったのである。


 「なるほど、お話はわかりました。そういうことでしたら、この周辺の町や南方都市の治療院にも協力要請の手紙を送っておきます。この川の水問題は早急に手を打たねばなりませんからな」

 「ありがとうございます」


 静かに話を聞いていた院長はその要請に快く応じ、更に別の治療院にも協力の要請をしてくれるようである。

 これで、かなり状況は上向きになっていく筈である。


 「これで用件は終わりなんだけど一つ良いか? 町がだいぶ静かなんだがどうしたんだ?」


 ダンの質問に、院長は困ったように眉間にしわを寄せるのである。

 何か問題が発生していることは確実のようである。


 「現在この町のみならず、この周辺の海は立ち入りが禁止されておりまして、それゆえに海の特産品などが採取できず、このような状況になっているのです」

 「なんだってそんなことになっているのさ」


 アリッサ嬢の質問に、院長はより深いしわを眉間に寄せながら答えるのである。


 「蛇海竜が確認できただけで5体、この付近の海を荒らし廻っているのです」

 「蛇海竜が5体かい。穏やかじゃないねぇ」

 

 蛇海竜は、北の山脈に棲息している翼竜と同じ巨大な爬虫類系の生物であるが、その姿は蜥蜴というよりは大きな蛇であり、鋭い爪が生えた手足を有した生物である。

 大きさも翼竜の数倍はある、非常に大きな生物なのである。

 鋭い牙と手足の爪、そして一部の蛇が毒を飛ばすように、強烈な水弾を飛ばして襲いかかるのである。


 餌は魚介などの海の生物なので、もしも蛇海竜を発見した場合はその周辺の不漁を数日は覚悟しないといけないのである。


 ただ、性質としては危害を与えない限りは水上にいる生物を襲うことはあまりないので、もしも発見したとしてもそのまま水上にいればほぼ確実にやり過ごせ、人間が襲われるのは、潜って漁をしているときに運悪く遭遇してしまった場合や、漁網にかかって混乱したときや他の大型生物と争って暴れ回るのに巻き込まれた場合などが殆どなのである。


 確かにそんな生物が最低でも5匹も出現したらこのあたりの漁業は大打撃である。

 しかし、院長の話は先があるのである。


 「さらに、その蛇海竜は非常に狂暴で水上の舟に襲いかかるのです。おかげで、漁師の舟もかなり壊されてしまい……」

 「自分から水上で暴れ回るのかい!? 聞いたことが無いよ」

 「私も、今までここにいて初めての事です」


 アリッサ嬢の驚いた声にも、院長は深いため息を吐きながらそう答えるのである。

 そんな蛇海竜がこの界隈をもう半月ほどうろついているために、この港町を含めた周辺の漁村なども大変な状況にあるらしいのである。


 「駆除って言ってもなぁ……一匹倒すのも苦労するからなぁ」

 「そういえば、ダン達は素材採取で蛇海竜を狩ったことがあるのであるな」

 「言っておくけど、今は無理だぞ。リリーもシンもいねえし、あの時は一体だけだったからな。やってる最中に他のに襲われたらひとたまりもねえよ」

 「へ……蛇海竜を狩ったことがある? クリスさん、こちらの方々は一体……」

 「ああそうでした、こちらは……」


 我輩たちの話を聞いて驚く院長に、思い出したかのようにクリス治療師は我輩達を紹介するのである。

 どうやら以前クリス治療師やゴードンは、我輩たちの事を話をした事があったようで、院長はダンとアリッサ嬢や我輩を見て驚き、そしてサーシャ嬢とデルク坊を見て平伏しそうになったのでクリス治療師や我輩が止めたのであった。


 「いやはや……取り乱して申し訳ございませんでした。突然のことでしたので……」

 「気持ちはわかります。私もそうでしたから」


 恥ずかしさからか顔を隠すように汗を拭く院長に、クリス治療師が同情を示すのである。

 それだけ森の民が治療師達に尊敬されていると言うことなのであろうが、困ったものである。


 「それはそうと、皆様はもう宿をお取りになったのですか?」

 「いや、まずは用件を終わらせようって事で宿は取ってないな」


 ダンの返事に院長は笑顔を浮かべ、


 「皆様、個室でなくてもよろしければ治療院の広間をお使いください」


 と、申し出たのである。


 どうやら各治療院では派遣治療団がやって来たときの宿泊施設として、10~20人ほどが寝れるほどの広間が一室作られているようである。

 野宿などで雑魚寝をすることもあるので特にそういったこだわりがない我輩たちは、その礼としてアリッサ嬢とドランの料理を院長や勤めている治療師達に振る舞うことで、その好意に甘えることにしたのである。


 そうして穏やかな時間が流れはじめていたのであるが、外が急に騒がしくなって来たのである。

 何事かと思っていると、院長室のドアが強く開けられて若い治療師が部屋へと駆け込んでくるのである。


 「院長! 大変です!」

 「どうしたのですか?」

 「港に蛇海竜が2体上陸して暴れ回っているようです!」


 今度の面倒事はかなりの大事のようである。





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