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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
8章 南方地域の旅といくつかの問題事、である
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合流そして交流、である


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。





 「リーダーお久しぶりです。お元気そうで何よりです」

 「おう。久しぶりだな、ゴードン」


 穏やかな笑顔を浮かべて差し出したゴードンの手を、ダンは快活に笑いながら固く握り返すのである。


 街道外れの集落で一夜を過ごした我輩達は翌朝、治療団の別働隊との待ち合わせ場所になっている地点に向かったのであるが、その場所にはすでに治療団の紋章を掲げた一団がいたのである。

 合流をして話を聞くと、思ったよりも向かった先の集落は状況が悪くなかったらしく、それほど支援や治療活動をする必要がなかったために、昨日のうちにここまで来れてしまったので一夜を過ごしたようである。


 そうして現在に至る。

 と、いうわけである。


 ダンとの挨拶を終え手を離したゴードンは、そのまま我輩にもダンに向けた穏やかな笑顔を向けながら握手を求めてきたので、ゴードンはいつも遠出から帰ってくると我輩とこうやって挨拶を交わしていたなと懐かしさを感じながらその手を握り返すのである。


 「アーノルドさんも、ご活躍はクリスやリリーさんから聞いてますよ。錬金術師として活躍されていて安心しました」

 「昨年の春までは腐っていたのであるがな。ダン達のおかげである」

 「私の知っているアーノルドさんでしたら、どんな手段を使っても時間を要しても辺境の地で錬金術の研究ができる環境を整えたと思いますよ。……しかし……」

 「なんであるか?」


 先ほどの笑顔から若干驚いたような様子をゴードンは見せるのである。


 「アーノルドさんが素直に、人のおかげで今があるという言い方をするとは思いませんでした」

 「リリー嬢やウォレスにも似たようなことを言われたのである」

 「良い環境に身を置かれている証拠です」

 「それは、そう思うのである」


 素材が豊富な大森林にある、ノヴァ殿の工房という錬金術の研究において最高の環境に身を置いている。

 と、いう意味だけでなく、我輩を支えてくれている、頼りにしてくれている、慕ってくれている存在を、研究所時代よりも感じられるようになったからというのもあるのであろう。


 だが、そんな我輩にゴードンは少し複雑な表情を浮かべるのである。  


 「その成長を隣で見られないというのが少し寂しいですね」

 「ゴードンは我輩の保護者か何かであるか?」

 「そうですよ? 知らなかったのですか?」

 「本気で言っているのであるか?」

 「ふふ、冗談ですよ」


 穏やかな笑顔を浮かべながらにゴードンは返してくるのである。

 ダンやアリッサ嬢のようにニヤニヤしながらや、リリー嬢のようにあきれた様子で言うわけではないので、冗談なのか本当なのか分からないのである。

 我輩はゴードンと話すのが好きなのであるが、時折こういう本気かどうか分からない冗談を言うことがあるのだけが苦手なのである。

 久しぶりにやられたのであるが、やはり苦手である。


 「俺やアリッサ、リリーもそう思う時があるぞ」

 「お前達のは我輩をからかっているだけである」

 「ああ、そうそう。リーダー」


 何かを思い出したかのようにゴードンはダンに振り向くのである。


 「帝都にメンバーを集めに来たとき、私だけのけ者にしたのは本当に悲しかったですよ?」

 「いや、そういうわけじゃねえよ。悪かったって」

 「あの時、私たちの絆はその程度なのかって軽く泣きそうになりましたよ」

 「そんなことあるわけねえだろうが」

 「分かっていますよ。冗談です」

 「心底悲しそうな表情で言う冗談とか、冗談に聞こえねえよ!」


 ダンも、我輩同様にゴードンのこういう冗談が苦手である。

 たまにダンがゴードンに絡みにいくのであるが、だいたい撃沈して帰ってくるのである。


 「久しぶりなので、少しだけ意地悪したくなりまして」

 「少しどころじゃねえよ。そんなことばかりやってると、嫁に逃げられるぞ」

 「大丈夫ですよ。こういう冗談を言うのは、アーノルドさんとリーダーだけと決めているので」

 「嬉しくねぇ特別待遇だな。センセイだけにしてくれよ」


 我輩もダンに同感であり、その待遇はダンのみにして欲しいところである。


 「アリッサには挨拶行かなくて良いのか?」


 会話を変えるべく、ダンがゴードンにそう尋ねるのである。


 「そうしたいですが、妻がアリッサさんを離そうとしてませんので」


 そう言って指を指すほうを見ると、何やらゴードンの奥方がアリッサ嬢と話をしているのである。

 何の会話をしているのか、少し離れているのでよく分からないのであるが、時々アリッサ嬢の動きが激しくなったり俯いたりしているのである。


 「何を話しているのであろうか」

 「女同士の会話だからな。まぁ、だいたい予想は付くな」

 「妻はリリーさんと、アリッサさんのことについて時々話していたみたいですから、心配だったみたいですよ」

 「大丈夫だぜ。アリッサはセンセイが責任をもって引き受けるって、俺達に公言したからな」

 「おや、もうそこまで話が進んでいるのですか」

 「あれはアリッサ嬢の冗談という話なのである」


 帝都の夜の出来事は、酔い故の暴走であるので無かったものとして考えるのである。


 「なるほど……。アーノルドさん、アリッサさんを幸せにしてくださいね」

 「話を聞いているのであるか? それも冗談であろう?」

 「さて、どうでしょうね」


 穏やかな笑顔を浮かべ、ゴードンは質問を煙に巻いたのである。


 と、その時である。


 「おっちゃん! ダン兄ちゃん! あの人達どうにかしてよ!」


 デルク坊が翡翠色の髪を揺らしながらこちらに急いで走って来るのである。


 「ああ、やはりそうなったのであるか」

 「ゴードン、センセイ。嬢ちゃんの所に行こうぜ」

 「……団員がご迷惑をおかけして申し訳ございません」


 ゴードンが一つため息をつくと、デルク坊に申し訳なさそうに謝り、我輩達はサーシャ嬢のもとへと向かうのであった。


 「偉大なる先人にお会いできて光栄です!」

 「皆様、サーシャちゃんも困ってますから普通にしてください」

 「いえいえ、そんなわけには……」


 サーシャ嬢を前に、何人もの治療団員が跪き敬意を表しているのである。

 昨日に引き続き、どうしたらいいか困っているサーシャ嬢を見かねてミレイ女史が止めるように言っているのであるが、あまり効果がないようである。


 「そういえば、何で二人とも髪色を戻したのであるか?」

 「見せてくれって頼まれたからだよ」


 デルク坊は困った様子で我輩の質問に答えるのである。

 どうやら、一度この状態から立ち上がらせたようなのであるが、治療団員の願いを聞いて髪色を戻したらまたこの状態になり、それから何を言ってもこの状態から戻ってくれないので、困って我輩たちの所にやって来たらしいのである。


 「全く、何をやっているのだか……」


 ゴードンは軽くため息をつくと、治療団員達に声をかけるのである。


 「敬意を表する気持ちは分かるが、それで偉大なる先人が困っていると言う事実を無視するのは逆に不敬じゃないのかな? 君達の先人に対する敬意とは、そういった一方的なものだったのかい?」

 「ゴードン様……」


 目の前に広がる光景にゴードンは困った顔をして、サーシャ嬢の前で跪く治療団員を窘めるのである。

 我輩も近い感情を持っているので尊敬する気持ちは分かるし、しっかりと表したいとするのも理解はできるのである。

 しかし、それが相手の望まぬ形であるならばそれは感情の押し付けであり、ただの自己満足なのである。


 ゴードンと我輩の言葉を聞き、はっとした表情を浮かべて治療団員達はサーシャ嬢達を見るのである。

 よく見ると、昨日の団員も何人かいるのである。

 つい同調してしまったのか、それとも改めて翡翠色の髪を見たからなのか判断が付かないのであるが、いずれにせよ困ったものである。


 「サーシャ嬢達……いや、森の民は、人間がそういう態度を取るのを望んでいないのである」

 「むしろ、悲しむと思うぜ。なぁ、嬢ちゃん、デルク」


 苦笑いを浮かべるダンの言葉に、二人とも頷くのである。


 「……森の民のことを好きでいてくれるのは嬉しいです。でも、ちゃんとお話できないのは悲しいです……」

 「俺は、そんなことされるよりも他の人と同じように扱ってくれるほうが嬉しいです」


 ゴードンの言葉、そして二人の言葉を聞き治療団員達もおずおずと立ち上がり、少しずつ普通に接するようになっていくのである。


 「私が言ってもダメなんですね……」

 「まぁ、ミレイ女史は彼らからすれば部外者であるからな。ある意味純粋であり、頑固なのである」


 ゴードンは治療院でも指折りの実力者の一人であるし、ダンは実力者と肩を並べる仲間である。

 やはりどうしても言葉の重みや力が違うのである。


 「純粋で頑固、まるでアーノルド様みたいですね」

 「我輩は、人の話を聞かないわけではないのである」

 「ふふふ、分かっていますよ。でも、だからこそ治療院の皆様は、アーノルド様に協力的なのでしょうね」

 「……似たもの同士と言いたいのであるか?」

 「そうですよ。民の幸せのために行動する"純粋で頑固"な人ということですから」


 楽しそうに少々意地悪な笑顔を浮かべたミレイ女史の言葉に、我輩は微妙に引っ掛かりを感じながらも否定をすることが出来なかったのであった。


 こうして、合流した治療団員との交流は深まっていくのである。


 ……

 

 誰かを忘れている気がするのであるが、まぁ、良いのである。



 

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