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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
8章 南方地域の旅といくつかの問題事、である
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派遣治療団、である


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。






 村を出発した我輩たちは、そのまま街道を南下していくつかの町村や集落に寄って行ったのである。

 川の水を主な水源としている集落はやはり水不足が厳しいようであったのであるが、規模が大きい町や村などでは、治療院の中で水の魔法を使えるものが時間を限定して水の配給を行ったり、集落で飲み水の魔法を使えるものを何人か臨時で雇ったりしていたのであるが、中には  魔法を使える者が民の足元を見た商売を行ったりしているのである。

 ここぞとばかりに荒稼ぎをしているその様子を見て、これも人の業と言うものなのであろうかと悲しい気持ちになるのである。

 

 「面倒事を起こさないようにしてくれよ」


 町の広場で水を高額で売っている男の様子を眺めていると、ダンが苦笑いを浮かべてやってくるのである。


 「別にどうこうしようとは思っていないのである。世の中は善意だけでは回らないのである」

 「その言い方と表情で、全く納得が言ってねえってのが丸わかりだな」

 「理解と納得というのは別の話である」

 「まぁ、センセイとずっといると、ああいう手合いに違和感を感じるようになるっちゃあなるな」

 「それは、褒めているのであるか?」

 「正直、半々だな。さっきのセンセイの言葉じゃねえが、世の中良い奴らだけじゃ回んねえってことよ」

 「悲しい世界であるな」

 「だからセンセイみたいなお人よしが現れるんだよ。そうやって世界はバランスを取ってるんだよ。きっとな……って、なんだよ」


 ダンは、我輩がまじまじと見ているのを見て、訝しげな表情を浮かべるのである。


 「貴様、本当にダンであるか?」


 我輩は、紙人形をダンに当てようと試みたのであるが、見事に防がれてしまうのである。


 「おいオッサン。人が良いこと言ったと思ったらその態度は良くないと思うぜ」

 「いや……もしかして新種の魔物であろうか……」

 「いい加減にしねえと、さすがに怒るぞ」

 「すでに怒っていると思うのであるが」

 「分かってんなら、やるんじゃねえよ。まったく……」


 その様子を宿に戻った後、食事の際に今回の事を話したところ、ダンはアリッサ嬢にほぼ同じようなことをされたのであった。

 普段からふざけているから、突然まともなことを言うとそういう扱いになるのである。


 そのようなこともありながら我輩たちは南下を続け、川沿いにある主街道から外れた小さな集落に着いた時のことである。


 その集落には宿がなかったため、旅人達は集落中央にある広場で夜営をするのであるが、その場に向かった我輩たちは、夜営の準備を始めていた団体を発見するのである。


 「お? あの紋は……」

 「治療院のものであるな」

 「ということは派遣治療団かい?」


 アリッサ嬢の言葉に、サーシャ嬢が目を輝かせて身を乗り出すのである。


 「大きな街で見た、困っている人達を助けに行くカッコイイ人たち?」

 「ああ、そうであるな。だが、それを言ったらサーシャ嬢やミレイ女史も困っている民に水の魔法を使って助けているので同じようにカッコイイ人であるな」

 「えへへへ……だって、私はれんきんじゅつしだもん!」

 「ありがとうございます、アーノルド様。そういっていただけると嬉しいです」

 「もう、サーちゃんもミレちゃんも可愛いねぇ」


 二人の若干照れている様子に、アリッサ嬢は二人を抱きしめるのである。

 何があったのかはわからないのであるが、この三人は以前よりも仲良くなった気がするのである。

 

 「さ、夜営準備するぞ」


 そんな我輩達にダンの指示が飛び、我輩たちは広場での夜営準備を始めるのであった。






 「なるほどねぇ、みなさんは水の支給を行っているんですかい」

 「しかし、私達は飲み水の魔法がそれほど得意ではないので、大きな集落などですと全世帯に支給しきれないもので、こういった小さな集落でしか活動が行えないのです」


 ドランの質問に、若い団員が笑顔を見せて答えるのである。

 どうやら彼らは元々別の用件で南方地域に来ていたようであるが、その間にこのあたりが水不足になったという情報を聞き、やって来たらしいのである。

 規模の大きなところや人通りの多い比較的裕福な集落では、治療院が存在していたり水で商売を行うものなどもいるため派遣治療団はそれらにあてはまらない集落を巡っているようなのである。


 「上流域はまだ水の質が良かったり下流域は支流が存在しているのでまだマシとも言えるのですが、この当たりが一番水の状態も量も厳しい環境なのです。あ、ありがとうございます」


 我輩達に現在の活動を話す男性団員は、アリッサ嬢がよそったスープを受けとるのである。


 確かに、様々な要因によって下流域に行くにつれて水質は悪くなっていくのであるものの、平常時であるならば豊富な水量によってある程度の水質は保たれているのであろうが、現状の小川程度にしか流れていないこの水量では汲んできた水を濾過やしないと飲料として使用できないくらいに水質が良くないのであろう。 

 我輩たちも治療団と共に水の支給を行ったのであるが、上流域で行ったときよりも感謝されたのもそういうことなのであろうと思うのである。


 「……このスープ、すごく美味しいですね。料理人の腕が良いのもありますが、水に雑味が無いというか。魔法で作られた水を利用しているのでしょうが……」

 「よくわかるねぇ。あんたも結構良い舌してるじゃないか」

 「一応、この治療団の食事係ですので」

 

 感心したように団員を褒めるアリッサ嬢の言葉に、団員も満更ではない様子である。

 技能職として、同業の腕の良いものに褒められるというのは嬉しいものなのであろう。


 「でも、惜しいねぇ。この水は、魔法で作った奴じゃあないんだよ」

 「そうなのですか? これだけ綺麗な水が自然に存在するのですか?」

 「まぁ、魔法と言えば魔法かもしれないのであるが。使っているのはこの植物が作り出す水である」


 そう言って我輩は、このスープに使用されている水の産みの親である水産み草を見せるのである。

 以前デルク坊達がこの水を飲用したという話を聞いて心配になった我輩達は、構成魔力の調査を行ったのであるが、ほぼ全てが【水】の構成魔力のみで構成された、いわゆる"綺麗な水"だったのである。


 安全を確認できた我輩達の話を聞いたアリッサ嬢は、料理にこの水を使用したところ、味をより強く感じるようになったと気に入り、最近我輩達の水を使用した料理は全て水産み草の水を使っているのである。


 「魔法を使う植物……ですか」

 「そうである。ちなみに、水不足の原因の大元でもあるのである」

 「どういうことですか?」


 我輩の話を興味深げに楽しそうに聞いていた治療団員達の表情が、今の一言で真顔に変わるのである。

 なので、上流で行った調査の話をするのである。


 食い入るように話を聞く調査団員達は、そのうち地図を取り出してより詳細な説明を求めてきたので、料理が冷めてしまう前に食事をさせてほしいと頼むのであった。






 「……ということです」


 食事も終えた我輩達は、改めて調査団員に現在知るかぎりの情報を伝えるのである。

 話を聞いた調査団員の反応は信じられないといった様子であるのであるが、水産み草が水を出すところや、大量の水を一気に植物ではありえない速度で消費して行くところを目の当たりにして、いくらか納得のいった表情を見せるのである。


 「これが川の上流に大量に繁殖していると……」 

 「そうである。文献の知識の通りであるとした場合、この植物がなんらかの理由で川沿いに大量に繁殖した事によって、川の水が構成魔力に分解されてしまっていることで、川の水が減少してしまったということになるのである」

 「俄には信じられないことですが、それしか理由が見当たらないのも事実ですね……」


 ちょうど構成魔力が溜まったらしく、水産み草の集魔力体から水が出てきたのを見ながら話を聞いていた治療団員の一人がそう漏らすのである。


 「まあ、撤去作業の緊急依頼を各ギルドや南方都市の役所に出しているから、暫くすれば川も戻ると思うぜ」

 「なるほど……。では、我々の今後の行動は決まったな」


 ダンの言葉を聞いた責任者と思われる中年団員が他の団員を見ると、皆頷くのである。


 「行くのかい?」

 「そうですね。別働隊と合流次第向かおうと思います」

 「結構な規模の人間を集めるらしいから、水の確保が大変だってギルマスや村長が言ってたから、あんた達が手伝いに行ったら助かるだろうね」

 「そのつもりです」


 アリッサ嬢の言葉に中年男性は笑顔を見せ、周りの者達も新しい使命感に燃えている表情を見せるのである。

 苦しんでいる民のために働くのは治療院の仕事なので、当然のことなのであろうが、町で見たあこぎな商売をしている者達に見習ってほしい心意気なのである。


 「しかし、研究機関や教育機関などにいることが多い学者の一族の方が、こうして現場で行動するなんて珍しいですね」

 「まぁ、このオッサンは変わり者だからな」

 「錬金術師は研究だけが仕事ではないのである。民のためになるものを見極めるのも仕事である。そのためには民の声をしっかり聞くことが重用なのである」

 「錬金術……、もしや、あなたは錬金術師アーノルド様でございますか!?」

 「ということは! もしや、そちらの可愛らしい女の子は……サーシャ様ですか!?」

 「では、あちらの見目麗しい男の子はデルク様?」

 「ど、どうしたんですか? 皆様?」


 錬金術の言葉を聞いた瞬間、先ほどとは違った憧れの存在を見ているかのような表情に治療団員達は変わるのである。

 突然の変貌に、戸惑いながらミレイ女史が質問すると団員達がが口々に返答をするのである。


 全員興奮していている上に同時に返事を返して来るのでわかりづらかったのであるが、どうやらこの治療団に途中からゴードン夫妻とクリス治療師が合流していたらしく、旅路の合間合間で我輩達のことを彼らが話していたようなのである。


 「別働隊と合流するまで絶対に待っていてください。ゴードン様やクリスさんや他の者も喜びます!」

 「サーシャ様、デルク様、知らなかったとはいえ、失礼を致しました!」

 「偉大なる先人にお会いできて光栄です!」


 こうして、我輩達は予期せぬ形で治療員での森の民というものの存在の大きさを知ることになり、また、仲間との再会を果たすことになる嬉しさとともに、治療団員達に跪かれうろたえるサーシャ嬢達を見て、明日もこうなるのであろうなと思うのであった。




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