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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
8章 南方地域の旅といくつかの問題事、である
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上流の謎を調べに向かうのである


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。






 サーシャ嬢の魔力感知により、どうやら上流域で水が大量にせき止められている可能性があると言うことが分かった我輩達は、身の危険を感じて川に沿って行くことを中止し、一直線にその場所へと向かうことにしたのである。

 直線で現場に向かうには森林地帯や湿地帯を抜けねばならないため、妖精パットンの魔法があるとはいえ獣などの敵性生物の襲撃の可能性もあるので、探検家連中とデルク坊は荷車から降りて移動をするのである。


 「しかし、三ヶ月も水が流れなかったら普通せき止めている場所が決壊していたり、別の場所に流れ出ていてもおかしくないはずなんだけどねぇ」

 「でも、そういった報告は一切聞かなかったですよね」

 「私が感じる【お水】の魔力は、そこに溜まっていないのは川に流れているのしか感じないよ」


 不安そうなサーシャ嬢の言葉に、我輩達は頭を撫でたり笑いかけたりするのである。


 「分かってるよ、サーちゃん」

 「いずれにせよ、もっと近づいてみないとだな。この前のような事だってあるし」


 ダンの言う通り、現在サーシャ嬢は大きな魔力の固まりを感じているのであるが、近くに行き感知精度が上がるとまた別の感じ方をするかもしれないのである。

 ダンの言葉に頷き、我輩達は現地へと向かうのであった。






 「どうだ? だいぶ近づいた筈だが、何か感じ方は変わったか?」

 「ううん。変わらないよ」

 「ってことは、大きな水溜まりはほぼ確定ってことだね」


 我輩達は、森林地帯を抜け、湿地帯をに入っているところである。

 ここを抜けると大森林に通じる山林地帯に入り、そこからサーシャ嬢が示して場所が確認できる開けた高台に上がる筈なのだとダンは言っているのである。

 直に現場に向かうには状況が不透明過ぎるので、まずは高い場所から確認しようと言うことなのである。


 「しかし、大森林と違って蛇やら虫やらが多いですね」

 「恐らく天敵になるような獣の数が少ないんだろうな。大森林は獣や魔獣や魔物がうようよしてるからな」


  ここに来るまでに、妖精パットンの魔法が効きづらい蛇や虫、または植物等に襲われはしたものの、特に問題なく対処してこれたのである。

 大森林とまではいかなくとも、なかなか厄介な場所である。


 「手応えが無い癖に、数だけは多いからウザったくてしょうがねえ……っすわ!」


 ドランがそう言いながら片方の手で短い鉄棒を凪ぐと、襲い掛かってきた人の顔ほどの大きさの(ひる)らしき何かがはじけ飛ぶのである。


 「あんたは血の気が多いんだから、蛭に幾らか血を吸ってもらえば良いいんだよ」

 「姐さん、そりゃないっすわ」


 蛭を見るなり足早に荷車に入り込んだアリッサ嬢の勝手な物言いに抗議をしながら、ドランは鉄の棒を振り回してつぎつぎに落ちて来る蛭をはじき飛ばしていくのである。

 どうやら、蛭の集団棲息域に入ってしまったようである


 「俺だけしか迎撃しないとか酷くないですかい!?」


 ふと後ろを見たドランが、全員荷車に載っているのを見て恨み節を言うのであるが、言われているダンやアリッサ嬢達は全く気にしていないのである。


 「その程度、お前一人でどうにでもなるだろうが」

 「荷車は障壁で守っているので安心するのである」

 「ちょっ! 牽引してる俺も守ってはくれないんですかい!?」

 「さっき、<荷車引いてばかりじゃ体が鈍ってしょうがねえっすわ>とか言ってたからな」

 「体を動かさせてやろうという優しさじゃないかい」

 「人の話を聞いてましたかねぇ! こいつらじゃあうざったいだけで運動にもならねえって言ってるんでさ!」


 そのやり取りにハーヴィーが苦笑いを浮かべるのである。

 そんなハーヴィーは、魔法石で小さな木の矢を作り出して障壁の隙間から援護射撃をしているのである。


 「口は災いの元だってことですよ、ドランさん」

 「はっはっは! 覚えてろよ、ハーーーーーヴィーーーー!!」

 「僕はちゃんと援護してますよ! 八つ当たりはやめてくださいよ!」


 どうやら、口は災いの元だったのはハーヴィーも同じのようである。


 「まぁ、これも後輩の宿命だね」

 「誰もが通る道だな」

 「嫌な道であるな」


 そのような感じで我輩達は先へと進んでいくのである。


 そのまま暫く進み、山林地帯を少し上がったところで辺りが暗くなって来たのである。


 「今日はこのあたりで夜営だな」


 ダンが辺りを見渡してそういうのである。

 確かに辺りも暗くなっているし、本日はここらへんで休んだ方が良さそうである。


 「しかし、予定よりも遅くなってしまったのであるな」


 そう漏らす我輩を、夜営の準備を始めているダンが呆れたような表情で見るのである。


 「そりゃ、センセイがいろいろ採取したいとか言ってるからだろうが。俺達は素材採取にきてるんじゃねえんだぞ。調査だ、調査」

 「わかっているのである。なので、厳選して採取する素材を選んでいるのであろうが」

 「分かってねぇよ!」


 我輩達のそんなやり取りをしていると、魔法で出した水を鍋に入れながら、ミレイ女史が困ったような笑いを浮かべるのである。


 「でも、アーノルド様の気持ちもわかります。このあたりの薬草はとても元気に育っているので、良い素材になりそうですから」

 「あまり人が来ないので、良質の薬草がまだ残っているのであろうな」

 「見たことのないキノコとかもありましたね」

 「あれらも採って構成魔力を調べたい所であったが、ダンに止められたのである」

 「そんな時間はねえって言ってんだ」

 「ならば、この依頼が終わった後もう一度ここに来るのである」

 「海行くんじゃねえのかよ……ったく。半日だけだぞ」


 ダンは一つため息をつくと、我輩の提案を受け入れるのである。

 

 「感謝するのである」

 「ダメだって言ったところで、うんと言うまでドラン並にしつこく食い下がってくんじゃねえかよ」

 「諦めずに拒否しつづければ良いのである」

 「分かってんならやんな! この研究馬鹿」

 「馬鹿とは失礼であるな」


 そんな我輩達のやり取りを、またミレイ女史が楽しそうに笑うのである。

 頭の上でも何かが当たっているので、恐らく妖精パットンも声を押さえて笑っているのであろう。

 そんな面白いことなどやっていないのである。


 「このあたりは獣が少ないっすね」

 「申し訳ありません。今日はこれしか捕ってこれませんでした」


 食料確保へ向かっていたドランとハーヴィーが戻ってきて、獲物を置くのである。


 「蛇かい? 見せておくれ」


 そう言って、食事の用意をしていたアリッサ嬢が蛇を吟味しだして仕分けはじめるのである。

 どうやら当たりと外れを分けているようである。


 「よくわかるのであるな」

 「まぁ、ある程度は見れば分かるよ。あとは臭いかね。食えない奴は基本的に毒臭いからね」

 「毒は臭うのであるか」

 「まぁ、普通の人間だと分からないだろうね」


 そう言っているうちに蛇の選別を終えたアリッサ嬢が下拵えを開始しはじめるのである。


 「ただいまー!」

 「アリッサおねえちゃん、採ってきたよ」 


 サーシャ嬢とデルク坊も袋に結構な量の野草などを採って帰ってきたのである。

 このあたりは大森林よりも危険度が少ないということで、二人もダン達が付いていなくても行動可能だろうということで、食料の確保に向かってもらったのである。


 「ありがとね。一仕事してもらった所悪いけれど、サーちゃん、ミレちゃん、手伝ってくれるかい?」

 「俺は蛇肉を焼く準備をしますわ……あぁ、忘れてましたわ。あと、蛙」


 そう言って、腰袋から蛙を取り出そうとしたドランを我輩とサーシャ嬢が制するのである。

 良かったのである、ミレイ女史は気づいていないようである。

 間一髪である。


 突然のことにキョトンとしているドランに、我輩とサーシャ嬢が声をかけるのである。


 「ドラン、蛙はダメである」

 「ドランくん、蛙は、ダメ」

 「美味いんですが……」

 「美味いの!?」


 ドランの言葉にデルク坊が反応をするのであるが、これは譲れないのである。

 皆の幸せのためにも、この場は引くわけにはいかないのである。


 「蛙は……本当にダメ」

 「どうしても食べたいのであるならば、ミレイ女史に知られぬように、深夜二人きりで食べるのである」


 我輩達のあまりの様子に何かを察したのか、ドランもデルク坊も顔を引き攣らせて頷くのである。


 こうして、夜営の準備は着々と進められていくのであった。






 翌日、我輩達は小山を上がり、サーシャ嬢が示した場所を見下ろせる所にやって来たのである。


 「どういうことですかい……?」

 「なんで……?」


 眼前に広がる光景に、全員驚きを隠せない様子で立ち尽くすのである。

 

 と、言うのも、我輩達が予想に反し湖どころか、水の気配すらなかったからである。


 「嬢ちゃん、構成魔力の反応はここで良いんだよな」

 「うん。あってるよ。この森。全体に【お水】の構成魔力が広がってるの。嘘じゃないよ!」

 「分かってる。嬢ちゃんはこういう嘘は付かないってな……」

 「しかし、奇妙なものであるな。構成魔力は感じるのに、水は存在しないとは……」


 我輩の言葉を最後に、暫く静寂が辺りを包んでいたのであるが、その静寂をハーヴィーが破るのである。

 

 「……皆さん。原因がわかりました」





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