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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
7章 帝都の錬金術師と人の恋路、である
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帝都を離れるのである


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。






 「世話になったな、伯爵様」


 ダンの言葉に続き、他のメンバーも伯爵やリリー嬢、従者達に思い思いの礼を言っていくのである。


 我輩達は帝都での滞在目的を果たし、これから辺境の集落、そして森の家に帰るところであり、伯爵達はその見送りをしてくれているのである。


 「また帝都に来た際は、是非お越しください。我等一同歓迎いたします」

 「ただ、来るときは事前に鳩便の一つでも寄越しなさい。今度突然来たら叩き出すわよ」

 「分かってるって。そこらへんはミレイにちゃんと……」

 「若い子に甘えていないで、貴方達がちゃんとやりなさい」

 「へいへい……」


 気の無い返事を返し、ダンはすでに挨拶を終えた、我輩達がいる荷車へと戻って来るのである。


 「しかしまあ、何というか……」

 「なんであるか」

 「いや、楽しそうで何よりだなと」

 「本心で言っていないであろう」

 「まぁな」


 戻って来るなり我輩を見て苦笑いを浮かべ、再び伯爵達に礼を言って、我輩達は伯爵邸を後にするのである。


 そのまま平民街を通り、東門から辺境へと向かうのであるが、その前に、サーシャ嬢の服を取りに、貴族街の服屋へと向かうのである。

 その際、昨夜決めていた通りにアリッサ嬢の寝巻も買うのであるが、見事に恥ずかしがるアリッサ嬢に反発され、二人には服を買うのに、自分にはないと、不満を口にしたミレイ女史にも服を買うことになるのである。


 サーシャ嬢やアリッサ嬢は、こういった服が無いから良いとして、ミレイ女史は実家にいくらでもこういう服があるというのに、まだ欲しがるのはよくわからないのである。

 まぁ、きっと仲間外れみたいになって嫌だったのであろう。


 そんなサーシャ嬢達も、実は伯爵邸でいくつか服を貰っていたことは、後ほど知るのであるが。


 そうして、服屋を出てから平民街に向かい、そこから東門へと抜ける際に、我輩を待ち受ける者達がいたのである。


 「ここ数日はとても充実した毎日が送れた。帝都に来たときは是非また来てくれ」

 「勿論でさぁ! 必ず行きますぜ」

 「お前じゃない。デルク、俺の訓練をあれだけやって、あれだけ飯を食えたのはおまえが初めてだからな」

 「へへへ……またやろうね、ウォレス兄ちゃん!」

 「俺だって付き合えましたぜ!」

 「……そうだったか? 気付かなかったな」

 「ひどいっす教官!」

 「…………くくっ」


 ウォレスは、どうやらデルク坊がお気に入りのようで、肉食獣のような笑顔を見せているのである。

 そんな笑顔を向けられているデルク坊てまあるが、全く意に介することなくとても嬉しそうにしているのである。

 そして、冷たくあしらわれたドランが珍しく子供のように悔しがるのである。

 その様子にウォレスは、また獰猛な笑顔を見せるのである。

 全く楽しそうに見えないのであるが、相当楽しんでいるのである。


 しかしその光景はどう見ても、闇組織のボスが新入りを気に入り、昔からの舎弟が悔しそうにしているようにしか見えないのである。


 そして見送りに来ているのは、ウォレスだけではなくもう一人。


 「ぐぬぬ……そんなにべったり……ミレイ、サーシャさん、僕は必ずあなた方を取り返します!」

 「ミレイおねえちゃん、パノンおにいちゃんが何言ってるか分かんない」

 「安心して、サーシャちゃん。私も分からないわ」

 「おねえちゃんが分からないならしょうがないね! パノンおにいちゃんは説明が下手なのかな?」

 「うぐぅ!」


 サーシャ嬢の容赦の無い一言に、パノン氏は胸を押さえるのである。

 ちなみに、何故かサーシャ嬢とミレイ女史は我輩の両脇をしっかりと固めているのである。

 二人いわく、今日はこうしないといけないらしいのである。

 朝の一件が理由らしいのであるが、我輩には理解できない上に、動きづらくて大変である。


 「パノン氏、研究所は良いのであるか?」

 「……僕は他の研究員と違って、素材の収集なども任されているからね。このあとすぐに魔の森に薬草を取りに行くのさ」


 我輩の質問を受けたパノン氏は、恨めしそうな顔をこちらに向けるものの、質問にはしっかり答えるのである。

 これも、パノン氏のいう貴族の礼儀というものなのであろうか。


 「一人で行くんですか?」

 「心配してくれるのかい? ハーヴィー君。だったら僕と一緒に……」

 「あ、そういうのは良いです」

 「つれないねぇ。……冗談はさておき、ウォレスさんの頼みで新人の子を何人か連れていくのさ」


 そう言われると、少し離れたところにまだ大人になったばかりなのであろうか、少年や少女達が固まっているのである。


 「こいつは性格と言動はあれだが、面倒見は良いからな。タイミングが合うときは新人の教育係をしてもらっている」


 ちょうどそこにダンを伴ってウォレスがやってきて、補足を加えるのである。


 「へぇ、パノンは完全に研究所に属してるわけじゃねえのか」

 「僕は帝国貴族として、探検家として、そして錬金術師としても人の役に立ちたいからね。それを条件に研究所に入ったのさ。僕は様々な立場で民を助けて、君よりも優れた人間だと証明して、皆を僕の元に取り戻すためにね! さあ、皆。行くよ!」


 そう言うと、パノン氏は新人探検家を引き連れて魔の森へ向かう門へと歩き出すのであった。


 「研究所からしたら、都合のいい人間が手に入ったってところだな」

 「気付いていないのは本人だけでしょうね」

 「自分の欲のために、人を助ける……その考え方がそもそも間違いだと何で気付かないのでしょう……」

 「結果的に人の役に立つならば、どのような考え方でも良いと思うのである」

 「……そうですね。巻き込まれる側は大変ですが」

 「ミレイも俺達の気持ちがわかるようになったな」

 「あの人と、アーノルド様を一緒にしないでください」


 ダンのからかうような一言に、憮然とした表情でミレイ女史は見せるのである。


 「大差ないと思うんですがねぇ」

 「ドランさん、何か言いましたか?」

 「いや、何にも。さあ皆さん、行きますぜ」


 その場から逃げ出すようにドランが荷車を牽いて歩き出すので、我輩達も一緒に歩き出すのである。


 「元気でな」

 「そちらも」


 ダンとウォレスが最後に拳を合わせて別れの挨拶を交わし、我輩達は帝都を後にするのであった。






 


 帝都の東門を抜け、歩くこと暫く。

 やはり一番最初に体力が尽きた我輩は、荷車に乗り休憩をしているのである。


 「ウォレスのところで基礎訓練を行ったとはいえ、短期間で急激に身体能力が向上する筈が無いのである」


 我輩は、何故か歩行速度を探検家達の標準速度に変更したダンに対して恨み言を漏らすのである。


 「そうですか? むしろ隊長は予想以上について来たことに驚いていた様子でしたよ」

 「うん。ドラン君もハーヴィーおにいちゃんも驚いてたよ」


 我輩の両隣にくっついている二人は我輩にフォローを入れてくるのであるが、正直なところこの二人にくっつかれたまま歩くことが無かったらもう少し歩けた気がするのであるが、二人の不興を買いそうなのでそれは言うのは我慢するのである。


 「あはははは、大変だねセンセイ」

 「その原因が何を言っているのであろうか」


 我輩の近くに寄ってきたアリッサ嬢の、まるで他人事のような一言につい恨み言を言ってしまうのである。


 そんな我輩は、今の状態の原因になる昨夜のことを思い出すのである。


 昨夜、アリッサ嬢に抱き着かれた我輩は、アリッサ嬢の異常に気付いたのである。


 「アリッサ嬢……酔っているのであるか?」

 「うへへ……酔ってないよ~。ちょーーーーっとだけ、リリーに付き合っただけだよ」

 「それは、酔わないわけが無いのである」


 リリー嬢は飲酒自体はそれほど好きではないのであるが、かなりの酒豪であり、その強さはダンを凌ぐほどで、


 「リリーとはやりあわねぇ。あいつは化けもんだ」


 と言ったほどである。


 ちなみにアリッサ嬢はリリー嬢とは真逆で飲酒は好きなのであるが、すぐに酔ってしまう体質なのである。

 そんなアリッサ嬢がリリー嬢に付き合えば、酔わないわけなど無いのである。


 「そんなことよりさ、さっきの質問答えておくれよ。あたしをセンセイの近くにいさせておくれよ」

 「いつまでも側にいて構わないのである。」

 「……そういうんじゃなくて! あたしにいてほしいのかって聞いてんの!」


 アリッサ嬢の剣幕に押され、我輩はつい、


 「いてくれると、嬉しいのである」


 と、答えてしまうのである。

 その言葉を聞いたアリッサ嬢は、満面の笑みを浮かべ、


 「……じゃあ、一緒に寝るぞ!! 契りを交わすぞ!」


 と、のたまうのである。

 さすがにそれは色々とまずいのは、我輩にも分かるのである。


 「ま、まつのである! さすがにそれは良くない…………」

 「うるさーーい、この童貞が! ビビんなぁ!」


 と、言うわけで抵抗虚しく我輩は部屋に連れていかれ、ベッドに押し倒されて抱き着かれたところでアリッサ嬢が眠ってしまったわけである。

 取り合えず、間違いが起きずに安心した我輩ではあるが、完全に動きを固められてしまい、アリッサ嬢から抜け出せなかった為、諦めてそのまま眠ったわけなのである。


 そして翌朝、


 「アリッサおねえちゃん! おじさんが…………」

 「おはようである、サーシャ嬢」

 「ミレイおねえちゃーん! おじさんが、アリッサおねえちゃんとくっついて寝てるよー!」


 そう言って、サーシャ嬢はミレイ女史達を呼びに行き、そして、


 「…………ふぁ…………なんでセンセイ、あたしとくっついて寝てるんだい?」

 「…………我輩を引きずり込んだのはアリッサ嬢である」

 「…………? 覚えてないけど…………まぁ、なんか、ごめんよ」

 「もう、いいのである」


 と言う顛末である。


 そして、その後も一悶着あった訳なのであるが、


 「センセイにそんな度胸はねぇよ」

 「アリッサは昨日私と呑んでいたから、酔いつぶれて多分センセイを人形か何かと勘違いしたんじゃないかしら。私もよく被害にあってるわ」


 と言うダンとリリー嬢のフォロー? によって事なきを得たのである。


 「センセイに夜に会った時の事までは覚えてるんだけどね……そのあと、何を話したかよく覚えていないんだよ。どんな話をしたんだい?」

 「他愛のない話である。そのあとに何故か我輩は人形扱いされてベッドに引きずり込まれたのである」

 「ほんと酔ってたとはいえ、ゴメンね」

 「良いのである」


 本当のことを話しても良いのであるが、そんなことをしてまたぎくしゃくするのは面倒なのである。アリッサ嬢が覚えていないのであるならば、この場はリリー嬢の話に乗って、あのときの会話は酔い故の戯言として闇に葬るのが一番である。


 「アーノルド様、未婚の女性とふしだらな行為に至るのは不健全です」

 「ふけんぜん? です」

 「いや、それは不可抗力である」


 「そういう話ではありません。アリッサさんばかり密着するのは狡いと言う話です」

 「アリッサおねえちゃんとばかりくっつくのはずるい!」

 「サーシャ嬢、常日頃くっついているような表現は慎むのである」

 「なので、アリッサさんが一晩密着したなら、私たちは日中密着します」

 「おじさーん♪ うむぅー♪」


 と、言うわけで二人は朝からべったり我輩にくっついていると言うわけなのである。


 「やはり、その理屈はよくわからないのである」

 「あははは、苦労するねぇ。センセイ」

 「誰のせいでこうなっているのであろうか」

 「……酒とリリーのせいだね」


 ちょっと殊勝になったかと思えば、すぐにとぼけ始めるアリッサ嬢に、我輩はささやかな反撃を加える事にするのである。


 「なるほど。ではその事はリリー嬢に報告するのである」

 「げげ! やめて! ごめんて! あたしが悪かったよ!」

 「分かれば良いのである」


 我輩の反撃が効いたのか、アリッサ嬢は珍しくちゃんと謝って、その場を離れていくのである。


 そのまま、また暫く休んでいると、サーシャ嬢が我輩に話しかけてくるのである。


 「ねえ、おじさん。今度はどこに行くの?」

 「そうであるな、暫しの間は工房にいると思うのであるが、暑くなって来たら今度こそ海に行こうと思うのである」

 「海っていうことは南?」

 「おっちゃん! 南に行くの!?」


 話が聞こえたデルク坊が飛びつくようにこちらへやってくるのである。

 まぁ、理由は一つであろうが。


 「デルク坊の好物も旬の時期でもある筈である」

 「おっちゃん! 大好きだぜ!」

 「ふぐっ!」


 そう言うと、デルク坊が我輩に飛びついて来るのである。

 両脇がふさがっているので、無防備な正面に突撃され、我輩は思わず息が止まるのである。


 「あー! お兄ちゃん! ダメだよ!」

 「今は私とサーシャちゃんの時間ですよ」

 「そんなの関係ないし! 正面が空いてるんだから良いじゃんか!」

 「そういう問題ではないのである」


 そんな風に我輩をおもちゃにして遊ぶサーシャ嬢達を見て、


 「楽しそうで何よりだなって、事で!」

 「うわぁ!」

 「きゃあ!!」

 「痛い痛い!」

 「ぐうぅ!」


 ダンがそう言って我輩達に飛び掛かって来たのであった。


 「あんまり暴れんで下さいね。道具が落ちますから」


 ドランの冷静な言葉がその場に悲しく響き、我輩達は辺境へと戻っていくのであった。





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