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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
7章 帝都の錬金術師と人の恋路、である
159/303

戦いは終わる。だけど


 僕の名はハーヴィー。今回の狩猟チームのリーダーを務めているCクラスの探検家だ。






 僕の視界にはギルドで確認したものとは違う、羽色が赤く、大きさも資料よりも二周りほど巨大な魔鶏蛇がこちらに突進しているのが写っている。

 どうやってもこのままでは戦闘は避けられない。

 なので、少しでも態勢を整える時間を稼ごうと、僕は弓で牽制を行いつつ他の皆に急いで戦闘態勢を整えるように指示する。

 パノンさんは探検家だけあって僕の指示があったら素早くく行動を開始する。

 ミレイさんやデルク君も、大森林で僕達と行動をしているだけあって行動が素早い。

 他の三人も少しもたついているようだけど、このままならば何とか最初の打ち合わせ通りに対処できそうだ。


 そう思った時、


 「おっちゃん! 上に障壁! 早く!」


 デルク君の大声がして数秒後、大きな音とともにけたたましい泣き声が響き渡る。


 「な! 二匹……」


 パノンさんの声で、僕が確認していたけれどいつの間にかいなくなっていたもう一匹の魔鶏蛇が上から襲ってきたのだろうと予想する。

 そして、


 「ダメだ! 止められない! 来ます!」


 牽制の効果は多少あったものの、もう一匹の方もこの場に突入してくるのだった。


 その勢いのまま行う魔獣の体当たりを躱して僕は後方に控えているパノンさん達と合流する。


 「状況は?」

 「私達とアーノルド様達の間にもう一匹が落ちてきたので、分断された形になっています」

 「混乱して暴れ回っていて危険だから、あっちに合流しに行くのは難しいね。どうする?」


 ミレイさんと伯爵様の言葉を聞き、僕はどうするか考えだそうとすると、


 「何を悩んでいるんだい? やることは一つだけじゃないか。あいつをさっさとやっつけて、デルク君達を助けに行けば良いんだよ」


 パノンさんが魔法陣を描きながら笑いかけてくる。


 確かにそれが一番手っ取り早いかもしれない。

 アーノルドさんは結界石も障壁石も持ってきている。

 暫くの間ならば持ちこたえてくれる筈だ。


 「パノンさんの提案でいきます。皆さん、戦闘準備を」


 僕の声に、その場にいる全員が頷く。


 そして、僕はあらん限りの声を出してアーノルドさんに、


 「すいません! 予定が完全に狂いました! 何とか僕らが行くまで持ちこたえてください!」


 何とも人任せな指示を出すのだった。


 「じゃあ、ハーヴィー君。あっちを助けに行くために、こいつを早く仕留めないとね」

 「分かっています。その為にも基本的には打ち合わせ通り、陽動と攻撃役に別れて行動します。パノンさん、鶏と蛇、どっちが良いですか?」

 「え? 僕も陽動なの?」


 僕の言葉に、魔法陣を描くのを中断するパノンさん。

 むしろ、何で二人が陽動に回らないといけない現状で自分が攻撃役に回れると思ったのかを聞いてみたい。

 面倒だから聞かないけど。


 「ミレイさんや伯爵様に陽動ができると思いますか?」

 「まぁ……そうだけど」

 「それにパノン様、今描いていた魔法陣、火球の魔法陣ですよね? 森で火を撃ちこもうとか死ぬ気ですか? 素材を焼き尽くす気ですか? 馬鹿なんですか? 貴方は」

 「い、いや、勢いさ。勢い。怒らないでおくれよミレイ。かわいい顔が台無しだよ」

 「遊んでいる場合じゃないですよ! 向こうがこっちを向いてます! パノンさん行きますよ!」

 「全く……しょうがないなぁ。ミレイ、僕が傷ついたら手当を頼むよ!」

 「ご安心ください。アーノルド様が作った傷薬をこれでもかと塗って差し上げますから」

 「それは勘弁だな!」


 そう言うとパノンさんは先行している僕に並び、魔鶏蛇の間合いにはいる前で僕とは逆の方向に走っていく、どうやらパノンさんは鶏側を担当してくれるらしい。


 魔鶏蛇は鶏の嘴と鋭い爪、そして蛇の牙が主な攻撃方法となる。

 まともに応対すると、その全ての波状攻撃を受けることになるので、主な戦い方としては狙いを付けさせないように、鶏側と蛇側の前後に陽動役を置いて攻撃を分散させ、できるだけその場に留めるようにするのだ。

 しかし、体の大半が鶏という事もあり、攻撃の激しさは鶏側の方が厳しくなる事が多いので、陽動の際は鶏側に熟練者を置くことが多い。

 パノンさんは自ら困難な方に身を置いたのだが、それは僕に気を使ったのか、ミレイさんに良いところを見せようとしているのか判断は微妙なところだ。


 それでも、鶏の嘴や爪の攻撃をを器用にいなし、時折攻撃を加えて意識を魔法を構築しているミレイさんや伯爵様に向けさせないようにしているところを見ると、自分の実力を読み誤っていないということはわかる。

 だったら、僕も自分の役目を果たすだけだ。


 「そっちに集中していると大変なことになるよ!」


 パノンさんの死角から強引に攻撃を仕掛けようとする蛇の頭を弓で射抜く。

 思いがけない攻撃に、蛇は怒り心頭といった感じで牙を剥き出して威嚇を行うその姿に、


 「お前の相手は僕だよ」


 何故か自然と笑っていたのだった。


 あぁ、ドランさんに毒されたかな?






 それから、どれだけ時間が経っただろうか。

 おそらく数10分は経ってはいないと思う。

 だけど、体感時間はかなり長い間戦っていると思う。

 それはきっと、この魔物を早く倒さないといけないという焦りなのかもしれない。


 戦いは僕達に大分有利に進んでいる。


 「二人とも下がって!」


 ミレイさんの言葉と同時に、魔鶏蛇の足元に土の足かせが構築され、動きを止める。

 何が起きたのか分からず一瞬硬直した魔鶏蛇の胴体に、目に見えない何かがめり込み、足かせごと吹き飛ばされていく。

 伯爵様が放った風の魔法、もとい圧縮された純魔力の固まりだ。


 「いやぁ……すごいねぇ。しかし、風の魔法は純魔力を使った魔法だとはね……」

 「原理としては、障壁魔法や結界魔法と同じらしいです」

 「まぁ、あれらとは圧縮の度合いが違いすぎるけどね。私にこのくらいの範囲での圧縮しかできないね」

 「僕は知っていたけどね」

 「へー、すごいですねー」

 「ちょっと、信用してないでしょ! ……まぁ、そんな意地悪なミレイも好きだけどね」


 ミレイさんと伯爵様が僕には分からない会話をし、それに対してパノンさんが安定の自己アピールをして見事に撃沈している。


 「まだ、油断しないでくださいよ。大分弱ってきてますが、まだまだやる気ですよ」

 「だけど、動きが鈍くなってきたね。そろそろ行けるかな?」


 伯爵様の魔法で吹き飛ばされた魔鶏蛇だが、立ち上がると威嚇するかのようにけたたましく鳴き叫びこちらを見る。

 だけど、その姿は遭遇当初ほどの力強さはなく大分弱々しいものになっている。

 変異種とはいえ基本的な性質は変わっていなかったので、僕達だけでも十分渡り合えている。

 そろそろ決めてアーノルドさん達の方を助けに行かないといけない。


 ちらりと見えた時は、僕達と同じような戦いかたをしていたようだったけど、確実に火力が足りていなかったようで、魔鶏蛇は殆どダメージを受けているようには見えていなかった。

 なので、僕は皆の方を見て次の行動を伝える。


 「おそらく行けると思います。伯爵様、次で決めましょう」

 「分かったよ。圧縮と構築に時間がかかるから、さっきよりも長く時間を稼いでもらえるかい?」

 「やれやれ、伯爵もハーヴィー君も人使いが荒いなぁ。もう少し休ませてくれても……」

 「パノン様、がんばってくださーい」

 「!! ……勿論さ! さあ行こう、ハーヴィー君!」

 「……はぁ……」


 形だけの応援に、予想以上の張り切るを見せるパノンさんを見ながら単純だなと思い、そんなパノンさんを横目に溜め息をつくミレイさんを見て、女性って怖いなと思いながら、僕も陽動へと向かう。


 そして数分後、


 「二人ともありがとう! 下がって!」


 伯爵が限界まで圧縮した風の刃が、ミレイさんの魔法によって完全に動きを止められた魔鶏蛇の両首を切断するのだった。






 「遅くなってすいません!」

 「僕が来たからには安心するへぶっ」


 我先に戦場に駆けつけようとしたパノンさんは、目に見えない壁に当たったかのように弾かれる。


 「結界?」

 「ハーヴィー兄ちゃん! おっちゃん結界解いて!」


 僕達に気付いたデルク君が、アーノルドさんに指示を飛ばす。


 「もう入れるのである!」


 アーノルドさんが大声を出すなんて珍しいなと、余計なことを思いながら、僕はデルク君のいる方へ向かう。


 「蛇の方はパットンが?」

 「うん! 大変そうだから手伝ってあげて!」

 「デルク君は?」

 「大丈夫! アリッサ姉ちゃん達の方が早い!」


 少しばかり地面がぬかるんで動くのに大変そうだけど、同様に動きづらそうにしてる魔鶏蛇を見る限り、多分大丈夫だろうとデルク君を信用して蛇側にまわる。


 「お待たせパットン!」


 大分疲労が溜まっているのか、魔法の制御ができなくなってきて、姿が薄く見えているパットンが僕の肩に乗ってくる。


 「遅いよハーヴィー、何回死ぬかと思ったか……」

 「悪いね。今度、今帝都で一番人気のお菓子買ってきてあげるよ」

 「じゃあ、許してあげるよ」

 「ありがとう。しゃあ、後はアーノルドさんのところで休んでて」

 「そうさせてもらうよ。陽動なんて、もう懲り懲りだよ……」


 パットンはそう言うと、アーノルドさんのところにふらふらと飛び立っていく。

 それを追う蛇の頭に矢を射放つ。


 「ほらほら、お前の相手は僕だよ」

 「ハーヴィー兄ちゃん! まるでドラン兄ちゃんみたいだ!」

 「なんだろう、誉められてるのにあまり嬉しくないなぁ……」


 僕の独り言が聞こえたデルク君の頼もしそうな返答に、僕は苦笑いを浮かべながら当初の打ち合わせ通りに陽動を開始する。

 本来攻撃役だったパノンさんが、結界に当たって倒れているので、伯爵様が一人で攻撃役を務めて暫く後。


 大きな音を立てて魔鶏蛇は力尽きて倒れるのだった。







 「変異種ではなく、繁殖期……ですか?」

 「一族が保管している森の民の文献ではそう記されているのであるな。繁殖期になると羽色を美しく変えて主張する鳥もいるらしいので、おそらく魔鶏蛇も、同様な性質を持っているのであろうな」

 「なるほど……現在ではあまり狩られることがなかったので、今まで見かけられなかったのですね」


 僕達は今、魔鶏蛇の解体を行っている最中だ。

 先に倒した魔鶏蛇は両首を切断したためにの採取ができない代わりに、血抜きができている状態なので先に肉を取り、もう片方から薬の素材となる血液を採取する予定だ。

 いつもなら、浮遊の荷車を使ってまるごと持って帰るのだけど、一応荷車の存在を宰相閣下に隠しておかないといけない現状があるので、パノンさんと一緒に行動する今回は持ってきていない。

 なので、僕とパノンさん、そしてデルク君の背負子に載せられる分を厳選しないとなのだ。


 そんな作業をしている中、アーノルドさんから今回の魔鶏蛇の事について説明があった。

 変異種ではない事にパノンさんは残念がっていたが、それでも希少なものである事を聞いてすぐに期限を直していた。

 ころころと感情が変わっていく、落ち着かない人だ。


 そして、先に倒した方の解体が終わり、僕らはもう片方の魔鶏蛇へと向かう。

 少しでも効率を上げるべく、解体のできないアーノルドさんやミレイさんは血の採取を行うべく少し先に向かっているので合流する形だ。


 「じゃあ、この事はギルドに報告しないとですね。パノンさん」

 「僕が報告していいのかい?」

 「だって、今回のチームの責任者はパノンさんじゃないですか」


 戦闘などに関しては僕が一応責任者となっているけれど、チームを組む際の責任者にはパノンさんがなっている。なのでパノンさんが報告者となるのが筋だ。

 まぁ、今回の依頼主でもあるんだけれど。


 「そっかぁ、悪いねぇ……」


 そう言って笑ったパノンさんだが、正面を見るなり背負子を放り捨てて突然走り出す。

 何事かと前を見ると、血を採取しようと下を向いて作業しているアーノルドさんの死角から、力尽きた筈の蛇の頭が攻撃を加えようと動き出していたのだ。

 他のメンバーも死んだものと思っているので、誰も気付いていない。


 「アーノルド氏!」


 パノンさんは、咄嗟にアーノルドさんを突き飛ばすと、そのまま持ったいた剣を蛇の口に突き刺す。

 剣を突き刺されて、今度こそ完全に魔鶏蛇は動かなくなった。


 「大丈夫ですか!」


 慌てて僕らはアーノルドさんの元へと駆け寄る。


 「怪我はないかい? アーノルド氏」

 「我輩は大丈夫である」

 「そうか、それは良かったよ」


 アーノルドさんは無事のようだ。 


 だけど、


 「パノン兄ちゃん!」


 パノンさんは、


 「パノン君!」

 「ははっ、ドジったなぁ……」


 蛇の牙をその身に受けてしまったのだった。



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