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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
7章 帝都の錬金術師と人の恋路、である
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緊急事態である


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。






 魔の森に入って一夜が明け、我輩達は再び奥へと進みはじめるのである。


 「パノン兄ちゃん、元気ないね。大丈夫か?」


 昨日と打って変わり、憔悴しきったパノン氏を見てデルク坊は心配そうに声をかけるのである。


 「君達を守るために夜通し番をして、僕は殆ど眠ってないんだよ。デルク君……」

 「おっちゃんが結界石を使ったんだから、休めば良かったじゃんか」


 呆れたように返事をするデルク坊に対して、パノン氏はやや大袈裟に首を振るのである。

 大袈裟、というよりも首がカクカクしているところを見ると、眠気で動きが制御できないのであろうか。


 「そんな凄い魔法石を彼が持っている訳がないじゃないか。みんな騙されているんだよ。だから僕が夜通し起きていたのに……」


 他の者達は我輩が張った結界と、妖精パットンの魔法を信用してかなりしっかり休んでいたのであるが、パノン氏は我輩に騙されないと言い張り、不寝番をしていたのである。

 まぁ、気持ちはわからないでもないのであるが、もう少しくらい我輩を信用してもいいのではないかと思うのである。


 「分かるかい? 僕が寝ずに番を頑張ったから、君達がよく眠れたんだよ。 彼の本当にあるかどうか分からない結界魔法なんかじゃなくてね」


 まぁ、実際はパノン氏だけではなく妖精パットンも不寝番をしていたのであるが、まぁ、そこは黙っておくのである。


 「じゃあ、今は僕たちが起きているので、パノンさんは寝てください。今のままだと戦力にならないでしょ?」

 「……そんなことはない、と、言いたいところだけど、さすがに眠いかな。少し眠らせてもらうよ」

 「普通に私の寝たところで寝ようとしないでください。気持ち悪いです」

 「ははは、ミレイは恥ずかしがり屋だなぁ」


 そう言うと、パノン氏はミレイ女史の抗議を無視し、ミレイ女史が寝ていた辺りで横になり、それを見たミレイ女史はなんとも不快な表情を浮かべるのである。

 少しでも印象を良くした方がいいと思うのであるが、悉く裏目になるような行動を自然に取ってしまう、何とも残念な人物である。


 「良いのですか? 確かにあの状態のパノンは使い物にならないとは思いますが」

 「まぁ、それもあるのであるが、今は妖精パットンも休んでいるのである。なので、むやみに動くのは危険なのである」


 障壁のような面の防護ではなく、ある程度の空間全体を守ることのできる結界であるが、問題点があり、展開した結界はそこから形状の変化や移動ができないのである。

 なので、結界を展開したまま移動することができないので、リスク管理の観点から、妖精パットンが起きるまでの間は動かないほうが良いと判断しているのである。


 「なるほど。では、その間ミレイの小さい頃の話を……」

 「お父様! やめてください!」

 「伯爵様、まだ可愛い服ってあるんですか?」

 「当然たくさんありますよ。全部にミレイの可愛い思い出が詰まって……」

 「お父様!」

 「ハーヴィー兄ちゃん、腹減っちゃったよ。獣を狩りに行こうよ」

 「デルク君はぶれないねぇ……」


 このような感じで、妖精パットンとパノン氏が起きるまでの間、魔の森の奥では全く緊張のない、まるで森の家にいる時のような一時を過ごすのであった。






 「皆さん、そろそろ魔鶏蛇の棲息地帯です」


 パノン氏と妖精パットンが起きてから移動を再開すること暫く、ハーヴィーの言葉に我輩達は神妙な面持ちで頷くのである。

 ダンから問題ないと言われていてもダンやアリッサ嬢がいないメンバーでの大型獣の狩猟である。

 さらに言えば、予定外であった妖精パットンの魔法の弱体化である。

 さすがに全員緊張は隠せないのである。


 「デルク君、何か聞こえるかい? 」

 「……向こう側から、微かに何かが移動している音がするよ」


 デルク坊からの報告を聞いたハーヴィーは、暫く何かを待つようにすると、一つ頷くのである。


 「あちらに行ってみましょう。少し大型の魔獣の気配がします。もしかしたら目標かもしれません」

 

 そう言うとハーヴィーは、デルク坊が音がしたと報告した方向に向かって進み出すのである。


 中心部に差し掛かると大森林よりも鬱蒼とした様子になり、視界が大分悪くなった影響で、索敵はハーヴィーの視覚よりもデルク坊の聴覚と、妖精パットンの魔力感知や斥候行動が中心になって来ているのである。

 先程の間も、デルク坊が示した辺りを妖精パットンが様子を見に行ったのであろう。


 「へぇ、気配の察知能力も高いんだね」

 「ま、まぁ。相当集中しないとですけどね」

 「更に君が欲しくなったよ。ハーヴィー君」

 「パノン君、今はそのやり取りをしている場合じゃないよ」

 「伯爵、心配ありがとうございます。 大丈夫、ミレイへの愛は不変ですから」

 「そういう話じゃないんだけどねぇ……」


 何とも噛み合わない会話に、伯爵は苦笑いを浮かべるのである。


 「くだらないやり取りはここまでにして、ここからはできるだけ音を立てないでくださいよ。気付かれたら面倒です」


 ハーヴィーがそう言い注意を促すと、全員頷いてハーヴィーの後に続くのである。


 「……? ちょっと待ってください」


 デルク坊や妖精パットンに、目標へと近づいているのかを確認しながら暫く移動していると、先頭に立っていたハーヴィーがこちらに振り向くのである。


 「どうしたのであるか?」

 「いや……魔鶏蛇は、確か白の羽色でしたよね」

 「その筈だけど、何かおかしいのかい?」

 (錬金術師アーノルド、僕はその魔鶏蛇をちゃんと知らないけれど、そうなのかい?)

 (そうでなるな。違ったのであるか?)


 伯爵の言葉を聞き、妖精パットンが我輩に話しかけてくるのである。

 つまり、妖精パットンやハーヴィーは何か違うものを見たという事なのであろうか。


 「羽色が赤いギルドの報告に出ている魔鶏蛇よりも二周りくらい大きいサイズのが一匹、確認できているんです」

 (ボクは、ハーヴィーから鶏の体に蛇の尾を持つ大きな魔獣だとしか聞いていなかったから、これが皆の知っているものと違うことがわからなかったんだよ)

 (なるほどである)


 妖精パットンの言葉を聞いた我輩は、学者の一族が保有している文献に、


 数年に一度、不定期に訪れる魔鶏蛇の繁殖期は体毛が赤く染まり、大きさも数割肥大化する。その肉は非常に美味で、その羽も繁殖期限定である故に希少な物である。しかし、獰猛化・能力の向上が認められ、狩猟の難易度は格段に跳ね上がるので注意が必要になる。


 と、書かれていたことを思い出すのである。


 なので、その事を皆に伝えようとしたのであるが、


 「見たことのない羽色の魔鶏蛇……変異種か何かでしょうか」

 「私の知る限りでも、そのような情報は知らないね。もしかしたらそうかもしれないね」

 「その変異種ならば、更なる良質素材としての価値があるかもしれません。是非狩りましょう」

 「いや、どんな能力を持っているか分からない敵を、チームとしての連携が弱い僕らで狩るのはやめた方がいいですよ」

 「何を言っているんだい、未知の魔獣を狩るなんて名誉はそうないんだよ。千載一遇のチャンスじゃないか」


 どうやら話がどんどんと進んでいき、割り込む隙がないのである。


 そんな時である。


 「……相談は終わりです。戦闘準備を」


 敵の様子を伺っていたハーヴィーが、我輩達に戦闘態勢につくように指示し、我輩達は急いで決められた戦闘ポジションに着くのである。


 「どうしたんだい?」

 「……気付かれたようです。こっちに突っ込んできます」

 「まさか! なんで!!」

 「やはり、通常の魔鶏蛇よりも能力が高いということでしょう。時間稼ぎで牽制します!」


 そういうと、ハーヴィーは前方に向かって射撃を始めるのである。


 ギルドにあった魔鶏蛇の索敵範囲外で我輩達は行動をしていたのであるが、やはり、繁殖期になり能力が向上した魔鶏蛇は索敵能力も同様に向上していたようである。


 なので、我輩達も打ち合わせしていた迎撃行動に移ろうとしたその時、


 「おっちゃん! 上に障壁! 早く!」


 デルク坊が急に大声をあげるのである。


 驚きつつも何とか我輩がいる場所の上に障壁を張ると、何かが当たる音と共に、けたたましい鳥の泣き声が聞こえてくるのである。


 何事かと思うと、我輩達の前方に赤色のなにかが暴れながら落ちてくるのである。どうやら、我輩達に襲い掛かろうとしたところを障壁で妨害されたため、目測を誤った形になり混乱して暴れているようである。


 「な! 二匹……」

 「ダメだ! 止められない! 来ます!」


 それと同時に、ハーヴィー達の前にも我輩達と同じ、赤色の羽色をした巨大な鶏といっても差し支えない風貌の魔獣が襲いかかるのである。


 緊急事態。


 我輩達は、分断されたのである。





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