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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
7章 帝都の錬金術師と人の恋路、である
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帝都を少し回るのである②


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。






 「アーノルドさん、昨日はありがとうございました」

 「特に気にすることはないのである。ダンが了承して良かったであるな」

 「はい。手がかりがあると良いのですが」


 昨日同様に我輩達は貴族街を歩いて移動しているのであるが、我輩とハーヴィーが話しているのは昨日ホランド氏から聞いた情報を元に、ダンに掛け合ったときの事である。


 ハーヴィーにしてみれば、リスの獣人達が襲撃された時に憑依の魔物に憑かれていた者を一度目にしただけである。

 連中は人形がない頃だと、憑依されている者を気付かずに集落に入れてしますと集落全てを壊滅させてしまう事もあったようである。

 なので、色々と考えてしまうのであろう。

 何か少しでも猛禽の獣人達が生存していると確認できる手がかりでも掴めれば、と、いう思いがあるのは分かるのである。


 なので、治療院から帰った我輩は夕食時にハーヴィーに治療院で言った通り、夏になったら今度こそ海に行く事と、南方の大森林の捜索を行いたい旨を話したのであった。


 「おう、良いぜ」

 「即答であるか」

 「前回海に行けなかったから、そんな事を言うのは大体予想できたし、爺さんの件もあるからな。もしもその時の森の民がまだ生きてたら爺さんの代わりに礼でも言っておこうかなと思ってな」


 ダンはおどけたようにそう言っていたのであるが、おそらく実際はハーヴィーの事を気にかけているのであろう。

 そういうところに気が回るのに素直に言わない辺りが面倒な男である。


 一応他の者達の意見も聞いてみたのであるが、特に他の希望や反対の意見も出なかったのでこの後の動きについてはほぼ決定したのである。


 ちなみに、


 「南に行くっていうことは……、あの野菜が食べれるじゃんか! やったあぁ!」


 と、デルク坊は違う意味で気持ちが上がったようであったのである。


 そんなデルク坊とサーシャ嬢は昨日とはまた違う装いで町を歩いているのである。


 「昨日よりはマシだけど、まだ動きづらい……」


 デルク坊は、昨日の服が相当嫌だったらしく、今日の着替えの時に一悶着を起こしたのである。

 服を見繕うメイドが持ってくるのはどれも貴族然としたものであり、デルク坊は着たがらなかったのである。

 まぁ、中身は食いしん坊とはいえ、外見はかなり優れているデルク坊である。

 貴族の豪勢な服に劣ることがないので、メイド達もがそういう服を着せたい気持ちはよか分かるのである。


 どちらも譲らなかったのであるが、伯爵の<お客様の要望に応えなさい>と言う鶴の一声で、一番動き易そうなものをデルク坊が選んだのである。

 その時、その場にいたメイド達全員が心から残念そうな顔をしてたあと自分たちが持ってきた服を見て、何かを決意したような、やる気を出した表情を浮かべたのを見て、この戦いは明日も続くのかもしれないなと我輩は思ったのである。

 そんなデルク坊と対照的に、今日もサーシャ嬢は御満悦な様子である。


 「おじさん、今日のお洋服はどうかなぁ?」

 「季節も春であるし、色合い的にもサーシャ嬢に合っているのである」

 「かわいい?」

 「春の妖精のようであるな。可愛らしいのである」

 「にへへ……妖精さんかぁ……パットンと同じだね!」

 「いやいや、僕なんて春の妖精サーシャには到底及ばないよ」

 「そんなことないよ! パットンだってかわいいよ!」

 「君はいい子だね。お褒めいただき光栄だよ、春の妖精サーシャ」


 昨日はフリルのたくさん着いた白を基調とした華美な外出用ドレスであったのだが、今日のサーシャ嬢はデルク坊に合わせているのか昨日よりも動き易そうなピンクを基調としたワンピースドレスを着ているのである。

 花の装飾を施された帽子も被っており、春らしさを感じる装いである。


 ちなみにこの服を見た時も、その時のエピソードを伯爵が嬉しそうに語っており、ミレイ女史が恥ずかしさから憤慨しているということが起こっていたのである。

 この調子であると、デルク坊のように伯爵とミレイ女史の悶着も毎日続くであろうと、確信めいた予感を我輩は抱くのである。


 「おっちゃん、今日は昨日と違う道だけど、どこへ行くんだ?」

 「こっちは平民街へと続いていく道である。今日は市場とギルドに寄ってみようかと思うのである」

 「市場! って言うことは、出店も出てるかなぁ?」

 「お兄ちゃんはまた食べることを考えて!」

 「と、いうわけで二人とも手を出すのである」


 我輩はそういうと、言われるままに手を出した二人に十枚弱の銅貨を手渡すのである。


 「今日は、その分以外は使ってはいけないのである。我輩やハーヴィーにねだっても、今日はこれ以上は出さないので計画的に買い物をするのである」

 「これだけしかないの?」

 「これでも普通の子供達からすればかなり多いのである」

 「はーい……」


 デルク坊が若干不服そうな表情を浮かべたのであるが、それでも特に文句も言わずに二人とも懐に入れている小さなポーチに銅貨を入れるのである。


 今日、平民街へと行こうと思っているという事をアリッサ嬢に言ったところ、これから先、他の場所にも二人を連れて行くつもりならば、庶民的な金銭感覚をしっかり身につけさせろと言われて、数枚の銅貨を渡されたのである。


 二人もそれはアリッサ嬢やリリー嬢から言われているようなので、納得しているようである。

 デルク坊が不服そうにしているのは、決められた金額だと満足行く買い食いがなかなかできないからなのであろう。

 しかし、渡した銅貨の量ならば、大人でもそれなりに満足するだけのものは食べられるのである。

 毎回思うが、デルク坊の腹の中を見てみたい物である。


 ついでに、我輩も同じ理由でそれよりも数枚の銀貨しか今日は持っていないのである。


 「いくらかマシになったって言っても、センセイにお金をたくさん持たせたら、あるだけ素材を買い込んできそうだからね」

 「そんなことは……」

 「掘り出し物市で、使えるかもしれないっていうだけの理由で訳の分からない物を大量に買ってきて、リリーに大目玉を喰らったのは誰だったっけ?」

 「……我輩と……ダンである」

 「しれっと俺を巻き込むなよ、俺は止めたぞ」

 「強引に止めれば良かったのである」

 「お前は子供か!」


 ということで、我輩もアリッサ嬢に手持ちの金銭を没収されてしまったのである。

 なので、この限られた金銭の中で目利きをしないといけないのである。

 我輩は自慢ではないのだが、採取の時等の目利きはかなりきっちりできているはずなのであるが、何故か市場に行くと目利きの能力が激減するのである。


 それに関して、


 「その道の専門家が進めたものだから、安易に信用するのかしらね」

 「よく言えば純粋、だが実際は単純ってだけだな」

 「人の話に耳を傾け過ぎなんだよ、良いことでもあるけどさ、一人で出歩くとトラブルを起こす人だよ。センセイは」

 「本当に、対人関係ではポンコツだよな。センセイは」

 「ダンは、我輩をけなすことしかできないのであるか」


 研究所時代にそんなやり取りをしたことを思い出し、人の言葉を鵜呑みにしないように気をつけようと決意するのであった。






 「あ~! 今日のご飯が楽しみだなぁ!」

 「お兄ちゃん、お野菜選ぶの本当に真剣だったね」

 「少しでも良いのが食べたいじゃん」


 そう言っているデルク坊は、野菜の入った麻袋を片手に大変満足そうな表情を浮かべているのである。

 当然服装も昨日同様に平民街に入ったところで普段の服に着替え直しているのである。


 現在我輩達は市場に入って少しばかり進んだところなのであるが、すでにそれなりの時間が経過しているのである。


 と、言うのも、市場に入ったところにある野菜売りの出店で、デルク坊が大好物である黄色い粒がたくさんある野菜が置いてあったからである。

 当然、デルク坊はそれを発見して野菜を購入することにしたのである。

 しかし金銭が限られているデルク坊は、以前東方都市で出店の店主に言われた事を念頭に、時間をかけて真剣に吟味に吟味を重ねるのである。


 「おばちゃん、これと、これを頂戴!」

 「はいよ! 良いのを選んだねぇ!」

 

 そうして買い物をしたデルク坊はとても満足そうな表情を浮かべているのである。


 「しかし、市場はかなり人が多いのであるが、今日は歩きやすいのであるな」


 この時間はかなりの人混みで賑わっているので、当然歩くのも大変なのであるが、我輩達はかなりスムーズに動くことができるのである。

 それに疑問を持った我輩に対し、ハーヴィーが呆れた様子でため息をつくのである。


 「そりゃそうですよ。伯爵令嬢がいるんですから、道を開けているんですよ」


 我輩は、ハーヴィーの答えに疑問符が浮かんだのであるが、隣で手をつないでいるサーシャ嬢の姿を見て言っていることを理解するのである。


 「なるほどである」

 「下手に何か起こしたら大事ですからね。むしろ若干迷惑だと思いますよ」

 「民にあまり迷惑をかけるわけにはいかないのであるな。市場巡りは今度にして、ギルドへ行ってみるであるか」

 「ですね」

 「あ、おっちゃん! 出店が……」

 「また今度にするのである」

 「えぇ~! なんでだよぉ~!」

 「今度来るときは好きなものを食べさせてあげるのである」

 「分かった!」

 「……知りませんよ?」


 ハーヴィーの若干冷たい視線を浴びつつ、我輩はサーシャ嬢達を連れて足早に探検家ギルドへと歩みを進めるのであった。




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