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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
1章 森の民と新しい工房、である
14/303

聞いてみたい事があるんだ(デルク編)

幕間的な話になります

 俺の名前はデルク。サーシャの兄ちゃんで、森の民なんだぜ





 「なぁ、ダンにいちゃん。おれ、アーノルドのおっちゃんに聞いてみたい事があるんだ」


 おれがベッドから出られるようになってから、ダンにいちゃんやアリッサねぇちゃんに、早く狩りにでられるように運動させてもらえるようになったんだ。


 でも、まだ家の外で運動できないから、今日は、にいちゃんと家の中でできる運動をしてたんだ。

 って言っても、ひたすら一階から三階まで上って下りてってしてただけなんだけど、すぐ息上がっちゃって大変だったんだけど。


 そのあとにおれは、ダン兄ちゃんにそう話しかけたんだ。


 「どうしたボウズ、センセイに何聞きたいんだ?」


 兄ちゃんは、おっちゃんのことを先生って呼んでる。


 先生ってたしか、優しかったり厳しかったりするけれど、とっても凄くて何かを教えてもらう人の事を言うはずなんだ。


 サーシャは、おっちゃんみたいになりたいって思って、おっちゃんと一緒に勉強してるから、おっちゃんのことをセンセイっていうのは分かるんだ。

 でも兄ちゃんは、おっちゃんを先生って呼んでるのにそんなふうに思ってる感じしないんだよなぁ。


 どちらかっていうと、おれと、サーシャみたいな感じ。


 まぁ、そんなこと良いや。

 今はそんなことよりも気になることがあるから。


 「おっちゃんてさ、俺の名前知ってるのかなぁ」

 「…………どうなんだろうな」


 あ、ダン兄ちゃんが目をそらした。






 ダン兄ちゃんが言うには、アーノルドのおっちゃんは、名前を覚えるのが凄く苦手らしい。


 最初におっちゃんが呼び名を決めちゃうと、そのままになって、ちゃんとした名前を覚えてもらうのにすごく時間がかかるんだってさ。

 兄ちゃんもアリッサ姉ちゃんも、それでとても苦労したんだって。


 「良いか、ボウズ。お前は兄君と呼ばれるだけまだマシだ。俺は、初めて会った時2号って呼ばれたんだぜ。名前を覚えさせるのに5年はかかったぞ」

 「アタシは最後に会う直前まで7号だよ。ほんとありえないよね!」

 「2号とか7号って何なの?」


 おれがそう聞いたら、二人は大きなため息をついて、


 「錬金術の実験役の番号」


 って同時に言ったんだ。


 そっかぁ、おっちゃんは名前覚えるの苦手なんだ。それじゃあ何でサーシャは名前なんだろう?


 「にいちゃん、じゃあ、何でサーシャは名前なんだ?」

 「嬢ちゃんは、最初男だと思われてたからな。センセイの中で認識が変わったんじゃねぇのかな」

 「えぇ!? 髪の毛はすこし短めだけど、何でサーちゃんを男だと思うのさ」


 ダン兄ちゃんの言葉に、アリッサ姉ちゃんは信じられない物を見るような顔をすると、ダン兄ちゃんは困ったような笑いをしたんだ。


 「あぁ、初めて会ったとき森の中で、嬢ちゃんも今よりもずっと動きやすい格好だったし、土埃とかで薄汚れてたしな。俺も最初男だと思ってたよ」

 「あんな可愛い子、男だと思うなんて目が腐ってんじゃないの?」

 「お前、本当に口が悪いな……」

 

 姉ちゃんは、ダン兄ちゃんやおっちゃんにはひでぇなぁ。


 でもおれも、昔サーシャが森を歩くときの格好してるとき、実は弟なんじゃないかと疑ったことがあるけど、それは内緒にしておこう。


 そんなことを思っているうちに、話はまたおっちゃんの話に戻ったようだ。


 「あ、そうだアリッサ。今でも、実験に付き合わせられる時は番号で呼ばれるからな」

 「え? マジで?」

 「おぉ、マジだぞ。だから、お前も7号って言われたら覚悟しておけよ」

 「えぇぇぇ……」


 二人とも机に突っ伏して落ち込んじゃったよ。


 そんなに嫌なら、付き合わなきゃ良いのにって俺は思うんだ。

 なにか理由とかあるのかなぁ。


 「とりあえず、大変なんだね。おっちゃんの実験付き合うの」

 「大変なんてもんじゃねぇぞ」

 「あのオッサン、絶対人のことを人だと思ってないよね」


 兄ちゃんと姉ちゃんから、おっちゃんの愚痴を延々聞かされる羽目になっちゃったよ。


 臭い薬を何日も体につける実験とか、怪我薬の効果を調べるために魔獣の巣に飛び込んでいったりとか、聞いてると本当に大変そうだった。


 実験だけじゃなくて、物を作るために必要な素材を集めるために、色々なところへ行かされたりしたのもとても大変そうだった。

 

 「そんなに大変なのに、何でおっちゃんと一緒にいるんだ?」


 俺の質問に、二人は即答したんだ。


 「陛下の依頼だったからだな」

 「リーダーのチームに入ったからだよ」


 陛下って、確か帝国の一番偉い人だよなと思い出す。

 どうやらおっちゃんや兄ちゃん達はには陛下の命令で一緒にいたみたいだ。


 「じゃあ、今も陛下って人の約束なの?」

 「いや、陛下は2年前に亡くなってるから、そういうわけじゃないな」

 「チームも解散しちゃったしね」

 「じゃあ、何で今もいるの?」


 俺がそう言うと、二人はすごく良い笑顔で答えたんだ


 「まぁ、センセイといると、大変だけど、それ以上に楽しいからな」

 「それにさ、付き合うこっちは大変なんだけど、終わってみたら、色々な人のためになってた。っていう事とか多いんだよね。センセイは多分そんなこと思って行動してないんだけどね」


 どうやら、さっき言ってた臭い薬は、飛竜っていう空を飛ぶおっきなトカゲを追い払うために作ったもので、その実験を大トカゲでしていたんだって。

 それで、その大トカゲは近くの村の農作物を食っちゃう困った奴で、困った村の人は探検家っていう、ダンにいちゃんみたいな人たちに駆除をお願いしようと思ってたんだってさ。

 だけどその前に、おっちゃんが全部その薬で追っ払っちゃったんだって。


 怪我薬の件も、たまたま実験するのにいい獣なんかを探しに、兄ちゃん達と大森林に入って行ったときに、たまたま魔獣の巣から逃げてきた探検家の集団と遭って、怪我人に薬をつけるいい機会とばかりに全員巻き込んで突入して行ったみたい。

 結果、大怪我していた人をみんな治して帰ってきたんだって。


 「完全にやられ損な時もあるけど、そんな感じでさ、人のためになったりすることも多いんだよ」

 「しかも、そんなつもりが無いから見返りも要求しないしな。だから、センセイは聖者様とか言われたときもあったぜ」

 「なに? それ? あたし知らないんだけど」

 「おぉ? そうか。アリッサがチームに入る前の話か。あれは、何の実験の時だっけかなぁ……」


 二人は、おっちゃんの過去やった実験のことで楽しそうに盛り上がっていたんだ。


 そっかぁ、確かにおっちゃんといると楽しそうだな。

 でも、大変なのは嫌だなぁとか思ってるおれを、さっきまで話をしていた二人はニヤニヤ笑って見てる。


 なんだろう、嫌な予感がする。


 「な、何?」

 「他人事のように思ってるかもしれないけど、サーちゃんがセンセイにくっついてる限り、デルっちも確実に巻き込まれるからね」

 「解毒薬を作ってるときに<8号が安心して飲める薬をどうやって作ればいいのであるか>って言ってたから、既に実験役認定されてるからな。頑張れよ、デルク」

 「おぉ、ついにあたしにも後輩が出来たんだね。宜しく、デルっち」

 「ええぇぇぇぇ……」


 おれ、これから大丈夫なのかなぁ……。


 解毒薬の時を思い出して不安になるけど、少しだけ楽しみな気持ちがあったんだ。きっとおっちゃんといると毎日退屈しないだろうなって。


 サーシャはおっちゃんと一緒にいると思う。

 おれは、そんなサーシャと一緒にいると思う。


 その時、他の人は名前なのに、おれだけ【兄君】って呼ばれるのは嫌だなぁ。


 だから、おれは今からおっちゃんのところへ向かうんだ。


 おっちゃんは、サーシャと一緒に釜の前でうんうん言っている。

 おれには良くわかんないけど、これが二人の勉強らしい。


 「おお、兄君どうしたのである。ここに来るなんて珍しいのであるな」

 

 おれに気づいたおっちゃんが、少し驚いた様子で俺のところに来てくれた。

 そういえばおれ、オッチャンが来てからここ来るの初めてだもんな。


 だから、ちょうどいいから聞いてみるんだ。


 「なぁ、アーノルドのおっちゃん、おれ、聞いてみたい事があるんだ」

 「なんであるか?」

 「おっちゃん、おれの名前知ってるか」

 「兄君ではないのであるか」


 やっぱり知らなかったよ。


 だからおれはおっちゃんの真似をしてこういうんだ


 「おれの名前は兄君じゃないぜ」




 俺の名前はデルク、サーシャのにいちゃんで、森の民なんだぜ。

 時間はかかるかもしれないけれど、絶対に名前を覚えさせてやるからな! おっちゃん!






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