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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
6章 料理大会と錬金術師の過去、である
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新しい手法と報告、そしてこの先の事である


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。






 「今度こそ上手くいく筈なのである……二人ともよろしく頼むのである」

 「はい。アーノルド様、サーシャちゃん、頑張ろうね……」

 「うん、がんばる……」


 サーシャ嬢とミレイ女史の応援を受け、我輩は最後の作業に取り掛かるべく集中を開始するのである。

 膨大に圧縮された純魔力をどのような範囲、形状にしていくのかを深く想像をするのである。


 現在、我輩達は作製を中断していた結界石の作製を再挑戦しているところである。

 海へ行くことができなかったので補助試薬を作製することができなかったのであるが、代わりの方法を発見したので、その方法を用いて再度の挑戦を試みているのである。


 その方法とは、サーシャ嬢に圧縮された膨大な純魔力を維持してもらい、我輩がその純魔力を結界の構成魔力として構築し、ミレイ女史が魔法石に流し込むというものである。


 これは、ノヴァ殿が流行り病の薬を作る際に行っていた、錬金術の元となる魔法術式から着想を得た、分業式の構築作業である。

 この方法は、サーシャ嬢達が【浮遊の荷車】を作製する際に行っている共同作業とは違うやり方なのである。

 こちらは分業、役割がハッキリと分かれているうえに、基本的に一番負担がかかるのが魔力を制御するものである。

 つまり、純魔力の状態維持・制御を行っているサーシャ嬢の負担が一番大きいのである。


 「大丈夫であるか?」

 「うん。平気」


 そう答えるサーシャ嬢の額にはうっすらと

 できることであれば代わってあげたいのであるが……


 そう思いながら我輩は作業を続けるのである。


 結界のイメージなどサーシャ嬢では曖昧な物となってしまうし、魔法石に構築した魔力を注入するには繊細な調整が必要であり、それもサーシャ嬢は苦手なのである。

 そうなるとサーシャ嬢にできることは一番負担のかかる、圧縮された純魔力を維持するという作業のみになってしまうのである。


 「アーノルド様? また何か考えていますか?」

 「いや、すまないのである」


 作業中にまた違うことを考え始めた我輩に気付いたミレイ女史から注意を受け、我輩はまた集中を再開するのである。


 しかし、前にも思ったのであるが、サーシャ嬢にしろミレイ女史にしろ、どうして我輩が別のことを考えているのがわかるのであろうか? 

 全く以って不思議である。


 なので二人に尋ねてみたのであるが、


 「秘密です。ねー、サーシャちゃん♪」

 「ねー、ミレイお姉ちゃん♪」


 と言われて答えてもらえなかったのである。

 

 「おじさん!」

 「あぁ、申し訳ないのである」


 今度はサーシャ嬢に怒られ、我輩は再び作業に集中するのである。

 我輩のイメージが、出来上がった道具の品質に関わるの、なんだかんだ言って全員責任は重いのである。

 我輩のせいで作った道具が粗悪であると意味がないのである。


 なので我輩は、完成する結界のイメージを強く持つように、集中を深めるのであった。


 そうして、


 「……できた……できたよ!」

 「やりましたね! アーノルド様! サーシャちゃん!」

 「二人のおかげなのである。感謝するのである」


 我輩達の前には、始めて壊れることなく形を留めている結界石が完成するのであった。

 しかし、このあとも何度か作業を行ったのであるが、三人がかりで成功率は2割も無かったのである。

 やはり、補助試薬の作製は必要なのだと改めて感じたのである。


 「って言っても、その失敗の半分以上はセンセイが余計なことを考えるせいだろ?」

 「……反省しているのである」


 できる限り余計なことは作業中に考えないようにしようと、何度目にもなる反省を我輩はするのであった。






 「大おばあちゃん!」

 「あらあら、元気だったかい?」

 「うん!」


 姿を見るなり勢い良く駆け寄る二人を、優しく姥殿は受け止めるのである。

 意外なことに、サーシャ嬢よりもデルク坊の方が姥殿に甘えているのである。

 デルク坊は、おばあちゃん子なのであるな。


 東方都市でもらった素材や食材の研究、結界石の作製が一段落した我輩達は、森の集落へと来ているのである。


 目的は当然、


 「大おばあちゃん、ひいおばあちゃんが人間の土地で何をしてきたか分かったよ」

 「え? どういうことだい?」

 「おっちゃん達と一緒に、人間のいっぱい住んでるでっかい町に出かけたんだ。そこで、ひいばあちゃんのやってきた事をずっと………ずっと伝えてきた人達にあったんだ」

 「ちょ、ちょっと待ってね。突然すぎて、婆は頭が追いつかないよ……」


 二人の言葉に、頭を抱えて姥殿は混乱している様子である。

 人間の町に出かけたこともそうであるし、ノヴァ殿のことを伝えるものがいるという事もそうである。

 二人にとってはすでに普通のことになっているのであるが、森の民の常識ではまだ人間とは深く関わることは避けている状態なのである。

 姥殿がそういうふうになってしまうのも分かるのである。


 しばらくして、少しずつ理解が追いついてきた姥殿に、今度は混乱していかないように少しずつ話しを進めているのである。


 「……でね、その時……」

 「……そんなことがあったんだねぇ……」

 「……で、ひいばあちゃんが…………」

 「……あの子らしいね……」


 楽しそうに話す二人の話を姥殿は懐かしそうに、そして嬉しそうに聞いているのである。

 その様子は本当の曾祖母と曾孫のようである。


 「来て良かったな」

 「そうであるな。もう訓練は終わりであるか?」

 「そんなわけねぇだろ。あの馬鹿、ここの隊長達とグルになりやがってここぞとばかりにぐいぐい来やがる」


 そう言ってダンは面倒そうに髪をぐしゃぐしゃと掻くのである。


 と、いうのも、森の集落へ向かう途中でちょうど親御殿達と鉢合わせしたのであるが、我輩達が集落へと向かっていることが分かるや捜索団の隊長が、


 「では、集落で戦闘訓練をしよう。他の隊の連中もやりたがっていたしな」


 と、有無を言わさずダン達(主にダン)を、集落へ着くなり戦闘訓練に連れていったのである。

 あの時の面倒そうなダンの顔と、心底嬉しそうなドランの表情の対比はなかなか面白かったのである。

 それで、今までの間ずっと戦闘訓練をしていたようで、このあともまだまだ続くようである。

 しかも話しぶりからすると、ドランが森の民達を上手く乗せて戦闘訓練を続けさせているようである。

 ドランは本当に、戦闘馬鹿なのである。


 「だったら、逃げてしまえばと思うのであるが」

 「あの馬鹿はそれだけじゃなくて、このあたりのガキ共や若い奴に俺の戦いが凄いとか好き勝手言いやがってな。話しを聞いた連中が見物に来てんだよ」

 「外堀を埋められたのであるか」

 「無駄に知恵を働かせやがってな。頭来たからあの馬鹿を徹底的に締め上げてやるぜ」


 そう言ってダンは訓練へと戻っていったのである。

 あんなことを言っているが、注目を浴びるのが好きな男である。

 見物人の歓声を浴びて調子に乗ってどんどん訓練を続けていくのが目に見えているのである。

 おそらくそこまで読みきって、ドランは観客を用意したのであろうな。

 ドランの思う壷なのである。


 我輩はそんな事を思いながら、楽しそうに話を続けているサーシャ嬢達の様子を眺めるのである。

 こうして、我輩達の春の旅は終わりを告げるのである。


 だが、そろそろ辺境の集落に知らせが来るはずである。

 そうなると次は、帝都であるな。

 我輩はしばし考えるのである。


 ドランとアリッサ嬢、ダンは帝都に戻るのである。

 おそらくミレイ女史も里帰りとして戻りたいと思うはずである。

 リリー嬢は、我輩達が全員来ると思い、待っていると言ったのである。

 サーシャ嬢やデルク坊や妖精パットンは、どうするか聞けば行きたいというのはわかっているのである。

 ハーヴィーは、きっと場の空気に流されるのである。


 しかし、我輩は正直帝都にはもう戻ることは無いと思ったのである。

 戻りたいとも、全くといって言いほど思っていないのである。

 未練も興味もないのである。


 しかし、望むならばサーシャ嬢達を帝都に連れていってあげたいのである。

 だが……きっとサーシャ嬢は、我輩が行かないと知ったら我慢するし、サーシャ嬢を置いてデルク坊や妖精パットンが帝都に行くとは思えないのである。


 我輩は……どうするべきであろうか。


 我輩は、姥殿との話が落ち着いたサーシャ嬢がこちらにやってくるまでの間、暫くそのことについて考えるのであった。




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