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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
6章 料理大会と錬金術師の過去、である
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アルケミー領の最後である


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。






 「人間至上主義者である当時の宰相閣下に、アルケミスト様の素性が知られることになったからです」


 ある程度予想することのできた御老体から発せられる言葉を聞き、我輩は何とも言えない気分になるのである。

 本当に、人間至上主義者はろくなことをしないのである。


 「まぁ、それはある程度予想できるけど、一体どんな経緯で知られることになったのさ」


 アリッサ嬢の言葉の通り、大体こういうことの結末に貴族や至上主義者が絡んで来るのは予想される出来事である。どんな経緯であるか、それは気になるところである。


 「一応その事にも絡みますので、話を聞いてくだされ」


 アリッサ嬢の質問にそう答え、御老体は会話を続けるのである。


 「錬金術の研究に着手したアルケミスト様は、数年掛かりで本人が納得することのできる形式にすることができたようで、実用化を図ったようです」


 そのために希望者に森の民が行う魔法の授業を教え、魔力制御や基本的な魔法陣魔法の使い方を覚えてもらい、さらに希望者には錬金術の講義も行ったようである。


 「錬金術には、魔法金属製の容器が必要なのであるが……」

 「領地には、魔法金属の鉱床がありましたので、アルケミスト様は錬金術で大量の廉価魔法鉄を精製し、小さな鍋を作製して講義をしていたようです」

 「それだけでも十分な事であるな」

 「ご本人も、最初は劣化魔法鉄製の道具を使用していたようですが、最終的には準魔法金製の容器を使用していたようです」


 何というか、少しずつ魔法金属の質をあげて道具を揃えていった様が浮かぶのである。


 そうして、魔法を使える者や簡単な錬金術を扱える者が増え、アルケミー領はさらなる発展を遂げるようになるのである。


 「ですが、当然の事ながらそれだけの出来事が急激に行われると帝都にも知れることになります」

 「まぁ、当然のことだよな。明らかにおかしいからな」


 当時の流行り病の治療法の確立から始まり、魔法を使える者と効果の高い薬の大量出現。当然目立つわけである。


 「そこで、当時の皇帝陛下と宰相閣下は理由を探るべく、帝都で一番高名であった宮廷魔導師を視察に向けたのです」


 その知らせを聞き、アルケミー伯爵とノヴァ殿は自分たちの技術が帝国内に広がり、領地のみでは無く帝国全体が繁栄するきっかけになると思ったそうである。


 「ただ、アルケミー伯爵は当時の宰相閣下と視察に訪れる宮廷魔導師が人間至上主義者である事を懸念していたため、代役としてアルケミスト様の一番弟子といえる優秀な生徒を責任者として立てることにしたのです」

 「つまり、その代役がそれだけの技術を開発したっていうことにしたのか?」

 「いえ、大森林内部で人間が過去に記したと思われる技術文献を発見し、それを読み取って再現したという事にしたようです」


 その言葉に、我輩達は顔を見合せるのである。


 「どうかしましたかな?」

 「いや、何でもないのである」


 困ったことがあると、未開地の調査で超技術を発見したことにするのは今も昔も変わらないのである。

 それだけ帝国平野部以外の調査や開拓が、全く進んでいないということなのであるが。


 「その間ノヴァ様はどうされていたのですか?」

 「生徒の一人として紛れていたようですな」

 「他の者がノヴァ殿のために色々してくれているのに、何で大人しくしていられないのであろうか」


 我輩がぼそっとそう言うと、御老体以外の全員がこちらを見るのである。


 「何であるか?」

 「お前が言うな」

 「センセイが言っちゃいけないねぇ」

 「説得力が全くないっすわ」

 「他人のことなら分かるんですね」

 「意外です……」


 呆れた顔をする者、驚いたような顔をする者と様々な反応であるが、全員我輩を小馬鹿にしているのは一目瞭然である。まさか、ハーヴィーやミレイ女史にまでそういう反応を貰うことになるとは予想外である。


 「いやはや……楽しい皆様ですな」

 「話の腰ばかり折って申し訳ないのである」

 「いえいえ、楽しんでおりますのでお気になさらず。お蔭様で今日は些か調子が良いですな」

 「良かったなセンセイ、役に立ててるぜ」

 「そうであるな。それで御老体、それからどうなったのであろうか」


 そう言いながらニヤニヤするダンに、必ず痛い目を見せてやることを心の中で決意し、我輩は平静を装い御老体に話を進めるように促すのである。


 「そうですな。視察に訪れた宮廷魔術師に代役の男はそつ無く対応し、大きな問題もなく視察は進んでいったようです」


 代役の男がうまく対応できない際も、何年もノヴァ殿と行動を共にしていたことで、伝えようとしていた技術や知識の概要などをいつのまにか覚えていたアルケミー伯爵や御老体の先祖のような配下の者がうまく補足することで凌ぐことができたようである。


 「ですが、錬金術の実践の時に事件が起きたのです」


 錬金術の実践の際に、代役の男が作製することになっていたのは初級の傷薬であった。

 だが、その男は何を思ったか大量の素材を投入し、予定になかった作業を増やしたのだという。


 「それを行うことでより強力な薬ができるらしいのですが、当時の人間の魔力制御力では成功率がかなり低かったために視察では絶対に行わないようにと、アルケミスト様は指示していたようです」

 「アーノルド様、圧縮作業でしょうか?」

 「そうであろうな」


 我輩達やリリー嬢が普通に行っている魔力の圧縮であるが、現在でもかなりの高等技術として使えるものは少ないのである。

 当時の、しかも魔法が使えるようになったばかりの者がまともにできるとは思えないのである。


 「当然、魔力を制御することなどできず魔力は暴発して周囲に大被害を起こすところでした」


 当時の錬金術用の魔法陣は、防護機能は付いていなかったようなので制御に失敗して魔力が暴発すれば怪我人が出たりすることも多かったようである。

 そんな状態の中、圧縮された魔力が暴発すればその場にいたものはただでは済まないのは当然である。


 「ですが、暴発寸前の魔力をアルケミスト様が強引に抑え、安定化させたのです」

 「そんなことができるのであるか?」

 「どうやら相当な無理をされたようで、アルケミスト様はそれから数ヶ月意識を失うことになったようです」


 己の意識ある時間を代償にして、今一度枠を越えたという事なのであろうか?

 そんなことが可能なのであろうか。

 しかし、試したいとは思わないので、このことはこれ以上考えないようにするのである。


 「アルケミスト様の御蔭で被害は食い止めることができました。ですが……」

 「ノヴァさんが森の民だという事がバレたって言うことか」


 御老体はダンの言葉に頷き、話を進めていくのである。


 「先程言ったように、かなりの無理をして魔力の暴発を食い止めたアルケミスト様でしたが、その場で倒れてしまったのです。その時、宮廷魔導師に姿を見られてしまったのです」


 その場で視察は終了し、宮廷魔導師は報告のために帝都へと急行することになり、報告を受けた宰相はアルケミー伯爵の処分を即断したのである。


 そうして決定した処分は

 

 アルケミー伯爵は爵位と領地を剥奪の上、死刑。

 御老体の先祖達のような伯爵配下の貴族は爵位剥奪と全資産没収。

 領地で要職に付いていた平民は更迭と罰金刑。

 錬金術用に使用していた魔法金属の道具などは全て帝都が接収。

 広まった新しい知識や食材・資材は全て帝都が開発・発見した物として扱われる。

 帝国内の歴史からアルケミー伯爵・アルケミー領の事は全て抹消する。


 というものであった。


 「伯爵様は親族も全て亡くされており、結婚もしておりませんでした。なので、伯爵様が無くなった時点でアルケミー伯爵家は滅亡いたしました」

 「なるほどねぇ。で、それだけ厳しい処分が下ったのに、ノヴァさんは無事だったのか」

 「帝都から何度も引き渡しの要求があったのですが、伯爵様が全て突っぱねたのです」


 どうやら、ノヴァ殿を引き渡せば処分を軽くすることも提案されたようであるが、アルケミー伯爵以下配下の者全員が断固として拒否をしたのである。

 至上主義者達にノヴァ殿が引き渡されたらどうなるのか、彼らには理解できたのであろう。


 だが、それでも強制的に連行されることを危惧したアルケミー伯爵は、数日後に帝都へと連行される際に、気がついた森の民を誰にも気付かれないように大森林へ逃がしたと堂々とうそぶいたのである。

 もちろん当時ノヴァ殿は、配下の者のところで眠っている状態であったのである。


 「そのため、伯爵様は情状酌量の余地無しと申入れの機会もなく、即刻処刑を言い渡されたようです」


 そうして、アルケミー伯爵領は終わりを告げることになったのである。


 「そのあとやってきた領主は至上主義者で、帝国を荒らした森の民を討伐すると息巻いて大森林に入り、内部の敵性生物によって大々的に返り討ちに遭ったそうです」

 「まぁ、見事な落ちまでついて」


 森の民であるノヴァ殿の助力と知恵があったから大森林内での戦いができたのだ。と、いう事を認めたくなかったのであろうか。

 浅はかな考えで事を起こした至上主義者の領主がどうなろうと別にどうでもいいが、それに巻き込まれ犠牲になった者のことを考えると何とも言えない気分になるのである。


 「そういえば、問題を起こした代役の男はどうなったんだい?」

 「<俺は悪くない、俺はあの魔導師に嵌められただけだ>と言っておったようですが、領民達の責めるような視線に耐え兼ねて、いつのまにか領内からいなくなってしまったようですな」


 おそらくであるが、宮廷魔術師がアルケミー領内で広がりを見せていた、錬金術や魔法指導技術といった優れた技術が自分達の優位性を脅かすことに気付き、それらを排除するために魔力暴走事故をわざと起こさせるたのであろう。

 いつの時代も器の小さい者のやることなど似たような物なのである。嘆かわしいし、くだらないのである。


 「それで、ノヴァ様はどうなったのでしょうか」

 「意識を取り戻したノヴァ様は先祖達から事の顛末を知り、迷惑になるからと森へ帰ろうとしたようですな」


 だが、その時ノヴァ殿は身重となっていたので先祖達に子供が生まれ、少し大きくなるまでは待つようにと説得されてしばらくの間、配下の者の家に厄介になったそうである。


 「伯爵の子かねぇ」

 「おそらくそうなのではないかと皆思っていたようですが、誰もそれは聞かなかったようですな」


 噂であってもそんなことが領内で話題に上がれば、宰相や領主が血眼になって噂の発生元を突き止めにかかるからであろう。


 「そしてアルケミスト様はその間、錬金術の魔力暴走が人を傷つけないように基礎術式の改良に取り掛かったそうです」


 そうして出来上がった錬金術の魔法陣と生まれた子供を連れて、ノヴァ殿は森へと帰って行ったのである。

 

 「…………以上が、我々の知る東方地方の隠された歴史でございますな」


 御老体が話終わり、誰も言葉を発さなくなってから暫くすると、サーシャ嬢とデルク坊が若者に連れられて部屋へと戻って来るのである。あちらも終わったようである。


 「おじさん。私、ぜったいにれんきんじゅつしになる。なって、みんなを幸せにするよ」


 そう言っているサーシャ嬢は泣いているのである。泣いているが、強い決意を持った表情である。

 なので、我輩も応えるのである。


 「それは、我輩も同様である。今以上に錬金術を勉強して、ノヴァ殿の願いを叶えるのである」

 「私も、お手伝いいたします」


 ミレイ女史も、凛とした表情で告げるのである。

 他の者も、違いはあれど先程の話に色々思うことがあったようで、皆何かしら思いを抱いた表情をしているのである。


 そんな中、


 「お爺様、お持ちいたしました」


 少女が部屋へと戻り、御老体に報告するのである。

 すると御老体は立ち上がり、


 「そうか。それでは、皆様。外へ出ていただけますか?」


 そう言うと、若者に連れられて部屋の外へと出て行くのである。


 我輩達は御老体に促されるまま部屋の外へと出て行くと、そこには一つの宝箱と、たくさんの薬草や食材があったのである。


 「ぜひ、こちらをお持ち帰りください。これはこの度のお礼と、アルケミスト様の想いを継いでくれる方にお渡し為、先祖代々受け継いだものでございます」


 そう言って、御老体は笑顔を浮かべるのであった。






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