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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
6章 料理大会と錬金術師の過去、である
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領主の屋敷で打ち上げなのである


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。






 「今年は今まで以上の成功に終わる事ができたこの大会。その成功を祝して……乾杯!」


 領主の乾杯の音頭をあげると、その場にいたものが全員グラスをあげて応じるのである。晩餐会の開始である。


 現在我輩達は領主の館にある大広間で開催されている、今回参加した特別出展者と大会関係者を集めた、晩餐会という名の打ち上げに参加しているところである。

 領主のところの料理人が作った料理に加え、食材が余った参加者達が今回出展した料理を提供しているのである。やはり、出展者側も他の出展者の料理を食べてみたいというのもあるのであろう。


 我輩は食材が全て終わってしまったので提供できないのであるが、アリッサ嬢、ドラン、リリー嬢は料理を提供しているのである。


 「くっっっはああぁぁぁぁ! うめえ!」

 「……っぷはぁ! 仕事のあとの一杯は最高っすなぁ!」


 乾杯の音頭とともにドランとダンがグラスに注がれていた発泡酒を一気に飲み干すのである。


 「ドランは良いとして、リーダーは飲み過ぎるんじゃないよ」

 「おいおい、信用されてねぇなぁ。大丈夫だって」


 アリッサ嬢の注意に対し、心外だという表情を見せるダンをリリー嬢が目を細めて睨むのである。


 「ウォレスと一緒になって酒場で大暴れしたのが何回あったのかしらね」

 「研究所でも2回ほど酔った勢いで、やったこともない錬金術をいきなり始めて爆発させたことがあったのであるな」

 「うぐぅ……」

 「ダンおじさん、お酒は程ほどにしてね」

 「……分かったよ」


 ダンの酒にまつわるエピソードを聞いた、サーシャ嬢にまで心配されたダンは先程の勢いはどこへやら、やや落ち込んだ様子を見せるのである。


 「ちゃんとお話を聞いて偉いね、ダンおじさん。はい。どうぞ」


 そういうと、サーシャ嬢はダンに新しい酒を一杯渡すのである。


 「ちゃんと気をつけて飲んでね」

 「嬢ちゃん……優しいなぁ」

 「うわぁ! おじさん、髪の毛ぐしゃぐしゃだよぉ! あはははは!」


 ダンに頭を多少乱雑に撫でられたサーシャ嬢は、ダンに文句を言いつつも楽しそうに笑顔を浮かべるのである。


 「サーシャちゃんは狙ってるのかしら?」

 「天然だろうねぇ」

 「デルク君の女子への破壊力といい、あの兄妹は将来が不安ね」

 「大丈夫でしょ。デルっちは食い物にしか興味がないし、サーちゃんはセンセイ一筋だしね」

 「それはそれで面倒ね」

 「確かに」


 そんなサーシャ嬢とダンのやり取りを肴に、リリー嬢とアリッサ嬢がグラスを傾けているのである。

 帝都でも辺境でも森の集落でも、女子達はこういう多少下世話な話が好きなのだなと思うのである。


 「あぁ……こんなに美味い料理がたくさんあって……すっげぇ大変だったけど頑張って良かった!」

 「その気持ち! よくわかるよデルク君! 僕は今とても最高の時を過ごしているよ!」

 「あらあら、食べすぎると太りますわよ?」

 「何を言っているんだい? ここにある料理は、ある意味では帝国の最高峰のものばかりなのだよ? 今食べないでどうするというんだい?」


 いつの間にか、こちらに来ていた領主がデルク坊とともに料理に舌鼓を打っているのである。


 しかし、他の者への挨拶などは良いのであろうか?


 そう思い領主に尋ねてみたのであるが 


 「そんなものは後です! 大体ですね、他の出展者も出展の間はほぼ何も食べれなくなるんです。まずは腹を満たしてからですよ」


 そう返答してまた食事に夢中になるのであった。


 そう言われて周りを見ると、確かにほとんどの者は会話もせずに黙々と食事をしているのである。

 平民は当然のことながら、礼儀を逸さないようにしているものの貴族までもが食事を貪るように食べているのである。それだけ、この特別出展というものが激戦であったということなのであろう。


 「そもそも、貴族と平民が同じ会場にいていいのであるか?」

 「今更な話ですよ。そんなことを気にする貴族なら、平民に同じ場所で出展などしませんよ」

 「とは言え、流石に無礼者には容赦はありませんけれどね」

 「その辺りも含めて区画の調整や、特別出展の要請もしているのですよ」

 「なるほどである」


 先程までリリー嬢と下世話な話で盛り上がっていたアリッサ嬢が、こちらの会話に混ざるのである。ダン達の方をちらと見ると、ダンはハーヴィーやドランと、サーシャ嬢はミレイ女史やリリー嬢と楽しそうに食事をしているのであった。


 「それに、平民側だってそんなに馬鹿じゃないさね。自分から貴族に話し掛けようとする連中なんか滅多にいないさ」

 「確かにそう言われればそうであるな」


 そんなわけで、しばらくの間は腹を満たすべく特に交流など無い時間が続くのであった。







 「それではできましたらまた来年お願いいたします」

 「確約はできないのであるが、行けるように努力はするのである」


 我輩は、魚料理区画の責任者との挨拶を終えると席に戻るのである。

 過去最大の盛況で終えることのできた事への礼と、推薦するので来年の参加も是非と言われたのである。


 先程まで食べるのに夢中であった参加者達であったが、時間もそれなりに経過して空腹も満たされると各々挨拶へと向かうようになるのである。


 領主には貴族や平民が挨拶にやって来ており、時折領主や領主夫人が貴族と平民の間に入り交流をそれとなく促しているのである。

 おそらくあの者達は互いに興味があったのであろうなと我輩は推察するのである。


 料理という共通の趣味を持ちながらも、身分の違いで話をするのが互いに敷居が高い状態であっても、間に領主や領主夫人がいることで、それなりに会話を楽しむことができているようである。

 そういう様子を見ていると、帝国も捨てたものでは無いのであるなと思うのである。


 そんな領主と同様に、平民・貴族ともに少しでも会話をしようと輪を作っている集団があるのである。


 「北の山を越したときのお話を是非!」

 「あの菓子はどんな工夫をされたのですか?」

 「辺境食材の調理法について教えてください!」


 そう、ダン・アリッサ嬢・リリー嬢の三人である。

 英雄とも言われている特Aクラスの探検家であり、一代侯爵でもある三人が普通に料理大会に参加していたのである。

 ダンは、ドランの手伝いで料理をしていたというわけではないので、探検についての会話が大半であるが、アリッサ嬢とリリー嬢はそれに加えて料理の話も聞かれているので、とても大変そうである。


 3人とも平民上がりの一代貴族であるので、領主同様に身分の分け隔てなく接しているのであるが、ダンとアリッサ嬢は立ち回りに多少苦労しているようである。

 その点リリー嬢はその辺りもうまく対応しているのである。さすがはリリー嬢なのである。


 そんな三人の輪から少し外れるようにして、貴族の男性の輪が出来上がっているのである。


 「貴女様は、ミレイ・ロックバード伯爵令嬢様でございますでしょうか」

 「ええ、そうですが……」

 「おお、あの才女として高名な!」

 「若くして、魔法研究所に入所したあの!」

 「いえ……そんなことは……」

 「ここでお会いできましたのも何かの縁でございましょう。あちらの方でお話でも……」

 「いえいえ、こちらの料理は私が考案した新しい料理なのです。良かったら是非一口召し上がって感想でも……」

 「いやいや、私めはこう見えましても魔法の研究をしておりまして、この前とある探検家から水の温度を自由に調節できる魔法陣を教えてもらったのですよ。是非一緒にあちらで研究でも……」


 貴族達が思い思いにミレイ女史を誘おうとしているのであるが、ミレイ女史は曖昧に答えてはぐらかすのである。

 そういえば、ミレイ女史は一人で魔法の研究するのが楽しくて、子供の頃はあまり社交場には行かなかったと聞いたことがあるのである。

 若干ああいった会話が苦手なのはそういうことなのであろうか。


 それにしても、良くミレイ女史が伯爵令嬢だという事が分かったものであるな。

 貴族達は、そういう情報をつねに収集しているのであろうか?


 そんなことを思っていると、困っているミレイ女史に助けの手がやってくるのである。


 「おう、伯爵令嬢殿。モテモテじゃねぇか」

 「ドランさん、その物言いは失礼ですよ」


 食べ物を両手に持ったドランがミレイ女史に話しかけるのである。

 突然現れた熊のような大男に一瞬たじろぐ貴族の若者達であるが、気を取り直してドランに挑むのである。


 「君は一体何物だ? 今は伯爵令嬢と話をしている最中なのだ。失礼だぞ」


 腰が引けているものの、一人の若者がドランに突っ掛かると、他の者達もそうだそうだとドランを非難するのである。


 「そりゃあ申し訳ないことで。俺はドランというしがない探検家ですわ。今は伯爵令嬢殿とチームを組んでおりましてね。うちの隊長が伯爵令嬢殿を探していたもので、呼びに来たんですわ」


 そういうと、ドランは誰かを指し示すように顔を向けるのである。

 貴族の若者達も釣られてそちらを見ると、そこには貴族達と会話を交わしているダンがいるのである。


 「い……一代候爵様? お前がそのチームの一員だっていうのか?」

 「まぁ、そうなりますわ。あと、俺も今度一代男爵を拝爵しますので、ご指導よろしくお願いしますわ。貴族の先輩方」

 「な……」

 「おい、行こうぜ」

 「あぁ。ミレイ様、また後ほど」


 そう言うと若者達は去っていくのである。一代男爵など貴族の階級でいえば底辺なのであるが、それだけの能力を持った探検家であり、さらには一代候爵であるダンが後ろ盾だということが響いたのであろう。

 貴族の世界は面倒なのである。


 「隊長は、何の用で……?」

 「ん? んー……あ、わりぃ。ありゃ勘違いだったわ」

 「はい?」

 「いやー……流石に疲れて酔っちまったかなぁ。はっはっは!」

 「……もう。飲みすぎには気をつけてくださいね」

 「そうだな。隊長じゃねぇけど、程ほどにしておくわ」


 そう言って立ち去ろうとするドランをミレイ女史は引き止めるのである。


 「ドランさん」

 「んあぁ? どうしたよ?」

 「ありがとうございます」

 「気にすんなよ! はっはっは!」


 そういってドランはハーヴィーが潰れかけているテーブルへと向かって行くのであった。


 「錬金術師アーノルド。君は僕に認識疎外の魔法かけさせてから人を観察してばかりで、なかなか趣味が悪いね」


 様々な人間模様を観察して楽しんでいると、妖精パットンからなかなか辛辣な一言を貰うのである。

 我輩は、必要と思われる人物に挨拶をした後は誰にも絡まれないように、妖精パットンに頼んで認識疎外の魔法で姿を隠しているのである。

 妖精パットンも姿を隠しているのであるが、頭に重みがあるのでいつもの定位置にいるようである。


 「人間模様を見るというのも勉強になるのである。アリッサ嬢達のような下世話な者と同じにされるのは心外である」

 「どっちも似たようなものだよ。まったく。君は本当に自分勝手な人間だよ。そもそもだね……」

 「パットン。菓子部門で一番人気であった出展物があそこにあるのである。」

 「え! 本当!? 食べる!!」


 そう言うと頭が蹴られる感覚があるのである。黙ってやるから取りに行けということなのであろう。

 うまくごまかしたつもりであったが、妖精パットンの方が上手だったようである。


 なかなかうまくいかないものであると思いつつ、我輩は残りの時間ものんびりと人間観察を楽しむために妖精パットンの希望の品を取りに行くのであった。





 

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