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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
6章 料理大会と錬金術師の過去、である
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特別出展とは戦場だったのである


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。






 料理大会最終日 ー特別出展ー


 東方都市で年に一度行われる料理大会。

 その最終日に行われる特別出展は、大会主催者である領主や商業ギルドが推薦したアリッサ嬢やリリー嬢といった推薦出展者達。

 そして、大会期間中数多くの出展がある中で各料理区画責任者が、毎日0~2枠程推薦されたドランや我輩のような一般出展者のみが参加できる、最終日に相応しい出展日となっているのである。


 ただ、高評価を受け推薦をされるも、通常出展で予想以上の売れ行きを見せてしまい、特別出展にむけての食材や労働力の確保困難により出展辞退をする者が一般出展者のみならず推薦出展者でも意外に多いのである。


 我輩やアリッサ嬢も危うく辞退する事になりそうだったのであるが、運良く食材を確保する方法があったので、事なきを得たのである。

 まぁ、ダンとハーヴィーはそのせいでほぼ不眠不休であったようである。


 そんな訳で、我輩は特別出展に望むことが出来るのであるが………


 「サーシャ嬢、料理が出来たのである」

 「はい!」

 「デルク坊、皿を4枚出すのである。そのあと10人分の食材を用意してほしいのである。」

 「わかった!」

 「アーノルド様! 次々に人が集まっております! もう少し速くなりませんか!?」

 「これ以上は、どうにもならないのであるな」


 ミレイ女史の


 「妖精パットン、どうにかできないであるか?」

 「錬金術師アーノルドも無茶言うよね。少しだけこの周辺に、薄く認識疎外の魔法をかけておくよ」

 「すまないのである」

 

 特別出展に出たのを少し後悔しているのである。

 まさか、こんなに人が集まるとは思ってもいなかったのである。


 現在、我輩達の場所には長蛇の列が出来上がっているのである。


 どうやら、通常出展の時に料理を食べた者達から


 ドラン、アリッサ嬢同様に辺境の食材を使用した料理であるということ

 特別な調理法を使用した、新しい魚料理が食べられること


 が、口コミでどんどんと伝わったらしく、開場と同時に大勢の民がやって来たのである。


 サーシャ嬢とミレイ女史には、出来上がった料理をやって来た者に渡してもらい、デルク坊には皿と食材の用意をしてもらい、我輩はひたすら料理の作成をしているのであるが、まるで間に合わないのである。

 料理の作成速度は魔法白金の手鍋を使用しているので、熟練の料理人並の速さで行うことができるのであるが、如何せんこの料理を作れるのが我輩一人というのがネックである。


 推薦枠のアリッサ嬢とリリー嬢のところには、今日は現地の腕利きの料理人が補助として付いているようである。

 ドランのところにはダンとハーヴィー、そして急遽雇った料理のできる探検家が数人付いているようである。

 我輩もそうしたいところではあるのであるが、如何せん料理とは言いがたいやり方なので、外部を頼るわけにはいかないのである。


 「アーノルド様! 集中してください!」


 作業中に余計なことを深く考えていたせいで、我輩の集中が疎かになっているのを見て取ったミレイ女史から、厳しめの声が発せられるのである。

 ミレイ女史も余裕が無くなってきていて、いつもよりも口調が強めなのである。


 「済まないのである。助かるのである」

 「お気を付けください。ここで構成魔力の暴走を起こしてしまうと大惨事です」

 「わかっているのである。申し訳ないのである」


 注意をしてくれたミレイ女史に謝り、我輩は再び手鍋の中にある構成魔力に集中をしていくのである。


 今回出している料理は、それほど複雑な物ではないので時間も集中力も大して必要とはしないのであるが、数をこなすのがなにせ面倒である。

 錬金釜を使用できれば、一度に大量の食材を投入して一気に作り上げてしまえるのであるが、使用しているのは十分の一の大きさも無い手鍋である。

 何度経験しても、緩めの作業を延々と行うのは違った意味で精神力が削られるのである。


 我輩は、陛下から千人分の傷薬を作るように言われたときのことを思い出しながら、同じ料理を作る作業を行うのである。


 しかし、あれは厳しかったのであるな……………


 「おじさん! お料理に集中して!」

 「すまないのである」


 そして、またその事に意識を持って行かれそうになり、今度はサーシャ嬢に怒られることになってしまうのであった。


 「錬金術師アーノルド。ミレイもサーシャも余裕が無いんだから、気を使わせるような事をしちゃダメだよ」

 「そうであるな、妖精パットン。反省するのである」

 「もう一度同じ注意をされたら、リリーに“大変な時に集中しないまま作業をして何度も怒られてたよ“って報告するからね」

 「それは勘弁なのである」

 「おっちゃん。だったら、最初からちゃんとやってりゃあいいじゃんかよ」


 そうなった時の事を考えると全身が震えるのである。我輩は、気をしっかり持つべく作業に集中するのである。

 そのやりとりを見て、食材を運んできたデルク坊は呆れた表情をこちらに向けるのである。


 しかし、ミレイ女史もサーシャ嬢も、我輩が意識が逸れているのがなんで分かるのであろうか? 今度聞いてみようと思うのである。






 「終わったぁ……」

 「きっつぅ……」

 「もう……動けないです……」

 「流石に……限界である……」

 「皆、お疲れ様。どこの出展も大変そうだったけど、ここは一番きつかったと思うよ」


 激しい戦いを終えて、疲れきっている我輩達に妖精パットンがねぎらいの言葉をかけるのである。


 「他のところと比べても値段はかなり高かったけど、皆、全然気にしないで買っていくものなんだね。ボクは驚いちゃったよ」

 「あの者達の言う通りの値段に設定したはずなのであるが……」

 「確か、かなり高く設定したって言ってたよね……」

 「もしも通常出展の時みたいに、無料にしてたらと考えると……」

 「考えたくないよぉ……」


 5日目の夕飯前に、屋敷へ商業ギルドから一人の若者が我輩とアリッサ嬢の料理の値付け担当者としてやって来たのであるが、我輩達の料理を食べて貰ったところ、その若者は通常の料理の同じ値段で料理を提供すると、大変な騒ぎになってしまうだろうということで、他の出展者よりも3割程度増した値段を付けたのである。


 ちなみに、その時我輩が出した魚料理はすでに元の食材が終わっていたので、市場で買ってきた魚の干物を錬金術で強引に生のように戻して作成したものである。

 なので、味も品質も我輩の納得いく出来ではなかったのであるが、どうやらその若者は魚料理が好きで、我輩の本来出す筈である出展物も口にしていたようなので、値付けには支障がなかったようである。


 というわけであったのであるが、それでも富裕層のみならず一般市民や貧民層と思われる者まで多くやってきたのである。

 限りある予算の中で後悔の無いよう、本気で楽しもうとする民達の様子に我輩は、この特別出展に対する執念のような物を感じずにはいられなかったのである。


 「お疲れ様、センセイ。大変だったようね」


 リリー嬢がそう言って、我輩達のところへとやってくるのである。

 ずいぶん余裕そうな感じなのである。それを見て不思議に思ったのか、ミレイ女史がリリー嬢に質問をするのである。


 「食材が早々に切れちゃってね、午前で出展が終わったのよ」


 まるで予想外の出来事のように言っているのであるが、リリー嬢のことである。このような状況になることを見越して食材の量を調整したのでは無いかと我輩は思うのである。


 出展者として参加している者達も、特別出展を見たいという者もいるのである。なので早めに切り上げたり、逆に少し遅れて出展を開始する出展者もいるはいるのである。

 我輩達も最初はそのつもりだったのであるが、昨日ドラン達が運んできた食材がそれをやるには多過ぎてしまったので、余らせるわけにもいかずこのような結果になったのである。

 まぁ、そのおかげで料理を求めたものにはほぼすべて行き渡ることができたのは良かったと言えるのである。


 言いたいのである。


 「ドランやアリッサ嬢の方はどうだったであろうか。知っているであるか?」

 「さっき行ってきたけれど、アリッサの所はセンセイと同じくらいか、それ以上に全員が燃え尽きていたわね。出展中もちょっと通り掛かったけど、多分今日の特別出展でも指折りの忙しさだったんじゃないかしら」


 それでもアリッサ嬢は満足そうな笑顔をしていたらしいのである。思う存分に料理ができて楽しかったのであろうと思われるのである。


 「ドラン兄ちゃんはどうだったの?」

 「肉料理区画は私が行ったときには入場制限がかかっちゃってね。どうなったのかわからないのよ」

 「そんなことがあるのであるか」

 「さぁ? 実際にかかったのだからあるんでしょ」

 「領主様の屋敷に戻ってから聞いてみれば良いよ。飯食いたいよ……」

 「そうですね……結局お昼を食べている余裕は無かったですものね」

 「私もお腹減ったぁ……」


 デルク坊の訴えによって、全員が空腹を訴えるようになるのである。それだけ、集中していたとも疲労していたとも言えるのである。

 かく言う我輩も空腹であったことを意識してしまうと、急激に食事をしたくなるのである。


 「そうであるな。では、そろそろ片付けをするであるか」


 我輩の言葉が合図になったように全員が動き出すのであるが、空腹と疲労のせいで精彩に欠くその様は、まるで不死者の集団のようである。


 「まったく……しょうがないわねぇ。手伝ってあげるわよ」

 「申し訳ないのである」


 余りの様子に耐え兼ねたのか、リリー嬢は軽くため息をついて手伝いをしてくれるのであった。

 こうして、我輩達の特別出展という戦いは終わりを告げるのであった。







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